疾患啓発(スポンサード)

脳卒中後の復職のためにーリハビリと就労支援について

脳卒中後の復職のためにーリハビリと就労支援について
独立行政法人労働者健康安全機構・関東労災病院リハビリテーション科部長 小山 浩永 先生

独立行政法人労働者健康安全機構・関東労災病院リハビリテーション科部長

小山 浩永 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

脳卒中により休職していた患者さんが復職する際には、企業の人事や上司の方の協力や、通勤時に利用する公共交通機関の職員、乗客の理解が不可欠です。

関東労災病院リハビリテーション科部長の小山浩永先生は、あらかじめ患者さんが戻る企業や利用する駅に足を運び、車椅子などで通勤できる環境かどうかを確認することもあるといいます。就業中の脳卒中患者さんが仕事を辞めることなく復職するために、医療者、企業、社会を構成する私たちには何ができるのでしょうか。また、職場復帰にかかる一般的な期間は、何か月ほどなのでしょうか。引き続き、小山先生にお話しいただきました。

脳卒中後のリハビリテーション-就業準備のための作業療法

PC作業など、患者さんの業務内容に応じた個別の練習を行なう

PCとキーボード

関東労災病院の勤労者リハビリテーションセンターでは、十分なリハビリテーションを終えて就業の準備に入る際に、作業療法士の方と共に患者さんの業務内容に応じた動作や作業の練習を行っています。

パソコンのキーボードを早く打つ練習を行なう方もいれば、調理の練習をする方、車の運転の練習をする方もいます。

脳卒中発症後、職場復帰までにかかる期間

軽度であれば数か月で復帰する方も

十分なリハビリテーションと後述する働き方の確認を経て、医師による機能評価でも復職できる状態と判断された患者さんは、いよいよ職場に戻られます。

復職までにかかる期間はお勤め先の制度などにも影響を受けるため、一概にいうことはできません。統計などのデータは出ていませんが、私の印象としては、半年前後で元の職場に復帰される方が多いのではないかと感じています。

後遺症が軽い場合は、もちろん期間も短くなります。なかには、職場復帰を急がねばならない環境にあり、1か月程度で仕事に戻られる患者さんもいらっしゃいますが、平均より早く復職されたとしても、その後の患者さんの心身状態がよいのであれば問題はありません。

入院・通院など、状況に応じた利用方法が可能

また、復職後に時短勤務をしながら通院される方も、フルタイムで勤務しながら通院される方も多数いらっしゃいます。

一方で、長いお付き合いになる患者さんもいます。たとえば、精神症状に悩まされていたものの、1年以上のリハビリテーションを経たことで顔つきが明るくなり、私たち医師の目からみても安心して復職できるといえる状態にまで回復された患者さんもおられます。

このように、私たちの提供するリハビリテーションは、「個のリハビリ」といえるものであると感じています。

脳卒中後、無理なく仕事復帰するために-医師による会社訪問

企業側と話し合うことが、復職後の逆戻りを回避することにつながる

会社の人事面談

記事1『脳卒中の後遺症と復職を目指したリハビリのポイント-麻痺などの後遺症と復帰前の注意点』でも触れたように、私たちが最も避けたいと考えていることは、患者さんが社会復帰されたあとに症状が強く現れ、病院に戻ってきてしまう「逆戻り」です。なかには、復職される前よりもうつ状態が悪化してしまう方もおられます。

しかし、現実にはご自身が持続的な勤務に耐えられる体力や筋力を取り戻したかどうか、不明瞭なまま復職され、リハビリテーション期間がかえって長引いてしまう患者さんもおられます。私たちは、このような患者さんの逆戻りを回避するために、患者さんご本人に対するリハビリテーションだけでなく、在籍されている企業への訪問も行うことがあります。

企業訪問時には、人事の方と患者さんの受け入れ体制について話し合うだけでなく、次の事項も確認しています。

実際の業務内容-部署変更を医師から企業へ依頼することも

在籍されている職場で働く方の様子や実技を目でみて確認します。これにより、どこまでの機能回復や練習が必要なのか、患者さんの手の機能や体力は復職するにあたり十分といえるまでに回復しているかを確認できます。

企業規模や患者さんの状態・意志によっては、部署変更をお願いすることもあります。

慣らし通勤のための時短勤務や時差出勤が可能か?

