インタビュー

ネフローゼ症候群の原因とは?尿中に多量のタンパク質が排出されるメカニズム

ネフローゼ症候群の原因とは?尿中に多量のタンパク質が排出されるメカニズム
浅野 健一郎 先生

公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院 腎臓内科主任部長

浅野 健一郎 先生

この記事の最終更新は2017年11月21日です。

腎臓の糸球体(しきゅうたい)は、不要な老廃物を尿中に排出し、必要な物質をせき止めるフィルターとして機能しています。この機能が低下してしまい、尿中に大量のタンパク質が排出される病気の総称を「ネフローゼ症候群」といいます。ネフローゼ症候群の基礎情報と現在わかっている原因、発症しやすい年齢について、倉敷中央病院腎臓内科主任部長の浅野健一郎先生にお伺いしました。

全身に症状が現れやすい腎臓の病気は、大きく2つに分類されます。ひとつは腎臓の老廃物排泄能力が落ちる「腎不全」、もうひとつは本記事でご解説する「ネフローゼ症候群」です。

ネフローゼ症候群は、尿中に一定量を超えるタンパク質が排出される病気の総称で、以下の定義を満たすものを指します。

  • 尿蛋白が3.5g/1日以上が持続(定性3+から4+)
  • 血液中の血清アルブミン濃度が3.0g/dL以下(低アルブミン血症

1日3.5g以上のタンパク質が尿中に排出されてしまうことで、血液中のアルブミンと呼ばれるタンパク質の濃度が低下し、低蛋白血症、低アルブミン血症が引き起こされます。(※)

また、まぶたや顔、足のむくみ(浮腫)、脂質異常症などが生じることも、ネフローゼ症候群の特徴です。

※通常、尿蛋白が1日0.15g以下であれば正常とみなします。まったく異常がない人の尿蛋白は、おおむね1日0.1g以下です。

ネフローゼ症候群の詳しい症状については、記事2『ネフローゼ症候群の原因とは?尿中に多量のタンパク質が排出されるメカニズム』をお読みください。

糸球体の働き
糸球体の働き

通常、腎臓では老廃物を濾過する役割を持つ糸球体(しきゅうたい)が、タンパク質をせき止めるフィルターとして機能しています。また、たとえ少量のタンパク質が糸球体を通過しても、その先にある尿細管で再吸収されるため、尿中に排出されることはありません。

しかし、糸球体の機能が低下すると、尿細管の再吸収能力ではカバーできない量のタンパク質が糸球体のフィルターを超えて排出されてしまいます。したがって、ネフローゼ症候群は、糸球体のバリアとしての機能が低下することによって起こる病気といえます。

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冒頭で、症状に気づかれやすい腎臓病は腎不全ネフローゼ症候群に大別されると解説した理由は、多くのネフローゼ症候群の患者さんが、「透析になるのでは」と不安の念を抱えていらっしゃるためです。

また、ネフローゼ症候群の患者さんから、「食事を低たんぱく食(腎臓病食)に変えたほうがよいか」と質問を受けることも多々あります。

ネフローゼ症候群と腎不全を合併(併発)している場合は、これらの選択肢を考えなければなりません。

また、糖尿病性腎症に関しては、ネフローゼ症候群になった時点で糸球体障害がかなり進行しているため、多くの場合1~2年以内に腎不全が増悪して透析治療を行わなければならなくなります。その意味で、糖尿病性腎症は他のネフローゼ症候群とは別個に考える必要があります。

しかし、この他の原因によるネフローゼ症候群のみを単独で発症している場合は、通常腎不全のように排泄能力が低下しているわけではありませんので、タンパク制限や透析治療の心配をされる必要はありません。

ネフローゼ症候群は、原因となる病気(原疾患)がない一次性のものと、原疾患を発症し、続発的に引き起こされる二次性のものにわけられます。

それぞれのネフローゼ症候群のうち代表的な病気を、以下に頻度順に記します。

  1. 微小変化型ネフローゼ症候群
  2. 膜性腎症(まくせいじんしょう)
  3. 巣状分節性糸球体硬化症(そうじょうぶんせつせいしきゅうたいこうかしょう)
  1. 糖尿病性腎症
  2. ループス腎炎
  3. アミロイド腎症

