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初期肺がんに期待される放射線治療の効果とは?治療法、治療期間、合併症について

公開日 2017 年 09 月 28 日 | 更新日 2017 年 11 月 29 日

初期肺がんに期待される放射線治療の効果とは?治療法、治療期間、合併症について
西村 英輝 先生

神戸低侵襲がん医療センター 放射線治療科 部長

西村 英輝 先生

目次

肺がんは、転移をする前の初期段階で発見し、手術もしくは放射線治療を行うことで約7〜9割の患者さんは完治が可能です。では、初期肺がんに対する放射線治療は実際にどのように行うのでしょうか。本記事では、神戸低侵襲がん医療センターで行われている放射線治療の具体的な内容について、神戸低侵襲がん医療センターの放射線治療科部長である西村英輝先生にお話を伺いました。

初期肺がんは放射線治療で完治が期待できる時代に

肺がんは、リンパ節に転移する前の段階(I期)で発見して早期治療を行うことで多くの方は完治が期待できる病気です。

I期肺がんでは、基本的に外科手術による腫瘍の切除を行いますが、身体的な問題で手術ができない場合や、患者さんが手術を望まない場合には放射線治療が選択されます。

このように、診療ガイドラインでは放射線治療は手術の代替治療という位置付けですが、近年の臨床研究などで放射線治療は手術と同程度の効果が得られたという報告もあります。従来は全身状態が良い患者さんは手術を受け、高齢・低肺機能・種々の合併症を持っているなどといった手術に耐えられない状態の患者さんは放射線治療を受ける傾向にありました。したがって、過去には放射線治療と手術の治療成績を比較すると手術の方が、治療成績が良いといった報告も散見されました。これは、状態の良い患者さんが手術を受け、状態のあまり良くない患者さんが放射線治療を受ける傾向にあったからかもしれません。年齢や全身状態を調整して治療成績を比較すると手術と放射線で治療成績は同等とする報告もあります。

つまり、I期肺がんは放射線治療だけでも根治が目指せる時代といって良いかもしれません。

I期肺がんに対する定位照射の報告は1998年

I期肺がんに対して、初めて放射線治療が行われたのは1998年に発表された、当時防衛医科大学校の植松稔先生によるものが最初と思われます。植松先生は、放射線治療装置・X線シミュレーター・CT・を組み合わせた定位照射の専用装置を考案し、1994年から治療を開始して、良好な治療成績を残すことに成功しました。この論文が発表された頃から世界中にピンポイント照射の技術が広まっていったと思われます。

(ピンポイント照射の詳細については記事2『肺がんのステージごとにおける放射線治療の効果と最新の放射線』をご覧ください)

手術か放射線治療か?–初期肺がん治療の生存率を比較する臨床試験

天秤

手術と放射線の治療成績を直接比較した臨床試験は近年までありませんでしたので、放射線治療が手術と同等の治療効果を期待できるかどうかは長らく謎でしたし、現在も結論は出ていません。

しかし、2015年には医学雑誌であるランセットオンコロジーで、放射線治療にインパクトを与えるランダム化比較試験に関する論文が発表されました。手術と放射線の治療効果を比較した臨床試験の結果が公表されたのです。その論文では、手術を受けた患者さんよりも放射線治療を受けた患者さんの方が3年生存率で良好な治療成績が得られたという結果でした。手術を受けたグループの3年全生存率割合が約79%、放射線治療を受けたグループの3年全生存割合が約95%と、放射線治療が有意差を持って手術を上回る結果となったのです。

放射線治療と生存率 

この試験はエントリーした患者数が58名と少なかったことから、「放射線治療をした方が、生存率が上がる」と言い切るにはエビデンスが弱すぎます。

しかし、この試験結果から、放射線治療は確実に進歩していることが明らかになりました。I期肺癌の治療方法は手術だけではなく放射線治療も選択肢の一つとして患者さんに提示すべき治療として認識されたと思います。また論文では強調されていませんが、試験での放射線治療には、30人中20人が通常のリニアックによるピンポイント照射ではなく、サイバーナイフによるピンポイント照射を受けていたこともポイントかもしれません。私の個人的な解釈ではありますが、サイバーナイフのような最先端の放射線治療装置を使用したことが、3年全生存割合95%という結果に寄与したのではないかと考えています。

