院長インタビュー

「第二次予防医療」を定着させ、「プリシジョン・メディスン」実現をめざす北斗病院

「第二次予防医療」を定着させ、「プリシジョン・メディスン」実現をめざす北斗病院
鎌田 一 先生

社会医療法人北斗 理事長

鎌田 一 先生

この記事の最終更新は2017年11月15日です。

社会医療法人北斗 北斗病院は、JR帯広駅から車で15分ほどのところに位置します。ベッド数は267床、診療科は29科を有しています。そのほか、十勝リハビリ支援センター(199床)、機能強化型老人保健施設「かけはし」(100床)、上士幌老人保健施設(50床)、サービス付き高齢者住宅「あやとり」(87戸)などを拠点に、地域の方々に特徴ある医療を提供しています。

同院がどのような理念に基づき、医療を提供されているのか、理事長である鎌田 一先生にお話を伺いました。

当院は1993年に、脳外科医師7名が集まり開院しました。

開設当時のミッション・ビジョンは「地域に開かれた医療の展開」です。

第二次予防医療を展開するために、患者さんが病院へいらっしゃることをひたすら待つのではなく、私たちが地域社会に出てゆくことを意味します。

第二次予防医療とは、病気が発症する前に診断し、治療するという考え方です。この医療を、日本人の3大死因である「がん」と「心臓病」、「脳血管疾患」において展開しようと考えたのです。これらの病気で命を落とされる患者さんが減るだけでなく、発症予防を通じて健康寿命も伸ばせると考えたためです。

私たち脳外科医が第二次予防医療の構築に向け挑んでいった背景には、頭のなかの動脈に5~7mm程度の瘤(こぶ)ができる「脳動脈瘤(りゅう)」という病気について語らなければなりません。この病気は脳外科医にとって長年、大きな壁として立ち塞がるものとなっていました。瘤があっても何の症状もないため、それが破裂して脳内に出血するまで診断されることはありません。出血してしまうと、4人に1人が亡くなります。また、緊急手術が成功しても、その後に脳血管攣縮(れんしゅく)など新たな問題が生じる患者さんも多く、社会復帰できる方は1/3程度になってしまいます。これがくも膜下出血という病気です。

脳血管撮影(造影剤を使用する)という検査をすれば、この瘤を破裂する前に見つけることは可能となります。しかし脳血管撮影検査は入院が必要であり、造影剤を使用し、放射線を浴びるなど、患者さんにかなりの負担がかかります。そのため、出血前の症状のない患者さんが、この検査に同意されるケースはほとんどありまでした。

1990年前半、そこに登場したのが、MRI(エム・アール・アイ)と呼ばれる診断機器です。入院は必要なく、造影剤も使わないで、被曝をすることもなく数分で検査を終了することができるようになったのです。その結果、瘤を破裂前に見つけ、治療することが可能となります。現在は治療技術も進歩していますので、開頭手術を行うことなく治療できる患者さんも少なくありません。

MRIを活用して脳動脈瘤の破裂を未然に防ぐ、これがくも膜下出血の第二次予防医療です。一方で、症状のない段階で診断される無症候性脳梗塞に関しても同様に捉え対峙して行きました。

第二次予防医療の対象は、まだ症状が現れていない方たちです。そのため、第二次予防医療を普及させるためには、地域住民の方々に、症状のない段階での検査がどれほど重要か理解していただく必要がありました。

そこで私たちは、毎日の臨床が終わると、啓発活動に出かけることにしました。地域の方々が集まってくださるのであれば、どこにでも手弁当で講演に伺ったのです。

そのような地道な活動が実り、行政の協力を得ることもできる様になりました。脳ドックへの補助金支給が決まり、地域の方々が少額の自己負担(5,000円程度)だけで、脳ドックを受けられるようになったのです。

