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QOLを重視した脳神経外科治療(前編)−髄膜腫、聴神経腫瘍、下垂体腺腫

QOLを重視した脳神経外科治療(前編)−髄膜腫、聴神経腫瘍、下垂体腺腫
坂田 勝巳 先生

横浜市立大学附属市民総合医療センター 脳神経外科 部長

坂田 勝巳 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年12月28日です。

脳神経外科では、脳や神経にかかわるさまざまな病気を扱っています。横浜市立大学附属市民総合医療センター 脳神経外科では、患者さんのQOL(Quality of life:生活の質)を重視し、治療を行っています。本記事では、前編として、髄膜腫聴神経腫瘍下垂体腺腫に対する脳神経外科治療について、同院の坂田勝巳先生にお話を伺います。

後編は、こちらの記事をご覧ください。

当科では、病気だけをみるのではなく、患者さん一人ひとりの人生や背景をふまえて、QOL(Quality of life:生活の質)を重視した治療計画を行い、ニーズに合わせた医療を提供することを目指しています。

ここでいう「QOLを重視する治療」とは、具体的には、①豊富な手術解剖の知識・経験に基づき、できる限り合併症を抑えた安全性の高い手術を目指し、②新しいモダリティ(機器や技術)を積極的に取り入れた治療を意味します。

もちろん、すでに何かしらの症状が出ている場合、それを完全に元に戻すことは難しいこともありますし、どんなに安全な治療を目指したとしても合併症が100%防げるわけではありません。

しかしながら、病気や治療の合併症によって、生活に支障をきたす状況をできる限り回避すべく最善を尽くす必要があります。患者さんの立場になれば、当然のことです。

QOLを重視する=手術をしない、ではなく、数ある治療法の中から、患者さんのQOLをできるだけ維持する治療を適切に選択し、治療を遂行することが重要だと考えます。

私は、アメリカのアーカンソー州立大学に留学時代、アルメフティー教授とヤシャギル教授に師事し、自身の手術哲学に大きな影響を受けました。その経験が、この「QOLを重視する脳神経外科治療」という考え方につながっているのだと思います。

米アーカンソー州立大学 留学時代 アルメフティー教授、ヤシャギル教授と

脳腫瘍には、さまざまな種類があります。腫瘍の大きさや発生部位によって、さまざまな症状を呈する可能性があります。そのため、良性の脳腫瘍に対する治療では、機能をできるだけ温存するための治療戦略を立てる必要があります。

たとえば、脳腫瘍によって視神経が圧迫され、視力視野障害などの症状が出ている場合には、手術で腫瘍を切除し、視力の回復を試みます。すなわち、QOLを重視する脳神経外科手術を実践するためには、手術計画や実際の手術において、豊富な手術経験に裏付けされた正確な判断が必要不可欠となります。

良性の脳腫瘍としてもっとも多い「髄膜腫(ずいまくしゅ)」に対する治療として、大きな腫瘍の場合は、手術による切除が第一選択となります。一方、脳深部や海綿静脈洞などの頭蓋底の比較的小さな腫瘍には、ガンマナイフ(病巣部にガンマ線を集中照射させる放射線治療)による治療や経過観察を選択することがあります。

髄膜腫とは、脳を覆う髄膜(硬膜・くも膜)から発生する腫瘍を指し、その多くが良性です。腫瘍が大きくなると、脳や神経などを圧迫し、さまざまな症状が現れます。腫瘍が大きくなるまで症状は出にくいのですが、近年では、頭痛や頭部外傷脳ドックなどをきっかけにCTやMRIといった画像診断を受け、無症状のうちに発見されるケースが増えています。

髄膜腫は、良性かつ手術できれいに切除できるものであれば、予後は決して悪くありません。また、髄膜腫は比較的血行豊富な腫瘍であり、術中出血も予想されます。当院では易出血性で大きい腫瘍に対して、血管内治療チームと連携し、術前にカテーテルによる腫瘍血管塞栓術を施行し、手術中の出血を減らし安全に手術を行う取り組みをしています。