初期肺がんに対する放射線治療の方法や期間

では、神戸低侵襲がん医療センターで実際に行われている初期肺がんへの放射線治療について、具体的にお話します。

放射線治療が決定したら、患者さんごとの治療計画を立てる

初期肺がんと診断されて、放射線治療を受けることが決定したら治療計画を立てます。治療計画では、放射線治療医がCTやMRI、PET-CTなどの画像を使用して、どの範囲にどれくらい放射線を照射するのかをコンピュータを使用して細かくマークをしていきます。

この画像は、当院で肺がんの放射線治療を受ける患者さんのCT画像で、黄色の線に囲まれた白いかたまりが肺がんです。

左右の写真は、それぞれ息を吸っているときと吐いているときで、少しわかりづらいですが、吸っているときと吐いているときでは、がんの場所や大きさが少し変化をしています。放射線治療装置で正確に照射するためには、がんが呼吸でどのように移動しているかを十分に考慮する必要があります。

また、赤い線はがんが広がっている可能性のある部分です。画像上がんが確認できる部分の周囲には顕微鏡レベルでがんが浸潤している可能性が高いので、再発を防ぐためにも赤い線の範囲まで照射を行うようにしています。

また、がん以外の部分に放射線を当てると副作用が起こる可能性があるので、正常臓器を避けるために、照射したくない場所にもマークをつけます。

上の画像の、左右の蛍光の青色でマークされている部分が肺で、左側の肺にがんがあることが確認できます。

ちょうど中心部分にある水色のマークの部分は脊髄で、その少し右上のマークされている部分が食道です。

このように、照射したくない範囲を細かく確認して、治療計画を立てることで、精密で副作用の少ない放射線治療が可能になります。

治療前に金属マーカーを留置することも

がんの呼吸変動が大きく照射範囲の決定が困難な場合には、事前に金属マーカー留置を行うことがあります。

金属マーカー留置では、がんの近くに微小な金属を留置することで、呼吸によってがんがどのような動きをしているのかがくっきりと見え、がんに対して正確に照射することが可能となります。

また、金属マーカー留置には、放射線治療前に3日〜1週間程度の入院が必要となります。

放射線治療は4日間で終了

神戸低侵襲がん医療センターでは、初期肺がんの放射線治療には基本的にサイバーナイフによるピンポイント照射を行います(サイバーナイフによるピンポイント照射の詳細については記事2『肺がんのステージごとにおける放射線治療の効果と最新の放射線』をご覧ください)。

ピンポイント照射では、1回12.5グレイ(放射線の吸収線量の単位)を4日間連続して計50グレイ照射します。一方、ピンポイント照射ではない通常の放射線治療は、1回2グレイを30日間かけて計60グレイ照射します。放射線治療は、1回に照射する放射線量が多ければ多いほど治療効果が上がりますので、ピンポイント照射によって、短期間で効果の高い放射線治療が期待できます。

放射線治療後、約半年後にがんの消滅が期待できる

4日間連続して放射線治療を行なったあとは、抗がん剤などの薬物治療は特に必要なく、時間をかけてがんは徐々に小さくなっていきます。

効果の現れ方は、およそ1か月後のCTではまだ腫瘍のサイズは不変かすこし縮小した程度の場合が多いです。3ヶ月後のPETやCT検査でがんが縮小してきたことがよくわかります。

放射線照射後半年程度すると、腫瘍とその周囲の限局した範囲に放射線による肺炎(放射線肺臓炎)が出現することが一般的です。サイバーナイフの場合、放射線肺臓炎は腫瘍周囲のごく限局した範囲のみに限られることが多く、咳・微熱・呼吸苦・倦怠感といった放射線肺臓炎でみられる症状がでる頻度は少ないと思います。放射線肺臓炎は時間とともに縮小していきますが、CTでみると陰影そのものは残り、瘢痕(はんこん)化します。怪我をしたあとに傷跡が残ったり、やけどの跡が残るような感じです。がんそのものは、放射線肺臓炎後の瘢痕陰影に埋もれてしまい、CTのみではがんが残っているかどうかの判断が難しくなる場合もありますが、PETを取ってみるとがんへのブドウ糖の集積がなくなっていることを確認することができます。

