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脳卒中後の復職を目指してーリハビリ・ボツリヌス療法・動機付けなど

脳卒中後の復職を目指してーリハビリ・ボツリヌス療法・動機付けなど
独立行政法人労働者健康安全機構・関東労災病院リハビリテーション科部長 小山 浩永 先生

独立行政法人労働者健康安全機構・関東労災病院リハビリテーション科部長

小山 浩永 先生

目次
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仕事を持つ社会人の方が脳卒中を発症し、休職しながらリハビリテーションを行なうことは決して少なくはありません。職場復帰したいという意志を持つ患者さんは非常に多いのです。復職を目標としたリハビリテーションでは、足以上に手の機能の改善が重要になると、関東労災病院リハビリテーション科部長の小山浩永先生はおっしゃいます。麻痺などが起きた手指の機能を回復させる専門的な治療の方法と、脳卒中後の復職率を小山先生にお伺いしました。

脳卒中後の復職率・離職率-復職率は4割台にのぼる

会社のビルなどに入っていく人々

脳卒中を発症した方のうち、実際に復職された方の割合は4割台と報告されています。

企業規模でみると、中小企業に比べ大手企業では離職率が低下する傾向もみられます。ただし、記事1『脳卒中の後遺症と復職を目指したリハビリのポイント-麻痺などの後遺症と復帰前の注意点』でもご紹介した通り、脳卒中後の復職には、患者さんの職種や業務内容、これまでの勤務実績や人間関係など様々な要因が関与しているため、数値だけで脳卒中と復職について語ることはできません。

なお、4割台という復職率の母数には、復職の意志がない患者さんや脳卒中発症時に就業されていなかった患者さんの数は含まれていません。ただし、パートタイム労働者の方や自営業の方は含まれていますので、一般企業の正社員の患者さんのみで統計をとると、この数値は変わるものと予想されます。

たとえば、自営業の方は十分なリハビリテーションの後に、ご自身のペースで仕事を再開しやすく、復職には有利といった傾向がみられます。

復職率から考えると離職率は5割を超えるという計算になりますが、一旦は離職されたとしても、転職して社会復帰される患者さんは多数みられます。

 

仕事に戻るための脳卒中リハビリテーション-機能回復に有効な治療

経頭蓋磁気刺激治療や機能的電気刺激治療

脳卒中リハビリテーションの主な目的は、低下した機能そのものを回復させることです。代表的な後遺症である麻痺症状に対しては、以下の治療により改善を試みます。

  • 経頭蓋磁気刺激治療(TMS)

経頭蓋磁気刺激治療(TMS)とは、磁気により刺激することで血行を促し、大脳の神経活動性を高める治療です。

  • 機能的電気刺激治療(FES)

機能的電気刺激治療(FES)とは、電気刺激によって、失った機能を再建する治療です。

治療では機能回復を目指す

これらの治療は、手指の機能や嚥下機能、失語症(言語の障害)、高次脳機能障害などの改善を目的として行います。

後者の機能的電気刺激治療(FES)は、特に歩行障害などのある患者さんの身体運動を高めるために用いられます。脳卒中後の麻痺症状が重く、手足が全く動かない患者さんでも、これらの治療により機能回復が可能な場合もあります。

手の機能回復を目的としたボツリヌス療法とは

痙縮により固まった筋肉を柔らかくする治療

就労支援を目的とする勤労者リハビリセンターでは、痙縮(けいしゅく)と呼ばれる後遺症により固まってしまった手指の筋肉を柔らかくするボツリヌス療法に、とりわけ力を入れています。

ボツリヌス療法とは、ボツリヌス菌が作り出す天然のたんぱく質(ボツリヌス毒素)を用いて作った薬剤を注射することで、緊張した筋肉を弛緩させるという治療法です。

ボツリヌス毒素自体を注射するわけではないので、毒素自体による害はありません。注射により手指を動かせる状態になった後は運動療法などを組み合わせ、患者さんの業務内容などに応じた様々な動きの練習を行います。

