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乳がんの薬物治療・放射線治療
乳がんの治療法には、主に手術治療、薬物治療、放射線治療があります。乳がんの種類によっては手術治療だけで終了することもあれば、手術治療に加えて薬物治療や放射線治療などを組み合わせた治療を行うことも...
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乳がんの薬物治療・放射線治療

公開日 2018 年 06 月 13 日 | 更新日 2018 年 09 月 19 日

乳がんの薬物治療・放射線治療
千島 隆司 先生

独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院 乳腺外科部長

千島 隆司 先生

植村 りゅう さん

中央放射線部 診療放射線技師

植村 りゅう さん

目次

乳がんの治療法には、主に手術治療、薬物治療、放射線治療があります。乳がんの種類によっては手術治療だけで終了することもあれば、手術治療に加えて薬物治療や放射線治療などを組み合わせた治療を行うこともあります。今回は独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院乳腺外科部長である千島隆司先生と、同病院診療放射線技師である植村りゅうさんに薬物治療や放射線治療を中心に乳がんの治療法についてお話を伺います。

乳がんの治療法

乳がんの治療法には主に以下のようなものがあり、患者さんによってこれらを組み合わせた治療を行います。

<乳がんの治療法>

  • 手術治療
  • 薬物治療(化学療法〔抗がん剤治療〕、ホルモン療法、分子標的療法)
  • 放射線治療

「非浸潤がん」か「浸潤がん」で治療法が大きく異なる

治療の選択は、乳がんの種類や進行度、また患者さんの年齢や希望など、さまざまなことを考慮して行います。そのため、治療方針は患者さんごとに異なりますが、大きな基準は乳がんが「非浸潤(ひしんじゅん)がん*1」か「浸潤(しんじゅん)がん*2」か、ということです。

1非浸潤がん…がん細胞が乳管内にとどまっているもの

2浸潤がん…がん細胞が乳管や小葉外(間質)までひろがっているもの

非浸潤がんであれば、大きなサイズの乳がんであっても手術で完全切除さえできれば、他臓器に転移することはほとんどありません。

一方、浸潤がんは他臓器に転移する可能性があるため、手術治療に加えて、術前や術後に行う薬物治療や放射線治療が重要な役割を果たします。また、浸潤がんのなかでも、乳がんの性格(サブタイプ)によって効果のある薬剤が異なります。

次章で、乳がんのサブタイプ分類による薬物治療の選択と方法について解説します。

乳がんの薬物治療 

薬

まずはサブタイプ分類を行う

浸潤がんの場合、まずは乳がんのサブタイプ分類(性格診断)を行います。サブタイプは大きく5つに分類され、タイプによって薬物治療の方針が異なります。

<乳がんのサブタイプ分類>

ルミナルA…ホルモン(内分泌)感受性*1が陽性、HER2*2が陰性

ルミナルB…ホルモン(内分泌)感受性が陽性、HER2が陰性(ルミナルAと比べて、がん細胞の増殖スピードが早いもの)

ルミナルB(ルミナルHER2)…ホルモン(内分泌)感受性が陽性、HER2が陽性

HER2陽性…ホルモン(内分泌)感受性が陰性、HER2が陽性

トリプルネガティブ…ホルモン(内分泌)感受性が陰性、HER2が陰性

1ホルモン感受性…女性ホルモン(エストロゲン)に反応する性質を持つこと。ホルモン療法による効果が期待される

2HER2…遺伝子の一種で、がん細胞の増殖にかかわるタンパク質。HER2陽性の乳がんでは、分子標的薬による治療効果が期待される

患者さんニーズに合わせた治療方針の決定

サブタイプ分類が確定したら、どのような治療を行っていくかを決定します。

ただし、「このタイプだから、この治療」という一律の治療の選択基準はありません。たとえば、HER2陽性タイプの場合には手術前に化学療法(抗がん剤治療)を行うことが多いのですが、妊娠を望む患者さんに化学療法を行うと、治療後に妊娠ができなってしまう可能性があります。そのため、この場合には、手術前後の期間に受精卵を凍結し、そのあとで化学療法を行う、という治療法が選択されることもあります。乳がんの治療を行ううえでは、患者さんのニーズをしっかりと把握しておくことが重要です。

化学療法(抗がん剤治療)の方法と副作用

化学療法(抗がん剤治療)は、がん細胞の分裂や増殖を阻害する治療で、手術治療との併用で術前や術後に行われます。

抗がん剤はがん細胞に限らず、分裂周期にあるすべての正常細胞に影響が及びます。そのため、副作用として脱毛や下痢、白血球(血液細胞の一種で、体を守るはたらきを持つもの)の減少などの短期的な症状から、長期的には心臓毒性や二次性白血病などがみられることもあります。また、抗がん剤そのものの副作用として、吐き気や体のだるさなどがみられることもあります。