初期肺がん対する放射線治療の費用

サイバーナイフによる放射線治療は保険適用となっている治療法です。保険適用内の治療に関しては、高額療養費制度で限度額までに抑えることができるため、費用面でも安心して治療を受けていただけます。

1ヶ月の上限額は、患者さんの年齢や所得によって異なりますので、費用の詳細は実際に治療を受ける医療機関にお問い合わせください。

初期肺がんに対する放射線治療のメリット

笑顔の人

放射線治療のメリットは、患者さんの負担が手術に比べて圧倒的に少ないことだと考えます。

手術を受けることによって、あらゆる身体的・心理的ストレスがかかりますし、実質的な呼吸機能の低下なども起こります。

また、検査や治療を含めて外来通院でできる治療なので、放射線治療中も普段通りの日常生活を送ることができます。ただし、飲酒と喫煙は厳禁です。

初期肺がんに対する放射線治療の副作用

およそ10人に1人が放射線肺臓炎を発症

肺がんに対する放射線治療の副作用として、治療後およそ10%の患者さんが放射線肺臓炎(放射線肺炎)を発症します。放射線肺臓炎の主な症状は、咳や息切れ、微熱です。

また、そのうち約5%の患者さんは、重症化して酸素療法や点滴治療が必要となることがあるといわれていますが、私自身の経験からするともっと少ないのではないかと考えます。

もともと間質性肺炎のある患者さんは、放射線治療により間質性肺炎の急激な悪化を起こすことがあるため、放射線治療は基本的には禁忌なのですが、外科手術ができない場合には、放射線肺臓炎の発症リスクを覚悟のうえで放射線治療を行うことがあります。ですから、そのようなリスクのある患者さんは放射線治療後の副作用が重症化しやすいですが、もともとの肺機能が正常な場合には、重症化する確率はとても低いと考えます。

実際に、今まで多くの患者さんに放射線治療を行なってきましたが、間質性肺炎がありリスク覚悟で放射線治療を行なった場合を除けば、放射線肺臓炎が重症化して命に関わるような状態に陥った経験は極めてまれです。

西村英輝先生からのメッセージ

西村先生

ここまで述べてきた通り、初期で肺がんを発見することができれば、適切な治療を受けることにより多くの患者さんは完治することができます。

2017年現在、診療ガイドライン上の初期肺がんの標準治療は手術ですが、手術ができない場合でも、手術と同じように根治を目指すことができる高精度の放射線治療を受けていただくことが可能です。なかには、手術もできるがあえて手術を選択せず、放射線治療を希望される患者さんもいます。

初期肺がんの段階で治療を行い完治につなげるためには早期発見が大切です。肺がんは、初期には症状がほとんど出ませんので、定期的にがん検診を受けて、肺がんの早期発見に努めていただきたいと思います。

 

肺がんの検査と診断の流れ−早期の発見と適切な治療が大切

肺がんの検査と診断の流れ−早期の発見と適切な治療が大切

神戸低侵襲がん医療センター 放射線治療科 部長

西村 英輝 先生

肺がんは日本人のがん死亡数第一位(2018年1月現在)の疾患で、初期症状がほとんど現れないことから、症状が出てきた頃には、すでに進行してしまっているケースも多々あります。しかし肺がんは早期に発見して治療を行うことで、治癒が得られる可能性を高めることができます。 記事1では、肺がんの基礎知識や早期発見のための検査方法について、神戸低侵襲がん医療センター放射線治療科部長である西村英輝先生に...

この記事の目次

  • 肺がんとは−早期の発見と適切な治療で治癒の可能性を高められる

  • 肺がんの原因と症状

  • 肺がんの転移と進行速度

肺がんの放射線治療(西村 英輝 先生)の連載記事

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