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からだの機能維持に欠かせない「マグネシウム」、その研究の歴史とは

からだの機能維持に欠かせない「マグネシウム」、その研究の歴史とは
小林 昭夫 先生

昭和大学 名誉教授、東京家政学院大学

小林 昭夫 先生

この記事の最終更新は2017年04月21日です。

マグネシウムはからだの様々な機能を担う重要な物質です。皆さんはマグネシウムが不足すると、からだにどのような不利益が生じるかご存知でしょうか。これまでの研究によると、マグネシウムの不足は循環器疾患生活習慣病の発症に関連することが示唆されているのです。

今のように簡単に測定ができない時代、マグネシウムの研究は困難を極めたそうです。マグネシウムの研究はいったいどのように進められてきたのか、長く研究に携わり、その知見の基礎を築き上げてきた昭和大学名誉教授 小林昭夫先生に、研究の歴史をお伺いしました。

マグネシウム

マグネシウムは、無機質(ミネラル)のうちの1つです。無機質にはカルシウム(Ca)リン(P)カリウム(K)硫黄(S)塩素(Cl)ナトリウム(Na)鉄(Fe)マグネシウム(Mg)などがあり、これらはからだの働きを維持するためには欠かせない栄養素です。

ミネラルの研究は、古くから行われてきましたが、その中でも広範にわたって研究されてきたのはカルシウムです。カルシウムは骨の形成筋肉の収縮などに関わるミネラルとして知られており、多くの研究の対象とされていました。またもミネラルのひとつですが、鉄はヘモグロビン(血色素)の構成成分として大切であり、鉄に関する研究も多く行われてきました。

その一方で、マグネシウムの研究はマイナーだったといえます。マグネシウムは、カルシウムのようにからだの機能にわかりやすく関与することはあまりありません。なぜならば、マグネシウムがからだの機能維持に関わるときには補酵素として作用することがほとんどだからです。

からだの多くの機能が正常に働くためには、酵素というたんぱく質が必要です。からだの機能は、様々な化学反応によって成り立っていますが、酵素はこの反応の仲介者として働くことで、反応を成立させています。

そして、そうした反応のなかには、ただ酵素があるだけでは反応が成立しないものもあります。そこで必要となるものが補酵素です。補酵素は「酵素を補う」という意味で、酵素の働きを助け、生体内の反応を成立させる大切な役割を担います。

マグネシウムは、この補酵素として多くの機能を助ける重要な物質です。しかし、カルシウムのように、からだの機能へ直接的に関与する物質とは異なり、やや複雑な立ち位置で役割を果たすため、大切な物質であるにも関わらず研究対象としては扱われにくかったといえるでしょう。

現在、物質の組成を調べる際には電子吸光計が用いられます。この方法を用いると、液からだの組成を20項目ほど同時に素早く調べることができます。

しかし、50年ほど前まではこうした機器がまだ普及していませんでした。そのため、複雑な化学反応を組み合わせて測定する必要がありました。こうしたこともあり、マグネシウムの測定は非常に手間と時間のかかる、面倒なものでした。

小林昭夫先生

私が、こうした研究が困難かつ当時は未開拓であったマグネシウムの研究に携わるようになったきっかけには、2人の恩師の存在があります。

ひとりは現在、聖路加国際病院 名誉院長でいらっしゃる日野原重明先生です。日野原先生は、1963年に私が信州大学医学部卒業後、卒後実地修練(インターン制度)を受けた聖路加国際病院で当時のインターンの教育係として大変熱心にご指導いただいた先生です。また、日野原先生は「成人病」「人間ドック」という言葉を作られ、実践されたことでもご著名な方です。

そんな日野原先生が、当時「水と電解質の臨床(1955,医学書院)」という書籍を出版されておりました。電解質代謝というのは数学的要素が強く、そのような難しい領域の書物を出版された先生を私は非常に尊敬し、すぐにその本を購入しました。そうした偉大な恩師による熱心な指導受けられる環境で、1年間の濃厚な学びの機会を得ることで、電解質領域に関心を抱くようになりました。

