インタビュー

ムコ多糖症とは?全身に症状が現れるライソゾーム病の一種

ムコ多糖症とは?全身に症状が現れるライソゾーム病の一種
小林 博司 先生

東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター遺伝子治療研究部・小児科学講座 准教授

小林 博司 先生

この記事の最終更新は2017年08月30日です。

ムコ多糖症は、遺伝子の異常によってムコ多糖を分解する酵素が欠損しており、体内にムコ多糖が溜まることでさまざまな症状が現れるライソゾーム病の一種です。ムコ多糖症は7つの病型に分類されますが、日本など東アジアではハンター病と呼ばれるII型のムコ多糖症が多くみられます。本記事ではII型のムコ多糖症を中心に、ムコ多糖症の症状や検査、治療について東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター遺伝子治療研究部小児科学講座 准教授 小林博司先生にお話しいただきました。

ムコ多糖症とは体内のムコ多糖を分解するライソゾーム酵素が欠損することで全身にムコ多糖が溜まり、さまざまな症状が現れる病気で、ライソゾーム病(細胞内のライソゾームという小器官に関係する酵素が欠損していることで分解されるべき物質が細胞内に溜まる病気)の一種です。

先天的な遺伝子の異常によって発症し、症状が多岐にわたります。

ムコ多糖症は欠損している酵素の種類によって、I型、II型、III型、IV型、VI型、VII型、IX型の7病型に分類されます。病型によって症状も異なります。日本を含む東アジアではII型のムコ多糖症(ハンター病)がもっとも多くみられ、患者さんの約半数を占めます。また、欧米ではI型のムコ多糖症(ハーラー・シャイエ病)がもっとも多く、人種によって病型に差があると考えられています。同じ病型でも患者さんによって症状の重症度は異なっており、症状の現れ方もさまざまです。

ムコ多糖症の直接の原因である酵素の欠損・機能異常は遺伝子の異常によっておこるため、ムコ多糖症は基本的には遺伝性の疾患で、さらに次世代への遺伝形式が病型によって異なります。  日本人に多いII型はX染色体連鎖性遺伝(XLR)といって、遺伝しても女性は症状が出ない(原因となる遺伝子を持っているが発症していない「保因者」となる)場合が多く、患者さんのほとんどが男性です。それ以外の病型は常染色体劣性遺伝形式(AR)をとり、患者数に男女差はありません。

赤ちゃん

ムコ多糖症は全身性疾患ですので、一つの臓器だけに症状が発現するわけではなく、基本的に全身にさまざまな症状が発現するという特徴があります。また、欧米で多いI型と日本でもっとも多くみられるII型の症状はほとんど同じですが、II型では角膜混濁(目の角膜の濁り)がみられません。 

ここではI型・II型のムコ多糖症に認められる主な症状をあげていきます。

このうち重症例の骨格変形(背中の突出)と水頭症臍ヘルニア、広範囲な蒙古斑などは乳児期にみられますが、それ以外の症状は年齢を重ねるうちに徐々に明らかになってくるため乳児期では見つかりにくいことがあります。 

  • 特徴的な顔貌:粗いごつごつした形、大きな舌など顔つきに変化がみられます。
  • 関節拘縮(こうしゅく):指や大きな関節が固くこわばります。
  • 骨格変形(背中の曲がり):重症例では6か月で座らせると胸腰椎移行部の突出を認めます。
  • 低身長
  • 肝臓や脾臓の腫大
  • 心機能障害:心臓の弁膜の機能が低下し、心機能障害が起こります。
  • 水頭症:頭部(脳室内)に脳脊髄液が溜まります。
  • 知的な発達や言葉の遅れ:重症型でみられます
  • 臍ヘルニア:でべそと呼ばれる状態で乳児期より認められることが多くあります。
  • 鼠径ヘルニア脱腸
  • 難聴
  • いびき:気道が狭くなるためいびきが大きくなります。
  • 皮膚症状:皮膚が固い、厚い、広い範囲に蒙古斑がある、多毛といった特徴がみられます。
  • 反復性中耳炎
  • 緑内障、網膜変性
  • 角膜混濁(目の角膜の濁り):I、IV、VI、VII型でみられます。

ちなみにムコ多糖症III型(サンフィリッポ症候群)は中枢神経症候が中心でその他の症状は軽く、反対にIV型(モルキオ病)は中枢神経症状がなく骨変形が中心といった特徴があります。

前述したようにムコ多糖症の症状はさまざまですし、日常的にみられる病気ではないため各診療科の医師が少しの手がかりからムコ多糖症を疑うことが重要です。ムコ多糖症の疑いがある場合、私たち専門医にスムーズに紹介していただくことが早期診断につながりますので、今後も小児科だけでなく各診療科の協力が必要であると考えます。

臨床症状からムコ多糖症の疑われる場合、まず尿検査を行います。 尿検査は民間の検査会社に提出すると、専門医が介入して尿のムコ多糖の一部(ウロン酸)を解析・判定するシステムがあります。尿に多量のムコ多糖が認められる場合はムコ多糖症と診断され、そのパターン分類である程度の病型の予測が可能です。尿検査で疑いありとされた患者さんに対してさらに血液検査や皮膚組織を切り取って培養することで酵素活性(酵素の働きの程度)を検査します。この検査は専門施設(下記参照)でしかできません。 遺伝子検査は臨床診断においては必ずしも必要であるというわけではありません。

