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心房細動の治療法カテーテルアブレーションとは

心房細動の治療法カテーテルアブレーションとは
山城 荒平 先生

高槻病院 副院長、高槻病院 不整脈センター長

山城 荒平 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年05月10日です。

心房細動の症状を十分に改善させる治療法として、カテーテルアブレーション治療というカテーテル手術が行われています。カテーテルを心臓内部に挿入し、心房細動の発生部分を焼灼することで、発作性心房細動治療を行います。また磁気を利用することで、合併症の発生率をおさえることができるマグネティックナビゲーションシステムによるアブレーション治療も存在します。

今回は記事3『心房細動の治療法にはどのようなものがあるのか』に引き続き、社会医療法人 愛仁会高槻病院 副院長不整脈センター長の山城荒平先生に、心房細動に対してのカテーテルアブレーション治療の方法やメリット・デメリットなどについてお話をうかがい、マグネティックナビゲーションシステムによる実際のカテーテルアブレーション治療のお写真とともに解説いただきました。

カテーテルアブレーション治療とは、鼠径部(そけいぶ)内頸静脈(ないけいじょうみゃく)からカテーテルを心臓のなかに挿入します。そしてカテーテルを心筋に押し当て、熱を加えて熱凝固させることで心房細動を治す治療法です。

心臓カテーテル

発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションの治療方法はある程度確立されており、一般的に「肺静脈隔離術」という方法が選択されます。発作性心房細動は肺静脈(肺から血液が返ってくる静脈)周辺から期外収縮が起こることによって発症します。

心房細動のメカニズムについて詳しくは、記事1『心房細動の原因とは』をご参照ください。

そのため肺静脈隔離術では、肺静脈の周辺に熱を加え、送られてくる電気が心房のなかに入り込まないようにして、心房細動を治します。

アブレーションカテーテル

肺静脈隔離術には高周波電流で焼灼する方法や、ホットバルーンというお湯の入った風船を押し当てる方法、凍ったバルーンを使用する方法などがあります。また、上記の肺静脈隔離術に加え、心臓の自律神経節にも熱を与え焼灼することで、心房細動の再発率をより下げることができます。

持続性心房細動や1年以上持続する長期持続性心房細動では肺静脈隔離術のみでは成功率が低いことが知られています。しかし、心房細動中の心房を直接多点マッピングカテーテルを用いて心房内の電気的興奮を調べ、心房細動を維持しているローター(渦巻き状の興奮)を同定し、各患者さんにあったテーラーメイド治療を行うことで従来の方法に比べ、焼灼時間を短くすることが可能です。

近年はカテーテルアブレーション治療に加え、マグネティックナビゲーションシステムによるカテーテルアブレーション治療も存在し、高槻病院でも取り入れています。マグネティックナビゲーションシステムとは、患者さんの横に設置した磁石を遠隔で操作することにより、心臓のなかのカテーテルを的確な場所へ誘導し、焼灼する装置です。 

高槻病院のマグネティックナビゲーションシステム
高槻病院のマグネティックナビゲーションシステム
遠隔でマグネティックナビゲーションシステムを操作
遠隔でマグネティックナビゲーションシステムを操作

不整脈薬といった薬物や電気ショックでは、心房細動そのものを完治させることはできません。しかしカテーテルアブレーション治療は心房細動の原因に対して治療するため、症状が十分に改善する可能性があります。

心房細動に対しての薬物療法については、記事3『心房細動の治療法にはどのようなものがあるのか』をご参照ください。

合併症の危険性が低い

マグネティックナビゲーションシステムによるアブレーション治療で使用するカテーテルの先端は非常に柔らかくなっています。

先端が柔らかいカテーテルについて説明する山城先生
先端が柔らかいカテーテルについて説明する山城先生

そして遠隔操作によりカテーテルを1m単位で、角度は1℃単位で動かすことができるのです。 

細かくカテーテルを操作する様子
細かくカテーテルを操作する様子

そのためカテーテルを押し進める過程で心臓を傷つける心配が少なく、カテーテルの先で心筋を突き破ってしまう心タンポナーデの発生を抑えることが可能です。

滑らかな三次元画像をつくれる

心房内を焼灼する前に、どの部位に熱を当てていくかをマッピングする必要があります。そこで用いられるのが三次元マッピングシステムです。心臓の形態を三次元でコンピューターの画面に映し出します。 

