インタビュー

汗をかくことができない病気-特発性後天性全身性無汗症とは?

汗をかくことができない病気-特発性後天性全身性無汗症とは?
横関 博雄 先生

東京医科歯科大学 名誉教授

横関 博雄 先生

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この記事の最終更新は2018年08月29日です。

特発性後天性全身性無汗症(とくはつせいこうてんせいぜんしんせいむかんしょう)は、汗をかくことができない無汗症のひとつです。この病気では、運動しているときや、高温の環境にいるときであっても汗をかくことができません。そのため、全身のほてり感や疲労感、吐き気や嘔吐、めまい頭痛など、さまざまな症状が現れます。さらに、熱中症になり重症化する可能性もあります。

今回は、無汗症の研究や診療に取り組んでいらっしゃる東京医科歯科大学医学部附属病院の横関 博雄先生に、特発性後天性全身性無汗症の原因や症状についてお話しいただきました。

特発性後天性全身性無汗症は、汗をかくことができない病気である無汗症のひとつです。この病気では、運動しているときや、高温の環境にいるときなどでも汗をかくことができないために、さまざまな症状が現れます。

たとえば、体のほてり感や体温の上昇、脱力感や疲労感、吐き気や嘔吐、めまい頭痛、動悸などが現れます。また、ピリピリとした皮膚の痛みや、小さな赤い発疹(コリン性蕁麻疹)が現れることもあります。さらに、熱中症やけいれんを起こし重症化する可能性もあります。

汗をかくことができない場所は、発症当初は手足など体の一部だけだとしても、徐々に全身に広がっていきます。

頭を押さえる若い男性

無汗症には、病気が遺伝する生まれつき(先天性)のものと、生まれつきでない(後天性)ものがあります。このうち、特発性後天性全身性無汗症は、後天性の無汗症のひとつです。また、そのなかでも原因が特定できず、さらに、低血圧など自律神経の異常に伴う症状が現れない点が特徴です。

特発性後天性全身性無汗症は、若い男性に多い病気です。

この病気は、幼児から高齢者まであらゆる年代で発症する可能性がありますが、なかでも10〜30歳代の若年の発症が多いことがわかっています。さらに、女性よりも男性の発症が多く、患者さんの8割は男性です。

2018年5月現在、特発性後天性全身性無汗症の原因は十分にわかっていません。しかし、汗腺(かんせん)にあるアセチルコリン受容体の異常が原因のひとつと考えられています。

汗は汗腺と呼ばれる器官から分泌されます。この汗腺にあるアセチルコリン受容体に、神経伝達物質であるアセチルコリン(神経刺激を伝える神経伝達物質のひとつ)が結合することによって、私たちは汗をかくことができます。この病気では、アセチルコリン受容体に異常があるためにアセチルコリンが結合できず、汗をかくことができないと考えられているのです。

さらに、結合できないことによって余ったアセチルコリンが元となり、小さな赤い発疹(コリン性蕁麻疹)が現れるといわれています。

特発性後天性全身性無汗症は後天性の無汗症のひとつであり、遺伝する可能性はないと考えられています。発症は突然であり、気づいたときには汗をかくことができなくなっていることが多いです。

私たちは、通常、汗をかくことで体温の調節を行っています。しかし、特発性後天性全身性無汗症では、汗をかくことができないために体温の調節が難しくなります。その結果、熱が体にこもってしまい、さまざまな症状が現れるのです。

これらの症状は、主に運動や入浴を行っているときや、高温の環境にいるときなど、本来ならば汗をかく状況下で現れます。たとえば、体のほてり感や体温の上昇、脱力感や疲労感、吐き気や嘔吐、めまい頭痛、動悸などが生じます。

日差しの強い野外

また、ピリピリとした皮膚の痛みが現れることがあります。さらに、コリン性蕁麻疹(じんましん)と呼ばれる小さな赤い発疹が現れることもあります。これらの痛みや蕁麻疹は、全身のあらゆる場所に現れる可能性があります。

また、合併症(ある病気や、手術や検査が原因となって起こる別の症状)としてアトピー性皮膚炎を起こすこともあります。

重症化すると、熱中症、手足の運動障害、意識障害、けいれんを起こすことがあります。これらは、特に高熱になったときに現れる可能性があるといわれています。

特発性後天性全身性無汗症では、一気に全身の汗をかかなくなるわけではありません。人によって汗をかかなくなる場所は異なりますが、発症当初は、手足だけなど体の一部であることがほとんどです。

しかし、病気の進行とともに、汗をかくことができない場所は徐々に全身へ広がっていきます。

特発性後天性全身性無汗症の進行のスピードは、患者さんによって異なります。進行のスピードが速い方もいれば、緩やかな方もいます。たとえば、進行が速ければ、発症から数か月で全身の汗をかかなくなることもあります。

そのため、この病気では早期治療が大切になります。進行が速いケースであっても、治療によって進行を抑えたり症状を改善したりできる可能性があるからです。記事2で詳しくお話ししますが、発症から1年以上経過すると治療による改善が難しくなることが多いため、なるべく早く病気を発見する必要があります。

特発性後天性全身性無汗症は、病気に気づくことが難しいケースが多いと考えられます。それは、汗をかく状況にならなければ症状が現れないからです。たとえば、事務仕事で運動をしない方であれば、汗をかく機会は少ないでしょう。

また、たとえ汗をかくような状況であっても、汗をかかない場所が体の一部である段階では、気づくことが難しいケースもあるでしょう。

しかし、汗をかくような状況で次のような症状が現れる場合には、無汗症の可能性を考えてみてほしいと思います。まず、運動や入浴をしているときに、ピリピリとした皮膚の痛みを感じるようなことがあれば、この病気の可能性を考えてみてほしいです。

また、汗をかくような状況で体がほてったり、脱力感や動悸を感じたりすることが度々あるようなら、この病気を思いだしてほしいと思います。

特発性後天性全身性無汗症の診断と治療に関しては、記事2『早期治療が熱中症などの重症化を防ぐ-特発性後天性全身性無汗症の診断と治療』をご覧ください。

  • 東京医科歯科大学 名誉教授

    横関 博雄 先生

    皮膚科の医師として、診療や研究に尽力。主に免疫アレルギー、膠原病、発汗異常症を専門としている。2005年には、東京医科歯科大学医学部皮膚科の教授に就任。日本発汗学会理事長を務めている。