ホルモン(内分泌)療法の方法と副作用

抗がん剤ががん細胞を直接攻撃することに対して、ホルモン(内分泌)療法はがん細胞が増殖するために必要な餌をブロックして、がん細胞の分裂を止める治療です。つまり、がん細胞を兵糧攻めにして冬眠に持ち込むような治療です。

具体的には、乳がん細胞が増殖するのに必要な「エストロゲン(女性ホルモンの一種)」をブロックします。そこで、閉経前の女性には卵巣から、閉経後の女性には脂肪細胞からのエストロゲンの分泌を止めることで、乳がん細胞の増殖を阻止します。

また、エストロゲンの分泌を止める治療ではなく、乳がん細胞とエストロゲンの結合を阻害するホルモン療法もあります。

(※エストロゲンについては記事1『乳がんの原因やリスクについて 乳がんを予防する方法はある?』をご覧ください。)

閉経後のホルモン療法で代表的な副作用は骨粗しょう症です。エストロゲンには骨を形成する役割もあるため、エストロゲンが不足することで骨の強度が低下し、骨粗しょう症となる場合があります。

また、閉経前のホルモン療法では、早期閉経による顔面のほてりや発汗、不眠などの症状がみられることもあります。

分子標的薬治療の方法と副作用

分子標的薬は、主にがん細胞を標的にして攻撃する治療です。たとえば、HER2陽性の乳がんはHER2に関連するタンパクを使用しながら増殖していく性質を持つため、HER2タンパクを標的にした分子標的薬を使用します。

また、分子標的薬は大きく「抗体薬」と「小分子化合物」に大別されます。抗体薬は細胞の表面にある物質を標的にする治療薬で、小分子化合物は細胞の内部(細胞膜から遺伝子のある細胞核までの伝達経路)を標的にする治療薬です。

分子標的薬は特定のものを標的にしているため、抗がん剤に比べて副作用の少ない治療薬です。しかし、分子標的薬のうち小分子化合物は、正常細胞の伝達経路も止める作用を持つことから、抗体薬よりは副作用が多い治療薬です。

乳がんの放射線治療

植村さん、佐野さん

放射線治療の目的

放射線治療はX線や電子線などを照射してがん細胞を死滅させる治療です。手術で乳がんを切除したとしても、目にはみえないがん細胞が残っている可能性があります。放射線治療を行うことで、そのようながん細胞の増殖(再発)を防ぐ効果が期待できます。

放射線治療までの流れ

放射線治療ではまず、放射線治療医の診察を受けたうえでCT撮影を行います。CT撮影で得られた情報をもとに、放射線治療医が照射範囲や線量を決定します。

また、CT撮影のときと同じ姿勢で実際に放射線治療を受けるため、患部側の腕が上がらないなどの問題があるときは、事前にリハビリテーションが必要になる場合もあります。

照射部位が決定したら、照射部位に専用のマーカーで印をつけるので、治療が終了するまで落とさないようにしていただきます。

放射線治療の方法

腕を上げた姿勢で放射線を照射します。放射線を照射中に痛みや熱さを感じることはありません。当院で1回の放射線治療にかかる時間(着替えから終了まで)は約10〜15分で、実際に放射線を照射する時間は1分程度です。

治療回数は患者さんによって異なりますが、週に5回通院していただき、合計25〜30回ほど放射線治療を受ける方が多いです。

放射線治療の副作用

放射線治療の副作用は、放射線を照射した部位だけに現れます。

なかでも、多くみられる副作用は放射線皮膚炎です。患者さんによって個人差はありますが、照射した部分が赤くなってヒリヒリしたり、日焼けのように黒ずんだりする方から、重症な場合には水ぶくれのようになることもあります。放射線皮膚炎は、放射線治療が終了すれば数週間で症状は改善する方がほとんどです。

また、放射線肺臓炎(放射線肺炎)が起こることもあります。放射線肺臓炎は、放射線治療から数か月後に現れる肺炎で、持続する咳や微熱が主な症状です。

 

1991年福島県立医科大学医学部卒業。横浜市立大学大学院に在籍中に、カルフォルニア大学・サンディエゴ校へ留学。留学期間中はGFP遺伝子の研究に携わり、世界で初めてGFP遺伝子を使ってがん細胞が転移する様子を確認することに成功。このGFP遺伝子の研究は2008年にノーベル化学賞を受賞した。(ボストン大学下村脩名誉教授)
帰国後は、乳がん治療の最前線に携わりたいという思いから、臨床医としての経験と技術を積み上げる。

横浜労災病院中央放射線部に所属。駒沢短期大学放射線科を卒業後、大学病院などで放射線技師としての知識・技術を積む。2009年からは、現在(2018年)の横浜労災病院にて勤務する。

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