インタビュー

パニック症(パニック障害)の治療―薬物療法と認知行動療法

パニック症(パニック障害)の治療―薬物療法と認知行動療法
清水 栄司 先生

千葉大学 医学部附属病院認知行動療法センター センター長(教授)

清水 栄司 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年03月29日です。

パニック症(パニック障害)は、突然、動悸や息苦しさのような身体症状と「死ぬかもしれない」という強い不安が生じるパニック発作を繰り返すうちに、また起こるかもしれないという思い(予期不安)に苦しみ、電車を使わない、外出を控えるなど行動を変えてしまい、日常生活に支障をきたす病気です。パニック症は適切に治療を行えば、回復して日常生活を送ることが可能です。パニック症の治療法について、千葉大学医学部附属病院認知行動療法センターでパニック症をはじめとする不安症などの診療を行っている、清水 栄司先生にうかがいました。

パニック症は、突然、動悸や息切れ、死の恐怖などを伴うパニック発作が生じます。そして、パニック発作を繰り返すうちに「また発作が起きるのではないか(予期不安)」「発作が起きた場合に逃げられない、助けを得られないような場所には行きたくない(広場恐怖)」という問題が生じて、日常生活に支障をきたすこころの病気です。

パニック症のメインの治療法は、薬物療法と認知行動療法(精神療法)があげられますが、認知行動療法のほうが薬物療法よりも効果が高いという研究結果も報告されています。薬物療法は文字通り、脳に作用する薬を用いた治療、精神療法は、薬を用いずに、医師や心理士などのセラピストとの対話を通してこころ(脳)に働きかける治療です。精神療法は、認知行動療法(考え方や行動を変えて不安を和らげる治療法)が代表的です。

パニック症は、悪化していくと、その症状から日常生活の制限が広がり、家から外出できなくなったり、二次的にうつ病を発症することがあります。そのため、パニック症と診断された段階で、不安の病気についての理解を深め、認知行動療法的な対処法を学んだり、早期に治療を検討したりすることが重要です。

次に、パニック症の薬物療法で用いられる薬や、パニック症で行われる精神療法として、高い効果が知られている認知行動療法について解説します。

パニック症の症状には、2018年2月現在、以下の2種類の薬が使われています。

SSRIは抗うつ薬として開発されましたが、パニック症にも効果が示されて、日本で承認されているものもあります。SSRIには、神経細胞の間(シナプス間隙)のセロトニンを増やす作用があり、うつ病と同様に、不安症に効果を発揮すると考えられています。

SSRIで頻度の高い副作用

SSRIは、いくつかの種類の薬が販売されており、その薬ごとに、副作用も多少異なりますので、副作用について気になることがあれば、主治医へ相談してください。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、抗不安薬の一種で、速やかに不安や筋肉の緊張を和らげる作用があります。そのため、パニック症の不安の症状に対して、必要時の頓服等の短期間の処方で使われます。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬で頻度の高い副作用

  • 眠気
  • ふらつき
  • 依存性など

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、さまざまな種類が販売されています。薬の種類により、副作用も多少異なりますから、副作用について気になることがあれば主治医へ相談してください。

また、ベンゾジアゼピン系抗不安薬には、長期に服用することにより薬物依存が起きる可能性があります。薬物依存を避けるためになるべく長期連用は避け、もし薬物依存のような症状(薬を飲まないと落ち着かないなど)が現れたら、主治医に相談してください。

妊娠中や授乳中には、薬の胎児への影響について考慮する必要があるため、薬物療法のメリットとデメリットについて、主治医と十分に相談するようにしましょう。

パニック症に対して、漢方薬がプラセボ(有効成分を含まない偽薬)よりも有効性が高いという医学的根拠は、2018年2月現在、示されていないと考えます。パニック症の薬物療法は、先に挙げた2種類の薬で行うことが基本です。

