インタビュー

思春期早発症の診断・検査と治療法―ホルモン療法がメインとなる

思春期早発症の診断・検査と治療法―ホルモン療法がメインとなる

この記事の最終更新は2017年08月14日です。

記事1『思春期早発症とは―早期に初経(生理)や発毛、声変わりが生じる』では思春期早発症の原因と症状についてお伝えしました。問診に加え各種ホルモン検査や画像診断などを行い、思春期早発症と診断され、必要があれば治療を開始します。思春期早発症のメインの治療はホルモン療法です。引き続き、思春期早発症の診断・検査と治療法について群馬大学副学長・理事で産婦人科医でもいらっしゃる峯岸 敬先生にお話を伺いました。

遊ぶ小学生

思春期早発症とは、通常よりも早く思春期が訪れて心身の変化の生じる疾患です。発症率は同性同年齢のおよそ2〜3%といわれており、男女比では1対1.5〜5で、女児のほうが男児の3〜5倍多いといわれています。

原因が不明のものから、脳腫瘍など脳の中枢の疾患により発症するもの、卵巣・精巣といった末梢の疾患により発症するものまであります。いずれの場合も性ホルモン(男性はテストステロン、女性はエストロゲン)が早期から過剰に分泌されることで症状を呈します。

<男児の主な症状>

  • 9歳までに精巣(睾丸)が発育する
  • 10歳までに陰毛が生える
  • 11歳までに脇毛、ひげが生える、声変わりがみられる

<女児の主な症状>

  • 7歳6か月までに乳房の発育がみられる
  • 8歳までに陰毛、脇毛が生える
  • 10歳6か月までに月経(生理)が始まる

思春期早発症の概要や原因、症状については記事1『思春期早発症とは―早期に初経(生理)や発毛、声変わりが生じる』をご覧ください。

思春期早発症は一見、人よりも早く心身が成熟するだけのもののように思えますが、弊害もあります。背景に脳腫瘍など時に命にかかわることもある重篤な疾患が原因である場合や、早期に体の成長が止まることによる低身長、周りよりも早く二次性徴が現れて注目を浴びる、からかわれるなどの社会的ストレスなどがその一例です。

ですから、思春期早発症が疑われる場合はまずは医療機関を受診してください。まずはかかりつけの小児科、あるいは産婦人科がよいでしょう。小児科と産婦人科には、内分泌専門医という思春期早発症の治療を専門としている医師がいます。

次に、思春期早発症が疑われた場合に実施される検査について説明します。

思春期早発症では、まずは問診を行います。症状がいつごろ現れたか、どのような症状かなどを尋ねます。思春期早発症は発症の年齢がひとつの診断基準になるため、問診は重要です。

次に陰毛の発育や女児であれば乳房の発育状況、男児であれば精巣の発育状況などを観察します。身長と体重の発育曲線による成長率、Tanner分類を参考にして実施します。

tanner分類
Tanner分類(思春期の発達段階の分類)

思春期早発症では骨年齢の測定も重要です。なぜなら、骨年齢は過去のエストロゲンレベルが反映されているためです。また、治療を開始した際にどれだけ治療効果が出ているかを判断する指標にもなります。

下垂体から分泌されるLH(黄体化ホルモン)、FSH卵胞刺激ホルモン)やエストロゲン、テストステロンなどのホルモン値を測定します。さらに必要であれば、GnRH負荷テスト、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)値測定、甲状腺機能検査、性ステロイドホルモンの測定、副腎皮質ホルモンの測定などを実施します。

脳や精巣・卵巣の疾患が原因で思春期早発症を起こしている可能性があるため、脳に腫瘍などの異常がないかを調べるMRIや、卵巣の状態をみる腹部の超音波(エコー)検査を実施します。

まれに遺伝性疾患が起因となって思春期早発症が起きることもあるため、遺伝子検査を実施する場合もあります。

思春期早発症で実施される検査は、子どもの体への影響はありません。特にMRI検査は脳腫瘍など重篤な疾患がないか調べるために重要です。しかしMRIは短時間ではありますが閉鎖された場所で検査を受け、機械から大きな音がするため怖がる子どももいます。検査時には医師や診療放射線技師から説明がありますから、これらのことを心得ておくとよいでしょう。

また、超音波検査では尿が溜まっていると検査部位がみやすくなります。

錠剤

思春期早発症では下垂体から出るLH(黄体ホルモン)とFSH卵胞刺激ホルモン)が精巣・卵巣に働きかけることによって症状が出ます。検査の結果でこれらのホルモン値が高ければ、このLHとFSHの分泌を抑えるために、LHやFSHの分泌を促すGnRHというホルモンのアナログ(GnRHに似た作用を持ち、長時間作用する特殊な製剤)を注射してGnRHの受容体の機能を低下させます。そして本来体内から分泌されるGnRHホルモンが受容体と結合しないようにすることで、本来のGnRHが作用しないようにします。

脳の中枢部の腫瘍や奇形、精巣・卵巣の腫瘍が原因で思春期早発症となっている場合には、原因となる腫瘍に対する治療を実施します。

腫瘍により手術や放射線療法、化学療法が適応となります。

しかし、なかには良性の腫瘍で、腫瘍の増大・転移がみられないものもあります。その際には手術などのリスクを考慮し、腫瘍に対する積極的な治療を行わず、思春期早発症に対するホルモン療法のみを実施することもあります。

ホルモン療法はGnRHアナログで受容体をブロックし、体内から分泌されるGnRHが結合しないようにして思春期の進行を止めるものです。そのため、治療を行うと、治療を中止しても体が周りの子ようにきちんと発育しないのではないかとの心配の声も時折聞かれます。しかしながらホルモン療法を中止すれば早期にもとの状態に戻りますから、心配はいりません。ホルモン療法が原因で将来の不妊につながる心配もありません。

ホルモン療法によって周りの子の思春期の程度に応じて進行を止め、周りの子と体の成熟に差がほとんどなくなったときに治療を中止することで、年齢と体の成熟の均衡がとれます。また、治療中でもいつも通りに日常生活を送ることができます。

しかしながら、女児の場合は長期にホルモン療法を実施することで骨がもろくなってしまう(骨粗しょう症)リスクがあります。骨の強度を保つエストロゲンが、治療中は分泌されなくなるためです。そのため、骨粗しょう症を回避するために女児では一定期間治療を行った後、適切な時期に治療を中止します。

峯岸 敬先生

思春期早発症は早期に治療を開始することで、低身長や子どもの社会的ストレスの回避、時に背景にある重篤な疾患の早期治療につながります。ですから、思春期早発症は早期治療が大切です。

特に体の変化によって子どもが感じる困惑や、周囲の子どもとの関係の変化は大人が思う以上に大きいものであると考えたほうがよいでしょう。学校の友人など、家庭外で体の変化について指摘されて子どもがストレスを感じることもありますから、家庭内では決して体の変化について指摘しないようにしましょう。

また、この治療は定期的な通院が必要です。学校の先生にこの疾患や治療のため通院が必要なことなどを理解してもらえるよう、まずは保護者の方がしっかりと思春期早発症について理解を深めていくことが大切でしょう。

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