鼠径ヘルニアは、基本的に手術による治療が必要な病気です。手術にはさまざまな術式があり、たとえば腹腔鏡を用いた手術は、傷が小さく痛みも少ないといった特徴があります。主治医とよく相談してから治療を受けることが大切です。
今回は、腹腔鏡手術を中心に、鼠径ヘルニアの治療の特徴や注意について、湘南厚木病院 外科部長である寺島孝弘先生にお伺いしました。
鼠径ヘルニアは、お腹の中から見ると穴が空いていて、そこに腸が出たり入ったりしている状態です。治療の際は、その穴を修復するために「メッシュ」という人工のナイロンで編んだ網のような素材を用い、筋肉の隙間を塞ぐ手術を行います。
(1)鼠径ヘルニアの症例です。腹腔内からみると、ヘルニア門(穴)を確認することができます。
(2)内視鏡のひとつである腹腔鏡を用いた手術です。手術は腹膜を切開して行います。
(3)腹膜を切開したところにメッシュを敷いて、穴を塞ぎます。
(4)切開した腹膜を縫合して、鼠径ヘルニアの手術は終了です。
メッシュは、一度入れたら基本的には入れっぱなしにしておきます。非常にやわらかい素材ですのでほとんど違和感がなく、入れたままでいても体に対する影響はないとされています。
鼠径ヘルニアでは基本的に手術による治療を行います。症状が出ているのであれば、どのような方でも手術の適応*になります。実際に手術を受けるかどうかについては、ご本人と相談したうえで決めることになりますが、鼠径ヘルニアは自然に消えたり治ったりすることがありません。根本的に治療する方法は手術だけですから、鼠径ヘルニアと診断された方は手術を考慮するとよいでしょう。
また、鼠径ヘルニアを治療しないで放っておくと、腸の一部が飛び出したまま戻らない「嵌頓」という状態になる可能性があります。そのため、ある程度若く、よく活動される方に関しては、そこまで症状が強くなくてもいずれは手術をしたほうがよいでしょう。
手術の適応…手術を行うことができると見込まれる状態のこと。
手術には複数の種類があり、大きくは「腹腔鏡手術*」と、足の付け根部分に直接切開をする「従来法」という二種類に分けられます。
治療の結果そのものに関しては、腹腔鏡手術でも従来法でも差はありませんが、湘南厚木病院では、傷が小さく術後の痛みが減らせる腹腔鏡手術を第一選択に考えています。
腹腔鏡手術…腹部に開けた穴から内視鏡の一種である腹腔鏡を挿入して行う手術。
腹腔鏡を用いた手術は、なるべく小さな傷で治療が可能です。湘南厚木病院では、おへその部分に約1cm、下腹部の左右にそれぞれ約5mmの穴をあけて、計3か所の傷で治療を行っています。
下腹部の両側に鼠径ヘルニアがあって同時に手術する場合でも、同じ傷を利用できます。また、傷が小さいことから、術後の痛みをなるべく減らすことができます。
鼠径ヘルニアの治療として腹腔鏡手術を実施する病院は少しずつ増えていますが、従来法と比べると、腹腔鏡手術はやや難しい方法です。湘南厚木病院では2014年から腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術に取り組み、症例数を重ねてきました。経験を積んだ術者が在籍して、腹腔鏡手術を安心して受けていただけるような環境づくりに力を入れています。
従来法では全身麻酔と下半身麻酔のどちらでも行うことができますが、腹腔鏡手術では必ず全身麻酔を行う必要があります。しかし、全身麻酔とはいっても、なるべく短時間で手術を終わらせることは可能です。湘南厚木病院では積極的に日帰り手術を行っており、ご本人の状態がよければその日のうちに、あるいは長くても一泊して翌日の午前中には帰ることができます。
鼠径ヘルニアが両側にみられる場合、腹腔鏡手術であれば同じ日に手術をすることが可能です。従来法で両側の鼠径ヘルニアを治療する場合、左右2か所ずつの切開が必要になりますが、腹腔鏡手術の場合はへそに1か所と下腹部に2か所ある同じ傷を利用して治療できることが特徴です。
従来法は、鼠径部と呼ばれる足の付け根部分を直接切開して行う手術です。多くの種類があり、代表的な方法としてはメッシュプラグ法が知られています。当院で従来法を実施する場合は、リヒテンシュタイン法やクーゲル法で手術を行います。
従来法の手術術式の種類は、穴を修復するメッシュの形や、メッシュをどこに縫い付けるかといった違いにより分類されています。切開する部分の大きさや場所は、いずれの手術術式でもほとんど違いはありません。