もし、漢方薬の使用を希望する場合は、主治医に相談してください。

2018年2月現在、パニック症の治療に有効な市販薬はありません。医師から処方される薬のみ有効です。

パニック症を改善させる効果が高い方法として、認知行動療法があります。ただし、認知行動療法の専門家は、国内でまだ少ないため、すべての医療機関で受けることができるわけではありません。次章では、認知行動療法について説明します。

認知行動療法は、パニック発作が起きて不安になった際に「このまま死ぬかもしれない」などの偏った思考とそれに伴う行動を、バランスのとれたものに修正、変化させる方法です。

パニック症に対する認知行動療法は、病気を理解したうえで自分の思考の偏りに気づき、考え方を修正していく「認知療法」と、あえて不安が高まる可能性のある状況に身を置いて少しずつ心と体を慣らしていく「行動療法(段階的曝露療法(だんかいてきばくろりょうほう))を統合したものです。

ただし、認知行動療法を提供できる専門家は、日本では不足しており、すべての医療機関で実施されているわけではありません。認知行動療法を受けてみたいと考える場合には、まずは主治医と相談し、専門家を紹介してもらいましょう。

認知療法では、パニック症の症状が出た際のさまざまな思考や行動の偏りに気づき、バランスをとるように修正していきます。

たとえば、パニック発作で心臓がどきどきして「心臓の病気かもしれない、このままでは死んでしまうのでは」という考えが頭に浮かぶかもしれません。もちろん、そのように誤解してしまうことは、死を本能的に恐れる人間にとって、当たり前のことです。

強い不安を感じている場合は、脳は余計に短絡的な誤解をしやすくなりますが、思考のバランスをとるように考えると、胸がどきどきするのは、致死性の不整脈の場合だけではありません。驚いたときや恋をしているとき、運動しているときもどきどきします。

ですから、胸がどきどきするパニック発作そのもので死んでしまうことはないのです。

このように、胸のどきどきで死んでしまうという極端にマイナスな考え方もありますが、「この動悸は自分が不安を感じているからだ」という考え方もできます。これが、考え方(認知)のバランスをとるということです。

発作が起きた際に無意識に取る行動(しゃがみこむ、横になる、電車から降りるなどの「安全行動」)で一時的に不安を減らしても、長い目で見ると過剰な不安を持続させます。その結果、パニック症が治らないままに維持している、不安をより大きくするような考え方をより強固なものにする悪循環につながっている可能性があることから、安全行動に代わる適応的な行動をバランスよく行っていくことが重要です。

このような過剰な不安につながる考え方やそれを回避するためにとっている無意識の行動に気づいて、思考と行動のバランスを取ることが、認知療法の目標です。

どのような考え方や行動をとれば、バランスのよい、過剰に不安にならず落ち着くことのできる好循環にできるかを考え、実践します。その内容を日記のようなワークシートに毎日記録していきます。パニック症の認知行動療法に関する本も出版されていますから、その本を読むこと(読書療法)も役に立つでしょう。

階段を登る若い女性

段階的曝露療法とは、不安なもの、苦手なものに少しずつ慣れていく方法です。パニック症の場合では、乗り物や映画館のような閉じた場所や知らない人ばかりで助けてもらえないような人混みなど、患者さんが不安を感じ、苦手としている場所やもの(広場恐怖症の対象)に対して、小さな段階を踏みながら少しずつ慣れていきます。

これは、患者さんが不安に慣れるという曝露療法の意味を十分に理解して、自主的に行う方法です。不安に立ち向かうのは大変な勇気が必要ですが、決して誰かに強制されるような治療ではありませんから、心配はいりません。

パニック症の根本的な問題は、体の反応と強い不安によって、実際には死なないような発作でも強く死を意識して、「突然死の恐怖」にとらわれている点にあります。

具体的には、胸がどきどきする、息がはあはあする、めまいを感じるなどの体の反応(主に人間が不安を感じたときにおこる自然な反応)に対して「突然死の兆候だ」という誤解や、頭ではそうでないとわかっていても強い不安と恐怖によってその呪縛から逃れられなくなっています。

