インタビュー

便秘の原因と定義・治療薬を紹介~正しい予防と対策方法とは?

便秘の原因と定義・治療薬を紹介~正しい予防と対策方法とは?
小林 昭夫 先生

昭和大学 名誉教授、東京家政学院大学

小林 昭夫 先生

この記事の最終更新は2017年04月22日です。

便秘排便が何らかの理由により順調に行われない状態のことをいいます。便秘になると、からだの不調を引き起こし、生活の質が大きく低下してしまうこともあります。また便秘によって硬くなった便は、排便の際に「」を引き起こすこともあります。そのため便秘は早期に改善することが望まれます。

それでは、便秘の解消・改善にはどのような対応が適切なのでしょうか。本記事では、小児領域の消化器疾患治療に詳しい昭和大学名誉教授 小林昭夫先生に、便秘のメカニズムから対処法までを詳しく解説いただきました。

便秘

便秘は次のように定義されています。

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【便秘の定義】

①排便回数が少なくなる(週に2回以下しかない、あるいは5日以上でない)

②排便困難を伴う(排便痛を伴う、肛門が切れて出血する)

この2つの要素が備わった場合を便秘といいます。

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ただ便が出ないだけでは、便秘と判断されません。排便回数の減少とともに排便困難が伴うことが、便秘と判断される条件です。

食物は、口から摂取したあと、食道、胃を通って小腸、大腸に到達します。腸管に到達した食物は、ここで消化・吸収が行われ、大腸を通る過程で水分が吸収されていきます。水分を吸収された腸内容物は固形の便となり、やがて体外に排泄されていきます。

しかし、十分に水分が吸収できずに排泄されてしまうこともあります。これを下痢といいます。下痢が続くと脱水症状を起こしてしまいます。

一方、排泄の回数が減ると、必然的に腸内容物は腸管のなかに留まる時間が長くなり、その分、水分が吸収されていきます。すると便はどんどん硬くなってしまいます。固くなりすぎた便は、排泄に困難を伴い、痛み肛門を傷つける原因になります。

排便時の痛みや不快感は、排便頻度の減少に繋がってしまいます。そのため、排便回数がさらに減り、便秘がエスカレートしていきます。このように、排便回数減少と排便困難は悪循環を引き起こし、便秘の悪化を促進してしまうのです。

便秘の頻度は10人に1人以上と言われていますが、明確なデータは示されていません。特に若い人では便秘を恥ずかしく感じるので、便秘のために医療機関を受診することは少ないと思います。そのため便秘を抱える患者さんの正確な数を調べることは難しいといえます。

また便秘は「便秘症」という医学的にも歴とした疾患ですが、なかなか疾患とみなされないこともあります。下痢は、脱水症状・栄養障害を引き起こすため、生命維持に大きな影響を及ぼすことが多く、症状改善のための治療が積極的になされます。一方、便秘では命にすぐ影響を及ぼすような症状ではないため、患者さんが医療機関を受診することは少なく、診療に関するデータの解析も多くは行われていません。そうした背景からも、便秘を抱える患者さんの正確なデータを示すことは難しいのです。

正常な排泄の機序

それでは食物を摂ってから排泄されるまでに腸がどのような反応をするのか、その流れを確認していきましょう。

■STEP1:食事をする 

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 ■STEP2:食べ物が胃にたまり、胃が拡張する 

胃が拡張すると、自律神経が働き、直腸が蠕動運動(ぜんどう運動:腸が収縮と弛緩を繰り返し活動すること)をはじめます。これを胃大腸反射といいます。食後すぐトイレに行きたくなることは正常な反応です。

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■STEP3:胃から小腸、大腸を通過して、食物が便になる

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■STEP4便が直腸に到達し、直腸が拡張する

直腸が拡張されることにより、便意が生じます

         

■STEP5便を排出できるよう、腹圧をかける(気張る)

気張るというのは、声紋を閉じ、肺の体積を減らさないようにすることで、横隔膜を固定して腹壁・腸に圧をかけ、便が出るようにする動作です。これは、絵の具のチューブを押して中身を押し出す原理と同じです。

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■STEP6肛門括約筋(こうもんこうかつきん)を緩める

肛門括約筋とは、肛門にある筋肉のことで、普段は自律神経の働きによって締められていますが、便が直腸まで移動して便意を感じてくると、肛門括約筋が緩められます。

         

■STEP7:肛門挙筋(こうもんきょきん)が引き上げられる

肛門挙筋とは、肛門括約筋の上位部分にある筋肉で、排便の際に肛門ごと体外に押し出されないように引っ張り上げる役割を持っています。この肛門挙筋がずり上がることで、便がスムーズに排泄されます。

