インタビュー

鼓室形成術の方法-術後の生活はどうなっているの?

鼓室形成術の方法-術後の生活はどうなっているの?
染川 幸裕 先生

JR札幌病院 副院長 / 耳鼻咽喉科

染川 幸裕 先生

目次
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鼓室形成術とは、薬や外来の治療では治すことができない中耳疾患に対して行われる手術です。中耳の病巣を処理し、健全な中耳空間(中耳腔(ちゅうじくう))に戻すことを目的に行います。さらに音の伝わりを改善する効果も期待できます。

鼓室形成術は、具体的にどのような方法で行われるのでしょうか。また、術後に痛みはあるのでしょうか。今回は、JR札幌病院の染川幸裕先生に、鼓室形成術の方法や術後の生活についてお話しいただきました。

鼓室形成術の特徴に関しては、記事1をご覧ください。

鼓室形成術の術式

鼓室形成術は、真珠腫性中耳炎などの慢性中耳疾患に対して行われる手術のひとつです。記事1でお話ししたように、耳にできた病巣を処理し、感染を抑え、中耳の形を整えて感染の再燃を防ぐことを目的に行われます。細かい操作のため、手術用顕微鏡を用いて行います。

主に3つの術式に分かれる

鼓室形成術には、主に以下の3つの術式があります。

  1. 術後の中耳全体を観察しやすい形態にする術式(外耳道後壁削除・乳突開放型鼓室形成術)
  2. もとの耳の形のなかで病巣を処理する術式(外耳道後壁保存型鼓室形成術)
  3. 中耳を観察しやすい形態にして病巣を処理し、その後で生理的な耳の形に戻す術式(外耳道後壁削除・再建型鼓室形成術)

鼓室形成術に対する考え方

1.術後の中耳を観察しやすい形態にする術式

 

 

観察しやすい形とは、耳の穴を覗いたときに、病巣を処理した部分が見える形態のことです。

真珠腫性中耳炎の場合、遺残性再発(真珠腫が残っていて再び大きくなる再発)を生じても、耳の穴をのぞけば見えるので発見が早くなりますし、処理もしやすいので重症化しなくてすむと考えられています。しかし、生理的な耳の形でなくなるため、奥に耳あかや汚れがたまりやすく、新たに別の感染病態を生じてしまう可能性もあります。

2.生理的な耳の形の中で病巣を処理する術式

一方、もともとの生理的な耳の形の中で病巣を処理した場合には、新たな汚れを生じる可能性は低くなります。

しかし、手術の時に視野や操作するスペースが限られるため、病巣の処理が不十分になってしまうことがあります。また、新たな中耳疾患や再発が発生したときに発見が遅れてしまうこともあります。

3.中耳を観察しやすい形態にして病巣を処理し、その後で生理的な中耳の形に戻す術式

お話ししたように、①と②の術式は互いの長所と短所が表と裏の関係にあります。そこで、これらの長所と短所を補うために③の術式があります。JR札幌病院ではこの術式を基本として手術を行っています。

内視鏡を使用した鼓室形成術も

また、近年は内視鏡を使用して鼓室形成術を行うこともあります。病巣が限局し感染がない状態であれば、外耳道から内視鏡を入れてTVモニター画面を見ながら手術を行い、小さな傷ですむような術式(経外耳道的内視鏡下耳科手術)です。

ただし、きめ細かい反面、操作できる範囲は限られるため、手術中に病巣がこの術式で処理できる範囲を超えていると判断された場合や出血が多い場合には、手術用顕微鏡を使用した先述の3つの術式に変更することになります。

鼓室形成術にリスクはある?

内耳性聴力障害、味覚を感じる神経や顔面神経に影響がでることも

鼓室形成術は空気の振動を内耳に伝える構造がある中耳の病巣を処理する手術です。鼓室形成術では骨を除去するためにドリルを使用しますが、ドリルが耳小骨に触れてしまうと、激しい振動が内耳に伝わり内耳性聴力障害を生じてしまいます。

また、手術では内耳の窓に付いているアブミ骨の周囲の病巣を処理することもあります。従って、一つ一つの操作が内耳に負担をかけないよう、常に細心の注意を払いながら手術を行います。

また、鼓膜のすぐ裏には、味を感じる鼓索神経が通っています。手術操作の過程でこの神経が損傷されると、術後に味の感覚がおかしいと感じたり、舌がしびれてしまったり、味覚を感じられなくなる可能性があります。これらの症状はある程度回復する可能性はあるものの、鼓索神経に損傷を与えないよう注意することも大切です。

さらに、耳の中には顔面神経も通っています。当然のことですが、顔面神経を損傷しないように手術操作を行います。

鼓室形成術の入院期間と術後

病室

患者さんの病態によって異なります。たとえば穿孔性中耳炎や癒着性中耳炎で鼓膜を形成した場合、鼓膜として移植した組織(筋膜あるいは骨膜)に血流が再生して自前の鼓膜となります。

しかし、血流が入るまでは分泌液により耳が汚れやすく、この状態を放置して感染を生じてしまうと血流が入りにくくなります。このため、この期間は感染を生じないように毎日クリーニング処置をすることが大切です。再生する血流が増えるにつれて分泌液は減り、ほぼ2週間で耳内は乾燥するようになります。

JR札幌病院では入院期間は臨機応変に対応

鼓室形成術術後のための入院期間は、手術を行う施設の考えによってさまざまです。

私たちJR札幌病院では、術後1週間で耳後部の傷から抜糸します。抜糸後は、1日1回、処置する時間さえとっていただければ、必ずしも入院の必要はなく外来治療でも可能ですが、この時期は術後の耳をきれいに仕上げる大切な期間であるため、耳内がほぼ乾燥化する2週間程度を入院期間にしています。

ただし、体は元気であるため、小さいお子さんがいる患者さんであればお子さんの面倒を見るために暫時帰宅される方もいますし、学生さんの場合は朝に耳処置を受けてから学校に通って病院に戻ってきてもらうこともあります。一方、遠方で通院できない方は、耳の処置が必要なくなってから退院していただくこともあります。

 

経過観察のため定期的な受診を

鼓室形成術後は、定期的な受診が大切です。特に真珠腫性中耳炎は、再発の可能性がある疾患です。再発しないよう注意して手術を行っていますが、経過観察も大切になります。JR札幌病院では、退院後、1週間〜10日後くらいに受診してもらい、その後、1か月後、3か月後、半年後というように徐々に間隔をあけていきます。

術後2年が経過したら、経過観察は年に一回程度で構わないので受診をお願いしています。

この間隔であれば、もし術後の耳に問題を生じていても外来処置で解消できることが多いですし、もし対処できない場合でも短期間の入院体制による修正手術で解決可能と考えています。

染川幸裕先生からのメッセージ

術後、患者さんの耳が良好な状態を維持するために

 

鼓室形成術を行うにあたり、患者さんがこれまで不快な思いをしていた耳の状態に終止符を打ち、さらに術後の耳が生涯にわたり良好な状態を保つことを目標にしています。ある意味、鼓室形成術を受けることは、患者さんにとって人生の重要なイベントといっても過言ではないと思います。

このため、患者さんには、できるだけ余裕のある日程を調整し、その中で手術を受けていただきたいと願っています。また、特に真珠腫性中耳炎の場合は、再発などの問題もありますので、術後の経過観察が重要となります。忙しいとは思いますが、術後の定期的な受診にも都合をつけていただきたいと願っています。