インタビュー

うつ病の治療―薬物療法、認知行動療法など

うつ病の治療―薬物療法、認知行動療法など
平安 良雄 先生

医療法人へいあん 平安病院 法人統括院長・臨床研修センター長、横浜市立大学 名誉教授

平安 良雄 先生

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この記事の最終更新は2018年04月08日です。

うつ病は精神療法、心理教育、薬による治療などを使いながら治療していくことが基本です。うつ病にはさまざまな治療法があります。うつ病の治療について横浜市立大学名誉教授(前 横浜市立大学医学部精神医学教室主任教授)の平安 良雄先生にうかがいます。

うつ病の治療のゴールは、患者さんの置かれている状況や本人の希望によりさまざまです。

おそらく本人は「今の苦しみを抜けて元の生活に戻りたい」と考えることが多いと思います。しかし、生活環境が原因でうつ病を発症した場合には、その環境を患者さんが過ごしやすいように変化させなければ、うつ病が再発・再燃*するおそれがあります。

そうした懸念がある場合には、本人の希望と生活環境の改善を含めて、治療のゴールを設定します。

再燃…落ち着いていた症状が再び悪化すること

うつ病の治療法には、大きく薬物療法と精神療法があります。

薬物療法は、読んで字のごとく、抗うつ薬などの薬を用いた治療法です。うつ病の原因といわれる脳の神経伝達物質の異常を、薬のはたらきで整えます。

一方、精神療法は、患者さんの話を傾聴・共感し、感情を言葉にすることで、気持ちを整理したり、考え方を修正したりするなど、心の状態にはたらきかける治療法です。

 

うつ病の原因についてはこちら

2018年1月現在、うつ病の治療の基本は、薬物療法と精神療法の併用と生活習慣の改善です。

ときどき「薬さえ飲めばうつ病は治りますか」と尋ねる患者さんがいます。うつ病は、一部の体の病気のように薬だけ飲めば治るものとはいえません。薬物療法と精神療法、そして生活習慣の改善など、さまざまな要素が重なって回復へと向かいます。

処方薬の袋の写真

うつ病は、抗うつ薬での治療がメインです。抗うつ薬は脳の神経伝達物質に作用してうつ病の主症状を和らげます。

現在、使われている抗うつ薬は以下の5種類です。副作用の少なさから、体質的な問題がない限りは基本的にSSRI、SNRI、NaSSAを用いることが一般的です(2018年1月現在)。

抗うつ薬の種類

  • SSRI
  • SNRI
  • NaSSA
  • 三環系抗うつ薬
  • 四環系抗うつ薬

うつ病の薬物療法において、抗うつ薬とともに処方される抗不安薬や睡眠薬は、薬そのものに依存性を作り出す作用があるために長期服用には注意が必要です。

抗うつ薬はそれ自体に不安を軽くする効果があるものが存在します。しかし、実際には焦りや不安がとても強い場合は抗不安薬を、十分に眠れない場合は睡眠薬をあわせて長期にわたって処方するケースが依然として多いです(2018年1月現在)。

もし、治療で抗不安薬や睡眠薬を処方された場合は、薬物依存の可能性や、どの程度の量や期間、服用するのかを医師に尋ねることをおすすめします。

 

うつ病で使われる薬についてはこちら

患者さんのなかには、妊娠中や授乳中に薬を飲むことに不安がある、うつ病で使われる薬に抵抗があるなど、さまざまな理由で薬を飲みたくないと感じる方もいるでしょう。

もし、薬を飲みたくない、薬を飲まずにうつ病の治療をしたいと思ったら、主治医に相談してください。医師によっては、軽症のうつ病であれば薬を使わない治療を検討してくれる場合があります。ただし、重症のうつ病の場合は薬による治療をしたほうが、効果が高い場合もありますから、よく医師と相談しましょう。

認知行動療法とは、人が不安定になったときに陥る思考に目を向け、現実とどの程度食い違うかを検証して、思考の特徴を修正していくことで気持ちを楽にする方法です。

認知行動療法にはさまざまな手法があります。手法のひとつに、ワークシートを使って日々の気になるできごとやそのときに感じたことを記入して、医師などと一緒に内容を振り返る方法があります。

認知行動療法を続けていけば、自然と考え方の偏りに気づき、修正できるくせがつくようになります。そうすることで、少しずつ気持ちが楽になっていくのです。

認知行動療法は、薬物療法と違って一度その方法が身につけば、治療をやめても長く認知行動療法の手法を使い続けることができます。

確かに、偏った考え方を正すくせをつける時間や、効果が現れるまでの時間はかかります。しかし、一度覚えたことは技術として患者さんに身につきますから、治療終了後につらいことがあっても、認知行動療法で気持ちを楽にすることができます。

