インタビュー

IgG4関連涙腺・唾液腺炎とは?

IgG4関連涙腺・唾液腺炎とは?
山本 元久 先生

東京大学医科学研究所附属病院 アレルギー免疫科 准教授・診療科長

山本 元久 先生

この記事の最終更新は2018年03月04日です。

IgG4関連涙腺・唾液腺炎は、涙腺や唾液腺に慢性の炎症が起きる病気で、まぶたや顎の下にしこりがみられます。また同時に、涙や唾液が出なくなることによる患者さんのQOL(生活の質)の低下も問題となります。本記事では札幌医科大学医学部免疫・リウマチ内科学講師である山本元久先生にIgG4関連涙腺・唾液腺炎の症状や診断、治療法についてお話を伺いました。

提供:PIXTA

従来IgG4関連涙腺・唾液腺炎ミクリッツ病と呼ばれていました。血液中で、IgG4という特殊な抗体が異常に増えるのが特徴の一つです。涙腺や唾液腺が腫れ、しこりを触れるようになります。涙腺と唾液腺のどちらか一方だけが腫れることもあれば、同時に両方が腫れることもあります。

症状としては、涙腺や唾液腺に炎症が起こり、腫れてきます。手で触るとしこりのように感じることが多くあります。涙腺に炎症が起こると上まぶたが腫れ、唾液腺に炎症が起こると顎の下が腫れてきます。通常、この腫れは押しても痛くはありません。患者さんは、数年前の写真と比較すると顔の形が変わったと気づくこともあります。これらが長く腫れていると、涙腺や唾液腺の機能が低下します。つまり涙や唾液が出づらくなり、ドライアイドライマウスの症状を呈します。

IgG4関連涙腺・唾液腺炎と似た症状が現れる病気に、シェーグレン症候群(涙腺や唾液腺などに異常が現れる自己免疫疾患)があります。シェーグレン症候群は、涙腺や唾液腺に炎症が起き、これらの細胞を壊していきます。このため、眼や口の渇きはほぼ必発です。涙や唾液が出づらくなって、涙や唾液が流れる管がつまったり、細菌により炎症を起こすことで、涙腺や唾液腺が腫れてきます。この場合、その腫れは熱を持っていたり、押すと痛く感じられます。シェーグレン症候群に対して、後述しますステロイド薬の治療をすると腫れは治ることが多いですが、通常渇きの症状は改善しません。

一方、IgG4関連涙腺・唾液腺炎では、早期(腫れを認めて1〜2年以内)に治療を行うと、一度出なくなった涙や唾液が発症前のように出るようになることがあります。ただし、治療開始が遅くなると、持続した炎症により、組織が線維化(組織が硬くなること)を起こし、シェーグレン症候群と同様に涙や唾液が出なくなってしまいます。

このため、IgG4関連涙腺・唾液腺炎では早いタイミングで治療を行った方が良いとの考えがあります。一方で、ステロイド薬は副作用もあるため、治療を行うかどうかを含め、主治医の先生とよく相談することが必要です。

2018年現在、IgG4関連涙腺・唾液腺炎の原因は明らかとはなっていません。国内外で治療につながる研究が行われています。

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IgG4関連涙腺・唾液腺炎が疑われる場合には、以下のような検査が行われます。

<IgG4関連涙腺・唾液腺炎の検査方法>

  • 血液検査
  • 画像診断
  • 組織診断

まず血液検査では、IgG4が増えているかどうかの確認をします。

画像診断では、頭頸部のCT撮影(エックス線を使って身体の断面を撮影する検査)、涙腺や唾液腺のエコー(超音波検査)を行い、腫れている部分の内部の状態を確認します。

組織診断は、腫れている涙腺もしくは唾液腺の組織の一部を採取して顕微鏡などで調べる検査です。

IgG4関連涙腺・唾液腺炎と間違えやすい病気に悪性リンパ腫があります。このため、悪性リンパ腫との鑑別は非常に重要です。これは組織診断がないと鑑別ができません。組織診断の必要性を患者さんにしっかりとご説明し、同意が得られれば組織診断を行います。

涙腺や唾液腺の検査だけでなく、全身を詳細に検査することも大切です。

私たち札幌医科大学の臨床研究では、IgG4関連涙腺・唾液腺炎のおよそ6割の患者さんが、涙腺や唾液腺炎以外に内臓に関係する病変が発見されています。このため、IgG4関連涙腺・唾液腺炎と診断されたら、膵臓や腎臓、肺などの画像検査も併せて行う必要があります。

さらに近年、IgG4関連涙腺・唾液腺炎の患者さんでは、一般の方よりもがんの罹患率が高いという報告もあります。このため、隠れているかもしれないがんをスクリーニングする検査も行います。

私たちの施設では、患者さんが希望をすれば、他に内臓の病変があるIgG4関連涙腺・唾液腺炎の場合には、ステロイド薬(炎症を抑えたり、異常な免疫反応を是正する薬)による治療を行います。一方、内臓の病変がなければ、少ない量のステロイド薬で治療を行うか、経過観察を行うか、患者さんと相談しています。ステロイド薬による治療は、副作用を生じることがあります。このため、その治療によるリスクと治療による症状の改善のバランスを考えなければなりません。

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涙腺や唾液腺の症状だけであっても、患者さん自身はとても辛い思いをされています。先ほどもお話しましたが、涙腺が腫れると涙が出なくなりますし、唾液腺が腫れると唾液が出なくなり、食べ物が飲み込みづらくなったり会話もしづらくなったりします。

涙腺や唾液腺の腫れが、直接、命にかかわることがありませんが、患者さんのQOL(生活の質)は大きく低下してしまいます。そのため、患者さんに寄り添い、治療のタイミングについて考える必要があると思っています。

山本先生

IgG4関連涙腺・唾液腺炎は、全身の病気です。早期診断、場合によっては早期治療がとても大切な病気です。このため、まぶたや顎の下に腫れやしこりがみられたら、放置せずに、医療機関に受診していただきたいと思います。まぶたの腫れ、しこりであれば眼科へ、顎の下であれば耳鼻いんこう科になります。この病気が疑われれば、総合病院の内科に紹介され、気づいていない関連する病気(自己免疫性膵炎など)が発見されるかもしれません。これらの異常があったときには怖いからといって放っておくのではなく、まずは病院で精査を受けていただきたいと思います。

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