復職当初は時短勤務や交通機関の混雑を避けた時差出勤により、徐々に体を慣らしていくことが理想的です。企業に制度がない場合、上記のような勤務形態を認めてもらうことは可能かどうか、人事の方と相談することもあります。

ただし、制度や福利厚生の充実した大手企業のなかにも、「時短勤務が必要な状態ならば、しっかりと休んでほしい」という考えを持つ組織は多々あります。復帰時の慣らし通勤の必要性について、社会の理解が進んでいってほしいと感じています。

上司など周囲への周知と理解の促進

前もって上司の方などに面談の時間をいただき、患者さんの受け入れにあたり、周囲の方に理解をしていただく必要がある点についてお話しします。

復職後に使用する交通機関について

関東労災病院を受診される患者さんの多くは、車ではなく電車やバス通勤をしているため、企業訪問時には利用する予定の駅にも足を運び、通勤予定時刻の混雑状況や段差の有無などを確認します。

脳卒中を発症しても仕事を辞めることなく続けられる社会とは

スムーズな復職のためには社会全体の理解が必要

勤労者リハビリセンターに通院あるいは入院されている患者さんは、皆さん社会復帰したいという強い意志を持って努力されています。また、昨今の日本では労働人口の減少が問題となっており、障害者枠雇用の促進、企業理解も進み始めています。

しかしながら、患者さんのスムーズな社会復帰のためには、より広い「社会全体」の理解が必要であり、現時点では課題を感じる点も多々あります。

車椅子通勤を例にあげて-通勤時に何がハードルとなっているのか?

混雑している地下鉄

前項では、復職後の通勤方法の確認について言及しましたが、車椅子通勤される方にとって公共交通機関の利用時には沢山のハードルがあると感じています。

車椅子通勤をされている患者さんのなかには、一本の電車につき1台の車椅子しか乗車できないため、電車を5~6本見送ってやっと乗車できるとおっしゃる方もいます。また、バリアフリー設備が整っていないバスなどには車椅子で乗ることができないため、たとえ乗務員や周囲の乗客の方に理解があったとしても、乗車を断るほかないこともあります。

このことからもわかるように、車椅子通勤のためには、駅や車両のバリアフリー設備などの環境、乗務員の方々の理解、周囲のお客さんの理解、全てが揃う必要があるのです。

今後、様々な病気を乗り越えた患者さんが仕事に復帰できるよう、社会全体が現状の課題を認識し、多様性を受け入れる社会へと変わっていってほしいと願っています。

関東労災病院における脳卒中リハビリテーションの費用

他施設では自己負担が大きくなる治療を無償で実施

脳卒中後の機能回復に有効な経頭蓋磁気刺激治療(TMS)や機能的電気刺激治療(FES)は、機械が高額なうえに、現時点では保険収載されていません。(治療の詳細は記事2『脳卒中のリハビリで機能はどこまで回復する?脳卒中後の復職率と治療の方法』をご覧ください)そのため、一般的な施設でこれらの治療を受ける場合、患者さんの自己負担額は1回1万円を超えてしまうこともあります。

患者さんのコスト面での負担という課題を解消すべく、現在当リハビリテーションセンターでは、これら2種類の治療を無償で行っています。

脳卒中の後遺症に対する経頭蓋磁気刺激治療(TMS)や機能的電気刺激治療(FES)の有効性は科学的に証明されているため、今後は保険適用に向けた活動にも積極的に参加していきたいと考えています。

脳卒中患者さんの「転職」を目指した支援も行なっている小山先生の想い

就労支援の対象から外れた患者さんへのフォローも必要

小山先生

現在、日本で行われている脳卒中患者さんの復職支援の多くは、中国労災病院の治療就労両立支援モデル事業のマニュアルを参考に行われています。

この治療就労両立支援モデル事業では、両立支援の対象を以下のように定義しています。

 

① 脳卒中発症時に仕事をしていて、職場復帰の希望がある方

② がんに罹患した70歳未満の被雇用者であって職場復帰の希望がある方

中国労災病院 治療就労両立支援モデル事業WEBサイトより引用)

 

このように定義上は、就業中の方が「元の会社に戻る」ためのサポートを行なうこととなっていますが、実際には脳卒中発症後に様々な理由から、お勤め先を退職する患者さんも多々いらっしゃるのが現状です。当リハビリテーションセンターでは、一旦は離職された方の「転職」による復職もまた医療的なサポートが必要であるという考えのもと、会社に在籍している患者さんと同様に受け入れ、支援を行っています。

今後も、両立支援の対象という網からこぼれ落ちている患者さんへの復職支援を行ないながら、仕事を辞めることなく十分なリハビリテーションを受けられる社会の構築に貢献していきたいと考えています。

また、今現在復職したいと考え相談先を探されている脳卒中患者さんには、当リハビリテーションセンターのように復職支援を行っている医療機関が全国にあるということ、一人で悩まず私たちを頼っていただきたいということをお伝えしたいです。

関東労災病院リハビリテーション科では一緒に働く仲間を募集しています