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大動脈弁狭窄症の手術適応は?

大動脈弁狭窄症の手術適応は?
東京ベイ・浦安市川医療センター 心臓血管外科部長、虎の門病院 循環器センター外科特任部長 田端 実 先生

東京ベイ・浦安市川医療センター 心臓血管外科部長、虎の門病院 循環器センター外科特任部長

田端 実 先生

目次
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大動脈弁狭窄症とは、主に加齢に伴う動脈硬化により、心臓の出口にある大動脈弁が硬くなって開きづらくなる病気です。胸痛、息切れ、ふらつき、失神などの症状が出てきた場合は、突然死のリスクがあるため速やかに手術を行うことが望ましいです。そのほか、疲れやすいといったあいまいな症状が現れることもあります。

今回は、大動脈弁狭窄症の手術適応について、東京ベイ・浦安市川医療センター心臓血管外科の田端実先生にお話を伺いました。

大動脈弁狭窄症の手術適応

症状がある重度の方は手術を

息切れしている高齢者

息切れや疲れやすさ、たちくらみなどがあれば、年のせいと決めつけず、ぜひ医療機関を受診してください。心雑音が聴取されれば弁膜症を疑って、心エコー検査を行います。この検査の結果、大動脈弁の弁口面積が1cm2以下の場合、重度の大動脈弁狭窄症と診断されます。症状のある重度の大動脈弁狭窄症は、原則外科手術かカテーテル治療による人工弁置換が必要となります。少し歩いただけで息が切れてしまったり、失神を繰り返すなど、症状が強い方は突然死のリスクがあるため、速やかに外科手術またはカテーテル治療を行う必要があります。

現時点では、手術リスクの低い患者さんは外科手術、手術リスクの高い患者さんはカテーテル手術という選択方法が推奨されています(2019年4月時点)。手術リスクは、年齢や心臓の動き、心臓以外の臓器の状態、体力、過去に心臓手術や胸部への放射線治療を行っているかどうか、などを総合的に評価して判断します。極めて手術リスクの高い患者さんには、外科手術でもカテーテル治療でもなく、症状を和らげる緩和治療を選択することもあります。

短期的な成績としては手術リスクの低い患者さんでもカテーテル治療が優れているという研究結果も出ていますが、新しい治療であるカテーテル治療はまだ長期的な効果が分かっていません。したがって、現時点でカテーテル治療の適応となるのは高齢の患者さんがほとんどです(2019年4月時点)。

年齢や手術リスク以外にも、弁や血管の形状も治療選択をするうえで重要です。弁や血管の形状が外科手術に向いているかカテーテル治療に向いているかは、CT検査で評価します。大動脈弁狭窄症の治療選択をする際は、年齢、手術リスク、弁や血管の形状などを評価したうえで、当院では、さまざまな専門家の集まりであるハートチームで決定されます。

弁口面積:弁が開いたときの面積

高齢者はカテーテル治療(TAVI)が第一選択に

現在のところ高齢であっても手術リスクが低い場合は外科手術が推奨されていますが、前述のように短期成績においては手術リスクが低い患者さんに対してもカテーテル治療が優れているという研究結果が発表され、今後高齢者には手術リスクに関わらず、TAVIが第一選択になることが予想されます。

ただし、弁や血管の形状がTAVIに不向きな場合は、高齢者であっても外科手術のほうがよいこともあります。90歳であっても身の回りのことを自分でできるくらいの体力がある方は、外科手術後も元気に回復されることが多いです。

大動脈弁狭窄症の手術―大動脈弁置換術とは?