三次元マッピングシステム
三次元マッピングシステム

またこの患者さんの心臓は事前に撮影したわけではなく、挿入したカテーテルの移動した形に沿ってリアルタイムでつくられたものです。三次元マッピングシステムを使用することで、医師が自分で作った形をもとに治療することができるため、よりスムーズの治療を進めることができます。

放射線被ばくが少ない

手術中の患者さんのレントゲン
手術中の患者さんのレントゲン

通常のカテーテルアブレーション治療は、レントゲンによってカテーテルの動きを確認しながら、心タンポナーデなどを起こさないように進めていきます。そのため患者さん、治療をする医師ともに放射線による被ばくが生じます。しかしマグネティックナビゲーションシステムによるカテーテルアブレーション治療では、カテーテルが柔らかく非常に細やかな動きが可能なため、レントゲンをみる時間が削減されます。その結果、放射線被ばくを受ける時間も短縮されるのです。

カテーテルアブレーション治療は発作性心房細動に対しての治療法が確立されているため、主に症状のある発作性心房細動の患者さんが対象となります。

持続性心房細動の患者さんは心房筋が線維化(硬くなること)や拡張を起こしているため、発作性心房細動の患者さんと比較すると、カテーテルアブレーション治療の手術成績は下がります。そのため手術の適応は難しくなります。しかし、手術をしてもすべての方が治らないわけではありません。持続性心房細動の患者さんにカテーテルアブレーション治療を実施する場合は、患者さんのなかでも心房細動の持続期間が3年以内の方が望ましいとされています。

マグネティックナビゲーションシステムによるカテーテルアブレーション治療の対象となる患者さんは?

心房細動の患者さんのなかでも焼灼場所へのアプローチが難しい方などは、カテーテルの先端が柔らかく、細かく操作できるマグネティックナビゲーションシステムによるカテーテルアブレーション治療が適しているといえます。高槻病院の場合、マグネティックナビゲーションシステムの利点がいきる症例において、すべてのアブレーション治療を行う患者さんの約70%に対して、マグネティックナビゲーションシステムによるカテーテルアブレーション治療を実施しています。

カテーテルアブレーション治療のもっとも多い合併症は、カテーテルを押し進める過程でカテーテルが心臓の筋肉に強くあたり過ぎてしまい、心筋を突き抜ける心タンポナーデです。また焼灼することによって心房のなかの温度が上昇し、小さな血栓(血液の塊)が発生することもあります。

そのほかにも、心臓の周辺には食道などさまざまな臓器が存在しており、心房を焼灼する際の熱によって障害されることがあります。たとえば食道に熱が伝わった場合は、心房と食道との間に連絡口ができてしまう左心房食道瘻(しんぼうしょくどうろう)という合併症を引き起こします。左心房食道瘻は重篤化すると命にかかわる危険な疾患です。

上記のような合併症を予防するためには、体のどこにどんな臓器があるのかを把握しながらカテーテルを挿入し、焼灼することが重要です。

カテーテルアブレーション治療を実施しても、すべての患者さんの症状が十分に改善するわけではありません。

心房細動を再発しても再手術が可能

カテーテルアブレーション治療は開胸手術などと比較し、低侵襲な治療法です。そのため心房細動を再発した場合でも、再手術を受けることが可能です。複数回カテーテルアブレーション治療を受けることで症状が十分に改善する患者さんもいらっしゃいます。

マグネティックナビゲーションシステムによるカテーテルアブレーション治療時の患者さんの様子
マグネティックナビゲーションシステムによるカテーテルアブレーション治療時の患者さんの様子

カテーテルアブレーション治療を実施することが決まると、血栓予防のために抗凝固薬の服用をはじめていただきます。その後、手術のプランを立てるためにCT撮影を行います。CT撮影に使用する造影剤は多少腎臓に障害を与えるため、高槻病院では腎機能が60%以上保たれている患者さんには造影剤を使用し、それ以下の方は造影剤を使わずにCT撮影を行います。

手術の合併症を未然に防ぐため、CT撮影では血栓の有無も確認します。血栓があるのかないのかはっきりと判断できなかった場合は経食道エコー*を実施し、もし血栓が発見された場合は手術を中止します。血栓がなかった場合は予定通りに手術を実施します。抗凝固薬は術後も服用を続けていただきます。

