院長インタビュー

クリニックと協力し、地域全体で1つの総合病院を作る-板倉病院の取り組み

クリニックと協力し、地域全体で1つの総合病院を作る-板倉病院の取り組み
梶原 崇弘 先生

医療法人弘仁会 板倉病院 院長

梶原 崇弘 先生

この記事の最終更新は2017年05月18日です。

千葉県船橋市の中心部に位置する医療法人弘仁会 板倉病院は、船橋市で長い歴史を誇る総合病院です。板倉病院では現在、船橋南部の医療環境を整えるために検診や予防、在宅医療の啓発などさまざまな取り組みが行われています。また外科医として活躍する傍ら、多くの病院では事務長が所持する病院経営管理士の資格も取得されている院長が、病院職員に対する職場環境の整備も直々に取り組んでいます。

今回は医療法人弘仁会 板倉病院の地域における取り組みについて、院長の梶原崇弘先生にお話を伺いました。

医療法人弘仁会 板倉病院は千葉県船橋市の繁華街である船橋市南部に位置する唯一の総合病院です。その歴史は船橋市でもっとも古く、1940年より今日まで続いています。開設当初は外科専門病院としてスタートした当院ですが、現在では16の診療科が診療にあたっています。私は5代目の院長として、2012年に父の後を継ぎ、院長に就任しました。

地域の方々

板倉病院は前述の通り歴史ある病院ということもあり、地域の方々が多く受診されています。外来診療で訪れる患者さんは1日およそ270名にものぼり、91床の病床は常にフル稼働で動いています。

また、患者さんの年齢層も以前はご高齢者がほとんどでした。しかし、医療設備の刷新や、市民講座・講習など地域に働きかけるさまざまな取り組みを行なった結果、現在では現役でお勤めされている若い方も4割ほど来院されるようになりました。このような患者さんの増加に応え、近年は従来のご高齢者に多い慢性疾患の治療や緩和だけでなく、40〜50代の働き盛りの方に必要な未病の観点からみた予防や治療にも力を入れ始めています。

地域の方々の健康を長期的に守るためには、病気になる一歩手前「未病」の段階で対策をしていくことが大切です。そのために板倉病院がまず始めたことは、検診の啓発です。検診を身近なものとして認知してもらい、敷居を低くすることで、地域の方々に定期的に検診を受けていただき、疾患を早期発見できるようにしています。

まず検診の啓発の第一歩として、検査結果を地域のクリニックで広く活用できるよう、当院で撮影したCTやMRIなどの画像を、提携するクリニックでもみることができる「カルナコネクト」というシステムを2017年に始動しました。現在すでに登録されている医療機関が14機関、さらに申請希望中のクリニックが10件以上あります。

このシステムを利用することにより、近隣のクリニックにかかっている患者さんに検査が必要な際、撮影したCTなどの画像データがクラウドサーバーを通して速やかにクリニックでご覧いただくことができます。

次に地域の方が定期的に検診を受けようと思えるよう、痛みの少ない内視鏡検査を導入しました。内視鏡という言葉を耳にすると、「痛そう」「辛そう」と感じる方も多いと思います。検査が痛いと、どんなに定期的な検診が大切だとわかっていても、なかなか重い腰が上がりません。

近年は、鎮静剤を利用した内視鏡検査も普及していますので、当院でも苦痛に配慮し、寝ている間に終わる痛くない内視鏡検査を行っています。

また当院では検診後の患者さんへのフィードバックを丁寧に行うことで、異常がなくても定期的に検診を受けることの重要性を伝えています。専門の医師からの丁寧な説明を心がけ、患者さんにご納得いただくことで、「来年もまた板倉病院で検診を受けよう」と思っていただけるように工夫しています。

前述の通り、当院を受診される患者さんの6割はご高齢者です。板倉病院では、ご高齢の患者さんの足腰が弱くなったり、病状が悪くなって病院に通えなくなったりしてしまったときにもサポートができるよう、訪問診療を行っているほか、地域の7つの在宅医療施設と提携し、強化型在宅療養支援病院としても活躍しています。

