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脳動脈瘤の治療とは 経過観察と破裂防止の治療法がある

脳動脈瘤の治療とは 経過観察と破裂防止の治療法がある
片岡 丈人 先生

北海道大野記念病院 主任診療部長 兼 脳血管内治療センター長

片岡 丈人 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年07月25日です。

脳動脈瘤が破裂した場合、くも膜下出血を発症します。くも膜下出血を発症すると、約40%は死亡を含めた転帰不良の経過をたどります*。そのため、脳動脈瘤の破裂を予防する事が重要になります。破裂予防の治療法として、開頭クリッピング術と血管内コイル塞栓術があります。

今回は、社会医療法人孝仁会 北海道大野記念病院 脳神経外科主任教授の片岡丈人先生に、脳動脈瘤のそれぞれの治療法の特徴やリスクについてお話しを伺いました。

Edner G, Kagstrom E, Wallstedt L. Total overall management and surgical outcome after aneurysmal subarachnoid haemorrhage in a defined population. Br J Neurosurg 1992;6: 409-420

中高年の患者さんと医師が会話をしている

脳ドック学会が発表している未破裂脳動脈瘤のなかで破裂予防治療の対象となる方の基準は

・年齢が約70歳以下

脳動脈瘤の最大径が5ミリメートル前後よりも大きい

・その他の条件が手術の妨げにならない場合

の3つに該当していることです。

この基準が発表されたのは、2018年現在から20年以上前のことです。しかし、厚生労働省によると*2015年の時点での日本人の平均寿命は、女性が87.14歳、男性が80.98歳であり、20年前よりも上昇しています。現在の平均寿命から考えると70歳の患者さんの余命は、あと10年以上あるということになります。また、現在の70歳の患者さんは手術に耐えられる体力を持っている方も多いと思われます。そのため、「未破裂脳動脈瘤の治療対象基準を75歳くらいまで引き延ばしてもよいのではないか」という意見も上がっています。

また、脳動脈瘤の一部がさらに飛び出ているような形(不整形)の脳動脈瘤や、くも膜下出血を発症した家族歴*がある患者の場合は、脳動脈瘤の最大径が5ミリメートル以下の場合でも治療を実施することがあります。

厚生労働省が2016年に発表した平成28年簡易生命表の調査結果から。

家族歴…患者の家族や近親者の病歴や健康状態、死因などの記録。

不整形な脳動脈瘤

不整形な脳動脈瘤

また、脳動脈瘤が破裂しやすい・しにくい場所もあるため、できる場所によって治療適応になるかどうかが変わってきます。

首をかしげている中年の男性

未破裂脳動脈瘤の治療法は、経過観察、開頭クリッピング術、血管内コイル塞栓術の3種類です。開頭クリッピング術と血管内コイル塞栓術は、破裂を予防するための治療法です。そのため、余命が長いほど治療のメリットが大きくなり、年齢の若い患者さんほど治療を勧め、高齢者になるほど経過観察を勧める傾向にあります。

記事の最初に述べた破裂予防治療の対象基準に該当しない場合、経過観察の対象となります。もし、経過観察中に脳動脈瘤が大きくなってきたという場合は、破裂予防の治療を実施します。

開頭クリッピング術のイメージ

開頭クリッピング術のイメージ

開頭クリッピング術とは、開頭(頭蓋骨の一部を開く)をし、脳動脈瘤の根本の部分を金属製のクリップで挟み、血液を遮断する治療法です。全身麻酔を使用し行います。歴史の長い治療法であり、さまざまな工夫もされているため、施設によっては小さな切開で手術ができる場合もあります。術者としては、直接脳動脈瘤を目でみて確認しながら手術を行えるという点が利点です。また、血管の外側から脳動脈瘤の根本をクリップで挟み込んで止めるため、長期間良好な状態が保てるといわれています。

しかし、血管の周囲の神経や、動脈瘤に近接している血管を触らないと処置ができません。そのため、脳動脈瘤のある場所によっては技術的難易度が高くなり、合併症*を発症する可能性も高くなります。また、頭部を切開するため、術後に強い痛みがあるなど患者さんの心身への負担は大きくなります。

