インタビュー

自己免疫性膵炎の診断と治療

自己免疫性膵炎の診断と治療
山本 元久 先生

東京大学医科学研究所附属病院 アレルギー免疫科 准教授・診療科長

山本 元久 先生

この記事の最終更新は2018年03月05日です。

自己免疫性膵炎は、持続的な炎症により膵臓が腫れる慢性膵炎の一種です。膵臓の機能が低下することで、患者さんにさまざまな症状がみられます。

本記事では札幌医科大学医学部免疫・リウマチ内科学講師である山本元久先生に、自己免疫性膵炎の症状や検査、治療法についてお話を伺いました。

膵臓

自己免疫性膵炎は、慢性的な炎症により膵臓が腫れる病気です。免疫系の異常を伴うことから、自己免疫(免疫系が自分自身の正常な組織や細胞に対して攻撃してしまうこと)が発症の原因ではないかと考えられています。しかし、まだ詳しい原因はわかっていません。(2018年2月現在)

自己免疫性膵炎の症状は、患者さんによってさまざまです。本章では自己免疫性膵炎の代表的ないくつかの症状についてお話します。

自己免疫性膵炎では、膵臓の炎症、腫れにより、心窩部(しんかぶ:みぞおちのあたり)や背部に不快感や痛みを生じることがあります。

膵臓のなかを、肝臓で作られた胆汁が通る胆管が通っています。膵臓が炎症を起こし腫れてしまうと、膵臓が胆管を圧迫し、胆汁の流れが滞ることで閉塞性横断(へいそくせいおうだん)を発症することがあります。閉塞性黄疸を発症すると、顔や体が黄色くなり、吐き気により食欲低下がみられます。

膵臓の重要な役割の一つに、インスリン(膵臓で作られ、血糖を低下させるホルモン)の分泌があります。膵臓の炎症が続くと膵臓の機能が低下するため、インスリンの分泌が低下します。すると、血糖を下げることができずに、糖尿病を発症する患者さんがいらっしゃいます。

またインスリン以外にも、膵臓には消化酵素を分泌する働きがあります。自己免疫性膵炎になるとこの消化酵素の分泌も低下し、糖、タンパク質、脂肪の分解が低下し、消化不良になります。その結果、通常の止痢薬(しりざい:下痢止めの薬)では効きにくい下痢を呈することがあります。

2011年に厚生労働省が実施した全国調査では、自己免疫性膵炎により医療機関を受診されている患者数は約5,700人といわれています。しかし、その調査から7年が経過しており、さらにこの間に医師のあいだでも自己免疫性膵炎の認知度が高くなってきているため、患者数はさらに増加しているのではないかと考えられます。

また、自己免疫性膵炎は60歳代以上の世代の方に多くみられ、女性よりも男性によくみられます。

自己免疫性膵炎が疑われる患者さんに対しては以下のような検査が行われます。

<自己免疫性膵炎の検査>

  • 血液検査
  • 画像診断
  • 組織診断

これらの検査を組み合わせて、日本膵臓学会の診断基準に則り診断を行っていきます。では、具体的に検査でどのようなことを確認するのか、詳しく解説していきます。

血液検査では、IgG4(抗体の主成分である免疫グロブリンのひとつ)の値を確認します。自己免疫性膵炎診断基準では、IgG4が135mg/dl以上であることが基準となっています。

画像診断では、CT(エックス線を使って身体の断面を撮影する検査)やエコー(超音波検査)などで、膵臓に腫れがないかどうかを確認します。

さらにERP(内視鏡的逆行性膵管造影)を行うこともあります。ERPとは、内視鏡(体の内部を観察・治療する医療器具)を使用して、膵臓にある主膵管(消化酵素である膵液が出てくる管)を造影し、膵臓の状態を確認する検査です。

ただし、ERPは患者さんの負担が大きく、多くは検査のために入院が必要になります。また、ERPの検査後に膵炎を発症することもあるため、ERPを行うかどうかについては、担当の医師は慎重に判断しています。

組織診断は、自己免疫性膵炎の診断に加えて、膵臓がんを除外する目的で行います。膵臓がんも自己免疫性膵炎と同様に膵臓が腫れてきます。血液検査や画像検査だけでは十分な鑑別ができないことも多くあります。検査方法としてはEUS‐FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)という方法が用いられます。EUS‐FNAとは、超音波内視鏡を使用して、胃から膵臓を確認し、膵臓に向かって針を刺して組織の採取を行う検査です。採取した組織は、顕微鏡を使ってがん細胞やIgG4を産生している細胞の有無などを確認します。

自己免疫性膵炎の治療にはステロイド薬(炎症を抑えたり、間違った免疫反応を是正する薬)が用いられます。ただし、日本膵臓学会の診療ガイドラインでは、ステロイド薬は以下のようなときに使用することを提案しています。

  • 自己免疫性膵炎によって何らかの症状(腹痛や背部痛、黄疸など)がみられるとき
  • 自己免疫性膵炎以外に他に内臓(腎臓や唾液腺など)の病変がみられるとき

自己免疫性膵炎であっても、特に症状がないときには経過観察となります。

また、閉塞性黄疸の症状が出ている場合には、ステロイド薬による治療の前に、胆汁の流れを改善させるために、胆道にステントを留置する治療を行うこともあります。

自己免疫性膵炎では、膵臓に大きな負担がかかっている状態のため、膵臓に負担をかけることを避けていただくようにお伝えしています。たとえば、アルコールの多量摂取などは控えるようにしていただきたいと思います。

また、同時に糖尿病を発症している患者さんには、食生活への配慮をしていただき、糖尿病治療をきちんと継続することの大切さも説明しています。

山本先生

自己免疫性膵炎の治療では、ステロイド薬を使用しますが、ステロイドによる副作用を恐れて内服を自己中断してしまう患者さんがいらっしゃいます。

治療を中断すると、再度、膵臓に炎症が起こり、腫れたり、他の内臓に病変が現れたりすることがあります。このため、主治医の先生の判断にしたがって、しっかりと治療を続けていくことが非常に大切です。

自己免疫性膵炎は発症原因がよくわかっていないことから、怖い病気と感じる方も多いかと思います。しかし、近年は自己免疫性膵炎の研究が進み、少しずつではありますが、新たに解明されてきたことも多くあります。患者さん自身も正しい知識をもって、治療にあたっていただくことが重要であると思います。

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