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インタビュー

重粒子線治療の効果-正常組織への影響を抑え放射線抵抗性のがんにも有効な治療法

重粒子線治療の効果-正常組織への影響を抑え放射線抵抗性のがんにも有効な治療法
山田 滋 先生

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所病院 消化器腫瘍科 科長

山田 滋 先生

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この記事の最終更新は2017年06月04日です。

従来の放射線治療は、光の性質をもつX線を用いた光子線治療が広く適用されてきました。これに対し、イオンなどを用いた粒子線治療は、シャープな線量分布を有することから正常組織への線量を抑えることができ、これが副作用の低減につながります。近年この粒子線治療で近年注目されている重粒子線治療は、正常組織を避けることに成功し、高い治療効果が期待されています。それはなぜなのでしょうか。放射線医学総合研究所病院 消化管腫瘍科の山田 滋先生は、重粒子線治療の研究をされてきました。今回は、同病院の山田 滋先生に重粒子線治療の特徴や効果をお話しいただきました。                               

主にがんの治療に用いられる放射線治療には、光子線治療と粒子線治療があります。光子線とは、光の波であり、波長が短く、エネルギーが高いものが放射線治療に昔から用いられてきました。そのなかでも、広く放射線治療に用いられてきたものにX線があります。また、粒子線治療に用いられる放射線のなかで、ヘリウムイオンより重い粒子を高速に加速したものを、臨床的には重粒子線と呼びます。

重粒子線が体内に照射されると、ある深さまではエネルギーをほとんど与えずに速い速度で進むのですが、途中で急に速度を落とし線量のピークを作り、その後は体内で停止します。この最もエネルギーが大きくなる線量のピークをブラッグピークと呼びます。このため、このピークを照射したい腫瘍に設定することができれば、腫瘍周辺の正常組織への影響を抑え、腫瘍に高い線量を集中的に照射することができる点が大きな特徴です。特に胃腸など放射線感受性の高い重要な臓器への照射を避けながら治療することが可能であるため、治療後の障害などは起こりにくいといわれています。

扁平上皮がんに比較して腺癌や肉腫は、放射線に対して抵抗性が強いといわれています。重粒子線は粒子が重いことから殺細胞効果が高いことが特徴であり、そのような放射線抵抗性腫瘍に対しても、相手の腫瘍の種類に関係なく治療できる点は大きな特徴です。

それは、重たいボールを投げることをイメージしていただけるとわかりやすいかもしれません。重たい粒子ほど電離密度が高くなり、そのぶん腫瘍に対する治療効果も高くなります。重粒子線の治療効果は、従来の放射線治療であるX線の2〜3倍であるといわれています。

ボール

素材提供:PIXTA

腫瘍には、放射線による影響を受けやすい放射線感受性細胞と放射線による影響に抵抗してしまう放射線抵抗性細胞があり、放射線抵抗性細胞が多い場合、放射線治療では治癒は困難であるとされています。X線や陽子線による治療では、放射線抵抗性細胞が遺残することがあり、治療効果を十分に得ることができません。一方、重粒子線による治療では、いずれに対しても高い殺細胞効果が認められており、放射線抵抗性の腫瘍に対しても高い治療効果が期待できます。

従来使用されてきたX線による放射線治療であっても、高い放射線量をあてれば重粒子線と同じような高い効果が期待できると思われるかもしれません。確かに、がんの治療効果は期待できるのですが、X線は線量分布がシャープではないことからX線治療では周囲の正常組織への影響を避けて病巣に集中した照射が困難です。そのため、線量を高くすると副作用が重くなることも昔からの課題となってきました。お話したように、重粒子線治療であれば、周囲の正常組織への影響を抑えることができるため、副作用を低減できます。

X線治療

素材提供:PIXTA

また、通常X線による放射線治療後にがんが再発した場合、同じ部位への再度の放射線治療は困難とされています。しかし、重粒子線治療であれば、X線治療後の再発時にも一定の条件が合えば適応可能です。

他治療は困難で、重粒子線が有効な疾患には以下のような疾患があるといわれています。

がんの進行により手術が困難であるとともに、これまでの放射線が効かないような放射線への抵抗性が強いがんに有効であるといわれています。たとえば、粘膜悪性黒色腫では、重粒子線治療単独、重粒子線と抗がん剤を組み合わせた治療が、他の放射線治療や手術よりも高い生存率になることがわかっています。具体的には、粘膜悪性黒色腫に対する重粒子線治療単独の5年生存率は、従来の放射線治療の5年生存率の2倍ほどの結果になっています。