湘南厚木病院では腹腔鏡の手術を第一に考えていますが、腹腔鏡手術が難しい場合は従来法で手術を行うなど、患者さんの状況やヘルニアの状態に応じて手術方法を選択しています。
たとえば、過去に腹部の大きな手術を受けていてお腹の中に「癒着*」ができている場合、腹腔鏡手術は難しくなります。ただし、癒着の程度によっては可能な場合もありますので、主治医と相談することが大切です。
癒着…手術後に器官や組織がくっついてしまうこと。
鼠径ヘルニアは、まれに緊急手術を必要とする場合もありますが、症状が強く出ていなければそこまで治療を急ぐ必要はありません。病院に来たらすぐ手術しなければならないということはなく、手術日を調整することは可能です。たとえば、お休みがとれる時期などに手術の日程を合わせるとよいでしょう。
湘南厚木病院では、日帰りや一泊での腹腔鏡手術を積極的に行うなど、入院期間の短縮に努めています。当院で行っているほかの手術との兼ね合いにもなりますが、なるべく患者さんの希望される日程に応じて、たとえば休みがとれる日にあわせて手術を行えるようにしています。ご希望がある方に関しては、なるべく早く手術日を設定しますので、お気軽にご相談ください。
鼠径ヘルニアの診断がついたら、術前に全身の状態を確認するため、主に血液検査、レントゲン検査、心電図検査、肺活量の検査、心臓の超音波検査(心エコー)を実施します。
たとえば高齢者の場合は、これらの検査に加えて、手術に耐えられる体力があるかどうかを考慮します。一般的には、日常生活を送れるくらいの体力があれば手術は可能です。
湘南厚木病院では、子どもから高齢者まで鼠径ヘルニアの手術を行っており、特に年齢制限は設けていません。
手術をせず経過観察となった場合、ご本人の症状を第一に考えます。症状に変化がないようでしたら、それほど頻繁に再受診する必要はありません。また、繰り返し超音波検査をしても、嵌頓しやすい状態であるかどうかは分からないため、ご自身で様子を見ていただいて差し支えありません。
ただし、「腸の出ている部分が大きくなっているな」「違和感が強くなっているな」と感じたときは、早めに受診していただければと思います。
腸が飛び出したまま戻らない嵌頓*と呼ばれる状態では、長時間経過して腸が壊死していなければ、体の表面から優しく押し込む処置によって元に戻すことができます。そのあとは、通常の鼠径ヘルニアと同様の手術を行います。
基本的には、嵌頓に気づいてからその日のうちに受診していただければ、大きな手術を行うことはほとんどありません。たとえば嵌頓に気づいたのが夜中であっても、翌朝まで待とうと思わずに、救急車やタクシーを利用して速やかに受診してください。
嵌頓…腸の一部がヘルニアの通り道にはまり込んで、中に戻らなくなってしまった状態のこと。
もしも嵌頓した腸が壊死していたら、腸を切除してつなぎ直す必要があるため、小腸の部分切除といった、通常の鼠径ヘルニアとは異なる緊急手術を行います。小腸の部分切除は、腹腔鏡手術でも、お腹を切り開く「開腹手術」でも、どちらでも行うことができます。
鼠径ヘルニアの手術は保険内で受けることができます。2018年9月時点、3割負担の場合では、従来法の手術費は18,000円、腹腔鏡下ヘルニア手術の手術費は68,880円です(平成30年診療報酬点数より)。受診時にかかる実際の費用は、術式、入院の有無、麻酔方法などによって異なります。
また、嵌頓で受診された場合、腸が壊死していたら手術の内容が異なりますが、腸が壊死していなければ通常の手術となるため、費用に大きな違いはありません。
一般的に手術は怖いというようなイメージがありますし、実際に手術を受けるのはハードルが高く感じられると思いますが、鼠径ヘルニアの手術は傷が小さく、術後の痛みも少ないという特徴があります。湘南厚木病院では、日帰りあるいは一泊での手術を積極的に行っているため、それほど長いお休みをとる必要もありません。あまり心配せず、まずは診断を受けて詳しい手術の内容等を聞いてみてから、手術について考えていただくとよいのではないかと思います。
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湘南厚木病院 外科 部長
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