これにより、さまざまな疾患が発症前に見つかり、大事に至る前に治療される様になりました。

当院立ち上げの翌年には循環器内科を設け、脳ドックだけでなく、心疾患に対する心ドックも開始しました。

さらに2003年には、PET(ペット)センターを設立し、がんドックも始めました。これは、がん細胞により多く取り込まれる薬剤を投与し、全身をPETカメラで調べます。1 cm前後のがん組織が存在すれば診断することが可能となります。ここに至り、がん、心臓病、脳血管疾患に対する「第二次予防医療」体制ができあがったといえます。

2005年8月には、アジア・太平洋地域ではじめて<強度変調放射線治療>の専用機である「トモセラピー」を導入しました。これはがん組織に放射線を集中的に照射し、正常組織への影響を最小限に抑えた放射線治療を可能とする治療機器です。以前から欧米に比較し日本では、がん患者さんに対する放射線療治療が十分に行われていませんでした。その要因として、副作用の多さなど、いくつかの課題がありました。その状況を打開すべく導入したのがトモセラピーです。2017年4月には2台目のトモセラピーを導入し、病院をあげて患者さんの負担の少ないがん治療に取り組んでおります。

2005年8月導入のトモセラピー
2017年4月導入のトモセラピー

「第二次予防医療」が定着したと判断したのち、2008年には、当院のミッション・ビジョンは「革新に満ちた医療への挑戦と新たなる組織価値の創造」へと再定立しました。

「革新に満ちた医療」として、当院がめざしている医療は「プリシジョン・メディスン(精密医療)」です。すなわち、病気の特性を画像診断による情報、遺伝子レベルで解析した結果得られる情報など大量のデータをビッグ・データとして集約し、AIなどで患者さんごとに解析し、その解析結果に基づいて最適な治療を探り、提供するという医療です。将来的には、プリシジョン・メディスン・センターを設立することを、めざしています。

このプリシジョン・メディスンを実践するため、当院では2012年、次世代型のがん遺伝子解析装置を導入しました。この機器は大学でも導入は珍しく、民間病院で所有しているのは、2017年現在では当院だけです。

この機器を用いると、がん細胞の出現に関わる遺伝子の変異を数日ですべて読み解くことが可能です。その結果に基づき、より適切な治療法の選択が可能になる患者さんがいらっしゃいます。数年後には、がん以外の治療にも応用されることが予想されます。

さまざまな診断機器から集約されてくるビッグ・データのなかでも、病理診断に関わるデータは重要です。これまで病理診断といえば、顕微鏡を用いた観察がメインでした。しかし当院では、病理画像をデジタル化し、診断する「デジタル・パソロジー」を導入しています。顕微鏡画像以上に詳細な情報が得られるだけでなく、画像を蓄積し深く解析できるところが強みです。蓄積した膨大かつ多様な病理画像を解析し、その後の病勢と対応させて解析すれば、病気に対する治療の適否を判断することが容易になると考えられます。

ロシアのウラジオストクに、当院の画像診断センターがあります。古くより現在の地にあったサナトリウムの1部を引き継ぐ形で、2013年に立ち上げました。画像診断センターにおける活動を通じて、第二次予防医療をウラジオストクでも展開して行くことをめざしています。

運営にあたっているのは全員、ロシア人医師・スタッフです。発足当初は画像診断医の教育を当院で行い、帰国後も経験が浅いうちは遠隔診断でバックアップしていました。

ロシアだけでなく、中国とも交流を作り出しています。中国医科大学から研修生を受け入れ、全員が日本の医師国家試験を受験し合格しています。研修生はロシアからも来ています。

「21世紀の医療は第二次予防医療が核になる」と確信し、病院を立ち上げ、医療活動を積極的に展開してきました。そして、24年の歳月が過ぎ去ってゆきました。

私たち社会医療法人 北斗が現在、活動の中心軸として捉えているものは「プリシジョン・メディスン・センター」の構築です。これを実現するため、全力で取り組んでまいります。

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