インタビュー

アスペルガー症候群・自閉症の特徴は?両者の違いも解説

アスペルガー症候群・自閉症の特徴は?両者の違いも解説
本田 秀夫 先生

信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室 教授

本田 秀夫 先生

この記事の最終更新は2017年09月12日です。

コミュニケーションがうまく取れず対人関係が築きにくい、特定のものに強いこだわりを持ちすぎてしまうといった特徴がみられる「アスペルガー症候群」と「自閉症」。このふたつはこれまで、精神障害の診断と統計マニュアル第4版(DSM-Ⅳ)という診断基準で広汎性発達障害のなかの「アスペルガー障害」および「自閉性障害」として、別々に分類されていました。

しかし2013年、新たに発表された第5版(DSM-5)では、アスペルガー症候群や自閉症を区別せず、どちらも「自閉スペクトラム症」というひとつの診断名にまとめられることになりました。

なぜ、アスペルガー症候群と自閉症はどちらも「自閉スペクトラム症」にまとめられたのでしょうか。本記事では発達障害の診療に詳しい信州大学医学部附属病院 子どものこころ診療部 部長の本田秀夫先生に、アスペルガー症候群と自閉症の捉え方をお伺いしました。

アスペルガー症候群とは、双方向の社会的コミュニケーションを維持することが苦手・周囲との共感性に乏しい・マイペースに関心のあることに向かって行動してしまうという特徴をもつ発達障害です。言語発達に遅れはみられないものの、他者とコミュニケーションをとるうえで、相手にわかりやすい言葉を選択することや、他者の発言の微妙なニュアンスを直感的に理解することが困難です。また、周囲の状況・他人の関心に構わず自分の好みのものに熱中してしまう特性があるため、家庭や学校・職場などの社会的な場において深刻なトラブルを引き起こすことがあります。

一方、自閉症はかつて、まれにしかみられない重い障害と考えられ、人から話しかけられても相手にしない、目をあわせないといったコミュニケーション上の障害を持ち、まるで自身のなかの殻に閉じこもってしまったような特徴をもつ病態とされていました。しかし1970年代後半以降からは、そうした典型的な重度の自閉症だけではなく、ある程度の対人関係はとれるが双方向になりにくい人なども自閉症の仲間に含めようという考え方が広まりました。

アスペルガー症候群や自閉症などの発達障害を含めた精神疾患を診断するときには、主に下記の2つの診断基準が使われています。

以前は、DSMの分類でも、ICDの分類でも、「広汎性発達障害」という発達障害のカテゴリの下位分類(さらにこまかい分類)として、みなさんも耳にしたことのある「自閉性障害(自閉症)」「アスペルガー障害(症候群)」などの診断名がそれぞれ存在していました。DSM・ICDどちらの分類を用いるかによって、疾患の定義や診断名はすこしずつ異なります。

しかし、冒頭でもお話したように、DSMは2013年に第5版(DSM-5)が発行され、自閉症もアスペルガー症候群も「自閉スペクトラム症」というひとつの診断名となることが決められました。

※Rett障害は原因となる遺伝子が明らかになったため、ひとつの独立した疾患として新たに定義されています。

では、なぜDSMではこのような改訂がなされたのでしょうか。その理由は、自閉症とアスペルガー症候群というふたつの概念を明確に区別することが非常に難しいためです。なぜこのふたつの疾患を明確に分けることは難しいのか、ここからは自閉症とアスペルガー症候群が発見され定義されていくまでの歴史を振り返りながら、その理由を紐解いていきましょう。

自閉症が初めて報告されたのは1943年のことです。

自閉症はレオ・カナーというアメリカの児童精神科医によってはじめて報告されました。カナーは人から話しかけられても相手にしない、目をあわせないといったコミュニケーション上の異常を持ち、まるで自身のなかの殻に閉じこもってしまったような特徴を示す状態を自閉症と定義しました。

