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福島県立医科大学の挑戦―これからの福島県の医療

福島県立医科大学の挑戦―これからの福島県の医療
竹之下 誠一 先生

公立大学法人 福島県立医科大学 理事長兼学長

竹之下 誠一 先生

この記事の最終更新は2017年12月06日です。

外科医一筋でいらしたという竹之下誠一先生は2017年4月より福島県立医科大学理事長兼学長に就任されました。福島県立医科大学ではがん医療や早期診断、新薬開発を福島の地で担っていくことを目標にふくしま国際医療科学センターの立ち上げを実現させ、さらなる飛躍が期待されます。2011年の東日本大震災を乗り越え、福島県における医療の発展に尽力される竹之下誠一先生に福島県立医科大学が現在行っていることならびに今後挑戦していくことについてお話しいただきました。

2011年、東日本大震災が発生しました。私たちは複合的な災害に遭遇し、多くの人々、家屋や施設が犠牲になりました。医療機関も例に漏れず、人口の少ない地域では医療体制の崩壊を免れることができませんでした。

福島県で高度急性期医療を担う福島県立医科大学では、地震や津波の影響による多発外傷誤嚥性肺炎・低体温の傷病者の方々を県内各地から次々と受入れ、広域医療搬送拠点として活動しました。

搬送

しかし、震災から時を経ずして原子力発電所事故が発生します。このことにより、福島県では一時的に支援医療者が避難するという事態を経験しました。潜在的医療過疎地域に自然災害が襲い掛かり、発電所事故が重なることによって地域医療体制が崩壊し、被ばく医療体制も行き届かなくなってしまったのです。

この震災を受けて、福島県立医科大学では復興に向けた数々の取り組みを開始しました。特に力を入れている活動が、ふくしま国際医療科学センターのさまざまな活動です。

ふくしま国際医療科学センターは、「復興にかかわるすべての人との絆を大切にし、医療を通じて震災・原発事故からの福島の復興と光り輝く魅力的な新生福島の創造に貢献する」を理念に掲げた、県民の健康維持と最新医療の開発、地域復興・健康寿命の延長を目指す総合施設です。

放射線医学県民健康管理センター

震災原発事故後の放射性物質の拡散や避難等を踏まえ、県民の被ばく線量の評価を行うとともに、県民の健康状態を把握し、疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図ることを目的にした組織です。

先端臨床研究センター

新たな放射線医学を使った創薬、臨床研究、治験等を担う国内最先端の研究開発拠点で、高度医療の提供を目指します。ワンストップで開発から治験・治療までを行うことができるのが特徴で、日本随一の施設ともいえます。福島の復興を、健康と医療の面から最大限支えていきたいと考えています。

健康増進センター

予防・健康増進のシンクタンク機能を担い、地域に根差した健康増進事業(健康対策や疾病予防、人材育成支援)を実施し、県民の健康寿命延伸、健康格差縮小の実現に貢献することを目的としています。

先端診療部門

先端医療技術・機器を活用し幅広い疾病の早期診断および早期治療を実現することを目的として、附属病院の機能を強化します。国内3番目の面積を持つ福島においては救急医療体制の充実は永遠の課題です。また、これまでに例のない未曽有の複合災害に手探りで対応してきた経験を活かし災害・被ばく医療の中核拠点となること、さらには子ども、女性医療の充実を図り、安心して産み、育てることが出来る福島を目指します。

医療-産業トランスレーショナルリサーチセンター

本学震災復興プロジェクトの一つ「福島医薬品関連産業支援拠点化事業」を推進するために設立されました。ここでは医療界と産業界を円滑に橋渡しすることにより、がんを中心とした初疾患の新規治療薬、診断薬、検査試料などの開発を多面的に行います。