上記は、愛知医科大学の野畑宏伸先生、今井裕一先生が「腎と透析」(東京医学社)で解説されたデータであり、日本腎臓学会の調査に基づいています。

私たち腎臓内科医は、二次性ネフローゼ症候群のうち糖尿病性腎症は、糖尿病合併症であるという観点から、「腎臓の病気」ではなく「全身病」として、その他のネフローゼ症候群とわけて捉えています。

糖尿病になると、腎臓の内部にはⅣ型コラーゲンが大量に蓄積し、糸球体のバリア機能が破壊されてしまします。そのため、尿中に過量のタンパク質が排出されてしまうのです。

先述したように、糖尿病性腎症に関しては透析治療が避けられない場合も多くあります。

二次性ネフローゼ症候群のなかで二番目に多いループス腎炎は、さまざまな病型に分類されます。うち、4型、5型のループス腎炎が比較的高頻度でみられます。

三番目に多いアミロイド腎症は、アミロイドと呼ばれる特殊なタンパク質が腎臓に沈着する病気です。原因はさまざまですが、近年では人口の高齢化に伴い、M蛋白血症(MGUS)がベースとなって起こるアミロイド腎症が増えています。

小児や若い方に好発し、数日で激しい低蛋白血症に至ることも多い微小変化型ネフローゼ症候群の原因は、現時点ではわかっていません。

あくまで仮説の域を出ませんが、微小変化型ネフローゼ症候群はステロイド治療によりよい反応を示すことも多いため、何らかのアレルギー的な素因が関与しているのではないかと推測する専門家も多数います。

成人発症するネフローゼ症候群のひとつ、膜性腎症には一次性のものと二次性のものがあります。

現在、一次性膜性腎症の患者さんの約6割から、ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)抗体という抗体が検出されることが明らかになり、専門家間で話題を呼んでいます。このことから、PLA2R抗体が一次性膜性腎症の原因となっているのではないかと推測する声もありますが、こちらも科学的根拠をもって証明されているわけではありません。なお、保険収載はされていませんが、一部の大学病院などで抗体の有無を調べることができます。二次性膜性腎症の原疾患として多いのは膠原病、悪性腫瘍(がん)です。このほかには、B型肝炎C型肝炎といったウイルス感染症も挙げられます。

二次性ネフローゼ症候群の原疾患として最も多い病気は、糖尿病性腎症です。糖尿病性腎症にはステロイドは無効ですので、血糖コントロール、降圧剤(ACE阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、塩分制限などで対応します。しかし、食事指導をきちんと守れない患者さんも多く、高度な浮腫への対応が難しいこともあります。

ループス腎炎のような膠原病には、ステロイドや免疫抑制剤が有効です。

アミロイド腎症は、背景に骨髄の異常があることが多いので血液内科に紹介することとなります。

小さな子どもと医師

微小変化型ネフローゼ症候群は、これまで2歳位の小さなお子さんから20歳代くらいまでの若い人が発症する病気として認識されていました。

しかし、近年では60歳代~70歳くらいまでの高齢患者さんが、軽症から中等症の微小変化型ネフローゼ症候群を発症するケースもみられるようになりました。

リスク因子はわかっていませんが、まれに風邪や胃腸炎などの病気や、強い精神的ストレスを受けた後に発症したのではないかと思われる患者さんもいらっしゃいます。ただし、これはあくまで一例であり、微小変化型ネフローゼ症候群のリスク因子であると断言することはできません。

インターネット上などでは、虫刺され花粉症と微小変化型ネフローゼ症候群の関与が記されていることもあるようです。しかし、これらがリスク因子となっているという科学的根拠はなく、また経験上、虫刺されとの関与を感じたことはありません。

花粉症の多い春と秋には、患者さんが増える傾向があるようにも感じていますが、あくまで私個人の経験であり、アレルギーとの関連については推測の域を出ていないのが現状です。

一般的には、ネフローゼ症候群に男女差はないといえます。

ただし、唯一「アルポート症候群」という先天性の腎疾患だけは、男性のほうが明らかに重症化するという特徴があります。これは、アルポート症候群の約9割がX連鎖型遺伝という遺伝形式をとる遺伝疾患であるためです。

アルポート症候群は、基本的にネフローゼ症候群単独で発症することはなく、「ネフローゼ症候群+腎不全」という形で現れます。

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