大腸がんの手術には、内視鏡手術と外科的手術があります。外科的手術には開腹手術と腹腔鏡下手術があり、がんの種類や浸潤度(周りの組織へ広がっている度合い)、患者さんの開腹歴や肥満などを考慮し術式を決定します。
今回は、東北ろうさい病院 内視鏡外科部長の松村直樹先生に、大腸がんの手術の種類とそれぞれの特徴などについて、お話を伺いました。
大腸がんに対して行われる手術には、以下の種類があります。
内視鏡手術とは、肛門から内視鏡(体の内部を観察・治療する医療機器)を挿入し、大腸内の腫瘍を切除する治療法です。お腹を切開する必要のない、患者さんの心身の負担が少ない治療法です。切除の方法は、内視鏡的ポリープ切除術、内視鏡的粘膜切除術、内視鏡的粘膜下層剥離術の3種類があります。腫瘍の大きさや形、部位などによって治療方法を決定します。
開腹手術とは、腹部を切開して行う手術です。結腸がん、直腸がんなど腫瘍が発生する場所によって術式が異なります。腫瘍の発生した大腸の部位とリンパ節を切除し、がんが浸潤している臓器があれば共に切除します。
腹腔鏡下手術とは、腹腔鏡という内視鏡を腹部に挿入し、腹腔内を拡大視しモニターに映し出しながら手術をします。
開腹手術と同様に、腫瘍の発生した大腸の部位とリンパ節を切除し、がんが浸潤している臓器があれば共に切除を行います。
腹腔鏡下手術についての詳しい解説は、記事5『大腸がんの腹腔鏡下手術 メリットや特徴について』をご参照ください。
腹腔鏡下手術では、鉗子(物をつかんだり引っ張ったりするための器具)と腹腔鏡を挿入するため小さな穴を5か所ほど開けます。開腹手術よりも手術の傷跡が小さい手術です。
姑息手術とは、病気による症状の緩和のために実施される手術です。大腸がんの場合は、バイパス手術や人工肛門造設術があります。バイパス手術とは、腫瘍により大腸が閉塞してしまった場合に行う手術であり、食べ物が迂回するための通路をつくります。また、人工肛門造設術とは、直腸と肛門を切除する場合や大腸が閉塞して便が通過できない場合、大腸や小腸を使い便の排泄口をつくる手術です。
大腸がんのステージ*は、がんの浸潤度やリンパ節転移の数によって、以下のように分類されます。
*大腸癌取扱い規約第8版(2013年)
ステージが高くなるほど重症度も高くなります。
上の図のように、大腸がんはステージによって治療法が異なります。ステージ0からⅠの大腸の粘膜にがんがとどまっている患者さんは、内視鏡手術の対象となります。深部浸潤のあるステージⅠからⅢまでの大腸がんは、外科的手術の対象となります。外科的手術には開腹手術と腹腔鏡下手術があり、大腸がんの種類や重症度を考慮し選択されます。ステージⅣの大腸がんの一部で外科的手術が可能なこともありますが、手術が困難な場合は、抗がん剤治療や放射線療法、対症療法(症状を和らげる治療)の対象となります。
2016年版の「大腸癌治療ガイドライン」には、がんの部位や進行度といった腫瘍側の要因だけでなく、患者さんの肥満度、開腹歴、術者の経験、技量を考慮し、術式を決定するという内容が記載されています。つまり、基本的にはガイドラインに準じた治療を行いますが、1人1人の患者さんの状態と手術を実施する医師の技量に応じて、その都度手術の種類を決定すべきということです。
大腸がんの手術による後遺症としてはさまざまなものがありますが、主に以下のものが挙げられます。
大腸がんの手術後は、腸とお腹の内側にある腹膜、腸と腸などに癒着が発生する可能性があります。皮膚切開をした後に癒着を起こすことは、生体の正常な反応といえます。しかし、癒着の度合いによっては癒着性腸閉塞*の原因になります。
*癒着性腸閉塞…外科手術後の癒着などによって腸管が狭くなり、内容物が詰まってしまう病気
大腸がんの手術では、がんが発生した部分の大腸を切り取り、正常な大腸同士をつなぎ合わせます。その際、つなぎ合わせた部分に不備があることを縫合不全といいます。縫合不全を起こした場合、つなぎ合わせた部分の隙間から便などの内容物が腹膜内に充満し、腹膜炎を引き起こす可能性があります。
大腸がんの術後早期には、便が出しにくいということや便秘感があると訴える患者さんもいらっしゃいます。そういった場合は、整腸剤を使用して便を軟らかくすることで解消することもあります。
東北ろうさい病院 外科副部長 内視鏡外科部長 内視鏡下手術センター長
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