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転移性脳腫瘍を治療する定位放射線照射(ガンマナイフ、ノバリス)の適応基準とは?

転移性脳腫瘍を治療する定位放射線照射(ガンマナイフ、ノバリス)の適応基準とは?
光田 幸彦 先生

浅ノ川総合病院 脳神経外科 部長/定位放射線外科 センター長

光田 幸彦 先生

目次
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肺がんなどの別の臓器にできたがんが脳に転移・拡大する転移性脳腫瘍。進行がんの患者さんに多くみられる病気であり、QOL(生活の質)の維持・向上を目的にした治療が行われます。かつての転移性脳腫瘍の治療は脳全体に放射線をあてる全脳照射や、手術で直接腫瘍を切除する開頭手術が中心でしたが、近年は腫瘍にピンポイントで放射線をあてる、定位放射線治療という方法が広く導入されてきています。今回は2記事にわたり、転移性脳腫瘍の症状や各種治療法、具体的な治療の流れについてご説明します。北陸地方における定位放射線治療を多数行ってこられた浅ノ川総合病院脳神経外科部長の光田幸彦先生にお話しいただきました。

転移性脳腫瘍とは、脳以外の部位のがん細胞が血液の流れに乗って脳に転移し、増殖した状態です。

転移性脳腫瘍が脳に生じることは、頭蓋骨で仕切られた狭い空間に本来存在しないものができるということですから、腫瘍そのものや同時に生じる周囲の脳のむくみ(脳浮腫)によって脳圧が上昇し、頭痛や吐き気などの頭蓋内圧亢進症状が出ることがあります。また、腫瘍が生じた場所の脳機能が低下するため、手足を動かす神経に関わる部分にがんが転移した場合には運動障害や片麻痺、言語中枢に転移した場合は言語障害・失語症(言葉を発したいのに出てこない状態)などの症状が現れます。このように、がんが転移する場所によって、症状は異なり、複数箇所に転移を生じた場合には、これらの症状が重複してみられることになり、日常生活に大きな支障をきたすようになります。

肺がん乳がんは、比較的転移性脳腫瘍を起こしやすいことで知られています。脳腫瘍診療ガイドラインによれば、転移性脳腫瘍の約半数は肺がんから発生しており、小細胞肺がん患者さんの約4割、非小細胞肺がん患者さんの約2割に転移性脳腫瘍が生じているといわれています。

転移性脳腫瘍は末期がんの患者さんに多くみられる病気ですが、最近では治療の進歩により長い間がんをうまくコントロールしながら生活されている方も増えてきています。そのため転移性脳腫瘍の治療は、病気の根治ではなく、前項で述べたような症状を予防・抑止してQOLを維持することが目的となります。

下記のようなケースでは、転移性脳腫瘍の治療を見送ることがあります。

  • 患者さんの全身状態が悪く余命が短いと推察される場合
  • QOL維持が見込めないなど治療による患者さんのメリットが少ない場合
  • ご高齢の患者さんで体力的に治療ができないと判断される場合
  • 転移性脳腫瘍が播種*している場合(ピンポイントで照射ができないため)

播種:ここでは、脳のがん細胞が脳脊髄液を介して流れ出して種を撒くように脳や脊髄に広がること

ただし上記はいずれも目安であり、実際には患者さんの病期(がんの進行度)・病状・腫瘍の大きさ・腫瘍の数などから総合的に治療方針を選択します。

転移性脳腫瘍の治療法は大きく、放射線治療(全脳照射、定位放射線照射)と開頭手術の3種類に分けられます*。当院ではこの中でも定位放射線照射(ガンマナイフ・ノバリスの2種)を中心にした治療を行っているため、今回は、定位放射線照射について詳しくご説明します。

定位放射線照射とは、病巣(腫瘍のある場所)のみに狙いを定めて放射線をあてる形でがんを治療する方法です。正常組織にも放射線をあてる全脳照射に比べて副作用が少なく、頭を大きく切り開く開頭手術よりも侵襲性が低いという特徴があります。

転移性脳腫瘍における定位放射線照射には、ガンマナイフを用いる方法やノバリスを用いる方法などがあります。当院はガンマナイフとノバリスの双方を所有しており、患者さんの病状に応じてそれぞれを使い分けながら治療にあたっています。

一部のがん病変では薬物療法が優先されることもありますが、一般的に転移性脳腫瘍に対する薬物療法は放射線治療や腫瘍摘出術と比較して効果が低いと考えられているため、今回は割愛します。

ガンマナイフとは、円柱型をした頭部専用の定位放射線照射装置です。指定した1点の箇所にビームを集中させ、ピンポイントで脳腫瘍を照射します。その精度は、数ある転移性脳腫瘍の放射線治療機器の中でも極めて高いことで知られています。

浅ノ川総合病院で使用しているガンマナイフ
浅ノ川総合病院で使用しているガンマナイフ

当院のガンマナイフ治療は基本的に1回の照射のみで終了します。入院期間は2泊3日で、1日目に治療の説明と神経診察、MRI検査、2日目に治療計画の策定とガンマナイフ治療を行い、3日目に退院となります。退院後の生活制限は一切なく、通常通り仕事に行っていただいても問題ありません。