ムコ多糖症の治療では、まず発現しているそれぞれの症状の対症療法を行います。さらにI型、II型、IV型、VI型のムコ多糖症は欠損している酵素を補充する酵素補充療法を行っていきます。

酵素補充療法は欠損している酵素を薬剤として体内に補充する治療法で、継続的に行う必要があります。実施時期が早ければ早いほど効果があり、症状が進行する前に毎週酵素を補充することで、さまざまな症状の予防や進行を抑制することが可能です。ただし完成した病変や中枢神経症状を酵素補充療法のみで治療することはできません。まれに発疹頭痛、気分が悪くなるなどの副作用が出てしまう患者さんもいらっしゃいますが、その場合は点滴速度を落としたり、点滴を休止して徐々に治療のペースを戻したり適切な処置を行うことで改善されるケースがあります。

酵素補充療法は週に一度実施しなければならないため、患者さんやご家族にとって大きな負担となります。特に地方の患者さんで近くに専門の医療機関がない場合は心配されるかもしれませんが、酵素補充療法の導入時期だけ当院などの専門施設(下記参照)にお越しいただき、治療に慣れた段階でお住まいの近くの医療機関で酵素補充療法を受けていただける場合があります。これは酵素製剤を製造している製薬会社が医療機関へ出向いて、医師や看護師に酵素補充療法をレクチャーすることで、地方の患者さんでも週に一度の酵素補充療法を受けられるというものです。酵素補充療法は難しい手技ではなく、問題なく受けていただけますので地方にお住まいの方は医師に相談するとよいでしょう。

点滴

病変が完成される前の2歳くらいまでの時期であれば、骨髄移植(造血幹細胞移植)を検討します。骨髄移植(造血幹細胞移植)は、脳や心臓の症状進行の抑制を期待できる治療法です。骨髄移植を行い造血幹細胞が生着すると、自分で酵素をつくれるようになるため、酵素補充療法の頻度を下げることも可能となります。しかし感染症や拒絶反応のリスクも伴いますので、患者さんにはそれを理解していただいた上で治療に臨んでいただく必要があります。

現在ムコ多糖症の標準的治療である酵素補充療法は、毎週の通院が必要であるため患者さんのQOL(生活の質)に大きく影響します。また骨髄移植による造血幹細胞移植も、前述したように感染症や拒絶反応のリスクがありますし、ドナーを探す必要もあります。患者さんやご家族の負担が少しでも軽減されるような新たな治療法が開発されることが望まれます。

現在、私たちは患者さん自身の骨髄を利用する遺伝子治療という治療法を研究しています。これは安全に改変したウイルスベクターなどを用いて患者さんの骨髄に正常な遺伝子を組み込み、それを体内に戻すという方法で、他人の骨髄を利用するよりも酵素活性が向上し、頭や骨、心臓弁膜への効果も期待されます。また、自分の骨髄を利用することで感染症や拒絶反応のリスクもなくなりますし、ドナーを探す必要もなくなります。欧米では一部の疾患で治験を開始しており、将来的にはムコ多糖症でもこの治療法が選択肢の一つになるのではないかと考えています。

研究

ムコ多糖症は進行性の病気ですので早期診断・治療が非常に重要です。

関節が拘縮(こうしゅく)している、肝臓や脾臓が腫大している、反復する中耳炎など、典型的な症状を手がかりにムコ多糖症を見つけられることもありますので、疑いの目をもって早めに専門医に診ていただくようにしてください。もし地方にお住まいの方ですぐに専門医に診てもらうことが難しい場合でも、尿検査でしたらお近くの医療機関で簡単に受けられます。

ムコ多糖症は、早期スクリーニングによって診断できるようになれば予後は大きく改善されると考えられます。アメリカの一部の州では早期スクリーニングが実現しつつありますので、日本でも早期診断の重要性が理解され早期スクリーニングが実施されること、また簡便にスクリーニングを行えるような方法の開発が望まれます。

ムコ多糖症は遺伝性の病気です。 ムコ多糖症のお子さんをもつご家族が次のお子さんを望まれる場合やご親族への影響などをご心配される場合、専門施設で遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

遺伝カウンセリングに関しては、各都道府県の大学小児科・小児医療センターで可能ですが、現在ムコ多糖症などのライソゾーム病・先天代謝異常症の診療・研究に力を入れている施設は、東北大学小児科・遺伝科、秋田大学小児科、東京慈恵会医科大学小児科、国立成育医療研究センター遺伝診療科・ライソゾーム病センター、千葉こども病院代謝科、岐阜大学小児科、大阪大学小児科、大阪市立大学小児科、大阪市立総合医療センター代謝内分泌科、鳥取大学脳神経小児科、久留米大学小児科、熊本大学小児科などが挙げられます。 また、精密検査(酵素活性など)に関しては 日本先天代謝異常学会ホームページhttp://jsimd.net/iof.html なども参考にしてお近くの施設にご相談下さい。 

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