インタビュー

唾液腺腫瘍の診断と治療-手術は必須?転移や再発を防ぐために

唾液腺腫瘍の診断と治療-手術は必須?転移や再発を防ぐために
三浦 弘規 先生

国際医療福祉大学 教授

三浦 弘規 先生

この記事の最終更新は2017年06月07日です。

記事1『口腔内、口周り・耳周囲の腫れ・しこりや痛みの原因にも–唾液腺腫瘍とは?』では、唾液腺腫瘍の種類・分類、原因などについてお話いただきました。今回は実際治療として行われている手術や診断方法についてお話しいただきます。唾液腺腫瘍の手術は転移・再発を防ぐため、慎重に行われなければなりません。悪性の場合には、頚部郭清術を行うこともあります。

前記事に引き続き、国際医療福祉大学三田病院 頭頸部腫瘍センター長・頭蓋底外科センター長の三浦弘規先生にお話しいただきました。

唾液腺腫瘍は下記のような手段で診察されます。

<唾液腺腫瘍の診断方法>

・視・触診

・超音波

・CT・MRI

なかでも最初の触診は非常に大切です。悪性腫瘍の場合、腫れ・しこりが硬く、動きが悪いという特徴があるため、医師は触診で硬さや位置を判断します。

次に超音波、CTで腫瘍の位置が顔面神経の走行より浅いのか深いのか、頸部のリンパ節に転移を疑うような腫大がないかをよく診ます。MRIでは周囲組織への悪性を疑うような浸潤がないか、また造影のパターンによってある程度の組織型の予想をすることも可能です。

次に行われるのが穿刺吸引細胞診という検査です。この検査では皮膚表面から注射針で腫瘍細胞を吸引しながら切り取り、それを顕微鏡で観察します。この検査でわかることは下記の2つです。

<穿刺吸引細胞診でわかること>

・唾液腺腫瘍が良性か悪性か:80〜95%の確率で診断がつきます。

・唾液腺腫瘍の組織型:60%ほどの確率で診断がつきます。

穿刺吸引細胞診では唾液腺腫瘍をみるうえで最も需要な良性と悪性の区別や、組織型(病理学的な分類)の種類を予測することができます。しかし、この検査をしても100%確実な結果が出るとは限りません。つまりこの疾患は手術を行い、実際に腫瘍を摘出して、病理組織学的な検査を行わなければ、確実な診断をつけることはできないのです。

記事1『口腔内、口周り耳周囲の腫れ・しこりや痛みの原因にも–唾液腺腫瘍とは?』でも述べましたように、唾液腺腫瘍の治療は原則手術治療が必要です。手術で腫瘍をとって検査してみなければほんとうに正確な組織型が診断できないということも多々あります。ですから、唾液腺腫瘍と診断された患者さんには基本的に手術をお勧めしています。

放射線治療

悪性の唾液腺腫瘍の場合、通常のがん治療と同じく手術治療の他に化学療法、放射線治療が有効であるとイメージする方も多いのではないでしょうか。しかし唾液腺腫瘍の場合、残念ながら抗がん剤や放射線の治療はあまり効果がないといわれています。

しかし手術後の検査で悪性腫瘍であることが確実になり、再発や転移の恐れがあると判断された場合、術後に放射線治療を行うことがあります。また保険適応はありませんが、重粒子線治療の経験も蓄積され、手術が難しい患者さんには治療効果が期待されています。

それではここで手術の流れを説明します。今回は最も罹患率の高い耳下腺の唾液腺腫瘍を想定してお話ししていきます。

唾液腺腫瘍の手術は全身麻酔で行いますので、当院では入院期間は7~10日間前後とお伝えしています。手術時間自体は速い施設では1時間弱で完了してしまうところもありますが、当院では丁寧な施術を心がけていますので、およそ2〜3時間とお話しています。

耳下腺の場合、耳の下、顎の脇の部分からメスを入れ腫瘍を切除し、傷口を閉じる際にはドレーンという管を通して血液、浸出液が皮膚の下に溜まらないように工夫をします。ドレーンは術後数日つけたままにしておきます。

唾液腺腫瘍の手術は顔に近い部分で行われるため、傷が目立たないよう細心の注意を払って行われます。そのため抜糸を必要としない縫い方で処置を行なっています。

唾液腺腫瘍の良性・悪性の確認は手術中にその場で行われることが多く、悪性の場合には耳下腺だけでなく顔面神経や周囲のリンパ節もまとめて取ってしまうことがあります。これを頚部郭清術といいます。

頚部郭清術や顔面神経の扱いに関しては、施設によっても多少方針が異なります。当院では神経麻痺の症状がなければ、極力顔面神経を残すように心がけています。また術中明らかなリンパ節転移がなければ頸部郭清も施行しない場合が多いです。顔面神経麻痺や他の後遺症と合併症を防ぎ、患者さんのQOL(Quality Of Life)を損なわないよう配慮しています。

