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対談 難聴と認知症のかかわりとは(前編)難聴は認知症発症に関わるリスクのひとつ
公開日 2018 年 11 月 14 日 | 更新日 2018 年 12 月 18 日
- 難聴
- 認知症


東京慈恵会医科大学 精神医学講座
繁田 雅弘 先生

慶應義塾大学医学部 耳鼻咽喉科 教授・診療科部長
小川 郁 先生
目次
歳を重ねると、周りの音が聞こえにくくなってきます。これは老化現象のひとつとして誰にでも起こりうることです。加齢にともなう難聴は、65歳以上で急増するという調査結果もあります。一方、65歳以上の認知症患者の割合は、2015年では15.5%(約6人に1人)で、今後は、さらに増加するだろうといわれています。
高齢者によくみられる難聴と認知症には、何らかのかかわりがあるのでしょうか。慶應義塾大学病院 耳鼻咽喉科の小川郁先生と、東京慈恵会医科大学 精神医学講座の繁田雅弘先生による対談をレポートします。
対談の後半については、記事2『対談 難聴と認知症のかかわりとは(後編)難聴に対する早期介入について』をご覧ください。
難聴と認知症の関係性とは?
難聴は認知症を発症するリスクのひとつ
小川先生:
現在、難聴と認知症の関係について、さまざまな研究が進められています。
2015年に厚生労働省が公表した「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)」において、難聴は認知症の危険因子のひとつとして挙げられています。
また、イギリスの医学雑誌ランセットによる国際委員会が、2017年に国際アルツハイマー病協会会議(AAIC)で行った発表では、認知症の危険因子のうち予防可能な危険因子は9つあり、その筆頭に難聴が挙げられました。
このように、難聴と認知症の関係は、徐々に明らかになってきています。そして、難聴への対策を早めに行うことで、認知機能の低下を少しでも遅らせることができるのではないか、という視点で社会的な注目が集まっています。
しかしながら、難聴と認知症を、単純にイコールで結びつけることはできません。
繁田先生:
おっしゃるとおりです。
難聴になると必ず認知症を発症するというわけではない
繁田先生:
認知症にはいくつかの種類があり、それぞれ原因が異なります。たとえば、認知症の中でもっとも多くの割合を占める「アルツハイマー型認知症」は、脳の中にアミロイドβというタンパクが蓄積することで起こります。
このアミロイドβの蓄積に、難聴が関係しているかというと、そうとは考えられません。つまり、「難聴は、認知症の原因となる事象に直接かかわりがある」とは考えにくいのです。それよりも、「難聴は、認知症の診断にかかわりを持つ」と考えるほうが自然です。
いくつかの研究では、高齢者の社会的な孤立(狭い範囲での社会関係、ひとり暮らし、他者との活動への不参加など)が、認知症のリスク増加や認知機能の低下に関係するといわれています。たとえば、難聴の方が、会話の相手に何度も言葉を聞き返すことをためらい、会話そのものに消極的になるとします。すると、その方は徐々に社会的な孤立状態となり、その結果、認知症のリスクが上がるということが考えられます。
小川先生:
難聴がもたらす高齢者の社会的孤立は怖いですね。さて、ここからは、先天性の聴覚障害を持つ子どもたちへの治療方法から、脳の認知機能への影響について考えてみましょう。
先天性難聴に対して早期に治療を開始することの必要性
脳の神経伝達回路の効率低下を防ぐことが重要
小川先生:
言語、記憶、思考、空間認知、情動などの脳が持っている知的認知機能を、高次脳機能といいます。聴覚も高次脳機能にかかわるといわれています。その理由は、脳内の聴覚伝導路の複雑さを考えてみると、わかりやすいかもしれません。
視覚の場合、目からの視覚情報が視神経を伝わり、視床にある外側膝状体と呼ばれる中継点にあるシナプス注1を経由し、視覚野に到達します。経由するシナプスはこの1箇所のみで、神経の伝達路は複雑ではありません。
一方、聴覚の場合は、耳からの聴覚情報が聴神経を伝わり、脳幹を経由したあと、7箇所のシナプスを経由します。このように、聴覚は、実に複雑な神経伝達回路を辿っているのです。
近年、先天性の聴覚障害を持つ子どもに対し、脳の言語中枢が可塑性注2によって失われる前に人工内耳を入れる手術が積極的に行われています。
我が国における小児人工内耳の適応年齢は徐々に低くなっており、2018年8月時点では、1歳以上(体重8kg以上)とされています。欧米ではさらに早く、生後8か月で人工内耳を入れる研究が行われています。