ところが、良性腫瘍とはいえ、腫瘍が頭蓋底部に発生し、脳神経や内頚動脈などの重要血管を巻き込むと、手術の難易度が上がります。このようなケースでは頭蓋底手術のテクニックが必要になり、手術顕微鏡を用いた顕微鏡下微小手術、ナビゲーションシステムなどの手術支援機器を駆使して治療を行い、原則的には全摘出をめざします。

しかし、腫瘍が重要構造物に浸潤している例では、手術による合併症を回避するために、あえて腫瘍の一部または被膜(腫瘍を包む膜)を残し、術後、MRIなどの画像検査による注意深い経過観察、またはガンマナイフやサイバーナイフなどの定位的放射線治療による後療法を検討することもあります。

どこまで攻めるか・どこを残すかを術中に判断するには、経験に裏付けされた正確な判断が必須となります。

聴神経腫瘍とは、聴神経を包む細胞から発生する腫瘍です。病理学的には良性のものが多く、ほとんどが神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)(シュワン細胞由来の良性腫瘍)といわれています。初期症状として、耳が聞こえにくい、耳鳴りやめまいなどが多くみられます。

また、突発性難聴を呈した患者さんで、MRI等の検査を行うと腫瘍が見つかる場合があります。

聴神経腫瘍

一般的に、聴神経腫瘍は、手術で摘出することで治癒します。しかし、腫瘍の周辺には、ほかにも多くの聴神経、小脳、脳幹があるため、それらの機能をいかに温存するかが手術のポイントになります。

基本的には手術が第一選択になりますが、腫瘍の大きさや患者さんの状態によって、定位的放射線治療(ガンマナイフなど)を選択したり、併用したりすることがあります。

できるだけ機能を温存するために、顕微鏡下手術のテクニックに加えて、術中の聴神経や顔面神経モニターが重要とされています。当院でも、術中に脳神経モニタリングを用いて、機能温存を目指した手術を行っています。

下垂体腺腫とは、下垂体という頭蓋底の中央にあるホルモンの中枢から発生する良性の腫瘍です。一般的に、ホルモンを過剰に分泌する腫瘍(機能性腺腫)と、ホルモンを分泌しない腫瘍(非機能性腺腫)に分類されます。

機能性腺腫の場合、産生するホルモンの種類によって症状が異なります。

  • プロラクチン:乳汁分泌や無月経
  • 成長ホルモン:末端肥大症(靴や指輪のサイズが合わなくなるなど)、巨人症(小児期発症)
  • 副腎皮質刺激ホルモン:中心性肥満など

一方、非機能性腺腫の場合、腫瘍の増大に伴って視神経が圧迫され、視力低下や視野障害が現れます。特に視野の外側がみにくくなることが多く、生活に支障をきたすこと(車庫入れのときぶつけやすいなど)があります。

基本的に、下垂体腺腫に対する治療では、「経鼻的経蝶形骨洞到達法(けいびてきけいちょうこつどうとうたつほう)」による手術を行い、機能回復・温存を目指します。
視力視野障害に関しては、術直後から改善する例が多いです。

下垂体腺腫

経鼻的経蝶形骨洞到達法は、鼻腔および蝶形骨洞と呼ばれる副鼻腔を経由して直接腫瘍に到達するため、手術操作で直接脳に触れることはありません。当院では顕微鏡と内視鏡を併用し、手術を行うことがあります。また、腫瘍が周辺組織に大きく進展している場合には、開頭術を併用することもあります。さらに、腫瘍の種類や摘出度によっては、術後の薬物療法や定位的放射線療法を用いた集学的治療を検討します。

記事2『QOLを重視した脳神経外科治療(後編)−脳血管障害、機能性脳疾患(顔面けいれん・三叉神経痛など)』では、後編として、脳血管障害や機能性脳疾患に対する脳神経外科治療について解説します。

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    坂田 勝巳 先生

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