疾患啓発(スポンサード)

弁膜症の手術方法―低侵襲心臓手術「MICS手術」とは?

弁膜症の手術方法―低侵襲心臓手術「MICS手術」とは?
大川  洋平 先生

社会医療法人 孝仁会 北海道大野記念病院 院長・心臓血管センター長

大川 洋平 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

心臓の弁が機能しなくなり血液の循環がスムーズに行えなくなる弁膜症は、手術治療やカテーテル治療など*の外科的治療によって根本的な治療を目指します。記事2『弁膜症の治療ー弁を整える「形成術」と人工弁を入れる「置換術」』でお話したように、外科的治療は弁の機能再生を図る「形成術」と人工弁を挿入する「置換術」とに分かれます。さらに手術治療では切開方法にも種類があり、身体のどこを切開し治療をするかによって、患者さんの心身の負担が異なります。2018年4月現在、胸骨正中切開といういわゆる「開胸術」の他に、より傷を小さくし、患者さんへの心身の負担を軽減することを目指した「低侵襲心臓手術(通称MICS手術)」も行われています。

今回は心臓手術の切開方法や術後の生活などについて北海道大野記念病院 院長・心臓血管外科・心臓血管センター長の大川洋平先生にお話を伺いました。

カテーテル治療……「カテーテル」と呼ばれる医療用の細い管を血管内に通して行う治療方法

弁膜症の手術はいつ検討される?

胸を押さえる人

症状のない方でも早期に治療が必要な場合がある

弁膜症を根本的に治療するためには、外科的治療やカテーテル治療などが必要です。特に息苦しさ、胸痛、失神などすでに症状があらわれている患者さんに対しては、早急な治療が必要とされます。

また、僧帽弁閉鎖不全症の場合には症状がなくても血液の多量の逆流がみとめられることがあるため、検査結果によっては手術治療を行うことが推奨されています。ただしこの場合の治療方法は、形成術が可能な場合には形成術を用いることが「弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン」で推奨されています。

形成術が第一選択となる理由として、形成術は患者さん自身の弁を温存できるため、置換術よりもワルファリンカリウム等の抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)の服用期間が短くて済むことや、人工弁に関連して起こる合併症が少ないということが挙げられます。また、弁を温存できるため術後の左室機能や生存率が良好であることからも形成術が推奨されています。

弁膜症は治療をせず放置していると、血流が悪くなることで心臓が拡大してしまい、症状がさらに悪化することが考えられます。また、1度拡大し、筋肉が伸び切ってしまった心臓は、弁膜症を治療してももとに戻らないことが多いため、心臓の筋肉が伸び切る前に早期に治療することが望ましいといえます。

弁膜症の手術の切開方法

切開方法は2つ

弁膜症の手術時には「胸骨正中切開」「MICS手術」と2つの切開方法があります。それぞれの切開方法に特徴があり、適応に合わせて切開方法が決定されます。まず、それぞれの方法について詳しくご説明します。

正中切開

胸骨正中切開

肋骨

胸の中心の皮膚と骨を切り開く

胸骨正中切開は、喉仏から胸の真んなかを通りみぞおちまでを縦に大きく切開して心臓を治療する方法です。心臓は肋骨と心膜に守られるように位置しているため、皮膚を切り開いたあと、その下の胸骨を半分に切り、「開胸器」という手術器具で左右の肋骨を広げた状態で心膜を切開し、治療に臨みます。

胸骨正中切開は心臓手術のなかでもスタンダードな切開方法で、心臓が術者の目の前にあらわれるため処置が行いやすく、急なアクシデントにも対応しやすいという特徴があります。一方、切開範囲が大きく、骨まで切り開くので、出血や痛みを伴い、感染症を引き起こすと重篤化する危険性もあります。また、服を着ても喉元から傷跡がみえてしまうことがあります。

MICS手術

胸腔鏡

低侵襲(患者さんの心身の負担が少ない)心臓手術

MICS手術はMinimally Invasive Cardiac Surgeryの略称で、日本語では「低侵襲心臓手術」などと呼ばれています。この切開方法では右胸の皮膚と筋肉を小さく切開し、骨を切らずに肋骨と肋骨の間から心臓を治療します。この際右側の肺のなかの空気を抜いて、機器が心臓へ到達するようにします。

MICS手術の特徴は何より切開範囲が狭く、骨を切らないことです。そのため、痛みが少なく傷跡が小さいほか、感染症などのリスクも軽減されます。一方で、術中は胸腔鏡と特殊な細い機器を使って治療を行うため、胸骨正中切開と比較すると処置が難しく、術者に高い技術が求められます。

切開方法はどのように選択される?

