S414x320 652fce00 4377 4e7a 8cd8 3c2ebc9ccda0

ニュース

公開日 : 2018 年 01 月 05 日
更新日 : 2018 年 01 月 05 日

国立国際医療研究センター病院 病院長である大西真先生は、病院経営における徹底した課題の洗い出しと、卓越した行動力で病院改革を進めてこられました。今回は大西真先生のご経験を交えながら、大西先生が実際に行ってきた病院改革の内容や病院経営を行うにあたっての経営マインド、加えて民間企業との連携/医工連携などについて、弊社代表 木畑宏一がお話を伺いました。

大西真先生の記事はこちらをご覧ください

『日本医療の国際化のためにできること』

『総合医療の可能性を広げるための試み』

日本で唯一の総合病院ナショナルセンターとしての役割

感染症や糖尿病のミッションを果たすために病院機能を充実

木畑:大西先生が院長を務める国立国際医療研究センター病院は、国内に6つあるナショナルセンター(国立高度専門医療研究センター)のうち、唯一の総合病院ですが、そのなかでの果たすべき役割について、先生はどのようにお考えですか?

大西:当院は総合病院ではありますが「感染症・糖尿病・国際協力」という3つの大きな軸があり、これらを果たすべきミッションとして掲げてきました。

これに対して「それならば総合病院ではなくて、感染症あるいは糖尿病に特化して専門的に診療するべきなのでは」という声が各方面からあがっていました。しかし、私は「感染症や糖尿病というミッションを果たすためだからこそ、総合的な医療体制を強化していく必要があるのだ」と考えています。

木畑:なるほど。具体的にどのようなことでしょう。

大西:まずは感染症ですが、たとえばどんな感染症でも重症化するとICUでの全身管理が必要になりますよね。特殊感染症であるMERS*は呼吸管理が必要ですし、エボラ出血熱*も重症化したら当然ICUでの管理になります。

要するに、重症感染症になればなるほど感染症専門医だけでは救命は不可能で、呼吸器内科や救命救急などのあらゆる専門医によるトータルな治療が必要になります。

そこで当院では、どのような感染症にも対応できるように、あらゆる専門家を結集させた診療チームを作りました。また現在、特殊感染症病床が4床あるのですが、これらをICU化するための拡張工事も進めているところです。感染症だけではなく、総合的な医療の質が高くないと本当の意味での感染症治療はできないのです。

木畑:確かにおっしゃるとおりですね。

大西:糖尿病でも同じことがいえます。ご存知のように、糖尿病はあらゆる疾患の発症リスクを高めますが、なかでも膵臓がん、大腸がん、肝臓がんは死因の多くを占めており非常に大きな問題となっています。当院は、がんの診療体制に弱い部分があったので、現在がん診療の強化も図っているところです。たとえば、同じナショナルセンターである国立がん研究センターや国立成育医療研究センターと協働して、患者さんごとの遺伝子変異に応じて、がんに対する最適な分子標的薬を処方するプレシジョン・メディシン(精密医療)の実践に向けた準備も行っていますし、2016年にはがん診療連携拠点病院にも指定されています。

同時に、糖尿病患者さんのがんを早期発見することも大切です。糖尿病専門外来への通院だけでは、がんが見逃される可能性が高いですから、糖尿病患者さんに対して1年に1度の人間ドックの受診を推奨しています。当院では2016年5月に人間ドックセンターをリニューアルオープンして、糖尿病患者さんだけでなく全体的な受診者数も大きく増加しています。

このように、総合的な病院機能を充実させることで初めて、感染症や糖尿病の患者さんのトータルケアができるようになるのです。これが当院の総合病院としての一つの役割だと思っています。

MERS…中東呼吸器症候群ともよばれ、中東地域で広く発生する重症呼吸器感染症

エボラ出血熱…フィロウイルス科エボラウイルス属のウイルスが病原体となる急性ウイルス性感染症

どんなにリスクがある患者さんの診療も積極的に行う

大西先生

大西:当院が総合病院として担うべきもう一つの役割は、心臓疾患や精神疾患、感染症などの合併症を持つ方や高齢者など、治療に対する高いリスクを抱えている患者さんを積極的に受け入れることです。

たとえば、がん治療に特化している病院の場合、がん以外の合併症に対応する診療機能を持っていないことが多く、高リスクの患者さんの受け入れが困難なことがあります。このような患者さんたちを受け入れて、高いレベルの手術や治療を行うことが、当院の大きな使命だと思っています。

木畑:確かに今後さらに少子高齢化が加速していきますし、高齢であってもがん手術を積極的に受ける傾向にありますよね。

大西:そうなのです。高齢の患者さんもお元気な方が多いですし、みなさん治療にも積極的な姿勢をお持ちです。実際に当院の入院患者さんも3分の1は75歳以上ですし、合併症を持っている方もたくさんいらっしゃいます。こういった方々をこれからさらに受け入れていくためにも、総合病院としての質をさらに上げる努力を続けています。

国立国際医療研究センター病院における病院経営

保険診療と自由診療の両輪

木畑さん

木畑:ありがとうございます。確かに医療の質の底上げのためにも総合病院の診療機能は欠かせないと思います。一方で病院経営者の観点から捉えたときに、診療と経営のバランスをどのように取っていくかについて、大西先生はどのような考えをお持ちですか?

