超高齢社会を迎えている日本では、「心不全」の患者さんが急増しています。多くの高齢者が健康的に長生きできるようにするためにも、心不全の増加を食い止めることは喫緊の課題といえるでしょう。
鈴木誠先生は「心不全の発症予防のためには、地域の開業医との連携が必要不可欠」と語ります。本記事では、心不全について横浜南共済病院の循環器内科部長である鈴木誠先生にお話を伺いました。
日本は今、超高齢社会を迎えています。2017年の高齢化率(総人口あたり65歳以上が占める割合)は27.7%と高く、約3人に1人は高齢者です。
この高齢化率は、今後もさらに上昇していくと予想されています。特に、2025年にはすべての団塊の世代*が75歳を超え、2040年にはすべての団塊ジュニア世代*が65歳を超えます。
それに伴って、2018年現在121.3兆円の社会保障給付費(医療、介護、子育て、年金などに支出される費用)は2025年には140.2〜140.6兆、2040年には188.2〜190.0兆円と大きく膨らんでいくと予想されています。数少ない若者で、多くの高齢者を支えなくてはならない時代へ突入していくのです。このような近い将来起こりうる問題は、それぞれ「2025年問題・2040年問題」と呼ばれています。
団塊の世代…1947年〜1949年の第一次ベビーブームに生まれた世代
団塊ジュニア世代…1971年〜1974年の第二次ベビーブームに生まれた世代
超高齢社会の進行と共に、平均寿命も年々伸びてきています。平均寿命は今後さらに伸びていくと考えられており、2007年に生まれた子どものおよそ2人に1人は100歳より長く生きるといわれています。仮に60歳で定年退職を迎えるとして、退職後の人生はおよそ40年間も残されています。
そのような現状の中、私たち医療者は「健康寿命*の延伸」を目指す必要があります。そして、多くの高齢者が「健康長寿」として長生きするためには、高齢化と共に急増している「心不全」という病気に目を向ける必要があります。
次章からは、この心不全について詳しくお話ししていきます。
健康寿命…健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間
【参考】日本循環器学会2018年 JROAD報告
心不全とは、心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、それがだんだんと悪化していくことで、生命を縮める病気です。
心不全は高齢者に多い病気で、超高齢社会を迎える日本では、心不全を発症する患者さんの数が年々増加傾向にあります。
上のグラフは、急性心筋梗塞*と心不全の入院患者さんの数の推移を比較したグラフです。ご覧いただくと分かるように、急性心筋梗塞に比べて心不全の増加率は大きく、毎年約1万人ずつ増えていることがわかります。
【参考】Shimokawa H,etal:European Journal of Heart Failure 2015:17,884-892
このグラフは、新しく心不全を発症する患者さんの数を示したものです。これによると、東京オリンピックが開催される2020年には、約35万人の方が新しく心不全を発症すると推測されています。
このように急激に増えていく心不全は、感染症の大流行になぞらえて「心不全パンデミック」と呼ばれています。
急性心筋梗塞…心臓の周りを取り囲み、心筋(心臓を動かすための筋肉)に血流を供給している「冠動脈」が完全に詰まって心筋が壊死する病気
【参考】厚生労働省平成21年度「人口動態調査」
心不全には、患者さんの数が急増しているという問題だけではなく、予後(病気や治療のあとの状態に関する医学的な見通し)が悪いという問題もあります。
上のグラフからわかるように、心不全によって亡くなる患者さんの数はほかの循環器疾患に比べて多く、さらに年々増加していることがわかります。
特に、以下のような特徴がある高齢の心不全患者さんは、予後が悪いといわれています。
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(3)の認知機能に関しては、その評価方法が重要なポイントです。主観的に「この方の認知機能は正常だな」と判断した場合であっても、客観的に認知機能を評価するテストを行うと、認知機能の低下がみられる場合があるためです。
ある調査では、認知機能が正常だと主観的に判断された約44%の方が、MMSE-Jというテストの結果では認知機能に低下がみられたことがわかっています。
心不全の予後を左右するのは、患者さん側の要因だけではありません。どのような治療を行うかによっても、心不全の予後は大きく異なります。
それにもかかわらず、心不全の治療法は病院によって大きく異なり、どの病院でも同じ治療が受けられるわけではありません。これが、全体的な心不全の予後を悪化させている大きな要因となっています。
たとえば急性心筋梗塞の場合、緊急カテーテル治療を行っている病院であれば、どの病院であっても同じような流れ、同じようなレベルの治療を受けることができます。標準的な治療法が確立しているため、急性心筋梗塞で亡くなる患者さんの数は少なくなっています。
しかし心不全の場合、長期間にわたって患者さんをベッド上安静にしている病院もあれば、早期から積極的なリハビリテーションを行う病院もあります。病院によって治療内容が大きく異なるため、ほかの循環器疾患に比べて心不全の予後は悪くなっているのです。
