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慢性膵炎の診断基準とは? |早期慢性膵炎とはどのような概念か
慢性膵炎は、初期の自覚症状があらわれにくいといわれています。そのため早期の診断が難しく、比較的進行した状態で診断される方も少なくありません。そうしたなか近年では、慢性膵炎の定義をより柔軟に捉え、...
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慢性膵炎の診断基準とは? |早期慢性膵炎とはどのような概念か

公開日 2017 年 11 月 26 日 | 更新日 2017 年 11 月 26 日

慢性膵炎の診断基準とは? |早期慢性膵炎とはどのような概念か
下瀬川 徹 先生

みやぎ県南中核病院企業団企業長

下瀬川 徹 先生

慢性膵炎は、初期の自覚症状があらわれにくいといわれています。そのため早期の診断が難しく、比較的進行した状態で診断される方も少なくありません。

そうしたなか近年では、慢性膵炎の定義をより柔軟に捉え、早期の段階で慢性膵炎をみつけることで「進行した慢性膵炎」になる前に治療を進めていこうという考え方が広まってきています。2016年には「早期の慢性膵炎」の概念が取り入れられた世界的な新しい疾患の定義も提唱されており、早期慢性膵炎に関する議論が世界で活発化しています。

本記事では変わりつつある慢性膵炎の定義について、記事1に引き続き東北大学大学院医学系研究科・消化器病態学分野 教授 下瀬川徹先生にお話を伺いました。

▼慢性膵炎の概要については記事1『慢性膵炎は完治する?食事や生活で気を付けるポイントも解説』をご覧ください。

そもそも「慢性膵炎」の定義とは?

膵臓

現在の日本において、「慢性膵炎」の定義は2009年に改訂された早期慢性膵炎の診断基準を含む慢性膵炎臨床診断基準に記載されています。

その診断基準によると慢性膵炎は、下記のように定義されています。

---

  • 膵臓内部に不規則な線維化細胞浸潤実質の脱落肉芽組織などの慢性変化が生じる
  • 進行すると膵外分泌・内分泌機能の低下があらわれる

---

この慢性膵炎の定義については昨今、さまざまな検討が行われています。慢性膵炎の定義はどのように変化しているのか、本記事ではその概要を解説したいと思います。

変わりつつある「慢性膵炎」の定義とは?

日本が提唱した「早期慢性膵炎」の概念

慢性膵炎では、みぞおちから背中にかけての腹痛、吐き気、体重低下、糖尿病の発症といった症状がみられます。

しかし近年では、急性膵炎を繰り返す患者さんや、軽い腹痛や、腹部不定愁訴(ふていしゅうそ:明確な原因がないにもかかわらず不調があること)などを訴える患者さんのなかに、比較的早い段階の慢性膵炎の方が存在しているのではないかと考えられるようになってきました。

こうした早期の慢性膵炎の診断基準を世界に先駆けて提唱したのが、日本です。

日本膵臓学会、日本消化器病学会、厚労省難治性膵疾患調査研究班の 3 団体は、2009年に「慢性膵炎臨床診断基準」の改訂を行い、そのなかで慢性膵炎の早期病変とその診断について記載しました。こうして新たに「早期慢性膵炎」という疾患概念が提唱されました。

早期慢性膵炎という考え方は、近年欧米でも賛同が得られるようになってきており、早期の段階で診断していくために、日本の診断基準が取り上げられるようになってきました。

従来の診断基準は、「すでに完成した慢性膵炎」の定義だった

早期慢性膵炎の定義が提唱される前まで、慢性膵炎の定義は「完成した慢性膵炎」のみを捉えた概念でした。

本邦で初めて慢性膵炎の定義が提唱されたのは1971年のことですが、当時の慢性膵炎診断基準は、異なる成因によりもたらされる共通した完成像、つまり「かなり進行した末期の慢性膵炎」を診断するための基準でした。

その後、1983年、1995年、2001年と慢性膵炎の診断基準が改訂されました。しかしどの定義も「かなり進行した末期の慢性膵炎」を診断する基準である可能性が問題視されてきました。