具体的な取り組みとして現在行っているのは、通院のできない外来患者さんに対する、必要に応じたソーシャルワーカーの介入です。当院で診療を受けているご高齢の患者さんの中には、足腰が弱く移動が困難になったり、認知症が酷く通院自体を忘れてしまったりして、予約したにもかかわらず病院に行けなくなったしまう方もいらっしゃいます。このようにさまざまな理由で患者さんの通院が2回以上困難になった場合、当院ではソーシャルワーカーの方に介入していただき、在宅医療の検討やサポートを行っています。

また、在宅医療を受けるためには介護申請が必要です。しかし、本当に在宅医療が必要な患者さんに限って、このような申請や在宅医療の存在そのものを知らない現状があります。これらの申請の仕方や在宅医療の認知を広め、通院ができずに困っている患者さんの手助けをすることも地域の病院の重要な使命だと自負しています。

梶原崇弘先生

私は板倉病院を選んで受診している患者さんが、「来てよかった」と安心してくださるよう、地域のホームドクターを目指して日々の診療にあたっています。それは私自身が船橋の古きよきあたたかいコミュニティのなかで育ってきたこともあり、船橋に貢献したいという思いが強くあったからです。

私は祖父も父も板倉病院の院長として活躍してきましたから、自分が医師になったときから、いずれ当院を継ぐことになるだろうということを意識していました。そしていつか来るそのときに備え、医療、病院経営、地域についてさまざまな視点で学んできました。そのなかで、この町のために板倉病院は本当に必要なのか、必要だとすれば、どんなことで必要とされるのかということを深く考えました。

まず私は「当院は船橋にとって必要である」という結論を出しました。船橋市はおよそ64万人の人口を抱える大きな都市ですが、病院は少なく、特に南部には急性期を担う病院が当院しかありません。ですから、船橋市南部を支えるためにこの病院を続けていこうと決心しました。

では、どのような病院にしていこうかと考えた際、地域のクリニックと協力して、船橋南部全体で1つの総合病院を作ろうと心に決めたのです。

船橋市は交通の便もよく、電車に乗れば30分前後で東京にも出られます。東京には規模が大きく有名な先生のいる病院がたくさんありますから、大きな疾患を抱えた患者さんの多くは都内まで足を伸ばして治療を受けます。

このような現状のなかで板倉病院や地域のクリニックに求められる医療とは何かを考えたとき、都心までの移動が難しい疾患をお持ちの患者さんや、少し相談したいことがある患者さんのニーズを満たすことこそ、私たちの使命なのではないかと考えました。板倉病院では、船橋市に不足している診療科を導入していくことで、地域で医療を受けたい患者さんのニーズに答えています。

当院では市で唯一のもの忘れ外来を中心に、脳神経外科、心療内科などが協力し、認知症の患者さんを総合的に診療しています。認知症の患者さんはご高齢の方がほとんどのため、生活も困難になりやすく、疾患にもかかりやすい側面があります。これらの患者さんを全面的にサポートできるよう、病院全体で治療に取り組んでいます。

また、認知症の疑いがありクリニックからご紹介いただいた患者さんに関しては、診断をつけた後再度患者さんをクリニック診療に戻すようにしています。これはよりご自宅に近く、馴染みのあるクリニックに通院することによって、患者さんの負担を削減することができるからです。

当院の腎臓内科はCKD(慢性腎臓疾患)の予防に注力しています。CKDは罹患、進行すると透析や移植が必要となる疾患です。高血圧糖尿病など、原因となる要因が明らかになっているにもかかわらず、十分な予防がされていないことが課題となっています。

