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冠動脈バイパス術(CABG)とは?適応や方法について

冠動脈バイパス術(CABG)とは?適応や方法について
安達 晃一 先生

横須賀市立うわまち病院 心臓血管外科 部長

安達 晃一 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年05月31日です。

私たちの心臓は、冠動脈を血液がスムーズに流れることで、絶えず動き続けることができます。しかし、何らかの原因で冠動脈が狭くなると、心臓を動かしている筋肉に血液をうまく届けることができず、心臓の機能が低下してしまいます。このとき、血行を改善させるために行うのが血行再建術です。今回は血行再建術のひとつである冠動脈バイパス術について、横須賀市立うわまち病院 心臓血管外科部長である安達晃一先生にお話を伺いました。

胸を押さえている人

冠動脈バイパス術(Coronary artery bypass grafting: CABG)は、狭心症心筋梗塞に対して行う血行再建術です。狭心症や心筋梗塞は、心筋(心臓を動かしている筋肉)に血液を供給している冠動脈が狭くなったり、詰まったりしてしまう病気です。すると、強い胸痛症状が現れ、最終的には心筋が壊死して突然死に至ることもあります。

冠動脈バイパス術では、体内にあるほかの血管(内胸動脈など)を冠動脈に移植し、血液の新しい通り道を作ります。道路での混雑を緩和するためにバイパスを作ることがありますが、これと同じように新しい血管を作り、心筋への血流の滞りを緩和させる手術です。

手術後は、もともとある冠動脈(狭窄している冠動脈)と新しく作ったバイパスの両方に血液が流れるようになります。

心臓バイパス術

バイパス術

狭心症心筋梗塞に対する血行再建術には、冠動脈バイパス術のほかにカテーテル治療があります。カテーテル治療とは、金属製の網目のステントを使って、狭くなっている冠動脈を内側から広げる治療法です。手首や太ももの付け根にある動脈からカテーテル(医療用の細い管)を通して行います。

カテーテル治療は患者さんの身体的負担が少ない治療のため、狭心症や心筋梗塞に対する治療の第一選択とされることが多いですが、適応とならない方には冠動脈バイパス術が選択されます。具体的には以下のような場合です。

<冠動脈バイパス術が適応となるとき>

  • 完全閉塞病変(冠動脈が隙間なく完全に閉塞してしまっていること)
  • 左冠動脈主幹部(左冠動脈の根元部分)の狭窄
  • 治療箇所が3つ以上ある場合

など

心臓の構造

冠動脈バイパス術には、心臓を止めたうえで人工心肺という体外循環装置をつけて行う「オンポンプ(on pump)CABG」と心臓を動かしたまま行う「オフポンプ(off pump)CABG」の2種類の方法があります。

近年多くの病院では、オフポンプCABGが主流となってきています。これは人工心肺を使わないことによるいくつかのメリットがあるためです。

<オフポンプCABGのメリット>

  • ヘパリン(血液をサラサラにする薬)の使用量が少なく、術後の止血時間が短縮できる
  • 術中の免疫力低下を防ぐことができる
  • 術後の回復が早い

など

これらのメリットから、国内における冠動脈バイパス術の約6割はオフポンプCABGで行われています。(日本冠動脈外科学会2016年統計による)

また、当院では基本的にすべての単独CABGの症例で、オフポンプCABGを行っています。

それでは、冠動脈バイパス術(オフポンプCABG)の具体的な流れについてご説明します。

冠動脈バイパス術は、一般的に胸(胸骨)の真んなかを大きく切る「胸骨正中切開」で行います。しかし、治療箇所が左冠動脈領域(左冠動脈前下行枝、左冠動脈回旋枝)だけにとどまっている場合や吻合する冠動脈の性状・位置などによっては、左胸を小さく切開して行う低侵襲冠動脈バイパス術(MID-CABまたはMICS-CAB)が適応されます。

冠動脈のバイパスに使用する血管を「グラフト」とよびます。グラフトに使用する血管は病変によって異なりますが、多くの症例で左内胸動脈が用いられます。これは、左内胸動脈のグラフト開存率が90%以上と非常に良好であることが理由です(術後10年間の成績)。