甲状腺・内分泌センター

これまで内分泌系疾患の診断・治療については、外科、内科、泌尿器科、脳外科とそれぞれの課で治療を行ってきましたが、科の枠を超えて一括して患者さんを治療する総合窓口となる役目を担っています。各診療科の専門家が集まることで、患者さんにとって一番適切な治療を総合的に判断、提供できるようになりました。

教育・人材育成部門

以上のような事業を発展させ、持続可能にするための次世代医療人の育成を担います。

特に、トランスレーショナルリサーチセンター(TRセンター)と先端臨床研究センターには日本国内でも最先端の設備を整えていることが特徴です。

研究センター

先端臨床研究センターは、国内最先端の医療機器の整備、疾患早期診断の確立、新薬開発を行い、福島県によい医療を提供することを目的にして2016年に開設された施設です。小型・中型サイクロトロンやPET/MRIやPET/CT、附属病院に整備された9床のラジオアイソトープ病床(RI病床)を用いることにより、薬剤合成から非臨床試験、臨床研究、治験、診断、治療までをワンストップで実地できることが期待されています。これが、当センター最大の特徴であり強みです。

当センターが福島県の医療の拠点となり、新しい医療技術及び新薬を作り出してく体制を構築していきたいと考えています。

診断

PETやMRI、小型サイクロトロンや中型サイクロトロンなどの最先端の診断技術により、がんなどのさまざまな疾患の早期発見を実現し、福島県民のみなさまに中長期的な安全と安心を提供します。

診断・検査

治療

新病棟の4階にはRI内用療法に対応した病床を9床設置しました。

診断と治療、両方が実現できる当センターでは、健康と医療の面から福島の復興を目指します。

当院では先端臨床研究センターを用いた、薬品合成から非臨床・臨床研究・治験・治療までをワンストップで開発する拠点を目指しています。

研究

上図のように、まずは薬剤合成から治療研究を行います。そして非臨床段階では、新薬候補をマウスに投与し、安全性や効果を検証します。これが有効であると判明した場合は、臨床研究治療に進み、PETやMRIで撮影を行います。将来的には、RI病棟での実際の甲状腺がんの治療や新たな放射線薬剤を用いたがんへの標的RI治療を実現させたいと考えています。放射性薬剤の研究開発に当たっては、薬剤の品質管理、有効性、安全性を担保する必要があることから、省令等で定められた基準(GxP)に準拠した施設を整備、運用します。薬剤生成パートでは、GMP(Good Manufacturing Practice)、非臨床パートでは、GLP(Good Laboratory Practice)、臨床試験・治験パートでは、GCP(Good Clinical Practice)に準拠します。

3つのGxPを導入している施設は全国でも稀であり、開発された医薬品を速やかに臨床利用、産業利用、国際展開することが可能な施設として最先端の研究を推進していきます。

  1. 放射性薬剤の製造・合成
  2. 非臨床試験
  3. 臨床研究・治験
  4. 診断治療

こうした強固な連携のもと、各プロセスに専門家が在籍し、安全で信頼性の高い研究を実施しているのが当院の先端臨床研究センターの特徴です。

当センターは、医療と産業、解析施設の相互協力によって実施される、福島県内の新産業と雇用創出を目指した施設です。福島医薬品関連産業支援拠点化事業を推進するために設立され、医療と産業を円滑に橋渡しすることで、がん医療開発支援を多面的に行っています。医療の現場の第一線に立つ施設ではありませんが、「縁の下の力持ち」として、福島県民のみなさんの健康増進と地域復興につなげていきたいと考えています。

福島県民の健康指標は全国的にもよいとはいえず、福島県の生活習慣病予防と健康長寿の延伸は、県の大きな命題になっています。たとえば福島県内の肥満傾向児の出現率は2011年の震災以降常に上位で、子どもを取り巻く健康問題の対応が急務とされています。

