インタビュー

心不全治療の種類(薬物療法・機械的治療・運動療法など)と今後の展望

心不全治療の種類(薬物療法・機械的治療・運動療法など)と今後の展望

この記事の最終更新は2017年08月02日です。

心不全とは、何らかの原因で心臓の機能が低下し、体が必要とする血液量を送り出せなくなった状態を指します。心不全になった場合、どのような治療が選択されるのでしょうか。現在の心不全治療と今後の展望について、国立大学法人秋田大学副学長の伊藤宏先生にお話を伺いました。

心不全の治療で唯一完治を望める方法は、心臓移植です。ただ心臓移植にはレシピエント(移植を受ける患者さん)の適応条件があること、ドナーの不足によって待機時間が非常に長いことなどから、多くのケースでは薬物治療を選択します。

記事1『心不全とは? 発症メカニズムと分類・原因となる疾患について』の通り、急性心不全に陥った患者さんはその後、慢性心不全の状態が続き、あらゆるきっかけで急性心不全に陥るため、薬物療法によって心不全の悪化を抑え、急性心不全のリスクを低下させるのです。

心不全が発症、もしくは予備軍(発症はしていないがリスクが高い)であると判明した時点で、慢性期の薬物療法を行います。おもに心筋組織(心臓を構成する筋肉)を保護する働きを持つACE阻害薬、ARB、β(ベータ)遮断薬、利尿薬などを使って治療します。

ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬

記事1『心不全とは? 発症メカニズムと分類・原因となる疾患について』でお話ししたように、心不全で心機能が低下すると代償機能が働きます。ACE阻害薬は、この代償機能をつかさどる一部のホルモンの活動を抑制する薬剤です。

ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)

ARBは、ACE阻害薬と同様の作用がありますが、異なる作用経路をたどります。

β(ベータ)遮断薬

β遮断薬は、簡潔に表現するとアドレナリンを抑制する薬剤です。心臓の収縮を抑える働きを持ちますが、慎重に投薬量をコントロールする必要があるので、主治医の指示のもと正しい治療を行いましょう。

ガイドラインでステージC〜Dの状態では、薬物療法のほかに外科的治療を検討します。

両室ペーシングとは、ペースメーカーの電極を左室の外側と右室を挟むように設置し、心臓のポンプ機能を正常に保つ方法です。両室ペーシングは、心不全患者さんの予後を良好にするというエビデンス(医学的な根拠となる報告)が出ています。しかしペースメーカー自体が非常に高額であり、両室ペーシングがすべての心不全に効果があるわけではないので、適応となる患者さんの基準が設けられています。例えば心筋梗塞などで心臓が壊死し、硬化した状態ではペースメーカーの効果がありません。

心臓の働きを代行する人工心臓による治療が、近年注目を集めています。

重症心不全で病状が悪化した際、人工心臓を入れる選択をすることがあります。しかしペースメーカーと同様、人工心臓は非常に高価かつ保険の対象であるため、適応となる患者さんの基準を作成しています。現在の人工心臓は装置が大きく、電池が外付けですが、今後さらに軽量化・軽装化が進むと予想されます。

人工心臓は長期間体内に入れていると合併症を引き起こすリスクが高く、現状では心臓移植ドナーがみつかるまでのあいだをつなぐ治療といえます。しかし将来、人工心臓だけで全く普通の生活を送ることも可能となるでしょう。

人工心臓によるリスク

人工心臓が体に異物と認識されると血管内に血の塊ができ、脳梗塞を引き起こします。また外付け電池の接触部分から感染症を起こすリスクが高まります。

心不全の治療において、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬は非常に効果が高く、この3つの薬剤によって、心不全患者さんの寿命は以前に比べて長くなり、予後も以前より良くなってきました。よって、画期的な薬が開発されない限り、今後も基本的に心不全の薬物療法に大きな変化はないと考えます。

薬物療法は現在の形が継続されていくと予想される一方、先述のペースメーカーや人工心臓による機械的治療は徐々に進化していくでしょう。また体を温めることで心臓を保護する和温療法も保険適用になり、注目を集めています。

少し前まで心不全といえば「患者さんは体を動かしてはいけない」というイメージを持たれることが多くありました。しかし近年、心臓リハビリテーションと呼ばれる運動療法が、心不全の治療に効果を示しています。

体の筋肉量を増やして適正に運動を行うと、心臓の機能を補助できます。ただし運動によって心臓に負担がかかりすぎると逆効果になってしまうため、運動量と運動の方法には慎重になる必要があります。運動療法を行うときには、必ず主治医の指導のもと、その処方箋に従って行いましょう。

加齢によって心不全のリスクは高まります。しかし体の代償機能によって、症状が出ない、もしくは緩和されていることが多く、心不全は気付きにくい疾患ともいえます。そのため65歳以上の方は、定期的に検診を受けることが大切です。

また心不全は症状が安定していても、あらゆるきっかけで急性心不全に陥り病状が悪化するリスクがあります。心不全の治療を受けている方は、できる限り病状悪化を防ぐために、塩分摂取量を控える、風邪をひかない、ストレスを溜めない、そして処方された薬剤は途中でやめずに飲み続けることを徹底してください。

心不全になっても、なるべく早期に治療を開始し、適切な対応を続けることによって長生きすることができます。希望を失くさずに、気になることがあれば主治医に相談しましょう。

ご存知のように日本は超高齢社会に突入しました。医学技術の進歩により今後も人の寿命が延びていくなかで、心不全への注目は徐々に高まり、心不全学会の会員数も増加し続けています。秋田は高齢化率が34%を超え、塩分摂取量と脳血管障害の数が日本一という、心不全というテーマを議論するには最適な土地です。

そのような秋田において、2017年10月12日(木)〜14日(土)に、第21回 日本心不全学会学術集会『超高齢社会と心不全』が開催されます。心不全の専門家が集まり、最新の知見を持ち寄り議論する貴重な時間となることでしょう。ご興味のある方は、ぜひ詳細をお問い合わせください。

超高齢社会と心不全

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