インターンを終えた私は、さらに電解質について学ぼうと思い、東京大学大学院(小児科学)へ入学しました。ここで出会った私のもう1人の恩師が、高津忠夫教授です。高津先生は患者さんの病態に応じて使いわける5種類の輸液用電解質液を開発された方で、電解質代謝に非常に詳しい方でした。

 

電解質(体内でイオン化するもの)の研究では、一般的に下記が主要な研究のテーマとなります。

・ナトリウム代謝

・カリウム代謝

・HCO3(重炭酸イオン)代謝

カルシウム代謝

・マグネシウム代謝

・酸・塩基平衡

 

入局当時、私は高津先生から、このなかの「マグネシウム代謝の研究」をやるようにと命を受けました。ここから私のマグネシウム研究が始まったのです。

東京大学大学院(小児科学)を修了し、1968年4月から国立小児病院(国立成育医療センターの前身)に勤めはじめました。その後も、臨床におけるマグネシウム代謝の研究を続け、少なからずの英語論文を海外の医学雑誌に発表してきました。

そのような活動を続けていたある日、新たに開催されることとなった国際マグネシウム・シンポジウムのモデレーター(座長)をやらないか、という話が舞い込んできました。これはとても名誉なことで、一生に二度とないことだ、と他の研究グループの先生方からも後押しされ、1971年、第1回国際マグネシウム・シンポジウム(ヴィッテル市,フランス)へ参加してまいりました。

本シンポジウムには、世界各領域から総勢600人もの参加者が集まるという非常に規模が大きいものでした。このシンポジウムで、私は小児科領域の座長をつとめ、また一般演題を2題発表しました。

※座長…研究発表会の司会と進行を担い、発表会の方針をまとめる役割

学会の抄録集
小林先生が座長を務めたシンポジウムの抄録集。「Moderator : A.KOBAYASHI, Tokyo」の文字が記載されている。

 

国際マグネシウム・シンポジウムを終え、帰国してからしばらくすると、京都大学医学部衛生学教室の糸川嘉則助教授(のちに教授)から、1通の連絡をいただきました。それは「日本でもマグネシウム研究を共有・推進する機会を作れたらいいのではないか」という打診でした。そうして1981年、糸川先生の呼びかけによって日本マグネシウム研究会が発足されることになりました。

発足にあたり、マグネシウムの研究に関心のある研究者へ協力を呼びかけました。医学分野に限らず、衛生学・公衆衛生学、栄養学、歯学、農学、薬学等、各分野の研究者にも呼びかけました。こうして研究会は順調に発展していきました。

日本マグネシウム研究会は、発足以来、日本人の健康と医療に関連するマグネシウムの研究に大きく貢献してきました。

本研究会の最も大きな功績は、日本人のマグネシウム摂取基準量を取り決めたことでしょう。栄養素の摂取基準量を決めることは、非常に大変な作業です。膨大な量の論文を読み、なぜその量に定めたのか、根拠を並べなくてはいけません。こうした作業を当研究会が中心となって進め、明らかとなったデータを基に「日本人の食事摂取基準」(5年毎に改訂)に反映されています。

※食事摂取基準…健康人を対象として国民の健康の保持・増進、生活習慣病の予防のために標準となるエネルギー及び各栄養素の摂取量を示すもの

こうした調査を進めると、現代の日本人はマグネシウムが欠乏しがちであることがわかってきました。江戸時代の食事には、穀類、海産物など、マグネシウムを豊富に含む食品が豊富に含まれていました。しかし、現代では様々な要因によってマグネシウム摂取量は減少しています。

【日本におけるマグネシウム欠乏の要因】

食の欧米化

昔ながらの日本食と比較すると、マグネシウムを含む食品が不足している

加工食品の増加

マグネシウムは細胞内電解質であるため、加熱により細胞が破壊されることで、煮汁に流出されてしまう。調理済み食品は、調理中の煮汁を棄ててしまっているものが多いため、マグネシウムが不足した食品になってしまう

