インタビュー

特発性拡張型心筋症の治療法確立を目指して

特発性拡張型心筋症の治療法確立を目指して
北風 政史 先生

阪和第二泉北病院 院長

北風 政史 先生

この記事の最終更新は2017年11月09日です。

特発性拡張型心筋症とは、心臓の筋肉(心筋)の収縮する力が弱まることによって、心臓が拡張してしまう疾患です。重症化しやすい疾患ですが、未だ原因は解明されていません。

特発性拡張型心筋症は急速に重症化してしまうケースもあり、早期治療が重要になります。

今回は、国立循環器病研究センターの北風 政史先生に、特発性拡張型心筋症の診断や治療、さらに治療法確立を目指す取り組みについてお話しいただきました。

特発性拡張型心筋症の原因や症状に関しては、記事1『特発性拡張型心筋症の原因や症状とは?』をご覧ください。

特発性拡張型心筋症の検査では、最初に心電図や胸部レントゲン検査を適応されるケースが多いでしょう。心電図によって異常が発見されることはありますが、他の心疾患でも現れるような結果がほとんどです。胸部レントゲンでは心臓の拡張や肺に水が溜まっていることが確認できますが、これも特発性拡張型心筋症に特有のものではなく、一般的な心不全の症状に過ぎません。このように、心電図や胸部レントゲン検査は、疾患の特定よりも心臓の異常を確認する検査になります。

また、血液検査によって血中のBNPと呼ばれるホルモンを測定することで、心臓の負担がある程度わかるといわれています。血中BNPの値が40pg/mL、NT-ProBNPの値の時は125pg/mLを超えた場合には心不全が疑われます。

心臓超音波検査(心エコー)は、心臓の拡張や心臓の壁が薄くなっていることを確認するために有効な検査であるでしょう。

正常時には、最も拡張したときの心臓の直径は50〜55ミリ以下といわれています。ところが、特発性拡張型心筋症を発症すると、60ミリ以上になり、100ミリにまで拡張するケースもあります。

一方、心臓の壁は正常時では10ミリ程になりますが、心臓の拡張に伴い心臓の壁が薄くなった結果、3〜4ミリ程度になってしまいます。

心臓超音波検査によって、これら心臓の拡張と心臓の壁の厚みを確認することができるでしょう。

また、近年、補助的ではありますが有効な検査といわれているものがMRI(磁気の力を利用して体内を撮影する検査)です。MRIで造影検査を行い、遅延造影像と呼ばれるものが確認されたら心筋症の可能性が高くなるということがわかっています。

最終的に、特発性拡張型心筋症の確定診断のためには、心臓の筋肉を採取し検査をする心筋生検が必要になります。お話ししてきたような検査によって心臓に異常が認められ、特発性拡張型心筋症の疑いが強い場合には、専門施設で心筋生検を受けることをお勧めします。

特発性拡張型心筋症の主な治療には、薬物療法と非薬物療法がありますが、ここでは薬物療法についてお話しします。

無症状や軽症の場合には、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬が適応されるケースが多いでしょう。さらに進行し、中症から重症になると、主に抗アルドステロン薬、ジギタリス、経口強心薬、利尿薬が適応されます。

心不全は、レニンアンジオテンシン系と交換神経系が活性化されることによって、心臓が障害されるということがわかっています。そのため、レニンアンジオテンシン系を抑制するACE阻害薬や、交換神経系を抑制するβ遮断薬が適応されるようになっているのです。

ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、抗アルドステロン薬の4つの薬剤は、生命予後を改善することがわかっており、生存に大きく関わる薬剤といえるでしょう。

一方、ジギタリス、利尿薬は、主に症状をとる薬剤です。全身のむくみやうっ血などの症状をとる効果がありますが、生命予後が改善されることはありません。

特に重症の患者さんに適応される薬剤は、弱っている心臓を強める効果のある強心薬です。通常は経口強心薬が適応されますが、特に重症の場合には、点滴から強心薬を投与する静注強心薬が適応されます。

この強心薬は、長期に服用すると生命予後は悪化することがわかっています。そのため、強心薬は、緊急の改善が必要な重症の患者さんに止むを得ず投与されるケースが多いでしょう。たとえば、数時間以内に亡くなる危険性があるような患者さんに対し、適応されるケースがあります。

お話ししたような薬物療法とは別に、非薬物療法が適応されるケースがあります。主に非薬物療法は、薬物治療では改善が見込まれない中症や重症のケースに適応されることが多いでしょう。

非薬物療法の一つに、心臓再同期療法があります。心臓再同期療法とは、ペースメーカーを使い心臓の収縮機能を改善する治療法です。

また、近年では、デスティネーションセラピーと呼ばれる治療法が登場しました。デスティネーションセラピーとは、昔であれば心臓移植を前提して適応されていた補助人工心臓を終末期に適応する治療法です。たとえば、心臓移植が適応されない65歳以上の方に生存のために補助人工心臓を適応するケースがあるでしょう。