ガンマナイフは、原則的に直径3cm以下の腫瘍に適応される治療法です。

ピンポイントで腫瘍に照射するガンマナイフであっても、若干ながら、周辺の正常組織にも放射線があたることは避けられません。3cm以上の腫瘍にガンマナイフを照射すると、直径が大きいぶん、広範囲にわたって正常組織が被ばくしてしまいます。被ばくする正常組織が多いほど、強い副作用が生じる可能性があります。ですから、3cmよりも大きな腫瘍に対しては、分割照射が可能なノバリスの適応を検討します。

実際のガンマナイフによる治療の流れは、記事2『転移性脳腫瘍に対する定位放射線治療(ガンマナイフ、ノバリス)の具体的な流れ』で詳しくお話しします。

ノバリスの最大の特徴は、ピンポイント治療でありながら分割照射が可能なことです。あらゆる方向から照射する放射線の強度を変化させて腫瘍の形状に一致させるため、いびつな形をした腫瘍でも正常組織や重要な神経への被ばくを避けながら治療することができます。

浅ノ川総合病院で使用しているノバリス
浅ノ川総合病院で使用しているノバリス

ノバリスの場合、プラスチックシェル(マスクシステム)というお面のような装具で頭部を固定し、放射線照射を行います。治療計画や検証作業のためガンマナイフより準備に長い期間を要しますが、治療が開始されれば外来治療が可能です。

ノバリスは、3cmを超える転移性脳腫瘍のためガンマナイフでは治療できず、全身状態が比較的落ち着いている場合に適応されます。分割照射によって、大きな腫瘍に対しても副作用を抑えながらがんを治療することができます。

ノバリスによる実際の治療の流れは、記事2『転移性脳腫瘍に対する定位放射線治療(ガンマナイフ、ノバリス)の具体的な流れ』で詳しくお話しします。

ガンマナイフ・ノバリスなどの定位放射線照射の副作用として、脳浮腫および浮腫に伴う頭痛や麻痺などがあります。これは、ごくわずかな範囲ながら、脳腫瘍の外周にあたる正常組織の部分に放射線が当たることで起こるものです。

定位放射線治療の副作用による症状は一時的なことがほとんどですが、脳浮腫が生じた場合は、ステロイド系抗炎症薬(鉱質コルチコイド作用の少ないデキサメタゾンやベタメタゾンなど)や浸透圧利尿薬の投与によって症状を改善します。

患者さんの全身状態(KPS)が良好で腫瘍の数が少なく、手術による腫瘍の全摘出が可能と考えられる場合、開頭手術が適応されることがあります。

一般的に開頭手術は定位放射線治療に比べて入院期間が長く、当院の場合、順調に回復すれば10日〜14日、リハビリテーションが必要な場合は1か月程度入院が必要なこともあります。

また、腫瘍摘出術を実施する場合、一般的に術後放射線治療が併用されています。従来は全脳照射が追加されることが多かったのですが、最近では副作用の少ない定位放射線照射が行われるようになってきています。しかしながら手術を行う場合、手術の過程でがん細胞が播種してしまうおそれがあります。手術後の画像では、腫瘍の残存がごくわずかである場合、その範囲を正確にとらえることが困難になるため、照射範囲に含まれていない病変があった場合には、のちに局所再発や髄膜癌腫症などの重篤な合併症を引き起こすリスクが出てきます。

このため当院では、腫瘍摘出術を行う場合は、再発予防の目的で術前定位放射線照射(ガンマナイフ治療)を行っています。術前定位放射線照射の効果に関するエビデンスも、現在まだ明確にされていませんが、海外ではすでに臨床試験が進行しており、今後明らかになってくると予測されます。

多発性の転移性脳腫瘍に対する標準治療には、歴史的に全脳照射が推奨されてきましたが、治療中の嘔気や治療後の認知機能の低下が問題となることがありました。その後脳全体の治療から、局所へのピンポイント治療へと放射線治療も進化してきました。ピンポイント治療であるガンマナイフでは、1~4箇所までの病変で効果を発揮するとされていました。しかし2014年の当院を含む国内23のガンマナイフ施設での研究結果から、10箇所程度までの多発性病変に対しても定位放射線の単独治療が認められてきており、海外版のガイドラインも改訂されました。また同時に、たくさん治療した場合でも、認知機能の低下が起こらないことが示されました。日本のガイドラインも、今後は海外のガイドラインに追随することが予測されます。このような状況から、当院では、患者さんの全身状態や病状などの条件が合致する場合、5個以上の多発性脳転移に対しても定位放射線照射を積極的に行っています。したがって全脳照射は、最初から多数の脳転移が検出されている場合や、経過中短期間に多くの転移巣が出てくるような状況でのみ併用しています。

また、当院は75歳以上の患者さんに対して全脳照射を実施していません。この理由は、全脳照射による認知機能の低下が懸念されるためです。

全脳照射による認知機能の低下までの期間についてはさまざまな意見がありますが、早ければ4か月で出始めるという報告もあります。これを回避する目的で、当院では全脳照射をできる限り行わないよう意識しています。

これまでご説明してきた通り、転移性脳腫瘍に対しては多様な治療法が存在します。この中でもガンマナイフやノバリスを用いる定位放射線治療は、入院期間が短く体への負担が少ない一方で確実に腫瘍を治療する手段として現在注目を集めており、当院でも積極的に導入しています。記事2『転移性脳腫瘍に対する定位放射線治療(ガンマナイフ、ノバリス)の具体的な流れ』では、定位放射線治療の具体的な流れについて詳しくご紹介します。

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    光田 幸彦 先生

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