インタビュー

地域の中核病院として地域の方に愛される病院を目指す、海南医療センター

地域の中核病院として地域の方に愛される病院を目指す、海南医療センター
山田 陽一 先生

海南医療センター 名誉院長

山田 陽一 先生

この記事の最終更新は2017年10月30日です。

和歌山県北西部に位置する海南市に海南医療センターはあります。元々、診療所としてスタートした海南医療センターは、1945年(昭和20年)に市民病院となった後、結核病棟や感染症病棟の改築を経て、1957年(昭和32年)に総合病院として承認されました。以来、医療技術の向上に加え病棟数や医療設備の拡充をはかり、現在では地域の中核病院として地域の方々への高度な医療サービスの提供を行っています。「博愛と信頼」という理念のもと、「市民とともに新たなる進化を目指して」今日も続けられている海南医療センターの取り組みについて院長の山田 陽一先生にお話を伺いました。

外観

現在、和歌山県内では隣接するいくつかの市町村によって構成された7つの医療圏が設定されており、それぞれの医療圏内で高度な医療連携を目指した取り組みが行われてきました。海南医療センターのある海南市は、和歌山市・紀美野町とともに和歌山医療圏に属しており、上記3つの市と町による地域医療連携強化のための取り組みが日々行われています。

 

海南医療センターが属している和歌山医療圏には、和歌山市の日本赤十字社 和歌山医療センターと和歌山県立医科大学付属病院という2つの大きな病院が存在します。その2つの病院は、救命救急や高度先進医療を提供することが主な役割であり和歌山医療圏内だけでなく、和歌山県全域を担当するという形で医療提供が行われてきました。しかし、それだけでは医療を完結することはできません。

 

海南医療センターは、地域の急性期医療を必要とする患者さんを積極的に受け入れることで 和歌山医療圏における地域医療の中核を担っています。そのような中で、高度先進医療が必要な患者さんを大病院に紹介することや、当院での急性期治療が落ち着いた患者さんを地域の医療機関と連携をとり診療していくことも役割のひとつになります。当院の平均在院日数は14日ですが、この数字が海南医療センターの担う中核病院として役割を物語っています。

 

海南医療センターは、より良い地域医療連携の実現を目指すため、具体的な取り組みとして院内に在籍している常勤医師の専門分野を他の病院に向けて紹介するセミナーを開催しています。海南医療センターにどのような分野の医師が在籍しているのかということを近隣の医療従事者に知ってもらうことで、より円滑な医療連携を実現させることができるのです。

「海南地域総合診療セミナー」と題して開催されているこのセミナーには地域の開業医や他の病院の医師に参加いただいておりますが、セミナーを開催する以前と比べて連携は、明らかに円滑になっています。しかし、まだ多くの医師に参加いただいているわけではないため、今後どのようにセミナー参加者の輪を広げていくかという課題が残っています。

 

外来待合ホール

3つの市と町で形成された医療圏制度によって一見、うまくいっているようにみえる地域医療連携体制にも課題があります。そもそも県庁所在地である和歌山市には県を代表するような大きな医療機関が集中していました。そのため、和歌山市では独自の医療体制が確立されているという現状があるのです。隣接する市町村による医療圏体制が形成された後も、和歌山市独自の医療体制という垣根を他の市町村が乗り越えきれずにいます。

直近の課題として、今は別々になっている医師会と保健所の問題を挙げることができます。別々に管理・運営されている和歌山市と海南市の医師会や保健所の連携をより円滑にすることで地域医療の充実が期待できます。もちろん海南医療センターが単独で扱える問題ではありませんが、より多く話し合いの機会を持ちひとつひとつの課題を解決していくことで、さらに密接な地域医療連携の実現を目指しています。

 

海南医療センターの内科系診療は専門分野の垣根を超え、内科に一本化しております。そこには、在籍している内科医師全員で患者さんの全身をしっかりみるという海南医療センターの強いこだわりが隠されています。それぞれに異なる専門分野を持つ内科医が知識を結集させることで真に総合的な診療が可能になります。医師間で知識を密に共有し、補い合いながらひとりの患者さんと向き合うことで、海南医療センターは総合的な見地に立った質の高い内科診療を目指しているのです。