これらのような心不全を取り巻くさまざまな問題に対応すべく、2018年3月に心不全の診療ガイドラインが「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」として改訂されました。
【参考】急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)より引用、一部改変
このガイドラインの中で注目すべき点が、心不全のステージ(重症度)分類です。ステージはA・B・C・Dに分類され、AからDにすすむにつれて重症度が上がります。
この中で、「心不全ステージA」をみていただくと、心臓に何も異常はなく、心不全症状もなかったとしても、心不全の危険因子である「高血圧、糖尿病、動脈硬化性疾患など」があれば、その時点で心不全ステージAと診断されることがわかります。つまり、高血圧などの生活習慣病がみつかった時点で、心不全のはじめの一歩を踏み出しているのです。
【参考】急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)より引用、一部改変
それでは、心不全がどのような経過を辿って進行していくかについてお話しします。
先述したように、心不全ステージAでは、患者さんが感じる心不全症状はありません。日常生活に支障はないため、心不全リスクがあるとは知らずに生活している患者さんがほとんどです。そのため、気づいたときには心臓に何らかの病気がみられる「心不全ステージB」となっている患者さんも多くいらっしゃいます。
この心不全ステージA・Bでは、長い時間を経て、とても緩やかに身体機能が低下していきます。
心不全ステージBの患者さんが、あるとき突然、脱水や肺炎など何らかのきっかけによって心不全を発症すると「心不全ステージC」となります。
この心不全の始まりが、「急性心不全」にあたり、息切れやむくみなどの症状があらわれます。治療を行うと身体機能はいったん回復しますが、もとの状態までに完全には回復せず、「慢性心不全」として再発予防と症状をコントロールする治療を行っていく必要があります。
その後も、時間の経過と共に急性心不全と慢性心不全を繰り返し、徐々に身体機能が衰えていきます。
そのため、心不全ステージA・Bの段階で、心不全の発症を食い止めることが非常に重要です。
当院では、心不全の早期診断に向けた取り組みとして、「MCL(Minamikyosai Cardiovascular Lecture) program」を実施しています。MCL programは、地域の開業医の先生に向けた心臓病についての研修会のことです。
その研修会で実施しているプログラムのひとつが「心不全の早期診断のすすめ」です。これは、生活習慣病の患者さんを多く診療している開業医の先生で、心不全ステージAの患者さんを拾い上げることで、地域をあげて心不全の発症予防をしていきたいという思いを込めて実施しています。
「心不全の早期診断のすすめ」では、開業医の先生に向けて、生活習慣病で治療中の患者さんに対して「BNP またはNT-pro BNP」を測定していただくことをお願いしています。
BNPとは、何らかの原因によって心臓に負担がかかった際、心臓を保護するために産生されるホルモンのことです。そして、BNPと共に産生されるのが「NT-pro BNP」です。
そのため、採血にてBNPまたはNT-pro BNPを測定することで、心臓に負担がかかっているかどうかを確認することができます。
これらの数値に異常がみられれば心不全ステージBの可能性があるため、心臓超音波検査(エコー検査)による詳しい検査が必要です。
私が皆さんにお伝えしたいことは、「もっと自分の体について考えてほしい」ということです。今は何も病気がなくて健康な体だったとしても、高齢になったときに健康でいるために、今のうちに自分の体と向き合っていただきたいと思います。
ここまでお話ししてきたように、心不全は早期診断が大切です。自分には関係ないと思わずに、積極的に検診を受けるなどして、心不全の早期発見に努めていただきたいと思います。
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横浜南共済病院 循環器内科 総括部長
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日本循環器学会 循環器専門医・FJCS日本心臓病学会 FJCC日本不整脈心電学会 不整脈専門医・植込み型除細動器(ICD)/ペーシングによる心不全治療(CRT)研修修了者日本心臓リハビリテーション学会 心臓リハビリテーション指導士日本救急医学会 会員日本高血圧学会 会員日本内科学会 認定内科医・内科指導医日本医師会 認定産業医
東邦大学医学部を卒業後、東京医科歯科大学第三内科(現:循環器内科)へ入局。その後、市中病院での研修や海外留学を経て、2001年に亀田総合病院の循環器内科医長、2004年には部長に就任。2018年4月より現職。循環器疾患の中でも、特に不整脈と心不全を専門としている。日々の診療に尽力する傍ら、講演や研究会なども積極的に行っている。
鈴木 誠 先生の所属医療機関
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