転移性脳腫瘍の治療法には、放射線治療・外科手術・抗がん剤治療の3種類があります。それぞれにメリットとデメリットが存在するため、腫瘍の大きさや数、患者さんの状態や希望を考慮しながら、適した治療法を選択します。
今回は、転移性脳腫瘍に対する放射線治療・外科手術・抗がん剤治療の特徴について、医療法人伊豆七海会 熱海所記念病院 脳神経外科ガンマナイフ部長の中谷 幸太郎先生にお話をお伺いしました。
放射線治療とは、腫瘍に放射線を照射することで、腫瘍の増殖能力を抑制して縮小や消失を目指す治療法です。放射線治療は、主に腫瘍が小さい場合や腫瘍が複数発生している場合、また、合併症のリスクが高く外科手術が適さない場合に選択する治療法です。
また、外科手術で取りきれなかった腫瘍に対して放射線治療を行ったり、再発予防のために放射線治療を実施したりすることもあります。
放射線治療には、全脳照射と定位放射線照射の2つの方法があります。
全脳照射とは、脳全体に放射線を照射する方法で、2〜3週間、毎日照射を行います。全脳照射は、一般的に、腫瘍が脳内に11か所以上ある場合に選択されます。
全脳照射の場合、脳全体に放射線を照射するため、画像検査で発見できなかった微小な腫瘍も治療することができます。その反面、腫瘍以外の脳神経を含む正常な組織にも放射線を照射することになるため治療開始後の数週間(急性期)は、以下のような副作用が発生することがあります。
また、治療後6か月以降(慢性期)になると、脳の萎縮や脳組織の部分的な壊死*が認められることがあり、この場合には認知機能の低下などの治療後の生活に支障が生じる副作用の可能性があります。
さらに、全脳照射は正常な脳の組織への負担が大きいため、一般的には生涯に一度しか実施しません。全脳照射の治療後に腫瘍が再発した場合には、別の方法を選択します。
*壊死:細胞や組織が死滅すること。
定位放射線照射とは、腫瘍のみに絞って放射線を照射する方法で、一般的に腫瘍の数が脳内に10か所程度で、腫瘍の大きさが3cm径(体積で15㏄)以下の場合に適応されます。定位放射線照射を行う装置には、ガンマナイフ、サイバーナイフなどがあります。
定位放射線照射は、腫瘍に向かって集中的に放射線を照射するため、正常な脳組織への照射を極力減らすことができ、全脳照射で起こる危険性のある副作用を抑えることができます。また、全脳照射よりも短い期間(1日から数日間)で治療が可能です。
一方、画像検査で見つけられない微小な腫瘍には照射することができません。そのため、そのような微小な腫瘍が大きくなった後で発見された場合には、再度治療が必要になります。なお、定位放射線照射は繰り返し行うことが可能です。
放射線治療は開頭の必要がないことにより、患者さんの身体的負担を軽減できます。また、外科手術ではリスクの高い深部の腫瘍に対しても放射線では治療が可能です。
一方、先に述べたように、副作用として頭痛、吐き気や嘔吐、食欲不振、体力低下などの症状が現れることがあります。また、異常な量の水分が溜まることで脳が腫れる「脳浮腫」という副作用が現れる患者さんもいます。
転移性脳腫瘍に対する外科手術では、開頭して腫瘍を摘出します。外科手術は腫瘍のサイズが大きい場合や早急な治療が必要な場合などに選択されることが多いです。
また、先に述べたように腫瘍が複数存在する場合や腫瘍を全て摘出することで脳機能障害の危険性がある場合には、外科手術によりある程度腫瘍を摘出した後の残った腫瘍に対して放射線治療を追加で実施することがあります。
外科手術の場合、一度で腫瘍を取りきれれば根治的治療につながります。ただし、手術は全身麻酔で行うため、患者さんの体力や年齢、がんの病状などを考慮する必要があります。
また、腫瘍を摘出する際に起こりえるリスクが大きく2つあります。1つは、腫瘍のできている場所によっては、外科手術により摘出を行うことで麻痺や言語障害などの危険性があり、脳の神経を障害してしまうことです。障害を受けた部分の機能が低下すると、後遺症がでる可能性があります。もう1つは、手術の操作によりがん細胞が脳脊髄液の中に散らばってしまうこと(髄液播種)です。
転移性脳腫瘍には、抗がん剤が効きにくいといわれてきました。それは、多くの抗がん剤は、脳と血液の間にある血液脳関門という組織に阻まれ、脳の病巣までたどり着くことができず効果が期待できないからです。
しかし、近年は分子標的薬など抗がん剤の開発が進み、転移性脳腫瘍にも効果が期待できる抗がん剤も登場しています。そのため、腫瘍の大きさなど患者さんの状態を総合的に判断して、抗がん剤治療が選択される場合もあります。
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熱海所記念病院 脳神経外科 ガンマナイフ部長
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