一方、アスペルガー症候群が初めて報告されたのは翌年の1944年です。

これはハンス・アスペルガーというオーストリアの小児科医によって報告されました。アスペルガーは大人びた独特の言い回しや特定の物への限定的な興味などの特徴を示す4人の子どもについて論文を発表し、これを「児童期の自閉的精神病質」という名称で報告しました。このときはまだ「アスペルガー症候群」という名称ではありませんでした。

カナーは、アスペルガーの論文について全く論及することなく生涯を終えました。アスペルガーの論文が書かれたのが第二次大戦中で、さらに論文はドイツ語で書かれていたこともあり、カナーがアスペルガーの論文の存在を知っていたかどうかもわかりません。一方、アスペルガーはカナーの論文を目にしており、「私が報告した『児童期の自閉的精神病質』と、カナーが報告した『自閉症』とは、似て非なるものである」と公言し、ふたつの概念は異なるという認識が示されていました。

しかし、両者は社会的コミュニケーションの障害があり、特定のものに対して強いこだわりを示すという点で似ていたため、ヨーロッパではふたつの概念を比較した研究を行う研究者もいました。日本でも、カナーのもとに留学した医師とアスペルガーのもとに留学した医師がいたことから、この両者の異同について学会で活発に論議されていました。

そのようななか、自閉症とアスペルガー症候群の概念を新たにかたちづくる転機が訪れます。イギリスの児童精神科医、ローナ・ウィングが自閉症とアスペルガー症候群について新しい概念整理を行ったのです。

まずウィングは、自閉症の概念を広げました。これまでカナーが提唱していた自閉症は、話に全く応じない、目を合わせないといった、自分のなかに閉じこもってしまったような非常に極端な症例(孤立型)だけを指していました。しかし、なかには受け身ではあるが多少の返事はできる人(受動型)や、積極的に話をするが自分の話ばかりしてしまう人(能動・奇異型)もおり、こうした人たちもカナーの自閉症と同じように対人関係が一方的でコミュニケーションが成り立ちにくい「自閉症の仲間」だと捉えることができました。そこでウィングは孤立型の自閉症だけでなく、受動型や能動・奇異型も含めて自閉症というべきだとして、自閉症の概念そのものを広げることを提唱しました。

さらにウィングは、1944年に発表されていたアスペルガーの論文を読み、そこに書かれていた特徴は、自身が拡大した自閉症の特徴のさらにその先につながっているのではないか、と考えました。アスペルガー自身は「児童期の自閉的精神病質」をカナーの自閉症とは似て非なるものだと考えていたのですが、ウィングは自閉症の仲間と捉えたのです。そこでウィングは1981年、流暢に話し、積極的にコミュニケーションを取ろうとすることもあるが、相互的な対人関係が難しく、想像することが苦手で融通が利かないといった特徴をもつ病態を、アスペルガーの名前をとって「アスペルガー症候群」と呼び、自閉症と関連の強い仲間として世に発表したのです。

さらにウィングは、自閉症ともアスペルガー症候群とも言い切れないけれども、これらに共通する特徴を示す人たちも存在する、と指摘しました。これらに共通する特徴として、ウィングは「相互的な対人関係をうまく作り、維持することが苦手」「コミュニケーションがかみ合いにくい」「対人関係に関する想像力に乏しい」という3つを挙げました。これは「ウィングの三つ組み」と呼ばれています。ウィングは、自閉症とアスペルガー症候群を2つの核として、ウィングの三つ組みの特徴を多少なりとも有する群として、新たに「自閉スペクトラム」という概念を提唱したのです。「スペクトラム」とは、化学などで用いられる「スペクトル」と同じで、「一見多様な要素の集まりであるが、仲間とみなせる集合体」という意味です。

