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HIVや梅毒はどうやって防ぐ?性感染症の予防と啓発に対する川崎市の取り組み

HIVや梅毒はどうやって防ぐ?性感染症の予防と啓発に対する川崎市の取り組み
岡部 信彦 先生

川崎市健康安全研究所 所長

岡部 信彦 先生

この記事の最終更新は2017年04月27日です。

日本では梅毒が流行しており、たびたびニュースでも取り上げられています。梅毒の流行は川崎市も例外ではなく、2015年の報告数は2010年の6.2倍と急激な増加をみせており、特に若い女性患者の増加が問題になっていると、川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦先生はおっしゃいます。

梅毒を含めた性感染症(STI)に対する注意喚起や予防啓発などについて、ここでは川崎市における取り組みの一端を教えていただきました。

岡部信彦先生

すでに存在が知られているもののこれまであまり流行しなかった、あるいは医療・公衆衛生の進歩、社会環境の変化などにより感染者数が激減したものの、いろいろな理由で再び発生あるいは流行のきざしを見せている感染症のことを、再興感染症と呼びます。

再興感染症の多くは、忘れられた病気あるいは忘れ去られそうになっている感染症であるともいえます。そのため臨床現場の医師であっても名前は知っているが目にしたことはないというものも多くあります。具体的な例としては、ペストコレラ結核などを挙げることができます。また近年メディアで多く取り上げられたジカ熱デング熱も、この再興感染症といえるでしょう。

感染症のなかでも、性行為など性的接触が主な感染経路になる感染症のことを性感染症(STDもしくはSTI)と呼びます。近年患者数が世界的も激増している梅毒とは、トレポネーマ・パリダムという螺旋状の菌が体内に侵入することで生じる感染症のことです。

感染初期(第1期)で生じる潰瘍や痛みのないしこりは2~3週間ほどで自然消失してしまいますが、その後バラ疹とよばれる紅色のパラパラとあらわれる発疹や、ゴム腫と呼ばれる骨や筋肉など深部組織を破壊しながら広がっていくしこりが全身の至るところにあらわれるようになります。やがて病原菌は中枢神経や心血管系にも侵入して全身の組織の壊死を広げ、最終的に重大な後遺症を残したり死に至ったりします。

梅毒は感染力が強く社会的影響も大きい感染症であることから、感染が確認され次第、診断した医師は所轄の保健所に届出ることが感染症法で規定されている疾患です。国立感染症研究所による集計では、1999年の段階で全国から寄せられた梅毒の感染報告者数は751件でしたが、2015年には2697件、そして2016年は4518件とこの数年で急増しています。

これは、腸管出血性大腸菌O157などによる腸管感染症の年間発生件数を、やや上回る数です。また、川崎市内で確認された肺炎球菌感染症の発生件数とほぼ一緒でもあります。この肺炎球菌感染症は高齢者や子どもに対する重症疾患で、高齢者向き・赤ちゃん向きのワクチンが推奨されています。しかしこれらの病気と、梅毒は最近ほぼ同じくらいある、ということに気付いている人はほとんどいません。

梅毒は2017年でもさらなる増加が予測されていることを考えると、この病気の流行状況がいかに見逃せないものかがおわかりいただけるかと思います。

梅毒感染報告者数の増加は川崎市も例外ではないことから、より積極的な予防と啓発活動が急務となっています。

梅毒をはじめとする性感染症にならないためには、性感染症にならないようにする一次予防、早期診断と治療・再感染予防・パートナー健診・早期検査などを推奨する二次予防という考え方があり、川崎市では健康福祉局が中心となって二次予防を展開しています。

そしてこれまでの調査から、川崎市内で確認された梅毒患者は20~30代の女性に多いことを把握しているため、将来の妊娠・出産に対する悪影響を考え、若年層の女性をターゲットにした啓発にも力を入れています。

川崎市が取り組んでいる性感染症に対する予防と啓発活動には、媒体を利用した情報発信や研究会を通しての普及啓発と、保健所が実施する無料の匿名検査があります。

各種性感染症の基礎情報だけでなく将来に対する影響や保健所が実施する無料検査に関する情報を掲載したチラシやパンフレットを作成して、市内の薬局や保健所の窓口等に置かせていただいています。

また川崎市は大学キャンパスが多い土地柄であることを利用して、学校の保健室にもチラシやポケットティッシュなどを置かせていただき、まずは性感染症という疾患があることを知っていただくきっかけづくりも積極的に実施しています。

ほかにも毎年開催される成人の日の集いに配布されるパンフレットに、保健所で性感染症の検査や相談を無料で実施していることを掲載することで、若年層にもピンポイントにアプローチしています。

これら配布物を通じた情報発信には、性感染症という存在を知ってもらうと同時に、困ったときには気軽に相談できる先があることを知っていただくという目的があります。そのため配布先によって媒体の内容を変更しています。

性にまつわる悩みは家族など周囲の人間にも相談しにくいと感じる方が多いため、1人で抱え込んでしまう方も少なからずいらっしゃいます。そのため川崎市では、区役所保健センター内に、どなたにでもご利用いただけるエイズや性に関する相談窓口を設置しています。

近年では芸能人など著名な方がHIV陽性やエイズ発症を公表したこともあり、多くの市民から相談が寄せられています。

川崎市では市内にある複数の保健福祉センターで、HIVと梅毒の無料匿名検査を受けることができます。

※検査実施日や受付時間はセンターによって異なります。詳しくはこちらをご確認ください。

・エイズ検査(川崎市役所ホームページ)

http://www.city.kawasaki.jp/350/page/0000017295.html

・梅毒検査(川崎市役所ホームページ)

http://www.city.kawasaki.jp/kurashi/category/22-5-6-5-0-0-0-0-0-0.html

岡部信彦先生

記事1『川崎市民の健康と安全を守る!感染症に対する健康安全研究所の役目とは』(記事公開時リンク貼付予定です)では川崎市健康安全研究所が担う役割のごく一部について触れ、本記事では具体的な例として梅毒やHIVなどの性感染症の予防啓発に対する取組みをご紹介しました。

特に本記事でご紹介した梅毒やHIVを含む性感染症は、感染したご本人の健康問題だけでなく周囲の方との関係性に影響を与えることもあります。また性感染症は不妊や流産早産など原因になるだけでなく、妊娠・出産時に母親から子どもへと母子感染を起こすこともあるため、次の世代にも大きな影響を与える可能性があるのです。

川崎市健康安全研究所と行政を主導する川崎市は、市民の皆さまに安心して生活を送っていただくため、健康福祉面におけるあらゆるサポートをこれからも全力で行っていきます。

  • 川崎市健康安全研究所 所長

    岡部 信彦 先生

    医学部卒業後、小児科医師として各地の病院で研鑽を積む。1978年からバンダービルト大学小児科感染症研究室で知見を広め、帰国後はWHO西太平洋地域事務局や国立感染症研究所感染症情報センター所長などを歴任。
    現在は川崎市健康安全研究所所長の立場から、ジカ熱や梅毒などの感染症から川崎市民の健康と安全を守るべく、川崎市の担当者と連携して対策を講じている。

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