こういった一連のリズミカルな連動によって、正常な排便が機能しています。

次に、便秘がどのようなメカニズムで発生するのかを確認しましょう。

先ほどのSTEP4でご説明した通り、便意を感じるのは「直腸」に便が到達した時です。

しかし、皆さんも経験があるように、便意は我慢すると消失してしまうことがあります。これは、直腸に便が到達している、つまり直腸が刺激を受けていることに慣れしまうことが原因です。この刺激に慣れてしまうと、STEP4以降の反応がスムーズに進みません。

つまり、便秘の原因は、発生した便意を日常的に我慢することでリズミカルな自律神経の反応が形成されなくなることにあるのです。

直腸に便が到達しているにも関わらず、排便の流れがうまく形成されずにいると、便はどんどんと水分が吸収され、硬くなってしまいます。すると冒頭で解説したように、排便回数減少と排便困難の負のスパイラルが発生し、便秘が常態化してしまうわけです。これが便秘のメカニズムです。

便秘にはいくつかの種類があります。どのような種類があるのか紹介します。

食事の量が少ない場合や、低残渣食(ていざんさしょく)を摂りつづける場合に生ずる便秘です。便を作る原料が少ないことで、排便を行うための刺激が弱く、うまく排便リズムを作れないことで、便秘が引き起こされます。

※低残渣食…食物繊維を控えるよう調整した食事

せっかく生じた便意を我慢すると、やがて便意が消失してしまいます。一過性の便秘です。

会議中や授業中などトイレに行けない生活や、引っ越し・新しい職場などの生活環境の変化によるストレスによって便意が生じにくくなることがあります。こうした一時的な生活やストレスによって引き起こされます。

上記の単純性便秘が繰り返され、習慣化してしまった便秘です。女性に多い便秘として知られています。

病気の一症状としてあらわれる便秘です。

心因的(精神的)な原因により発生する便秘です。

心因性便秘は子どもに非常に多く、入院するケースもあります。これは、排便に対してなにか嫌な経験があって(排便が痛かった、血が出た、排便のタイミングで邪魔をされて便意が消失したなど)、排便困難になってしまった状態です。こうしたケースに陥ると、多くの場合は腸に非常に硬く大きな便(巨大糞塊)が形成され、子どもの小さい肛門からは排泄が難しくなってしまいます。

巨大糞塊は、石のように固くなってしまいます。そのため腸から流れてくる水分は、そのまま下着に付着してしまい、患者さん、小児の場合にはそのご両親の大きな負担となります。

心因性便秘を治すには、入院して医師や看護師の手で少しずつ取りだす方法をとります。この方法は非常に難しく、患者さんが子どもの場合には、痛い思いをすると信用を得られなくなり、治療の継続が困難になってしまいます。

しかし、便秘が治るとご両親は、子どもが元気に食事を摂れるようになることや、下着が汚れなくなることから、非常に安心されます。難しい治療法ですが、治療後の満足度は非常に大きいといえるでしょう。

便秘の治療のため使われる便秘薬は、主に3種類あります。

→塩類下剤(酸化マグネシウム製剤など)、糖類下剤(人工的に合成された糖類や麦芽糖)など

浸透圧下剤は服薬して大腸に届くと、浸透圧を調整する力(濃度を均等にさせようとする力)が働き、大腸内に水分を引き込みます。そうすることで、便に水分を与え、排便を促進します。

→アントラキノン系、ジフェニルメタン系など

腸の粘膜を刺激して、腸の運動(ぜん動運動)を促進することで、便の排泄を助けます。

→炭酸水素ナトリウム、ビサコジルなどが成分

肛門から薬剤を入れることで、腸に刺激を与え、ぜん動運動を促進することで、便の排泄を助けます。

サイクル

便秘を改善する、便秘にならないように予防するためには、排泄のリズムを作ることが何よりも大事です。日常生活の中では、どうしてもトイレに行けないシーンもあり便意を我慢してしまう、生活環境の変化による緊張か原因で便意を感じないなど、なかなかリズミカルな排泄リズムを作ることは難しいかもしれません。しかし、便秘の解消には、健康的なリズムを意識した生活を送ることがとても重要です。また、繊維の豊富な食物を食べることも効果的ですので、意識して取り入れるとよいでしょう。

排便は、正常にできているときにはあまり気にしませんが、便秘、などを引き起こしてしまうと、日常生活の行動に大きな影響を及ぼし、大きな精神的負担となります。便秘のメカニズムを知り、排便リズムを整える重要性を知ることが、便秘のない生活を送るための一歩といえるでしょう。

  • 昭和大学 名誉教授、東京家政学院大学

    小林 昭夫 先生

    1963年信州大学医学部卒業後、聖路加国際病院におけるインターンを経て、東京大学大学院(小児科学)へ入学。その後国立小児病院(現:国立成育医療センター)に勤務し、昭和大学教授、東京家政学院大学教授を歴任。マグネシウムに関する研究に深く携わり、1971年の第1回国際マグネシウム・シンポジウムでは小児科領域のモデレーター(座長)を務めた。その後は日本マグネシウム研究会の発足にも関わり、日本におけるマグネシウム研究の推進に大きく貢献した。

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