現状では、主に重粒子線治療が適応となっている消化器がんには、食道がん、肝臓がん大腸がん膵臓がんがあります。

食道がんの場合、初期のステージであるT1期のがんに関しては、根治という形で重粒子線により治療することが可能です。また、がんのステージが進行したT2及びT3期の患者さんは、根治は難しいといわれていますが、現状では臨床試験という形になりますが、術前に重粒子による放射線治療をしてから手術を実施しています。

肝臓がんの場合、手術が適応できない状態である患者さんに重粒子線治療が有効であるといわれています。特に、腫瘍が5センチを超え、治療の仕様がなくなってしまった患者さんにも適応が可能です。肝臓がんの場合、重粒子線治療は2回照射で終了します。2日入院するだけで完了する治療なので、患者さんへの負担の軽減につながっているのではないでしょうか。従来の肝臓への放射線治療では、肝臓に放射線を照射しようとすると、肝臓周囲の正常組織や臓器等を避けることは困難でした。重粒子線治療であれば、どんな形状の臓器であっても照射することができますし、正常組織への影響を抑えることが可能です。そのため、副作用が少なく治療後の予後は非常に良好です。

膵臓がんは、もともと腺がんなので、放射線に対し抵抗性の強いがんの1つです。そのため、通常のX線による照射では治療が難しいといわれています。さらに、膵臓の周囲には胃や十二指腸など放射線の影響が懸念される重要な臓器があります。重粒子線治療は、これらの重要な臓器を避けながら、高い効果を出すことができるため、膵臓がんへの効果も期待されています。

手術
素材提供:PIXTA

直腸がん術後局所再発への手術の適応は非常に難しいといわれています。それは、直腸がん再発の手術は骨盤の底を操作しなければならず、何があるかよく見えない部位を扱う困難な手術であるからです。また、骨盤の後壁の一部となる仙骨の前面にある静脈層を傷つけてしまうと出血をコントロールすることができなくなってしまいます。また、重要な神経が通っており、その神経を傷つけてしまうと、足が動かなくなる障害につながります。このように直腸がん術後再発の手術は、危険性が非常に高い困難な手術であるため、重粒子線の治療に期待が集まっています。現状では、直腸がんにおける重粒子線治療の適応は再発例のみになりますが、手術と比較しても比較的よい成績になっています。

アメリカでは、直腸がんの患者さんは手術前にほぼ全員、放射線化学療法を行ってから手術を実施するのですが、最近の報告では十分な期間を得てから手術を施行すると術前の放射線化学療法により4割くらい患者さんで活動性のがん細胞がほぼ消えるといわれています。今後は、この術前の放射線化学療法においても、より強い放射線が期待されています。私は、将来的には、この術前の放射線化学療法においても重粒子線の適応がより高い効果を実現すると考えています。

私たち放射線医学総合研究所は、2015度に重粒子線治療の回転ガントリーを導入しました。これは、自由な角度で重粒子線のスキャニング照射ができる装置であり、線量の分布を自由に設定することが可能になります。この装置を利用することで、治療台の患者さんを傾けたりすることなく、自由な角度で複雑な照射野が設定できるようになると期待されています。この回転ガントリーの導入により、重粒子線治療の適応がより広がるのではないでしょうか。設置はすでに完了しており、2017年度5月から臨床試験として治療を開始しました。

山田 滋先生

重粒子線治療の現状の大きな課題は、装置が高価であるために治療費も高額になってしまうことです。また、国内では装置の設置数が限られている点も大きな課題です。

しかし、お話ししてきたように、重粒子線治療であれば、従来の放射線治療では十分な効果が得られなかったような疾患も高い治療効果を得られることが可能です。また、正常組織を避けることで治療後の副作用も少ないといわれています。さらに、短期間で治療を終えることができるため、患者さんの負担を大幅に減らすことができるのではないでしょうか。今後、重粒子線による効果が認められ広く治療に用いられるようになれば、患者さんのQOL(生活の質)の向上へ大きく貢献すると考えています。

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    山田 滋 先生

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