インタビュー

画像でみる掌蹠膿疱症などの扁桃病巣疾患-咽頭から離れた部位に症状が現れる

画像でみる掌蹠膿疱症などの扁桃病巣疾患-咽頭から離れた部位に症状が現れる
原渕 保明 先生

旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座 教授

原渕 保明 先生

この記事の最終更新は2017年05月25日です。

腎臓の糸球体に炎症が起こり、血尿や尿蛋白がみられるIgA腎症。手足の皮膚に水ぶくれのような膿疱が多発的に生じる掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)。
これらの病気は口の中にある「扁桃」を原病巣としており、多くの場合、扁桃を摘出することで寛解を得られます。一見扁桃とは無関係と思われる部位に症状が現れる扁桃病巣疾患(へんとうびょうそうしっかん)には、どのような病気があるのでしょうか。
また、そもそも扁桃とはどのような役割を担う組織なのでしょうか。扁桃病巣疾患の病態解明に貢献された旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座教授の原渕保明先生にご解説いただきました。

口腔内

体外の細菌やウイルスは、主に口から体内へと侵入します。口の中に位置する扁桃(へんとう)は、「免疫の最前線」に立ち、このような病原体から自己を守る役割を担う免疫組織です。

ただし、成長に伴い全身の免疫力や抵抗力が獲得されていくため、免疫組織として扁桃が機能を果たすのは1歳頃までです。そのため、大人にとって扁桃とは特筆すべき役割を持たない組織であるといえます。

なお、一般には扁桃腺と呼ばれることもある扁桃は腺組織ではなく、主にリンパ球によって構成されているリンパ組織です。そのため、頻用されている扁桃腺という呼び方は、実は誤りなのです。

扁桃という名称は、口を開けるとみえる口蓋扁桃(こうがいへんとう)がアーモンドのタネのような形をしていることに由来しています。

口の中には口蓋扁桃のほかに、咽頭扁桃(アデノイド)や舌根部にある舌根扁桃、耳管扁桃など、複数のリンパ組織が存在しています。これらの組織を線で結んだワルダイエル咽頭輪を構成するリンパ組織の総称が扁桃です。

さて、前項で扁桃はウイルスなどの感染を防御する能力を持った免疫組織であると述べました。しかし、扁桃は細菌やウイルスの標的となりやすい感染臓器でもあります。

そのため、扁桃に関連する疾患は、扁桃炎睡眠時無呼吸症候群など多岐にわたります。

扁桃をターゲットとした疾患のなかでも最も身近で有名な病気は急性扁桃炎です。喉の痛みや赤い腫れ、発熱を伴う急性扁桃炎は、通常一週間程度で治まります。子どもであれば、年に2回程度繰り返すことも珍しくありません。

ただし、急性扁桃炎を年に何回も繰り返す場合は、習慣性扁桃炎(反復性扁桃炎)と診断し、慢性化を防ぐための治療を行います。

睡眠時無呼吸症候群は子どもも大人も発症する病気ですが、原因は年齢より異なることがあります。子どもの睡眠時無呼吸症候群の場合、原因の多くはアデノイド肥大や口蓋扁桃肥大です。

代表的な症状としてはいびきなどが知られていますが、重症例の場合呼吸が止まってしまい突然死の原因にもなるため、適切な治療が必要です。

これらの病気に並ぶ扁桃の病気が、本記事のテーマでもある「扁桃病巣疾患(へんとうびょうそうしっかん)」です。扁桃病巣疾患は、扁桃に関連した病気でありながら、急性扁桃炎や睡眠時無呼吸症候群のようにのどには症状が現れないという特徴があります。