そのような中で本学が貢献しようとしていることは下記の4点です。

1・県内の医療機関における循環器疾患の発症登録体制構築と運営

県民の循環器疾患発症の実態を正確に把握し、健康を見守り、健康寿命(日常生活に支障なく、元気に生きられる寿命)を伸ばすため、県内の医療機関における循環器疾患の発症登録体制の整備に取り組んでいます。学術的なデータの収集、研究を行ったうえで、エビデンスに基づいたさまざまな施策を提言して、シンクタンク(研究機関)的な機能を福島県民のみなさんに提供していく。

2・幅広い医療人の教育と輩出 

福島県立医科大学は2021年4月に「保健科学部(仮称)」を新規開学する予定です。保健科学部では、理学療法士や作業療法士、診療放射線技師、臨床検査技師といったコメディカルの育成を行い、当院を医療系人材育成の「総合」大学とすべく、更なる発展を進めていきたいと考えます。

3・世界に通用する研究の推進

創薬事業の支援、間接的な雇用の創出を目指し、福島県における経済の活性化の一翼を担っていくことを目標にしています。

4・双葉地域の医療再建の支援

2011年の東日本震災と原発事故で崩壊した双葉地域の医療再構築も、本学の大きな使命です。ふたば救急総合医療支援センターを設け、救急グループと在宅訪問グループが双葉地域における、医療支援と疾病予防に全力を挙げて取り組んでいるところです。

それでは下記に、2017年現在、当院にて精力的に取り組んでいる医療体制の構築と臨床・研究活動についてご紹介しましょう。

これまで、がん治療にはβ線核種とよばれる放射線が用いられてきました。しかし近年、α線核種はβ線核種よりもエネルギーが大きく細胞傷害が少ないので、β線核種よりも治療効果が高いことがわかってきたのです。

こうした新しいがん医療の発見を、当院は世界に向けて次々と発信していきたいと考えます。

福島県立医科大学の医師やスタッフは、2011年の東日本大震災以前に比べて大幅に増員しました。2016年末には、先に述べたふくしま国際医療科学センターも全面稼働となり、いよいよ福島県の復興を医療的側面から支えるにあたって必要不可欠な体制が整ったといえるでしょう。しかし、この現状で満足していては、医療は前に進みません。ですから私は教職員に向けて常日頃から「不屈の精神としなやかさが必要だ」と述べています。これは、私の医師としての心得をそのまま表しているといっても過言ではありません。

私は1999年2月に福島県立医科大学第2外科の教授に就任しました。実は、それまで福島県に深いかかわりはありませんでした。それでもこの瞬間、残りの人生を福島にすべて捧げようと強く心に決めました。

このとき私が目標にしたことは、「優れた臨床力と研究力を併せ持つ医師の養成」です。そのためには、学位と専門医の両方を取得することが大切です。医師の養成を大切に考えた結果、2017年現在、福島県立医科大学には多くの優秀な医師が集まるようになったのかもしれません。

2011年のあの日を境に、当院は未曾有の危機に直面し、日々試行錯誤を重ねながら目の前の患者さんに向き合ってきました。ここで挫折を経験しそうになったものも少なからずいます。しかし、不屈の精神を持っている私たちだからこそ、2017年のまで成果を挙げてこられたのではないかと思っています。

当院は福島に所在地を置く大学病院として、大きな注目と期待を寄せられています。こうした期待の目にこたえるためにも、先述した先端臨床研究センターを中心に、福島独自の成果を挙げていく必要があると考えます。

たとえば、災害対応の可能な医療者の養成がそれにあたりますし、避難誘導、被災地の衛生環境、心理的ケア、放射線からの防護など、各専門家による入念な管理と対応が求められてくるでしょう。福島県からこうした対策を実現していくことには、非常に大きな意味があると考えます。

福島の復興活動はこれから実績を積み上げていくステージに入っています。福島県立医科大学はその中心的存在となるべく尽力していきます。若き医師のみなさんには、今後新しい医療や診断、研究開発などをこの地から発信することの意味と価値の重大性を知っておいていただきたいと考えます。