インタビュー

肝機能障害の改善は可能? 新たな治療戦略とは

肝機能障害の改善は可能? 新たな治療戦略とは
竹原 徹郎 先生

大阪大学 大学院医学系研究科 消化器内科学 教授、医学博士

竹原 徹郎 先生

この記事の最終更新は2017年06月05日です。

記事1『肝機能障害とは? 肝機能低下を引き起こす原因と症状』では、肝機能障害の主な原因や症状をお話しいただきました。今回は、その治療法をお話しいただくとともに、今後期待されている治療戦略についてお話しいただきます。肝機能障害は肝がんなど重篤な疾患につながる可能性があり、いかに重症化しないかが非常に重要になります。重篤な状態を防ぐために有効となるものにはどのようなものがあるのでしょうか。引き続き、大阪大学大学院医学系研究科 消化器内科学の教授である竹原 徹郎先生にお話をお伺いしました。

肝機能障害の治療は、記事1についてお話しした原因により異なります。ここでは、主な原因であるウイルス性肝炎アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪性肝疾患NAFLD(Nonalcoholic Fatty Liver Disease)の治療についてお話しします。

ウイルス性肝炎の場合、C型肝炎ウイルスは、専門の医師に適切な治療を受けることで95%程度はウイルスを消すことができます。しかし、C型肝炎ウイルスを保有する方のうち、肝硬変が悪化していたり、肝がんが重症化していたりするような方には適応することができません。C型肝炎の場合、ウイルスを消すことができたとしても、同時に、肝臓の疾患が突然消えるわけではありません。たとえば、ウイルスがなくなったあとも肝硬変があれば肝がんのリスクがどの程度あるのかということをきちんと評価し、適切な治療を受けることが重要になります。

また、B型肝炎には、インターフェロンや核酸アナログを用いた抗ウイルス治療があります。これらの治療により、ウイルスを制御しウイルスの量を減らすことができますが、完全にウイルスを排除をすることはできません。核酸アナログの場合は、服薬を長期に継続していくことが必要です。

薬

アルコールが原因となっている場合には、何よりも禁酒が有効な治療になります。すでに肝硬変や肝がんに罹患している場合には、アルコールをやめるとともに疾患に必要な治療を合わせて受けることが重要になるでしょう。

非アルコール性脂肪性肝疾患NAFLDでは、原因となっている肥満を解消したり、栄養の過剰摂取を是正したりする必要があります。糖尿病高血圧など、ほかに合併症を持つ場合には、それぞれの疾患に必要となる治療を受けることが有効でしょう。さらに、高脂血症やメタボリックシンドロームに伴う症状があれば、合わせて治療が必要となります。たとえば、糖尿病の場合には、糖尿病を専門とする医師と消化器の医師が協力して治療にあたる必要があるでしょう。

非アルコール性脂肪性肝疾患NAFLD(Non Alcoholic Fatty Liver Disease)とは、広い意味で脂肪に伴う肝臓の疾患を意味します。

そのなかに、NASH (非アルコール性脂肪肝炎Nonalcoholic steatohepatitis)という疾患が10%ほど含まれているといわれています。NASHは肝炎を伴い、肝硬変肝がんへと進行する可能性があるNAFLDのなかでより重篤な状態です。NASHとそれ以外の脂肪肝の間には明確な線引きがあるわけではなく、相互に行ったり来たりするといわれており、脂肪肝だからといって必ずしも予後が良好なケースばかりではありません。このように、非アルコール性脂肪性肝疾患NAFLD(Nonalcoholic Fatty Liver Disease)は重篤な疾患につながる可能性があるため、注意が必要です。

入院する患者さん

肝機能障害の治療における今後の展望をお話しするために、私がグループで取り組んだ研究のお話しをさせていただきます。

オートファジーとは、細胞内の自己成分を分解する機構を指します。栄養がなくなった細胞は生きていくことができなくなりますが、細胞は、それに抵抗するようなシステムを持っています。細胞は、オートファジーにより、栄養を外からとることができなくなったときに、自らの成分を分解し栄養をつくり出すことができます。飢餓状態を生き抜くためのシステムであると言えます。しかし、オートファジーの役割は、この飢餓応答だけにとどまりません。細胞の古くなった構成成分を分解することにより、細胞内を浄化する役割も担っていることがわかっています。

我々の研究の結果、主要な肝疾患のひとつである非アルコール性脂肪性肝疾患では、オートファジーが途中で働かなくなること、そしてルビコンというたんぱく質が、その抑制に関係していることがわかったのです。お話ししたように、オートファジーには細胞内の浄化作用があるのですが、ルビコンというたんぱく質によりオートファジーが抑制されると、肝臓の細胞が浄化されなくなります。その結果、肝炎の原因となり肝臓に障害が起こってしまうのです。さらに、それだけではなく、肝臓の細胞はオートファジーを使って、脂肪そのものを分解しており、ルビコンによるオートファジーの抑制は、脂肪分解そのものを抑制していることもわかりました。ルビコンは肝臓に脂肪をためる、そして肝炎をおこすという2つの意味で、非アルコール性脂肪性肝疾患の発症と進展に関与しているのです。

ルビコンによるオートファジーの抑制
脂肪肝細胞のメカニズム

肝臓でルビコンを働かなくすことで、オートファジーがきっちり流れるようになり、脂肪蓄積が改善し、肝炎が起こりにくくなることがわかっています。今後は、ルビコンの機能を落とすような治療を開発することが重要であると考えています。NAFLDに対する有効な薬物治療見つかっておらず、オートファジーを制御する新規の薬物の発見が期待されている状況です。

肝機能障害によってなぜ疾患が進行するかについては、研究が進められている分野です。お話ししたように、肝機能障害はASTやALTの数値上の異常からわかるのですが、この数値が上がっていることは、肝細胞が死に続けていることを意味しています。このような段階では特に症状はありませんが、肝硬変や肝癌になると患者さんは体調の不良を自覚するようになります。この肝機能障害から疾患にいたるメカニズムは昔から研究が進められてきました。私たちの研究でわかっていることは、肝臓の細胞が死に続けるということが、肝臓の線維化や肝がんの発生の十分な条件になっているということです。そのため、肝機能障害に早く気づき適正な治療を受けることが、重篤な状態を防ぐ手立てになるということになります。

竹原先生

今後は、さらに詳しいメカニズムの解析が必要です。肝臓が死に続けると、何を介して線維化を起こしたり、どんな遺伝子が肝がんの原因になるかを今後は解明したいと考えています。

また、C型肝炎のように肝炎ウイルスを治療でなくすことができるようになると、肝炎もほとんどの場合よくなります。このようなあとに問題なのは、肝疾患の可塑性(歪みが元の状態にもどること)を適切に評価することです。先ほどもお話ししたように、ウイルスがいなくなっても、出来上がってしまった肝臓の線維化はすぐには改善しません。これは、ウイルスが消えたからといって安心してはいけないという話ではなく、どれくらい肝癌の発生のリスクが残っているかを患者さんごとに適切に判定することが重要だという話です。

今後も、肝臓の疾患進行のメカニズム解明すること、そして疾患の可逆性についても研究していきたいと考えています。

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