扁桃が原病巣となり、腎臓や手足の皮膚など、扁桃とは離れた遠隔臓器に障害を起こす病気を扁桃病巣疾患といいます。

扁桃病巣疾患に罹患しても、扁桃自体にはほとんど症状が現れません。症状が現れたとしても、軽いのどの痛みや違和感程度で治まることがほとんどです。

代表的な扁桃病巣疾患は以下の3つで、それぞれ症状が現れる部位が異なります。

IgA腎症:腎臓に炎症が起こる

掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう):手足の皮膚に膿疱ができる

・胸肋骨鎖骨過形成症(きょうろくさこつかけいせいしょう):胸骨・肋骨・鎖骨に腫れや痛みが現れる

このほかにも、皮膚症状が現れるアレルギー性紫斑病尋常性乾癬ベーチェット病、関節に症状が現れるリウマチ性関節炎アキレス腱炎などが、扁桃病巣疾患として挙げられます。

いずれも原病巣は扁桃であるため、扁桃を摘出する手術を行うことで症状が治まります。

過去には、これらの病気を扁桃病巣感染症と呼称していた時代もありましたが、抗菌薬などの進化と共に、扁桃病巣疾患は感染症ではなく、何らかの免疫異常により起こる病気であることが明らかになっています。(詳細は記事2『扁桃摘出術の安全性と合併症-扁桃を病巣とするIgA腎症の治療の進歩』をご覧ください。)

次項以降では、扁桃病巣疾患をより具体的に理解していただけるよう、三大扁桃病巣疾患の概要と症状について、症例写真を交えながらご説明します。

腎臓の糸球体(しきゅうたい)に炎症が起こるIgA腎症は、1960年代に提唱され始めた扁桃を原病巣とする三大扁桃病巣疾患のひとつです。IgAとは、免疫グロブリン(Immunoglobulin)Aという抗体の略称です。

発見当初は予後が良好な疾患とされていましたが、発症から約20年経つと20~40%が末期腎不全となり、腎透析を必要とすることが明らかになりました。

現在では扁桃摘出術+ステロイドパルス療法(記事2『扁桃摘出術の安全性と合併症-扁桃を病巣とするIgA腎症の治療の進歩』)という治療法が確立されており、早期に治療を行うことができれば高い確率で寛解(病気が落ち着くこと)状態へと導くことができます。ただし、腎機能が著しく低下しているなど、進行状態で見つかったIgA腎症の予後はよいとはいえません。

IgA腎症の根本的な問題は扁桃にあるため、たとえ腎臓を移植したとしても、扁桃を摘出しない限りは再発する可能性があります。

手のひらや足の裏に限局してがたまった膿疱が生じる掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)も、扁桃病巣疾患のひとつです。

感染などにより生じる膿疱には細菌やウイルスなどの雑菌が含まれますが、掌蹠膿疱症の膿疱は好中球(白血球の一種)が角質に溜まったものであり、無菌性という特徴があります。そのため、他者に接触しても感染することはありません。

掌蹠膿疱症の手と足の症状
掌蹠膿疱症の症例写真 原渕保明先生ご提供

掌蹠膿疱症は中年の女性に好発する疾患で、男性の発症率と比べると2~3倍ほど高くなります。

掌蹠膿疱症は落ち着きと悪化を繰り返す難治性の皮膚疾患ですが、当院のデータでは、扁桃摘出術により90%以上の患者さんに改善がみられています。

扁桃腺手術後の掌蹠膿疱症の症状
扁桃摘出術後の写真 原渕保明先生ご提供

胸肋鎖骨過形成症は、胸骨や肋骨、鎖骨が肥厚し、痛み症状の落ち着きと増悪を繰り返しながら進行していく疾患です。(肥厚性骨病変)

胸肋鎖骨過形成症の症例写真 原渕保明先生ご提供

胸肋鎖骨過形成症の約8割は掌蹠膿疱症に合併して発症し、単独で発症することはほとんどありません。

そのため、胸肋鎖骨過形成症も掌蹠膿疱症と同じように女性に多くみられ、扁桃摘出術により高い確率で胸部痛などの症状が改善します。

さて、ここまでに解説してきた扁桃病巣疾患は、いずれも扁桃を原病巣としているものの、急性扁桃炎などとは異なり、耳鼻咽喉科が専門とする病気というわけではありません。

よく似た他の疾患と鑑別する必要があるため、IgA腎症の場合は腎臓内科の医師、掌蹠膿疱症は皮膚科の医師が検査や診断を行います。私たち耳鼻咽喉科の医師は、専門家の診断により扁桃が原病巣の疾患とわかった場合に、扁桃摘出術を行うために治療に携わります。

次の記事『扁桃摘出術の安全性と合併症-扁桃を病巣とするIgA腎症の治療の進歩』では、扁桃摘出術の詳細など、扁桃病巣疾患の治療とその歴史についてお話しします。

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