この研究には、外界からの聴覚刺激が減少している期間をできるだけ短くすることで、聴覚系の神経伝達回路の効率の低下を回避するという目的があります。
人工内耳の効果は個人差が非常に大きいためケースにもよりますが、早期に人工内耳を入れて適切にリハビリテーションを行った場合、特別支援学級ではなく通常学級に通えるくらいの聴覚を獲得できる可能性があります。
注1シナプス・・・神経細胞間において情報伝達を担う接合部位。シナプスは、電気信号を化学信号(神経伝達物質)に変換し、情報伝達を行う。
注2脳の可塑性・・・発達段階の神経系が、環境に応じて最適な処理システムを形成するために、よく使われるニューロンの回路の処理効率を高め、使われない回路の効率を下げる現象。発達期である乳幼児の脳において、顕著にこの性質が観察される。
先天性難聴と加齢性難聴、どちらも早期介入の必要性が高い
小川先生:
先天性難聴は、1000の出生数に対して1人の割合で生まれる、世界でもっとも多い先天性障害です。先天性難聴で生まれた子どもに対して、早期に小児人工内耳を使って治療を行い、聴力獲得ができるとしたら、その社会的な利益は非常に大きいと考えます。
繁田先生:
なるほど。もし先天性の聴覚障害を持った子どもが、人工内耳によってハンディを克服し通常学級に通えるとしたら、とても大きな価値がありますね。
聴力の回復に早期介入が必要であることを前提とするなら、先天性難聴の方が成人になってから人工内耳を装用した場合は、聴覚の獲得は難しいのでしょうか?
小川先生:
先天性難聴あるいは言語習得前に聴力を失って成人になった方の場合、生まれて初めて人工内耳から入る言葉の情報を手がかりにして、音声言語の神経機構をあらたに構築していく必要があります。失聴期間が長い方ほど、この構築のプロセスに大きな努力と長い時間を要します。また、人工内耳で聴こえる音よりも、手話や口話などのほかの言語理解手段を優先させることもあります。
繁田先生:
そうなんですね。先天性難聴に対する早期介入の必要性がよくわかりました。それでは、認知症にかかわる加齢性の難聴に対しても、早期介入が重要と思われますか?
小川先生:
そうですね。加齢性の難聴に対して、なるべく早期に介入して聴覚刺激を増やすことで、言語機能あるいは言語による情動といった高次脳機能を活性化できる可能性があると考えています。
逆にいえば、聴覚刺激が減ることで、脳内になにかしらの変化が起こるとも考えられます。実際、加齢性難聴の方には、脳の萎縮がみられることがあります。
繁田先生:
筋肉は使わないと衰えることと同じように、聴覚の神経細胞も刺激が少ない状態が続けば衰える、と考えれば、納得ができますね。
これまでのお話から、難聴と認知症のかかわりには、大きく2つの視点があると思いました。1つは、難聴が社会的な孤立につながり、認知症のリスクを増加させる可能性があるという視点です。もう1つは、難聴で聴覚刺激が減少することによって、脳内で何らかの変化が起こり、認知機能に影響を及ぼす可能性があるという視点です。
記事2『対談 難聴と認知症のかかわりとは(後編)難聴に対する早期介入について』では、本対談の後半をレポートします。
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難聴・認知症(小川郁先生・繁田雅弘先生)の連載記事
- 記事1: 対談 難聴と認知症のかかわりとは(前編)難聴は認知症発症に関わるリスクのひとつ
- 記事2: 対談 難聴と認知症のかかわりとは(後編)難聴に対する早期介入について

東京慈恵会医科大学 精神医学講座
繁田 雅弘 先生
認知症診療の第一人者。学会活動のみならず東京都認知症対策推進会議など都の認知症関連事業や、専門医やかかりつけ医の認知症診療の講習や研修に長く関わり、市民向けの講演活動も精力的に行なっている。

慶應義塾大学医学部 耳鼻咽喉科 教授・診療科部長
小川 郁 先生
聴覚医学の第一人者。専門は耳科学、聴覚医学、頭蓋底外科など。中耳炎に対する鼓室形成術をはじめとする聴力改善手術の他に、補聴器外来を担当し、難聴を抱える患者さん一人ひとりに適切な聴覚管理や補聴器装用指導を行っている。日本耳科学会理事長、日本耳鼻咽喉科学会副理事長、日本聴覚医学会理事などを歴任。現在、世界で初めてのiPS 創薬研究による感音難聴治療薬の医師主導治験の代表者を務めている。
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