脳卒中後の復職のために重要な動機付け

発症後3日以内に仕事について話をする

ベッドの患者さんに話しかける看護師

勤労者リハビリセンターの取り組みのなかでも特徴的なものは、発症後早期の復職への動機付けです。通常の脳卒中リハビリテーションでも、発症後3日以内に回復を目指すリハビリテーションを開始しますが、これに加えて、私たちはこの期間にポジティブな言葉を用いて仕事に戻るための声掛けや話し合いを行なうという工夫をしています。

 

焦って離職してしまう患者さんを減らしたい

発症後早期に動機付けを行なうことは、早まって離職しようとする患者さんの焦りを抑えることにも直結します。

突然に脳卒中を発症し、重い麻痺症状などに見舞われた患者さんは、焦りや職場への申し訳なさなどを感じ、退職しなければならないと決断を急いでしまう傾向があります。自信を失ってしまい、離職後、家に閉じこもりがちになってしまうという「負のループ」に陥る患者さんもおられます。

焦って離職を考える患者さんが多数みられる原因のひとつには、脳卒中後の復職を支援する施設の存在がほとんど知られておらず、相談できる場所がなかったこともあるのではないかと感じています。

会社に籍を置いておくことが、患者さんから前向きな気持ちを引き出す

頑張ろうとしている患者さん

早まって仕事を辞めずに十分な休職期間を経た患者さんのなかには、再び元の仕事に戻ることができるまでに心身の機能を回復されている方もいます。また、後遺症が重く発症前と同じ業務の継続は困難な場合でも、障害者枠などを活用しながら社会で活躍し続けている患者さんもいます。

会社に籍を置いた状態でリハビリテーションに取り組むことは、目標を持って前向きに生きるモチベーションを呼び起こすことにもつながるため、「職場に迷惑をかけているのではないか」という患者さんの不安や罪悪感を取り除くことは、私たちの重要な役割であると考えています。

医師や看護師、復職支援などをおこなうスタッフなどが協働して患者さんを支援する

前項で述べた動機付けのように、勤労者リハビリセンターで働くスタッフには、通常のリハビリテーション施設に勤務する医療者とはまた違った視点を持つことが求められます。

当リハビリテーションセンターでは以下のようなスタッフが協働して、後遺症の改善と復職支援に取り組んでいます。

 

関東労災病院・勤労者リハビリセンターの構成メンバーと仕事

 

医師(Dr):

疾病・障害の治療、障害の評価治療計画の作成指示、義肢・補装具の処方、障害認定などを行います。

理学療法士(PT):

運動療法、物理療法、水治療法、身体機能評価、足底挿板作成、スポーツリハビリテーション、呼吸機能訓練、心疾患の運動療法、糖尿病の運動療法等を行います。

作業療法士(OT):

身体障害、手の外科疾患、日常生活動作指導、職業前評価・リハビリテーション、家屋改造指導等を行います。

言語聴覚士(ST):

失語症、構音・嚥下障害等、主にコミュニケーション障害に対する指導やリハビリテーションを行います。

臨床心理士(CP):

心理療法、知的機能検査カウンセリング等を行います。

●そのほかのサポートスタッフ

医療ソーシャルワーカー(MSW):

ソーシャルワーク復職支援、社会福祉資源紹介、病院紹介等を行います。

看護師(リハビリテーション病棟):

リハビリテーション病棟での日常生活動作訓練を具体的に指導、退院後の生活指導、家族の介護指導を行います。

 

勤労者リハビリテーションセンターの構成メンバー」 関東労災病院公式WEBサイトより一部引用

たとえば、言語障害がある患者さんのリハビリテーションは、医師と言語聴覚士、作業療法士がチームとなり行います。

また、自信を失ってしまいうつ状態にある患者さんや、脳卒中を機に精神に障害をきたしてしまった患者さんに対しては、私たち医師が薬剤処方を行なうだけでなく、臨床心理士の方が心理療法を行うこともあります。

先に述べた発症後早期の動機付けの際には、両立支援促進員と呼ばれる医療ソーシャルワーカーの方が大きな役割を果たしています。

次の記事3『脳卒中のリハビリと復職までにかかる期間-医療者による会社訪問の目的とは』では、当リハビリテーションセンターのスタッフが一丸となり行っている、企業訪問や就業準備段階で行なう職業訓練など、復職に向けたサポートの具体的な内容についてお話しします。

関東労災病院リハビリテーション科では一緒に働く仲間を募集しています