特発性拡張型心筋症の患者さんが、日常生活で気をつけるべきことは、主に以下になります。症状を悪化させないためには、これらを守ることが重要になるでしょう。

まず、水分のとり過ぎには注意が必要です。水分を過剰に摂取してしまうと、循環血液量が増加し、心臓に過剰な負担をかけてしまいます。

また、塩分の過剰な摂取にも注意しなければいけません。塩分をとると血液中の浸透圧が上昇するために血中に水分を増やそうとします。その結果、血液量が増え心臓に負担を与えてしまうのです。私は、塩分は1日6グラム以下を推奨しています。

肉体的ストレスは、心臓への過剰なストレスにつながってしまいます。また、全力で運動してしまうと、レニンアンジオテンシン系と交換神経系が活性化され、疾患の進行につながってしまいます。

これは多くの患者さんをみてきた私の経験からいえることですが、比較的症状の軽い場合には、通常時にできる運動の80%くらいに抑えてほしいと伝えています。さらに重症な方には、60%程度に抑えるよう指導しています。

また、精神的ストレスにも注意が必要です。精神的ストレスは交換神経系が刺激され心臓に負担をかけてしまう可能性があるからです。

お話ししたように過剰な運動は逆効果ですが、適度な運動は、疾患の進行を食い止めるために重要になります。骨格筋の筋肉は、第二の心臓と呼ばれているように、血液を心臓に呼び戻す手伝いをすることができます。このため、重症化を防ぐためには、ある程度の筋肉の維持が重要になります。

また、風邪には注意が必要です。風邪に罹患すると熱が出るケースがありますが、発熱は心臓に負担がかかります。さらに、記事1『特発性拡張型心筋症の原因や症状とは?』でお話ししたように、ウイルス心不全に関係していることもわかってきているため、疾患の悪化につながる危険性もあります。

最後に、血圧や糖尿病、コレステロールの上昇には注意が必要です。さらに飲酒や喫煙は控えた方がよいでしょう。

よくアルコールについて聞かれることが多くありますが、実は、アルコールに関しては悪影響を及ぼす明確なデータはありません。そのため、水分摂取量を守ってもらえるようであれば、飲酒していただいてもよいでしょう。しかし、大量飲酒は交換神経系の活性化につながってしまいます。日本酒であれば1合以内など、適度な量を心がける必要があるでしょう。

記事1『特発性拡張型心筋症の原因や症状とは?』でお話ししたように、特発性拡張型心筋症の原因は解明されていません。そのために、原因に根ざした治療法が確立されていない現状があります。ここでは、特発性拡張型心筋症の治療法の確立を目指した取り組みについてお話しします。

まず、特発性拡張型心筋症の原因を解明したいと考えています。今後は、疾患に関係している遺伝子を発見したいと考えています。心筋細胞に存在している2万個の遺伝子のなかから、疾患に関連している遺伝子を見つけることができれば、原因遺伝子が解明されるかもしれません。

現状では、心筋の収縮装置と言われるサルコメア関連遺伝子が発症に影響していることがわかっています。サルコメア関連遺伝子が低下する状態であると、拡張型心筋症が発症することが明らかになったのです。つまり、サルコメア関連遺伝子が活性化された状態であれば、拡張型心筋症は悪化しないのではないでしょうか。この研究結果から、私たちはサルコメア関連遺伝子を活性化する新たな強心薬の開発を検討しています。

また、日本全国どこで特発性拡張型心筋症が発生しても登録できるようなデータベースをつくりたいと考えています。たとえば、がんであれば、がん対策法と呼ばれる法律によって登録が義務付けられています。同じように、特発性拡張型心筋症の登録を義務化することができれば、正確な患者数の把握につながるとともに、患者さんの傾向を把握することで新たな治療法の開発にもつながると期待しています。

北風先生

私は、特発性拡張型心筋症の患者さんに関わるすべての情報を集めたいと考えています。それは、症状のみならず、配偶者の有無など社会的な要因も疾患の進行に大きく影響するからです。たとえば、心不全の患者さんに配偶者がいる場合には、予後がよいというデータがすでに存在しています。配偶者がいる患者さんは、水分や薬の管理をしてもらえる傾向にあるからです。

これら社会的要因を加味しながら心不全の予後の数式化に取り組んでおり、ゆくゆくは、それをアプリにしたいと構想しています。たとえば、診察をした医師が患者さんの状態を入力したら、患者さんの予後が自動的にでてくるようなものを作りたいと考えています。

そのためには、お話ししたようなデータベース化と原因の解明は急務の課題です。疾患の重症化を防ぐことができるよう、今後も取り組みを続けていきたいと思っています。

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