合併症…ある病気や、手術や検査が原因となって起こる別の症状

従来の血管内コイル塞栓術

従来の血管内コイル塞栓術

血管内コイル塞栓術とは、血管内治療*の1つです。患者さんの脚の付け根から血管のなかにカテーテル(医療用の管)を挿入し、頭部の脳動脈瘤が発生している血管まで持っていきます。そして、脳動脈瘤のなかにコイルを詰めます。それによって脳動脈瘤内に血液が流れ込まなくなるため、破裂を防ぐことができます。局所麻酔下で治療を行う施設もありますが、全身麻酔下での治療が一般的です。北海道大野記念病院では全身麻酔を使用します。

血管内コイル塞栓術は頭部を切開せずに治療を行うため、患者さんの心身への負担が少なくなります。術後の頭部の痛みも軽減され、術後早期の回復が期待できます。しかし、コイルだけを使用した従来のコイル塞栓術の場合、治療適応が制限される場合が多くなり、大型の動脈瘤の場合に開頭クリッピング術よりも再治療率が高くなる問題があります。

血管内治療…カテーテルを用いて、血管のなかから病気により変化が起こっている箇所に特殊な医療用器具を持っていき治療をする方法。

先にも述べたように、従来の血管内コイル塞栓術である脳動脈瘤のなかにコイルを入れる治療法の場合、コイルが血管内にはみ出してしまうなどの問題から治療適応に制限があり、動脈瘤の入り口が比較的狭い場合に多く実施される傾向にありました。

しかし、2018年現在ではコイルと共にステント*を併用することで、入り口が広い動脈瘤にも治療が行えるようになり、再発率を下げることが可能になっていると思われます。このため、脳血管内治療よって治療可能な脳動脈瘤治療の割合が上昇しています。

ステント…細い金属繊維で編まれた筒状の治療道具。

ステントを併用した血管内コイル塞栓術

ステントを併用した血管内コイル塞栓術

(血管内コイル塞栓術について詳しくは、記事3『未破裂脳動脈瘤の治療法 血管内コイル塞栓術について』をご参照ください)

未破裂脳動脈瘤の破裂を予防する治療法には、以下の合併症*が発生する可能性があります。

合併症…ある病気や、手術や検査が原因となって起こる別の症状

開頭クリッピング術・血管内コイル塞栓術どちらの治療法でも、考えられるもっとも大きな合併症は、脳梗塞脳出血、神経損傷が原因の後遺症です。手術中の出血や神経損傷、手術後に血栓ができることによって脳梗塞を発症すると、後遺症が残る可能性があります。

具体的な後遺症としては、感覚障害*、失語症*、運動機能障害*、意識障害などです。なお、どのような後遺症が発生するかは、障害を受けた場所により異なります。

感覚障害…感覚神経に異常が生じる障害で、触覚や痛覚などが鈍くなる。

失語症…脳の言語中核が傷つくことによって、言葉を上手く使えなくなること。

運動機能障害…手足や顔などの運動がうまく行えなくなること。

血腫とは、血液が腫瘍状になったものです。血管内コイル塞栓術の場合、脚の付け根の部分から、血管内にカテーテルを挿入します。そのため、穿刺部位の皮膚の下に一過性に血腫が発生することがあります。

脳動脈瘤が破裂し、くも膜下出血を発症した患者さんに対して、開頭クリッピング術と血管内コイル塞栓術のどちらが適しているのかを調べる検証試験が欧米で行われました(ISAT)。その結果(2002年10月に発表)、死亡・または重度の障害が残った患者さんの割合は、開頭クリッピング術の方が多いという報告がされました。開頭クリッピング術と血管内コイル塞栓術のどちらも選択可能な患者さんの場合は、血管内コイル塞栓術を選択したほうが予後がよいということです。そのため、北海道大野記念病院ではくも膜下出血を発症した患者さんに対しては、血管内コイル塞栓術を第一治療として選択しています。
 

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