ダイエット

やせることだけが目的となり、栄養に偏りがある食事になる

ビールの多飲など

ビールの飲酒により、マグネシウムが尿に溶け出てしまう

ストレス社会

ストレスを感じた時に分泌されるカテコラミンは、血清マグネシウムの低下に関与する

マグネシウムは、環境の変化に伴い不足していくミネラルといえるでしょう。

またマグネシウム欠乏と循環器疾患発症との関連が一時期、大きな研究テーマとして注目されました。こうしたことから本研究会ではマグネシウム欠乏と循環器疾患発症リスクとの関連を徹底的に調査しました。

マグネシウム欠乏と循環器疾患の関連については。これまでに下記のようなことがわかっています。

【マグネシウム欠乏と関連する循環器疾患】

虚血性心疾患

マグネシウム欠乏が虚血性心疾患の発症に関連

不整脈

マグネシウム欠乏が不整脈を惹起する

動脈硬化

マグネシウム欠乏で動脈硬化が進行する

血圧

マグネシウム欠乏が血圧上昇に関連する

また、マグネシウム欠乏は、糖尿病脂質異常症といった生活習慣病(成人病)の発症にも関連すると報告されており、大きなテーマといえます。

糖尿病

・マグネシウムの慢性的不足は糖尿病を悪化させる要因のひとつ

・糖尿病の患者さんは、健康な人に比べて尿から排泄されるマグネシウムの量が多い

脂質異常症

・マグネシウム不足は脂質異常症、特に高中性脂肪血症の大きな原因のひとつ

また、近年ではマグネシウムの過剰摂取が大きな問題として取り上げられることがありました。

2015年には、便秘などの治療に使われる「酸化マグネシウム製剤」を過剰摂取した高齢者で死亡例が確認されたことが大きなニュースとなりました。この事態を受け、厚生労働省から高齢者の酸化マグネシウム製剤服用について、医療用医薬品を製造・販売する17会社などに対し使用上の注意の改訂指示がなされました。

このようなニュースは、マスコミなどにも取り上げられ、一時期大きな話題となりました。そうした中、一部には誤った解釈による情報が流れてしまうことで、一般の方のみならず医療従事者にも不安を与えてしまう事態にもなりました。

酸化マグネシウム製剤はこれまで50年以上にわたり便秘薬などとして年間延べ約4,500万人に処方され、安全性に定評がある薬剤でした。しかし便秘薬は、便秘が改善されないと必要以上に服薬し、過剰摂取に陥るケースもみられます。そうした便秘薬に対する認識によって、今回のようなケースが引き起こされてしまうこともあるのでしょう。

今回のような事態に対し、本研究会では正しい医学的考察に基づく情報提供、服薬指導が行われるように情報発信をしていきました。こうした提案をしていくことも、研究会の役目といえます。

 

当初はマイナーで、測定も困難だったマグネシウム研究ですが、半世紀以上に及ぶ研究の結果、からだの機能に対する影響・疾患の発症などに関する様々な知見が明らかにされてきました。今後もマグネシウムに関する研究が進められていくことに期待しています。

引き続き記事2『便秘の原因と定義・治療薬を紹介~正しい予防と対策方法とは?』では、便秘とマグネシウムの関連について、小林先生にお伺いしました。
 

  • 昭和大学 名誉教授、東京家政学院大学

    小林 昭夫 先生

    1963年信州大学医学部卒業後、聖路加国際病院におけるインターンを経て、東京大学大学院(小児科学)へ入学。その後国立小児病院(現:国立成育医療センター)に勤務し、昭和大学教授、東京家政学院大学教授を歴任。マグネシウムに関する研究に深く携わり、1971年の第1回国際マグネシウム・シンポジウムでは小児科領域のモデレーター(座長)を務めた。その後は日本マグネシウム研究会の発足にも関わり、日本におけるマグネシウム研究の推進に大きく貢献した。

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