院長インタビュー

公的病院の使命を持ち、医療提供や医師育成に尽力する福岡市民病院

公的病院の使命を持ち、医療提供や医師育成に尽力する福岡市民病院
桑野 博行 先生

地方独立行政法人福岡市立病院機構 福岡市民病院 院長

桑野 博行 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年11月13日です。

福岡市民病院は福岡県福岡市博多区に位置し、地域医療の充実を目指して日々尽力しています。同院の運営母体は2010年に地方独立行政法人化し、より地域や行政に求められる医療を提供することができる病院として新たな取り組みを開始しました。公立病院としての使命、そして地域や行政に必要とされより力を入れている取り組みについて院長の桑野博行先生にお話を伺いました。

福岡市民病院外観(福岡市民病院よりご提供)

福岡市民病院は、1928年、旧筑紫郡粕屋町と千代町の福岡市合併をきっかけに移行した「市立松原病院」を起点としています。その後1989年に現在の地に新築移転し、地域医療の提供、充実に尽力しています。2010年には病院運営の形態が地方独立行政法人となり、「地方独立行政法人福岡市立病院機構 福岡市民病院」として新たなスタートを切り、地域に不足している医療提供の充実化を図っています。

当院では、福岡県の保健医療計画における5つの疾患のうち、がん脳卒中心筋梗塞糖尿病に対する高度専門医療の提供に力を入れるとともに、地域特性により患者が多い腎臓や肝臓に発生する疾患に対応しています。また、福岡市病院事業運営審議会から「高度救急医療を担うべき」との答申を受け、救急医療への対応も強化しています。

そのほかにも若手医師の教育、新興感染症の対応にも公立病院としての役割としてスタッフ一丸となって尽力しています。

食道がんの手術中(福岡市民病院よりご提供)
SCUチームのカンファレンスの様子(福岡市民病院よりご提供)

救急患者さんの受け入れでは、当院は2次救急病院ですが、2.5次救急までの重症例を積極的に受け入れ、治療にあたっています。その中でも、脳卒中心筋梗塞の診療に対して力を入れています。そのため、当院では2003年に脳神経・脳卒中センター、2006年にハートセンター(循環器内科)、2010年にSCU(注)、2011年にCCU(注)、2016年に脳神経血管内治療部を開設しました。CCUやSCU、脳神経血管内治療部を開設したことにより、心疾患や脳卒中に対する治療提供の幅が広がり、地域の救急医療を支えることに貢献できているのではないかと思っています。

また、2013年の救急科の開設、2014年の救急診療棟の新設等、救急患者の受け入れ体制強化にも取り組んでいます。

脳血管内治療の様子(福岡市民病院よりご提供)

当院では、各診療科の医師とともに看護師やリハビリテーションスタッフなど多職種がカンファレンスを実施し、患者さんにとってよりよい治療、そして術後早期から、急性期のリハビリテーションを提供できるようチーム医療を展開しております。

今後、地域の高齢化だけでなく、糖尿病などの脳卒中の危険因子に該当する疾患を持つ方が増えてくることが予想されます。脳卒中や循環器疾患への適切な対応のため、適正な人員配置等の受入体制を強化し、地域の救急医療の充実に貢献していきます。

SCU…脳卒中ケアユニット
CCU…冠動脈疾患集中治療室

当院では、若手医師を積極的に受け入れ、今後の医療を担う医師の育成に力を入れています。そのため大学と密接な連携を取り、医師の専門性や現在までのキャリアに応じて医師を受け入れ、研修しています。市民病院はさまざまな症状の患者さんが来院します。糖尿病や高血圧の治療をしながら、別の疾患をきっかけに来院することもあります。そのため、単一の疾患だけでなく、さまざまな症例を経験するきっかけが増え、医師として多くの経験を積むことができると思います。

また、診療科をローテートすることで、各診療科の医師と交流する機会が増えます。ほかの診療科で研修しているときでも気軽に質問や相談ができるほど、診療科同士の垣根が低く、若手医師への教育に熱心な医師が多く在籍しています。

西日本豪雨、被災地への医療派遣(福岡市民病院よりご提供)

地域に不足している医療の提供や感染症対策に加え、大規模災害に対する支援も公立病院が担っていく使命のひとつと考えています。当院でも大規模災害が県内外で発生した際に、スタッフを派遣し現地での災害支援を行っています。たとえば、1995年に発生した阪神淡路大震災や2005年の福岡県西方沖地震、2007年の新潟県中越沖地震、2011年の東日本大震災、また2016年の熊本地震には発生直後から延50名のスタッフを派遣しました。東日本大震災では、博多の地から福島県への派遣はアクセスが難しいこともありましたが、スタッフの安全に十分配慮しつつ時間をかけて現地へ向かいました。

2018年7月の西日本豪雨災害の際には、医師会の要請に基づくJMATの一員として、医師や看護師等のチームを派遣しています。

感染症シミュレーション訓練の様子(福岡市民病院よりご提供)

当院の位置する博多区は福岡空港や博多港が近隣にあります。福岡空港はアジアの玄関口とも言われ、訪日外国人も多く利用しています。そうした空港や港が近いこともあり、新興感染症が海外から持ち込まれることが予想されることから、検疫所と合同で患者搬送訓練等も実施しています。また、当院は2014年に「第2種感染症指定医療機関」の指定を受けるとともに、2015年には新型インフルエンザ等対策特別措置法における指定公共機関に指定されています。指定医療機関としての役割を果たすとともに、都市型の公立病院の使命として、感染症対策に尽力しています。

2009年に新型インフルエンザが流行した際には、当院も一部病棟を閉鎖し、また発熱外来を設置するなどの対応を行いました。今後も新興感染症の対応が必要になる可能性は十分考えられます。行政との密接な連携のもとに、感染症対策に積極的に取り組んで参ります。

福岡市立病院機構が運営する医療機関は当院のほかに福岡市立こども病院があります。同院は小児高度専門医療、周産期医療、小児救急医療を三本柱としています。胎児期から小児期までをこども病院で担い、成人期の診療を当院が担うことで地域に切れ目のない医療の提供が可能です。行政や地域のニーズに応えるためにも、こども病院とのさらなる連携が不可欠になります。

各病院の課題はそれぞれが解決のために尽力していますが、病院機構が必要と判断した取り組みや、市立病院として市民のために実施していく方針を共有しています。機構内の病院で連携体制を強化することで、より行政や地域のニーズに応えることができると考えています。

当院は地域の皆さまをはじめ、行政など数多くの方々の支えがあって成長してきた病院です。運営形態の地方独立行政法人化や診療の拡充など、皆さまのご理解とご協力がなければ病院の存続はなかったと思っています。常に地域とともに歩んでいく病院を目指していますので、当院の地域における役割をご理解していただきながら、多くのご意見をいただきたいと思います。

社会のニーズや病院に求められる形態は変動していきます。地域や行政のニーズをいち早く取り入れ、ニーズと病院の在り方を認識しながら心のある医療を展開していける病院を目指して尽力してまいります。

知識を深め、技術を磨き、心優しく患者さんに寄り添うことができるような医師を目指してください。医師という職業に就いたからには、一人の社会人として立派な医師になってほしいと思います。外科や内科をはじめとした多くの診療科において、それぞれに学ぶべき知識と、磨くべき手技があると思います。さらにそれに加えて、学問をする姿勢も重要です。それらを身に付けた一人の立派な社会人として、医師という職業に就いてください。