しかし、顔面神経やリンパ節を残したことによって再発や転移があってはなりません。そのため当院では下記のような対策を行なっています。

・転移を起こしやすいとわかっているリンパ節を術中に病理学的に検査し、そこに転移がある場合には頚部郭清術を行う。

・顔面神経をぎりぎりで温存した場合、術後の放射線治療で残った顔面神経周囲を中心に周囲の再発を予防する。

全米を代表するがんセンターで結成されたガイドライン作成組織であるNCCN(National Comprehensive Cancer Network)が公表しているガイドラインでも、麻痺のない顔面神経は可能な限り除去せず温存することを推奨しています。当院はこのガイドラインに則り、なるべく安全に顔面神経やリンパ節を温存した治療を行なっています。

食事・かじる

手術後の合併症として懸念されるものは下記の通りです。

<唾液腺腫瘍手術後の合併症>

顔面神経麻痺

・感覚鈍麻

・フライ症候群

・ファーストバイト症候群 など

ここでは上記4点の合併症についてご説明します。

合併症として患者さんが一番懸念するのは顔面神経麻痺です。この合併症が出る頻度は良性腫瘍の場合は3〜4%といわれています。悪性腫瘍の場合では組織型や腫瘍と顔面神経の位置関係によっても大きく異なるため、厳密な頻度を図るのは難しいと思われます。

どうしても顔面神経を温存することができなかった場合には術中に神経移植を行い、顔面神経麻痺の回復を期待します。しかし神経移植を行なった場合でも、神経が回復するまでには一年近い時間がかかります。さらに腫瘍が悪性腫瘍で放射線治療を併用すると、通常よりも神経の回復は難しくなります。

また術後には創部を中心に感覚鈍麻が生じます。手術で切除した部分、切り開いた部分の感覚が鈍くなり、触れたり掻いたりしても感じなくなりますが、数か月すればかなりの範囲は回復します。具体的にはピアス装着や髭剃りの時不自由を感じるようです。

手術時に唾液を出すよう命令する神経が切れ、皮膚を刺激するようになるとフライ症候群を招くことがあります。フライ症候群は唾液を出せという神経の命令が皮膚を刺激するために、食事の際に顔が火照ったり、発汗したりなどの症状を引き起こします。

いくつか術中に行う予防方法は提示されているものの、100%防ぐことは難しいといわれています。

食事の1口目を咬むときにズキっと痛みが生じるファーストバイト症候群という合併症が起きることもあります。これは特に耳下腺の深部の腫瘍で深部に手術操作が加わった場合に発症しやすくなります。

実際の費用は患者さんの収入と保険によって異なりますが、限度額認定証を利用すれば大概9万円前後で治療、入院をまかなえることが多いようです。詳しくは実際受診する病院にお尋ねください。

これまで述べてきましたように唾液腺腫瘍の根治には原則手術治療が必要ですが、顔にメスを入れたくない、顔面神経麻痺のリスクが怖いという理由から、手術を望まない患者さんもいらっしゃいます。なかには、穿刺吸引細胞診で悪性の可能性が高いという結果が出ていても手術を拒む患者さんもいます。

手術を希望しない患者さんには良性の場合、数か月おきに経過観察を行います。超音波や、CT、MRIによる画像診断で腫瘍が大きくなっていなければそのまま経過観察を続けていきます。しかし、徐々に腫瘍が大きくなっている場合には再度手術を提案することになります。

悪性の場合には、基本的には手術を勧めますが、患者さんの希望に応じて重粒子線治療を行うこともあります。重粒子線治療は放射線治療の一種で、従来の放射線治療より効果が高い治療といわれています。現在は先進医療として位置付けられているため保険適用がなく、およそ300万円で治療を受けることができます。

唾液腺腫瘍の悪性腫瘍は、他のがんと違ってよほどのことがない限り手術を行える場合がほとんどです。しかし、腫瘍が深く、頚動脈を巻き込んでいる場合や、すでに肺や骨に転移している場合には手術を推奨しないこともあります。

そのような場合には組織型に応じた手術以外の治療を検討します。たとえば重粒子線治療などを勧めることもあります。

三浦弘規先生

唾液腺腫瘍は罹患率の高い疾患ではありませんが、放っておくと悪性化し転移などを起こす危険もあるため、気になる症状があれば耳鼻科・頭頸部外科を受診されることをお勧めします。腫れや痛みの症状は唾液腺腫瘍だけでなく、リンパ節の腫れ、唾液腺の炎症や膠原病などが起因している場合もあります。耳鼻科・頭頸部外科であれば、それらすべての疾患を念頭に適切に対応できますので、受診されてみてください。

  • 国際医療福祉大学 教授

    日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 耳鼻咽喉科専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本頭頸部外科学会 頭頸部がん専門医

    三浦 弘規 先生

    臨床を中心に基礎研究も含めた頭頸部がん全般に携わる。院内各科は言うに及ばず、診療所あるいは病院間の縦割りの垣根を取り払い、広く横の連携を密としたチーム医療に取り組むことで、多岐にわたる治療法の選択肢を最大限に提示・実践を目指している。臨床試験も積極的に取り入れながら患者さんやご家族に納得いただける治療の提案をモットーとしている。また学会・論文等で情報発信することで頭頸部領域に貢献している。

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