進行した慢性膵炎は「治らない慢性膵炎」と考えられます。そのため従来の診断基準では「治らない慢性膵炎」しか診断できず、有効な治療が行えないのではないかという考え方が、徐々に広まっていきました。

そうしたなか発表されたのが、さきほどもお話した慢性膵炎臨床診断基準2009です。この診断基準によって「早期慢性膵炎」の診断基準が新たに提唱され、慢性膵炎の早期発見・早期治療に注目が集まりました。

早期に患者さんを見つけ出し、より早い段階で適切に治療を行うことができれば、「末期の慢性膵炎」へ進行してしまうのを未然に予防できる可能性があります。

世界で提唱された新しい慢性膵炎の定義「Mechanistic Definition」

そして2016年には、世界的な慢性膵炎の新たな定義が提唱されました。それがMechanistic Definitionです。

新しい定義では、これまでのような「完成した慢性膵炎」を固定的に捉えるのではなく、慢性膵炎をよりダイナミックに捉えていこうという考え方が示されています。この定義は、慢性膵炎の発症機序まで考え、それぞれの臨床経過全体を診断していけるような基準をコンセプトとしてつくられています。

この定義の特徴といえるのは、慢性膵炎を一種の「症候群(さまざまな病態のあつまり)」と捉えようとしている点です。

Mechanistic Definitionでは、慢性膵炎を発症する人はもともとの遺伝的素因や環境的要因などさまざまな要素をもっており、そうした方々が膵実質の障害といったストレスをきっかけとして、線維化を伴う持続する炎症(慢性膵炎)を発症するのだと考えています。

こうした世界的な定義の発表もあり、早い段階で慢性膵炎をどのように診断すべきか、慢性膵炎をどう分類していくかという論議が活発化しています。

世界レベルで議論された新しい定義が、今後広まっていく

Mechanistic Definitionの策定が始まったのは、2014年にサウサンプトン(英国)で行われた第46回欧州膵臓クラブ会議 & 国際膵臓学会 (EPC & IAP) 合同会議でのことです。従来の慢性膵炎の定義では早期発見が難しいことが議題にあがり、定義を変えていこうという方針が打ち出されました。この議論には世界中の膵臓領域を専門とする医師があつまり、広い視野を取り入れながら慢性膵炎の定義について論議されました。

世界レベルでの議論を経てつくられたMechanistic Definitionが発表されることで、今後、慢性膵炎という疾患をもう少しダイナミックに捉える傾向になってくるのではないかと期待しています。

早期に介入することで、慢性膵炎の予後は改善できるのか?

早期慢性膵炎を診断するための診断基準が発表されましたが、実際にこうした基準を用いることで早期慢性膵炎の診断が正確に行われるのかどうか、そして早期に治療介入できた場合に慢性膵炎の予後は改善されるのかは、今後の課題になると思います。

慢性膵炎は特異的な症状があらわれにくいため、早期の段階を捉えることは難しいです。早期慢性膵炎の診断基準は、現時点では特異度がそれほど高いものではないと考えられます。そのため発表された診断基準によって本当に早期の病変を捉えることができるのかは、これから多くの患者さんを診察し、その経過を追って、どのような患者さんが従来考えられてきた慢性膵炎へと進行していくのかを確認しなければなりません。

また早期治療介入の効果についても、今後多くの対象患者さんのデータを前向きに追跡する必要があるでしょう。

しかし、すでにお話したような古典的な慢性膵炎の定義では、相当進行した慢性膵炎しか捉えられず、そうした進行した段階ではいくら治療介入を行ってもなかなか患者さんのQOL(生活の質)や生命予後の改善にまで至りませんでした。これからは、これまでの限界を打破して、新たな診断基準を用いていくことで患者さんの生命予後を改善できるようにしていくことが期待されるでしょう。

