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転移性脳腫瘍(がんの脳転移)の原因・症状・治療について

転移性脳腫瘍(がんの脳転移)の原因・症状・治療について
周藤 高 先生

横浜労災病院 副院長・脳定位放射線治療センター長

周藤 高 先生

目次
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がんが脳に転移することで起こる転移性脳腫瘍(てんいせいのうしゅよう)。どのがんであっても転移性脳腫瘍が生じる可能性があります。脳にがんの転移が起こると、ステージIVの進行がんと診断されますが、近年では治療の進歩により予後が改善されつつあります。

今回は、転移性脳腫瘍の原因や症状、治療、生存率などについて、横浜労災病院 脳定位放射線治療センター長兼脳神経外科 部長の周藤 高先生に伺いました。

転移性脳腫瘍とは、脳以外の場所にある元のがん(原発がん)が血液の流れに乗って脳に到達し、そこで増殖してしまったものを指します。最近ではMRIの撮影回数が増えたことや高齢者の増加などから、転移性脳腫瘍が見つかる機会は増えています。

たとえ原発がんのコントロールがうまくいっていても、転移性脳腫瘍がコントロールできていなければ生命の維持にかかわる機能に影響を及ぼし、死に至ることもあります。そのため、転移性脳腫瘍はその完治よりも、患者さんの生命の維持やQOL(生活の質)の低下を防ぐために腫瘍をコントロールすることに重きを置きます。

近年はがん治療の進歩により、長く生きられる患者さんが増えてきました。しかし、原発がんをコントロールできるようになった一方で、転移性脳腫瘍が見つかるケースも増えてきています。

転移性脳腫瘍が発見されると、その大きさや個数にかかわらず、ステージIVの進行がんとなります。ステージIVのがんというととても予後が悪いように思われますが、実際には病態がさまざまであるため、一概に悪いとはいいきれません。近年では実に多くの抗がん剤や分子標的薬(がん細胞の特徴的な性質を分子レベルで捉えて、その部分に作用することでより効果的に抗がん作用を発揮する薬)があります。ですから、がんの種類や使用する抗がん剤の種類によって予後は変わります。

転移性脳腫瘍を定位放射線治療装置のガンマナイフだけで治療した臨床研究(JLGK0901研究)では、転移性脳腫瘍が1個の場合の生存期間の中央値は14か月、2個以上では10.8か月でした。その中でも患者さんの5分の1が5年以上生存しています(ただし、この研究は比較的病気の状態のよい患者さんを対象としているということを考慮する必要があります)。

この結果から、転移性脳腫瘍が2個以上になると少し予後は悪くなりますが、それでも一昔前と比べて、数年単位で長期生存される患者さんが増えています。つまり、転移性脳腫瘍の予後は格段によくなってきていると考えられます。

先にも述べたとおり、転移性脳腫瘍は脳以外の場所にあるがん(原発がん)のがん細胞の一部が血流に乗って脳に到達・増殖することで起こるものです。

転移性脳腫瘍をきたしやすいがんとして肺がんが挙げられることもありますが、これは肺がんそのものの患者数が多く、そのために脳転移を起こす肺がんの患者さんも数としては多くいることも関係しています。個別に脳転移を起こしやすいがんとしては悪性黒色腫メラノーマ)や絨毛(じゅうもう)がんが挙げられ、次いで肺がん、乳がんが脳に転移しやすいがんです。

悪性黒色腫(メラノーマ)

皮膚にできるがんです。皮膚細胞の中にある色素細胞ががん化し、ほくろのように黒くなって出現します。「ほくろのようながん」ともいわれます。

絨毛がん

妊娠した際に胎盤の大部分を占める絨毛という部分にがんが生じたものを指します。どの年齢でも起こりうるものですが、出産した年齢が高い方ほど発症するリスクも高いといわれています。

脳の構造

素材提供:PIXTA

2005〜2008年に調査されたデータによると、一番多い転移性脳腫瘍の発生部位は前頭葉でした。次に小脳、側頭葉、頭頂葉、後頭葉と続きますが、脳のどこにでもできるといわれています。

また「原発がんが見つかってからどのくらいの期間を経て脳転移が見つかるのか」という質問もありますが、これはケースバイケースとしかいいようがありません。ただし、肺がんは診断時に一緒に転移性脳腫瘍も見つかることが多く、乳がんは診断時からゆっくりと時間をかけて脳に転移していくことがよくあります。ある研究によれば原発がんの治療から転移性脳腫瘍の診断までの期間は、肺がんでは約7か月、乳がんでは42〜60か月と大きな開きがあります。

時計

なぜ肺がんが乳がんと比べてこれほどにも転移性脳腫瘍が発見されるまでの期間が短いのかというと、それはがんが転移する順序にあるのではないかと思います。がんは通常、原発巣(もともとがんがあった場所)→肺→脳という順序で転移していきます。

ところが肺がんは原発巣が肺であるため、通常よりも1ステップ短く、他の場所でできたがんよりも早く脳への転移が起こるのではないかと考えられます。

また、乳がんと比べて肺がんそのものの悪性度が高いことが多いこと、肺がんの腫瘍細胞が脳との親和性が高い可能性があるということも、一因として挙げられるかもしれません。しかし、これらはあくまで推測の域を出ず、確かなエビデンスはありません。

いずれにせよ、肺がんの患者さんは他のがんより比較的、転移性脳腫瘍を起こしやすいことには変わりありませんから、主治医と相談しながら脳への転移が起きていないか、定期的にチェックする必要があります。