そのほか、下肢の大伏在静脈(だいふくざいじょうみゃく)胃大網動脈(いだいもうどうみゃく)などを使用することもあります。

また、前腕にある橈骨動脈(とうこつどうみゃく)を用いることもあります。しかし、腎機能が悪い患者さんの場合、将来的に人工透析用のシャントを橈骨動脈に作成する必要があるため、バイパスとして橈骨動脈を使用することはあまりありません。

心臓を止めずに行うオフポンプCABGでは、スタビライザーという医療器具を用いて心臓の一部を固定しながら手術を行います。

使用するスタビライザーは大きく2種類です。1つは心尖吸引器(しんせんきゅういんき)とよばれるもので、心尖部(心臓の先端)を吸盤のようなもので固定して、心尖部を軸に、術者がみたい方向に心臓を脱転(だってん)(ひっくり返す)させながら手術を行います。

2つ目は、吻合する場所を局所的に固定するスタビライザーです。このスタビライザーにはあらゆる形状のものがありますが、当院では以下のような形状のスタビライザーを使用し、術野の安定を保ちながら手術を行っています。

スタビライザー

冠動脈を切開して、切開部分に採取したグラフトを吻合(ふんごう)(ぴったりと縫い合わせること)します。このとき、冠動脈の切開部分から多量の血液が出るため、炭酸ガス(二酸化炭素)を吹きかけ血液を飛ばすことで、視野を確保しながら吻合を行います。

また、吻合中は冠動脈の血流が途絶えないようにするために、ビニール製のシャントチューブというものを冠動脈内に挿入して、血流を保ちながら手術を行います。

オフポンプCABGは心臓を止めずに手術を行うため、血管の吻合が終了した瞬間に冠動脈内に血液が流れ始めます。この時点で、きちんと血液が流れるかどうかを確認して、問題がなければ創部を閉鎖し、手術終了となります。

手術時間は、吻合する数や患者さんの状態などによって異なります。たとえば、当院では3〜4箇所の吻合を行うオフポンプCABGの場合、手術時間はおよそ4時間前後です。

胸骨を切り開く「胸骨正中切開」で冠動脈バイパス術を行った場合、胸骨に細菌が侵入することで、縦隔炎や胸骨骨髄炎などの術後感染症を発症することがあります。これらを発症すると、感染症治療のために長期間の入院治療を要することがあります。

特に、糖尿病や腎臓病の患者さんは術後感染症を発症しやすい傾向があります。これは糖尿病や腎臓病になると、感染に対する免疫力が低下するためです。

一般的には、手術終了時には金属製のワイヤーを使用して胸骨を閉鎖します。しかし、先述したような術後感染症の発症リスクが高いと考えられる患者さんには、胸骨をさらにしっかりと閉鎖できるチタン製のプレートを使用することもあります。

近年では、左小開胸の冠動脈バイパスも積極的に行っています。左小開胸の冠動脈バイパス術では、胸骨を切開しないため、縦隔炎などの感染症が起こることなく、早期の術後回復が期待でき、退院までの期間も短縮できます。

安達先生

冠動脈バイパス術を受けたあとには、再発の予防に努めていただきたいと思います。狭心症心筋梗塞は生活習慣が原因で発症することの多い病気です。そのため、再発予防のためにも生活習慣の改善は非常に重要です。

たとえば、日常的にたばこを吸っている方は禁煙を心がけていただき、糖尿病の患者さんは糖尿病治療をしっかりと受けていただくなどです。

そして、怠薬(たいやく)(処方された薬を飲まないこと)にも注意しましょう。主治医から処方された薬を欠かさず飲み続けることは、再発予防のためにとても大切なことです。

また、患者さんのなかには、家族のなかに狭心症や心筋梗塞を持っている方が多くいらっしゃいます。これは、生活習慣が同じであることが原因だと考えます。そのため、家族のみなさんを巻き込んで生活習慣を改善し、再発予防に努めていただきたいと思います。
 

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  • 横須賀市立うわまち病院 心臓血管外科 部長

    安達 晃一 先生

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