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オーラルフレイルとは?原因と症状――高齢者の食事に影響する口や歯の衰え

オーラルフレイルとは?原因と症状――高齢者の食事に影響する口や歯の衰え
戸原 玄 先生

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーショ...

戸原 玄 先生

この記事の最終更新は2017年06月11日です。

口腔機能の衰えを表す“オーラルフレイル”という言葉をご存じでしょうか。全身の筋力は加齢とともに低下していきますが、それは口まわりの筋肉においても例外ではありません。食行動にかかわるオーラルフレイルは、日常の精神的・社会的な側面にも相互に影響を与えるため、患者さんのQOL(生活の質、満足度)を左右する可能性があります。オーラルフレイルの概念や症状の進行について、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科で准教授を務める戸原 玄(はるか)先生にお話を伺いました。

オーラルフレイル”とは、口腔の(オーラル)虚弱(フレイル)を表す言葉で、おもに口まわりの筋力が衰えることにより、滑舌や食の機能が低下することです。もともとは、日本老年医学会が加齢による心身の虚弱を“フレイル”という言葉で表現したことに始まります。現在では日本歯科医師会が中心となり、特に口まわりの健康を保つための概念として“オーラルフレイル”を提唱し、その予防と対策を推進しています。

オーラルフレイル

 

オーラルフレイルによって口腔機能が低下すると、滑舌低下、食べこぼし、噛めない食品の増加などの症状が徐々に現れます。口腔機能の低下は身体的な衰えだけではなく、患者さんの精神的・社会的な側面にまで影響を及ぼすことに留意せねばなりません。

たとえば、歯の喪失により噛めない食品が増えることで、食への欲求・関心が減少し(オーラルフレイルによる心身機能の低下)、それまで楽しみだった家族や友人との外食が億劫になり、自宅でばかり食事をするようになります(オーラルフレイルによる社会性の低下)。このような心身機能、社会性の低下は、さらにオーラルフレイルを進行させることにつながるのです。

1989年に厚生労働省と日本歯科医師会によって推進が始められた8020運動(80歳になっても20本以上、自分の歯を保とう)は、現在に至るまで広く社会に認知されています。

8020運動の浸透によって、健康な歯を保つ“予防歯科”の観点が深まり、虫歯や歯周病によって歯を喪失する高齢の方が減少しました。

8020運動

今後さらに高齢化が進む社会において、オーラルフレイルへの対策は非常に大切なテーマになるでしょう。私たちは現在、オーラルフレイルの予防方法を具体的に構築し、推進活動を行っています。

オーラルフレイルの概念が社会に浸透することによって、患者さん本人やご家族が、「以前より口が動かしにくい」「噛めないものが増えてきた」といった、口まわりの些細な変化に気付きやすくなり、早期の対策が可能になれば理想的だと考えています。

オーラルフレイルは、おもに加齢による筋力低下と、歯の喪失が原因となります。

ものを食べるには、咀嚼力(そしゃくりょく)(噛む力)と、嚥下力(えんげりょく)(飲み込む力)が必要ですが、加齢によって口まわりの筋力が低下し、歯の本数が減少すると、この2つの力が弱くなり、オーラルフレイルに陥るのです。

咀嚼力には口まわりの筋肉と歯の本数が関係しており、筋力低下の傾向に大きな男女差は見られません。一方、嚥下力については、男性のほうが加齢による低下が生じやすい傾向が見られます。

男性の嚥下力が加齢によって低下しやすい理由

・ホルモンバランスの変化(テストステロンの減少)

・もともとの筋肉量が多いため、低下したときの差異が大きくなる

・喉仏の重さで筋肉が下降する

・女性よりも話す(口まわりの筋肉を使う)機会が少ない

嚥下力(飲む力)の低下による「摂食嚥下障害」の詳しい解説については、『摂食嚥下障害とは』でご紹介しています。

前述のとおりオーラルフレイルは加齢を主な要因としますが、ほかにもさまざまな要因があり、症状の進行はケースごとに異なります。

下記は高齢の方の“食”に視点を置き、オーラルフレイルがどのように進行するのかを図式化したものです。この図は、加齢を要因とするオーラルフレイルの症状の進行と、口腔機能・心身機能との関係を表しています。そのため、先天異常や事故、疾患などを要因とするオーラルフレイルについてはこのとおりではありません。

オーラルフレイルの進行と口腔機能・心身機能との関係

オーラルフレイルは、生活範囲の狭まりや精神不安定がきっかけになることがあります。たとえば、定年退職を機に人とのかかわりが減少したり、仕事への喪失感から精神的不安を抱いたりすることで、口腔機能管理への自己関心度が低下します。この結果、虫歯・歯周病が進行し、歯の喪失につながります。

オーラルフレイルは前述のように患者さんのケースごとに症状の進行が異なり、徐々に進行していくため、明確な線引きができません。

以下のチェックリスト“EAT-10”は、嚥下機能の低下の目安として作成されました。重度のオーラルフレイルには適用されませんが、嚥下(飲み込み)機能を測る1つの指標にはなりえますので、オーラルフレイルを予防する観点でお使いください。

オーラルフレイルのチェック方法

オーラルフレイルは、エコー(超音波)検査での筋肉量の測定により診断が可能です。

高齢者の咬筋エコー画像
高齢者の咬筋エコー ご提供:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科

上記は、2名の高齢者の咬筋(こうきん)(ものを噛むときに使う顎の筋肉)をエコーで撮影した画像です。白い枠線が咬筋の範囲を、矢印は咬筋の厚みを表しています。a)と比較して、b)は咬筋の厚みが少なく、白く写っているため脂肪が多いことが分かります。

エコー検査の様子
エコー検査の様子  ご提供:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科

エコー検査を行い、筋肉量の減少を認める場合には、その時点からオーラルフレイル対策を行うことで、症状を回復したり、進行を遅らせたりすることができます。オーラルフレイルの予防と対策については、記事2『オーラルフレイルの予防法――高齢者の食事にかかわる口腔機能の衰えを防ぐには』でご紹介します。

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  • 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授、東京医科歯科大学病院 摂食嚥下リハビリテーション科 科長

    戸原 玄 先生

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