大西:これは私も難しい課題だと感じています。厚生労働省では2年に1度、診療報酬の点数改定を行っていますが、実質マイナス改定が続いていますよね。2018年4月には医療と介護の同時大改訂が控えていますが、これも−2%台の改定となるといわれています。そのため、今は全国どこの医療機関も経営的に厳しい状況にあると思いますし、当院も保険診療だけで経営改善を行うことは困難な状況にあります。

そこで、重要なポイントとなるのが人間ドックなどの自由診療です。

木畑:なるほど。先ほどのお話だと2016年に人間ドックセンターをリニューアルオープンされて、受診者の数がかなり増加しているということでしたよね。

大西:人間ドックをリニューアルしたきっかけは、それまでの人間ドックのシステムに多くの問題があったからでした。従来は人間ドック受診者を各外来へご案内してそれぞれで検査を受けていただいていたので、待ち時間が長いなどの意見がとても多かったのです。そこで人間ドックセンターを開設して、基本的な検査はすべて一箇所で完結できるようにしました。それから、みなさまからお褒めの言葉を多数いただくようになり、おかげさまで受診者の数も非常に増加しています。

木畑:人間ドックのリニューアルオープンは、病院の収益にも貢献しているのでしょうか。

大西:はい。もちろん人間ドックのリニューアルは収益を期待してのものではありませんが、実際のところ人間ドックは病院の大きな収益になっていますね。リニューアルから1年半が経過しますが、毎月の受診者数や収益は右肩上がりに伸び続けています。また、特徴的なのが受診者数は1日15〜20人程度と都内の大病院と比べてさほど多くはないのですが、それに比べて収益の伸びについては非常に大きくなっているのです。

木畑:それは興味深いですね。収益の伸びの要因にはどういったことがあるのでしょうか。

大西:理由は外国人受診者です。外国人受診者にはどうしても通訳者などの人件費がかかってしまうため、通常の料金の1.5倍を請求させて頂いています。当院の人間ドックは約3〜4割が中国人やベトナム人などの外国人受診者であるため、この単価の高さが収益につながっているのです。また、このように外国人を円滑に受け入れている人間ドックもあまりないので、当院の特色の一つにもなっていますね。

木畑:なるほど。病院経営のためにも今後さらに人間ドックに力を入れていくことが重要なのですね。

大西:そうですね。もちろん診療報酬への対策もしっかりと行っていく必要があると考えています。診療情報管理士などと協力しながらDPC分析を行ったり、経営委員会でも収益の分析や情報共有を行ったりなどの努力はしています。

ただ、やはり保険診療だけで収益を上げることは難しいので、人間ドックなどの自由診療をバランスよく組み合わせることが大切だと思っています。

患者満足度向上のための取り組み

大西先生と木畑さん

木畑:実は私の両親が10年ほど前からこちらで人間ドックを受けているのですが、「昔は待ち時間が長かったりしたけれど、最近病院全体が変わってすごく良くなった」と言っていました。

大西:ありがとうございます。嬉しいことにみなさんにそのように言っていただいています。患者さんにとって大きく改善できた点は接遇と待ち時間だと思います。まずは、接遇活動にとても力を入れていて、接遇チームによる院内のラウンドを実施しています。また、受付や会計の待ち時間も短縮されてきています。確かに昔は待ち時間が非常に長く、1〜2時間お待たせしてしまうことが多かったのです。そこで待ち時間が長くなる理由を分析してみると、無駄なプロセスがとても多いことがわかりました。これらをすべてカットすることで、待ち時間の短縮に成功しました。

木畑:素晴らしいですね。無駄なプロセスのカットとは具体的にどのようなことでしょう。

大西:待ち時間の長さの理由の一つに、初診受付でのスキャンにとても時間がかかっていたことがあります。動きの遅い旧式のスキャナー2台で受付を回していたのです。これでは効率的な業務は不可能なので、すぐに新しいものを4台購入しました。

さらに受付スタッフも増員したり、混雑時には医事管理課から応援を出したりなどの対応も行いました。また、問診票や保険証も各科外来で提出してもらうようにしたことも、受付の待ち時間短縮につながっています。

それでもまだ、診療科での待ち時間が長いことは大きな課題です。そのため、次は診療科ごとのローカルルールを撤廃する方向で改善を目指しています。待ち時間の短縮は患者さんの満足度に直結しますので、非常に重要ですね。