 

現在、日本各地で医師不足が叫ばれており、海南医療センターもその問題と直面している病院のひとつです。和歌山県全域が深刻な医師不足の問題を抱えており、患者さんの受け入れ体制や在宅ケアの面で十分な対応ができていないという状況にあります。

たとえば、海南医療センターでは医師の不足によって深夜帯の当直医師を1人しか確保できない状況が続いており、日中には必ず受け入れている急患を夜間にはなかなか受け入れられずにいます。そのような急患は、和歌山市の大きな病院が受け入れているものの、上記のような現状は重篤な症状を抱えた患者さんを、長距離搬送せざるを得ない事態になる可能性があり早急な改善が求められています。

 

医師不足によって、和歌山県全域において在宅医療が不十分な状態にあることも深刻な問題です。いつの時代も、できることならば住み慣れた我が家で療養期間を過ごしたいと考える患者さんは多くいらっしゃいます。訪問看護師や薬剤師、理学療法士、ケアマネージャーなど在宅医療にかかわる専門職の中核を担う医師が不足している現状では、十分な在宅医療を提供することが難しいのです。

 

和歌山県では医師不足にともなう医師の偏在という問題も抱えています。医師の偏在とは、専門医が不足している診療科がある状態です。つまり、すべての専門医が不足なくそろっている状態にないということです。特に、血液内科や膠原病関連の医師の不足が著しく、海南医療センターでは和歌山県立医科大学付属病院から血液内科は常勤医1名、膠原病関連は非常勤医を迎えるなどの対策をとっています。

上記のような医師不足がもたらす、さまざまな問題と直面しながらも海南医療センターでは最善の医療体制で患者さんを迎えられるよう、これまでに紹介してきたような取り組みが日々続けられています。特に医師不足は今、日本全体が抱える大きな問題であり一刻も早い解決が求められています。

 

総合受付

病院間や医師間の連携の円滑化をはかる、海南地域総合診療セミナーの他に、海南医療センターは市民の方向けの公開セミナーも開催しています。海南医療センターに在籍している常勤医師の専門分野を市民の方に向けて紹介することで、病院の存在を身近に感じてもらうと同時に病院との上手な付き合い方の周知につながることを目指しています。

「海南医療センター市民公開講座」と題して年に3〜4回程度開催されている市民の方に向けたセミナーには、150〜300名ほどの市民の方が参加しています。開催内容や時期などによって参加人数にばらつきはあるものの、地域の医療に関心を持つ市民の方を中心にセミナーを通して病院に対する認識が深まってきています。海南医療センターが市民の方から愛され、信頼される病院としてあり続けるためにこのセミナーはなくてはならない取り組みです。

 

海南医療センターでは、週に度院長が全入院患者さんを対象とした総回診を行っています。看護師や薬剤士、理学療法士、栄養士、社会福祉士、事務職員などの多職種で構成するメンバーとともに院長自らが行う回診は、病院内で各部局間の連携が円滑に進んでいるかどうか、また適切な処置が行われているかどうかを知る貴重な機会となっています。

さらに、院長自ら行う回診は、患者さんにとっても病院の責任者と直接対話ができる貴重な機会となっており、精神的に不安定になりがちな療養期間中の安心材料でもあります。これは全国的にみても総合病院では非常に珍しいものであり、地域の方から愛され信頼される病院づくりを目指す海南医療センターならではの取り組みです。

 

山田陽一院長

海南医療センターは、地域医療連携の強化や総合的な見地に立った内科診療、地域の方との対話などを通して、中核病院として信頼され、安心して患者さんに来てもらえるような病院づくりを行っています。

また、より強固な地域医療連携体制を構築することの重要性や、在宅医療拡充の妨げになっている医師不足の問題などの課題と真摯に向き合い改善の道を模索し続けている途中でもあります。

これまでに紹介してきた、さまざまな取り組みは、海南医療センターが掲げる「博愛と信頼」という理念のもと、「市民とともに新たなる進化をめざして」今日も続いています。医療は人々の幸せに直結する技術であり、その進化はすなわち地域の方の生活を進化させることにつながっているのです。