自閉スペクトラムを提唱したウィングは、自閉症とアスペルガー症候群は明確に区別することができないという考えを示していました。

一般的に医学で「スペクトラム」という言葉を用いるときには、1つの典型的な病態を中心とし、それに似た病態の集まり、というような疾患概念になります。たとえば統合失調症スペクトラムでは、統合失調症という典型的な症例を中心として、軽症から重症の人までさまざまな統合失調症的な症状の人が含まれます。しかし自閉スペクトラム症では、1つの典型的な症例が中心になるのではなく、自閉症とアスペルガー症候群という2つの典型的な状態がスペクトラムの軸になっています。ウィングはこのように「自閉症とアスペルガー症候群という2つの軸をもったスペクトラム」という考え方で、自閉スペクトラムの概念を表現したのです。

ウィングは明確に区別できないと考えていた自閉症とアスペルガー症候群でしたが、当時の診断基準(DSMおよびICD)では、それぞれ1つの診断名として分けられて記載されてきました。

これは長きにわたり精神障害の分類に活用されてきたDSMやICDが、疾患概念の境界線を厳密に引いた診断基準を作るべきだという考えのもとつくられており、スペクトラムという概念が認められてこなかったためです。そのため、自閉症とアスペルガー症候群を個々に診断分類に含めることはできても、明確に区別せずにスペクトラムとみなすことには大きな抵抗がありました。結果として、DSMでもICDでも「広汎性発達障害」という用語を採用し、その下位分類として自閉症とアスペルガー症候群を別々の概念として区別しようと試みたのです。

しかし、やはり自閉症もアスペルガー症候群も明確に区別できるものではなく、境界線のはっきりしない集合体のようなものだという考え方が時間をかけて浸透し、DSMの分類方法は変更することが望ましいと考えられるようになりました。そうして2013年のDSM改訂で、広汎性発達障害という名称はなくなり、自閉スペクトラム症という新しい概念が取り入れられたのです。これによってDSM-Ⅳでは区別して記載されていた自閉症とアスペルガー症候群は、DSM-5で自閉スペクトラム症という1つの診断名に改められたのです。

患者さんにとっては少し難しい考え方かも知れませんが、これからは自閉スペクトラム症という診断名のなかに、みなさんもよくご存じの「アスペルガー症候群」と「自閉症」という典型的な症例があり、それらに近い病態はまとめて仲間だと捉えられていると考えていくとよいでしょう。

では実際に自閉スペクトラム症ではどのような特徴がみられるのでしょうか。スペクトラムですので特徴を一概に論ずることは難しいですが、典型的な自閉症とアスペルガー症候群をイメージしていただけるといいかと思います。対人関係が相互的になりにくいことや特定のものにこだわりやすいという特徴は両者に共通していますが、典型的な自閉症とアスペルガー症候群では言葉の発達のしかたに違いがあります。

言語発達に遅れがみられ、ある程度話せる場合でも途中でつっかえてしまうことがあったり、適切なイントネーションを使うことができない、といった症状がみられます。

言葉を流暢に使いますが、しゃべりすぎてくどかったり、妙に小難しい言葉を多く用いたりするといった症状がみられます。

自閉スペクトラム症では、こうした自閉症やアスペルガー症候群の特徴が多少なりともみられるため、社会的コミュニケーションをうまくとることが難しくなり、社会や職業、そのほかの重要な機能に大きな障害を引き起こすことが考えられます。

自閉スペクトラム症の原因の有力な候補と考えられているのは遺伝子の異常です。これまでにも自閉スペクトラム症になりやすい遺伝子異常がいくつか報告されています。さらに自閉スペクトラム症では、一卵性双生児での発症の一致率(双子どちらとも自閉症を発症する確率)はきわめて高いという特徴があるため、やはり遺伝的要因は大きな要素であると考えられています。

しかし、遺伝子の異常だけでは説明しきれない部分も多くあり、近年では出生前後の環境的な要因によって遺伝子が修飾され、自閉スペクトラム症の発現を左右していく可能性も報告されています。

引き続き記事2『自閉症の子どもの特徴とは? 特徴的な3つを解説』では子どもの自閉症について本田先生に解説いただきます。

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