議論が続く「慢性膵炎」の定義

「慢性膵炎の分類」も議論のひとつの焦点となる

早期慢性膵炎以外にも、慢性膵炎を新たに定義することで議論となっている点があります。それは「慢性膵炎の分類」です。

記事1でもご紹介したように、現在日本において慢性膵炎は下記のように分類されています。

---

  • アルコール性慢性膵炎  
  • 非アルコール性慢性膵炎(特発性、遺伝性、家族性)

※自己免疫性膵炎・閉塞性膵炎は、現地点では膵臓の慢性炎症として別個に扱われている。

---

慢性膵炎臨床診断基準2009より

現状の日本の慢性膵炎の定義では、自己免疫性膵炎と閉塞性膵炎は、治療により病態や病理所見が改善することがある可逆性の病態(治療により改善するもの)と考えられています。そのため自己免疫性膵炎と閉塞性膵炎は、慢性膵炎とは別の疾患として捉えられています。

しかし、欧米では自己免疫性膵炎も閉塞性膵炎も、慢性膵炎のひとつとして分類する考え方も示されています。これは慢性膵炎を、成因(発症要因)によって細かく分類していこうという、考え方が取り入れられているためです。

欧米では約20年以上も前から、こうした成因に基づく分類が提唱されていました。

---欧米における慢性膵炎の分類---

  • アルコール性
  • 熱帯性
  • 遺伝性
  • 高カルシウム血症
  • リポ蛋白血症
  • 薬剤性           など

---

こうしたさまざまな成因から慢性膵炎を捉え、より詳細な亜分類(さらに下位の分類)をしようという考え方です。

Mechanistic Definitionでは、慢性膵炎をどう分類したのか?

では2016年に新たに発表されたMechanistic Definitionでは、こうした慢性膵炎の分類をどのように捉えているのでしょうか。

先ほどもご紹介しましたようにMechanistic Definitionでは慢性膵炎を一種の症候群(いくつかの病態の集まり)として捉えています。どういった成因かにより、それぞれ慢性膵炎の炎症の起こり方や線維化の様子は異なります。しかし最終的な臨床像は類似することから、Mechanistic Definitionではどのような成因であっても、みなひとつの症候群にまとめられるという考え方がなされています。

自己免疫性膵炎・閉塞性膵炎の症状は、本当に「可逆性」なのか?

現在日本では、自己免疫性膵炎と閉塞性膵炎は慢性膵炎の定義のなかに取り入れられていません。しかし、Mechanistic Definitionの発表を受け、今後この捉え方は変化していく可能性があります。

さらに自己免疫性膵炎も閉塞性膵炎も、実は長期的に診ていけば、慢性膵炎へと進行していく病態なのではないかと考えられるようになってきています。

自己免疫性膵炎と閉塞性膵炎はこれまで、治療によって症状や病態が大きく改善することから、慢性膵炎とは別の疾患概念として捉えられていました。しかしこうした考え方は、「急性」の所見にもとづいており、実は長期的に追っていくと石灰化や膵臓の萎縮などがあらわれて「通常の慢性膵炎」へと進行していく病態なのではないか、という考え方も示されるようになってきました。

もしこうした考えが証明されれば、成因に基づく分類が世界の主流になっていく可能性も考えられます。そうした捉え方が広まることで、日本の慢性膵炎の分類も変わっていく可能性もあります。

慢性膵炎のよりよい予防・治療のために

下瀬川徹先生

このように慢性膵炎の定義は、早期の慢性膵炎といった論点に限らず、分類についても今後検討が重ねられていくでしょう。

また、慢性膵炎の定義の変化によって、慢性膵炎患者さんに対するよりよい治療介入がなされ、生命予後がさらに改善していくことが望まれるでしょう。

 

慢性膵炎 (下瀬川 徹 先生)の連載記事

1982年より消化器内科医師としてキャリアをはじめる。1998年には東北大学消化器内科教授に就任。膵疾患研究の第一人者として、臨床・研究ともに国内外をリードしており、2012年から2014年まで日本膵臓学会理事長、2014年からは日本消化器病学会理事長を務めている。

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