患者さんの血管の状態から判断される

弁膜症の手術では一時的に心臓の拍動を停止させる必要があるため、術中多くの場合で人工心肺装置を使用します。人工心肺装置とは、血管とつないで心臓の代わりに全身の臓器に血液を巡らせる装置です。

胸骨正中切開とMICS手術とでは、傷の大きさなどからMICS手術の方が患者さんへの負担が少ないと考えられることが多いため、手術時は可能な限りMICS手術での治療を検討します。しかし、MICS手術では切開範囲が小さいため人工心肺装置を直接心臓付近の血管につなぐことができません。

以上のような理由から、MICS手術では太ももの付け根にある大腿動脈と大腿静脈から人工心肺装置をつなぎます。そのため大腿動脈や大腿静脈の状態が悪く、この部分からの人工心肺装置の接続が困難な患者さんの場合には、胸骨正中切開、あるいはカテーテル治療など、別の治療方法が検討されます。

人工心肺

MICS手術で起きる合併症とは?

MICS手術は胸骨正中切開と同様、傷口からの感染症が懸念されますが、切開範囲が狭いこともあり、リスクは軽減されます。

MICS手術治療ならではといえる合併症としては「大腿動脈・大腿静脈のトラブル」や「肺水腫」などが考えられます。大腿動脈・大腿静脈のトラブルとしては、人工心肺装置をしたことによる動脈や静脈の損傷や、逆行性送血による大動脈解離が挙げられます。また、肺水腫は治療時に右の肺の空気を抜くために起きることがあります。

合併症……ある病気や、手術や検査が原因となって起こる別の症状

手術治療後のリハビリテーション

リハビリテーション

早期のリハビリが早期の回復を促す

弁膜症では、手術後極力早期にリハビリテーションを行うことで回復が早くなることが見込まれています。リハビリテーションを行うことにより、より早く退院できるうえ、退院したあとの生活能力も高くなるといわれています。

当院の手術治療では患者さんの状態に合わせて、手術の翌日以降からリハビリテーションを開始します。心機能や術後の様子によってリハビリテーションの内容は異なりますが、立ち上がったり、歩いたり、階段を登ったりといった、日常生活の動作を中心に行います。

入院期間は患者さんの状態によってもまちまちですが、一般的には胸骨正中切開より心身の負担が少ない、MICS手術を行った患者さんのほうが、入院期間が短くなる傾向にあります。

手術後、日常生活で気をつけることは

胸骨正中切開の場合、術後半年は重いものを持たない

胸骨正中切開によって手術を行った場合、当院では術後3〜6か月程度は重いものを持たない様に指導しています。これは、胸骨正中切開では胸の骨を大きく切り開くため、骨が完全に接着される前に重いものを持ち、力を入れたりすると、ずれてしまう恐れがあるためです。

治療方法によってワルファリンカリウム等の抗凝固薬の服用

記事2『弁膜症の治療―弁を整える「形成術」と人工弁を入れる「置換術」』でお話しましたように、弁膜症は治療後に血液が固まりにくくなる「ワルファリンカリウム等の抗凝固薬」という薬を長期的に服用する必要があるときもあります。服用期間は治療方法によって異なります。詳しくは記事2『弁膜症の治療―弁を整える「形成術」と人工弁を入れる「置換術」』を御覧ください。

治療の選択には患者さんやご家族の意志が大切

大川先生

これまでお話してまいりましたように、弁膜症の治療にはさまざまな方法や手段があり、ガイドライン上で定められていることもあれば、ご自身で選択ができる場合もあります。治療を決定する際には、患者さんやご家族にご理解いただいたうえで、その方にあった治療を選択することが大切です。

心配なことや、気になることがあれば、医師と相談するのがよいでしょう。