その考え方から、胸がどきどきしたり、息がはあはあしたりするようなことを避けてしまいます。たとえば、運動をしない、怖い映画を見ないなど、体の反応が起きないような「安全行動」を習慣化させているのです。

段階的曝露療法では、段階的に胸がどきどきするような行動、息がはあはあするような行動をあえて行って、体の感覚に慣れてもらいます(身体感覚への曝露)。具体的には、胸がどきどきするように7階まで階段を上がってみる、息苦しさを感じるために鼻をつまんでストローをくわえ、ストローを通して口で呼吸する(細い息でしか吸ったり吐いたりできない状態を経験する)などの方法を用います。

医師や心理士などのセラピスト(医療者)と一緒にできるならば、30秒から1分ほど過呼吸を自分で試してみて、過呼吸で自然に表れる体の反応(体のしびれる感じやめまい、苦しさなど)を体験してみる方法もあります。

パニック症に伴う広場恐怖症に対する段階的曝露療法の手順は、次のとおりです。

  • 第1段:やる気の出る目標を立てる
  • 第2段:不安階層表をつくる
  • 第3段:具体的な練習課題を医療者と一緒につくる
  • 第4段:課題に取り組む
  • 第5段:結果を前向きに評価する

第1段:症状を目標に変換する

まず、今困っている症状を短期・中期・長期目標にそれぞれ変換します。

たとえば、今「電車に乗れない」と悩んでいるのであれば、以下のような目標を立ててみます。最終的には、その症状を克服することによってできる、楽しいことを目標に設定します。

(例)

短期目標:駅まで行く、家族と電車に乗る、一人で電車に乗る

中期目標:電車に乗って◯◯まで行ってみる

長期目標:新幹線に乗って◯◯へ旅行する

第2段:不安階層表をつくる

目標を立てたら、患者さんが「パニック発作が出るのではないか」と不安を感じる状況をいくつか挙げていき、それぞれ0〜100点で点数化します。点数が高いほど、不安度が強いことを表す階段の表を作成します。

第3段:具体的な練習課題を医療者と一緒につくる

不安階層表をもとに、医師あるいは心理師などのセラピストと一緒に課題を決定します。このときの課題は、不安度が50点程度のものを選んで、少し頑張れば達成できるような無理のないものを毎日できるような具体的な形に設定します。

第4段:課題に取り組む

実際に課題に取り組みます。患者さん一人でなく、セラピストや家族と一緒に課題を実施することもあります。課題を不安が小さくなったと思うまで、15分から1時間程度行い、不安の点数が下がることを確認します。

毎日1回同じ課題を繰り返し1週間かけて行います。不安が下がれば、1週ごとに次のステップの難しい課題に挑戦していきます。

もし、課題が難しすぎて、うまくできなかった場合には、さらにその課題を小さいステップに分解して達成できそうな簡単な課題にし、再挑戦します。

第5段:結果を前向きに評価する

課題が達成できたときは、自分を褒めましょう。連続で同じ課題を達成し、不安度が30点以下になるなど、自信がついたら、少し難易度をあげた次の課題を行います。毎週、これを繰り返し、少しずつ苦手な状況を克服していきます。

ショッピングを楽しむ女性

パニック症は、今回紹介した治療法などを行うことによって症状が落ち着いて、日常生活が送れるほど回復することも可能です。

しかし、ときに再発することもあるため、再発予防のために、身に着けた認知行動療法を、気長に続けることが肝要です。

仮にパニック症が完治しなくとも、これ以上悪化させないために規則正しい生活や継続した治療を心がけましょう。早寝早起きのような良い睡眠覚醒リズムを維持したり、1日3食を決まった時間にとったりするような規則正しい生活は、気持ちを安定させます。

パニック症は近年、認知度が上がり、そういう病気があることを理解されることも増えつつありますが、周囲の人がこの病気の大変さを理解してあげることが重要です。家族など周囲の方は、患者さんがつらい思いをしていることを理解し、治療のサポートをしていただけると、医療者としてありがたく感じます。

パニック症は、治らない病気ではありません。焦らず、治療を続けてもらえればと思います。

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