転移性脳腫瘍で生じる症状には、腫瘍ができた部分を圧迫することによって起きる症状と、頭の中の圧が高まること(頭蓋内圧の亢進)で起きる症状に大別されます。前者の症状は、腫瘍が生じた場所によって変わるため、この症状が出たら転移性脳腫瘍であるという確定はできません。

ただし、昼ごろには消えてしまうような、早朝にのみ起きる頭痛には注意が必要です。頭痛は、頭蓋内圧が高まることにより生じます。通常、寝ているときは起きているときと比べて少しだけ頭蓋内圧が高くなります。転移性脳腫瘍のある患者さんは、就寝時の頭蓋内圧の高まりに加えて、転移性脳腫瘍そのものが脳を圧迫することによる頭蓋内圧の高まりもあるため、朝起きたときに頭痛が起こることがあるのです。この早朝の頭痛は「モーニングヘッドエイク」とも呼ばれます。

頭痛

そのほかの症状として、以下のものが挙げられます。

  • 手足の麻痺(転びやすい、字がうまく書けない、足を引きずる)
  • 頭がぼーっとする
  • てんかん発作 など
  • 視野障害(視野が狭くなる、チカチカとしたものが見える など)
  • めまい
  • ふらつき
  • ろれつが回らない など

手足の麻痺やてんかん発作などは比較的気付きやすい症状ですが、めまいやふらつき、頭がぼーっとするといった症状は患者さんが疲れと勘違いしてしまい、受診が遅れてしまうことがあります。そのため、がん患者さんは一見、日常生活でよくあるような症状に見えたとしても、主治医の先生に相談なさることをおすすめします。

MRI

転移性脳腫瘍が疑われる際にまず実施する検査は、造影剤(画像診断検査でより鮮明に病変を見るために使用する薬剤)を用いたMRI検査です。ほかに、造影剤を用いたCT検査もよく行われます。

MRI検査やCT検査に造影剤を用いると、数mm単位の小さな腫瘍まで発見できます。ただし腎臓の病気を持つ方や、ぜんそく、アレルギーの方は造影剤を使うことができないため、造影剤を使わずに何種類かの撮像法を組み合わせて腫瘍の所見を捉えるように努めます。

転移性脳腫瘍の治療には、抗がん剤や分子標的薬などの薬物治療、放射線治療、手術の3つがあります。

一般的に転移性脳腫瘍に対して抗がん剤は効きにくいといわれていますが、一部効果のある薬もあります。特に分子標的薬には転移性脳腫瘍に効くものがあり、それのみで数mmの小さな転移性脳腫瘍は消失することがあります。そのため、小さなものであればまずは薬物治療で様子を見ることが多くなっています。

転移性脳腫瘍に効果が期待できる分子標的薬は原発がんの種類によって異なり、例として肺がんではイレッサ、乳がんではタイケルブ、腎がんではスーテントなどが挙げられます。

ただし、分子標的薬はがんの中でも一部のものにしか効きません。分子標的薬の適応でないがんの場合は、抗がん剤と放射線での治療となります。

薬物治療では十分な効果が期待し難い場合や腫瘍が大きめの転移性脳腫瘍には、放射線治療を行います。当院では比較的小さな腫瘍に対しては定位放射線治療装置の1つであるガンマナイフによる治療を行っています。転移性脳腫瘍は多発性であることが少なくありません。しかし播種(はしゅ)と呼ばれるがん細胞が散らばってしまっている状況ではなく、また腫瘍数が10個程度までであれば、ガンマナイフによる1回の治療で全ての病変を治療しています。

がん細胞が脳全体に無数に散らばっている場合などには脳全体に放射線を照射する全脳照射を行います。しかし、全脳照射は認知症を引き起こすことがあるため、患者さんのQOLの維持の観点から、可能な限り避ける方向性にあります。

一方、比較的大きな腫瘍に対しては当院ではノバリスと呼ばれる放射線治療装置を用いてピンポイントの分割照射を行っています。ノバリスについては、次の記事をご覧ください。

『定位放射線治療装置ノバリスとは?副作用やガンマナイフ・サイバーナイフとの違い』

薬物治療、放射線治療でも効果が見られない場合、あるいは腫瘍が非常に大きく緊急性がある場合などには、全身状態が許せば開頭手術により腫瘍を摘出します。しかし近年は転移性脳腫瘍を手術で取り除くことは減少傾向にあります。その理由は、開頭や全身麻酔など患者さんの体への負担が大きいこと、そして播種(がんを摘出する際などに、がん細胞がこぼれて脳脊髄液(のうせきずいえき)の中にばらまかれてしまうこと)のリスクがあるためです。

このような理由から、当院でも転移性脳腫瘍に対して手術を実施することは少なくなっています。2009年ごろは年間40件程度の転移性脳腫瘍の手術を行っていましたが、2016年の転移性脳腫瘍の手術件数はわずか7件でした。この7件も、放射線治療の効果が得られない、放射線治療後の脳出血によってやむなく手術を行ったというケースであり、はじめから手術によって治療を行った方はいませんでした。

当院では患者さんの状態や腫瘍の数、大きさなどにより、単独の治療あるいは複数の治療を組み合わせることにより、最善の治療を提供するよう努めています。

新たな抗がん剤の開発や定位放射線治療装置の進歩により、転移性脳腫瘍の予後はだんだんとよくなってきています。多くの例において転移性脳腫瘍はコントロール可能です。8割以上の方は転移性脳腫瘍が直接の原因で亡くなることはありません。

そのため、がんが脳に転移していることが分かっても悲観的にならず、主治医の先生と相談をして治療法を検討してください。
 

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