そのため当院では、腎臓内科だけでなく、糖尿病科や眼科など複数の診療科が連携し、CKDの予防・啓発に努めています。ときには管理栄養士さんを招いて地域の方と腎臓病を防ぐ食事を作る講習会なども行っています。また、2018年2月にはCKD予防を重点的に取り入れた新しいクリニックを船橋駅前に開院する予定です。

また、2017年4月からは神経内科を増設し診療にあたっています。船橋市はパーキンソン病ジストニアなど神経内科の需要があるにもかかわらず、今まで診療できる病院が市内に2件しかなく、医療施設が不足していました。

当院が神経内科を開設したことにより、さらに多くに地域の方が近場で診療を受けられるようになることを期待しています。

医師看護師笑顔

病院の雰囲気を作るのはそこに勤める医師や看護師、職員たちです。患者さんが病院に来るときは体調が悪く、心身ともにナーバスになっており、病院の雰囲気をとても敏感に察知します。ですから私は病院の雰囲気を左右する職員の方々にも気持ちよく、よい雰囲気で働いてほしいと思っています。昨今はどの業界でも転職することが一般的になりつつありますが、私は板倉病院に勤める方々を終身雇用のつもりで迎え入れたいという思いがあります。

たとえば看護師の場合、全国的には平均して3年ほどで転職してしまうといわれています。転職する理由は給与面や他にやりたいことがあるなど多岐にわたるでしょうが、もし自分の職場を好きになれない、他所に行った方がまだマシと思われて転職されているとしたら、経営者としてとても悲しいことです。

ですから私は医師も看護師も職員も働きやすい病院を作るべく、職場環境の改善に全力で取り組んでいます。この取り組みの成果もあり、2016年度は職員が誰1人退職することなく過ごせたことを、大変嬉しく思いました。

私が職場環境の改善として近年始めたこととして特徴的なのは、医療業界初のカフェテリアプランです。企業にはさまざまな福利厚生がありますが、当院では働く人それぞれの年齢や家族構成に応じて、求められる福利厚生も異なるということに着眼し、カフェテリアプランと称する補助金を自由に使える制度を導入しています。

当院のカフェテリアプランでは1ヶ月5,000円分、年間60,000円分の補助金を職員それぞれの好きなことに使っていただいています。講習やエステなどご自身へ投資する方もいらっしゃれば、保育園やベビーシッター、介護の費用に使う方もいらっしゃいます。

板倉病院は高度急性期と呼ばれるような重症の患者さんを診る機会はそう多くはありませんが、この規模に合った医療を全力で行うという使命があります。そのため当院で働く医師や看護師に求めることは高度な技術以上に、ホスピタリティであると私は思っています。

ホスピタリティとは、相手の目線に合わせてコミュニケーションが取れることではないでしょうか。患者さんの辛さを汲んで治療にあたることができたり、患者さんのご家族や地域のクリニックの先生、他職種の方々ともうまくコミュニケーションが取れたりする能力こそ、地域の病院に勤めるうえで必要です。

私は板倉病院で働く医師や看護師の方に「家に帰ったとき、子どもの目をまっすぐ見られるような誇らしい仕事をしてほしい」と伝えています。医療従事者は、患者さんの命を預かる非常に誇り高い仕事です。その使命をきちんと果たし、自分の働きに自信が持てるよう、1つ1つの業務に責任をもって取り組んでほしいと思います。このように伝えると、職員も皆、生き生きと診療にあたってくれるように感じています。

梶原崇弘先生

板倉病院は船橋市南部にお住いの方々が医療で困ることなく、安心して過ごせるようこれからも精進していきます。ですから地域の方々には医療面で不安や気になることがあった際、ぜひ当院に気楽にご相談いただきたいと思います。

私たちは地域で1つの総合病院を目指しています。ですから、自分たちでは治療できない患者さんや、安心して経過をみられる状況の患者さんに対しては大きな病院や地域のクリニックなど適切な医療機関をご紹介することもできます。何か困ったときの相談の場として、いつでも受診をお待ちしています。

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