経食道エコー…口からエコーのついた管を飲み込み、心臓の様子を食道から観察する検査。

高槻病院ではカテーテルアブレーション治療を行う際、局所麻酔と静脈麻酔を併用したもの(深鎮静)と、全身麻酔の2種類を患者さんによって使い分けています。たとえば睡眠時無呼吸症候群*で呼吸が不安定な患者さんや、非常に複雑な心臓の形をしており長時間の手術が予想される患者さんなど、医学的に深鎮静が不向きと判断される方には全身麻酔を使います。また手術に恐怖心を抱いている患者さんにも全身麻酔を使用することが可能です。その他の患者さんには、深鎮静で手術を行っています。

睡眠時無呼吸症候群…睡眠時に何度も呼吸が止まる疾患。心臓に負担がかかるため心房細動の原因となり得る疾患でもある。

一般的な心房細動に対するカテーテルアブレーション治療の手術時間は、3時間から4時間程度です。発作性心房細動の場合は3時間弱、持続性心房細動の場合は3時間を超えます。心房が拡張して面積が大きくなっているほど治療エリアが広くなるため、手術時間は長くなります。手術直後は6時間程度安静にしていただき、その後は自由に歩いていただくことが可能です。

カテーテルアブレーション治療の手術後は鼠径部に管が挿入された痕が残っています。そのため1か月間程度は、激しい運動や重たいものを持つことは控えてください。

カテーテルアブレーション治療直後は、ある程度心臓に傷がついている状態です。そのため多少不整脈が出やすくなってしまいます。しかし術後不整脈がでたからといって、必ずしも再発したというわけではありません。手術がしっかりと成功した場合は、時間の経過とともに不整脈が治まっていきます。

肥満体形は心房細動を発症するリスクとなります。そのためカテーテルアブレーション治療の手術後も心房細動の再発予防のため、体重管理をしっかりとすることが重要です。手術後の患者さんにはダイエットに関する生活指導なども行っています。

心房細動の原因について詳しくは、記事1『心房細動の原因とは』をご参照ください。

また体重管理のためにも運動をすることは非常によいことです。しかしマラソンなど心臓に負担をかけすぎるスポーツは、逆に心房細動の再発リスクを高める場合もあるため注意してください。

高槻病院の場合、カテーテルアブレーション治療の術後の通院は、1か月後、3か月後、6か月後、12か月後といった間隔で定期的に通院していただいています。そして約2年間異常がなければ、ほぼ完治したといえるでしょう。遠方から手術を受けに来られた患者さんの場合、退院後は患者さんの地元の先生に診察をお任せし、再発や異常があった場合は高槻病院に連絡をしていただきます。

カテーテルアブレーション治療の費用は約200万円であり、患者さんが医療費を3割負担の場合は約60万円となります。しかしカテーテルアブレーション治療は高額療養費制度に該当するため、申請をすると実際に患者さんが負担する金額は平均して約10万円になります。高額療養費制度で支給される上限額は、所得によって異なります。

先生

心房細動の患者さんは、心房細動でない患者さんと比較すると、心不全を発症する確率は約5倍¹、認知症を発症する確率も高くなることがわかっています。その他にも血栓が発生し脳の血管に詰まった場合は、脳塞栓症など命にかかわる疾患を引き起こす危険性も考えられます。そのため心房細動は早期に発見し治療することが重要なのです。

そして2018年現在に存在する心房細動に対しての治療法で、心房細動を根本的に治療できるとされる治療法は、開胸手術を除けばカテーテルアブレーション治療だけです。近年は、心タンポナーデを起こす確率が低いマグネティックナビゲーションによるカテーテルアブレーション治療や、三次元マッピングシステムなどさまざまな新しい機械が開発されており、安全性も高まってきています。手術だからと怖がって選択肢を狭めず、検討してみてください。

カテーテルアブレーション治療の機械があったとしても、医師のスキルがなければ効果的な手術を行うことはできません。そのため私は「Catheter Ablation Course for AF(CACAF)」という、カテーテルアブレーション治療のライブデモンストレーションを企画し開催しています。

「Catheter Ablation Course for AF」の詳細につきましては、CACAFの公式HPをご参照ください

第10回目は2018年5月に行うことが決定しています。1人でも多くの心房細動の患者さんに効果的なカテーテルアブレーション治療を受けていただくことを目指して、医師の教育も精力的に行っています。

参考文献

  1. Atrial fibrillation and risks of cardiovascular disease, renal disease, and death: systematic review and meta-analysis. Odutayo A, Wong CX, Hsiao AJ, Hopewell S, Altman DG, Emdin CA.BMJ. 2016 Sep 6;354:i4482. doi: 10.1136/bmj.i4482. Review
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