小切開での手術が可能

一般的な心臓手術は、胸の中央にある胸骨という骨を切って行いますが、右胸部を小さく切開して骨を切らずに行う方法(低侵襲心臓手術、MICS)もあります。大動脈弁置換術もMICS法で行うことができます。

傷んだ弁を取り除いて人工弁を縫い付ける

手術は、人工心肺装置を使って患者さんの心臓を止めて行います。心臓を止めるには、心筋保護液という一時的に心臓を止めるための薬を使用します。

傷んだ弁を体内に残すTAVIと違って、手術では傷んだ弁をすべて取り除きます。したがって、弁の形態に関わらず確実に人工弁に交換することができます。また、人工弁を針と糸で正確な位置に縫い付けるため、人工弁の脇漏れ(血液の逆流)や術後にペースメーカーが必要になることが少ないことも特徴です。

人工弁の種類

外科手術で使用できる人工弁にはカーボンで作られた機械弁とウシやブタの組織で作られた生体弁があります。カテーテル治療には生体弁しかありません。機械弁は耐久性が優れており、何十年も持つことが知られていますが、血をサラサラにするワーファリンという薬を毎日、一生飲み続ける必要があり、その薬による副作用のリスクがあります。

生体弁はワーファリンを飲み続ける必要がありませんが、人工弁の寿命は10~20年(大動脈弁に使用した場合)であることが知られています。そのため、若い方が生体弁手術を受けた場合、再手術が必要になることがほとんどです。一般的に2回目以降の心臓手術は難易度が上がりますが、1回目の手術で胸骨を切らないMICS法を行っていると、2度目の手術の難易度が下がります。また、傷んだ生体弁の中にTAVIで使用するカテーテル弁を入れる方法(Valve-in-valve, バルブインバルブ)があります。

バルブインバルブは身体への負担が小さい治療ですが、その長期的効果がまだ分かっておらず、現時点での適応は手術リスクの高い患者さんに限られています。

大動脈弁狭窄症のカテーテル治療-TAVIとは?

TAVIとは?カテーテルで行う心臓手術

TAVI(タビ)とは、「経カテーテル的大動脈弁留置術(植え込み術)」のことを指します。TAVR(タバー)と呼ばれることもあります。カテーテルを用いて、石灰化して傷んでいる大動脈弁の内側に人工弁を留置する治療です。脚の付け根の血管からカテーテルを入れる方法(経大腿アプローチ)が主流で、全身麻酔なしで行うこともできます。脚の付け根から心臓までの血管の状態が悪い場合は、鎖骨の下の血管や胸の血管から、または心臓に直接カテーテルを入れる方法もあります。

長期的効果がまだわかっていませんが、身体への負担は手術よりも非常に小さいため、高齢で手術リスク高い患者さんには第一選択となっています。今後手術リスクの低い患者さんにも適応が広がっていくことが予想されます。

TAVIについて、詳しくはこちらの記事『大動脈弁狭窄症の手術ーカテーテル治療「TAVI」について』をご覧ください。

侵襲的な治療で回復が見込めない場合は緩和治療を行う

非常に状態が悪く、手術やTAVIなどを行っても回復が見込めない方の場合は、症状を和らげるための緩和治療を行います。大動脈弁狭窄症そのものの治療は行わず、息切れなどの症状を薬で和らげます。緩和治療を含めた治療選択は、当院では、さまざまな専門家の集まりであるハートチームで検討され、患者さん本人・ご家族とよく相談のうえ決定します。

大動脈弁狭窄症の患者さんへ

大動脈弁狭窄症の外科的な治療には、多くの選択肢があります。外科手術かTAVIか、手術であればアプローチ方法は胸骨正中切開かMICS法か、また、手術の際に用いる人工弁は生体弁か機械弁か、TAVIであれば経大腿アプローチかその他のアプローチか、という感じです。

どの選択が適しているのかは、患者さんによって異なります。また、その判断は医師やハートチームによっても異なってくるのが事実であり、最適な選択ができるのは、すべての選択肢を有して、それをバランスよく行っている医師やハートチームだと考えます。

当院では、大動脈弁狭窄症に対してすべての治療オプションを提供しており、私個人としてもMICSを含めた外科手術とTAVIの両方を行っています。すべての治療を行うことでどの治療のメリット、デメリットにも精通して、偏りのない治療選択を提示できます。ぜひお気軽にご相談ください。