認知行動療法は、医学的にもうつ病や不安症への効果が認められている治療法です。認知行動療法は性格をポジティブに変える治療法だと思われている方もいますが、実はそうではありません。

認知行動療法は、あくまで悲しいことは悲しいと正直に受け止め、あとで自分の認識と現実の差異を知ることで「あのときの自分の考えは偏っていたんだな」と気持ちを落ち着けることができるものにすぎません。一般的に他人からネガティブに捉えられる性格があったとしても、それはその人の個性です。

ですから、認知行動療法で性格が変わることには期待せず、「考え方を修正して気持ちを楽にできる」ことを知ってもらいたいと思っています。

高照度光療法は、高照度の光を浴びることで体内のリズムを整える治療法です。季節性うつ病に主に用いられます。  

現時点(2018年1月)におけるうつ病のメインの治療法ではありませんが、大うつ病性障害(いわゆる一般的なうつ病)の患者さんに対し効果があったとの報告があります[1]

注1:亀井雄一ほか「高照度光療法が有効であった非季節性うつ病の1例」医療 52巻 (1998) 10 号 p. 614-617

電気けいれん療法は、脳に短時間、電気的刺激を与えることによって、脳機能を改善させる治療法です。電気けいれん療法は1930年代から行われていましたが、副作用や社会的側面などが問題になっていました。その後、電気けいれん療法で起きる副作用を軽減した修正型電気けいれん療法が開発されました。

電気けいれん療法は全身麻酔や専用の機器が必要なことから、どの病院でも受けられる治療法ではありません。また、すべてのうつ病の患者さんが受けられるわけではなく、うつ病の重症度や合併症などにより、治療を受けられる方に制限があります。

電気けいれん療法がうつ病に効果を示すことから、脳の深部に直接電気的刺激を送る脳深部刺激療法がうつ病に効果があるかどうか、海外で研究されています。

※2018年1月現在、うつ病に対する脳深部刺激療法の適応はありません。               

うつ病の治療を自己判断で中止すると、うつ病の症状が悪化する場合があります。もし、うつ病の治療をやめたい、薬の量を減らしたいなど、治療について希望がある際には医師に相談しましょう。

 

うつ病の症状についてはこちら

入院中の若者

うつ病の治療の際に使われるガイドライン*では、入院による治療の検討が必要な場合について、以下が挙げられています。

  • 自殺企図(自殺を実行する)
  • 切迫した自殺念慮のある場合
  • 療養・休息に適さない生活環境
  • 病状の急速進行が想定される場合(衰弱している場合や精神病症状*を伴う場合を含む重度の場合、治療反応性が悪い場合も含まれる)

ガイドライン…ここでは「日本うつ病学会治療ガイドライン .うつ病(DSM-5)/大うつ病性障害 2016」を指す

精神病症状…幻覚や妄想など、精神病的な症状

うつ病の治療期間、治療費ともに、人それぞれです。個人によって病状や環境、使用する薬や治療法が異なるためです。

部屋でくつろぐ家族

うつ病の患者さんは、周囲からどう思われているか、気にされる方もめずらしくありません。そのために落ち着いて過ごすことが難しいケースがあります。

患者さんの周囲の方から、どう患者さんに接してよいのかわからないとの声もしばしば聞きます。

周囲は、患者さんが治療である程度回復してきたら、なるべくいつもどおりに接し、いつでも相談に受けるという気持ちを伝えたうえで見守るとよいでしょう。妙に気を遣ったり、過剰に励ましたりすると、かえってその行為が患者さんにプレッシャーを与えることもあるからです。

イギリスなど欧米では、学校教育の段階でメンタルヘルス教育(心の健康に関する教育)が実施されています。早期にメンタルヘルス教育を実施することにより、メンタルヘルスに問題を抱えた際の対応、あるいは周囲にいるメンタルヘルスに悩む人をサポートできる可能性が期待できると考えられています。

うつ病は、もはやめずらしい病気ではありません。誰でも患う可能性があることから、社会全体でうつ病の患者さんをサポートする体制が必要だと私は考えています。日本でも、イギリスのように学校でのメンタルヘルス教育の導入が検討され、実際に導入されれば、社会全体がセーフティーネットとして機能するのではないでしょうか。

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