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胃がんの治療の種類─腹腔鏡手術、ロボット手術の特徴について

胃がんの治療の種類─腹腔鏡手術、ロボット手術の特徴について
今村 和広 先生

東京都立多摩総合医療センター 外科 部長

今村 和広 先生

目次
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胃がんの治療では主に手術が行われます。なかでも、腹部に小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術や、腹腔鏡手術の課題を克服したロボット手術では、より体への負担が少ない治療が可能になるといわれています。東京都立多摩総合医療センターでは、たとえば、高齢の患者さんでも積極的に腹腔鏡手術やロボット手術を適応するなど、患者さんの状態に応じた治療を選択しています。

今回は、多摩総合医療センターにおける胃がんの腹腔鏡手術とロボット手術の特徴について、同センターの外科部長である今村和広先生にお伺いしました。

胃がんの治療の選択肢とは?外科治療と薬物治療が中心

胃がんは、記事1『胃がんの治療のポイントは?胃温存手術に取り組む東京都立多摩総合医療センター』でお話ししたように、手術によって胃がんがみられる部分を切除することが、標準的な治療法です。

胃がんの外科治療の種類には、次の4つがあります。

  • 内視鏡治療…内視鏡を用いて胃がんを切除する治療
  • 腹腔鏡手術…内視鏡のひとつである腹腔鏡を用いて胃がんを切除する手術
  • ロボット手術…手術支援ロボットを用いた腹腔鏡手術(ロボット支援下内視鏡手術)
  • 開腹手術…お腹を切開して胃がんを切除する手術

当センターでは、体への負担が少ない腹腔鏡手術やロボット手術を導入しています。手術による合併症を起こしやすい状態にある高齢の患者さんや、呼吸器・循環器系の病気を持っている患者さんにも、病状を詳細に評価したうえで積極的に実施しています。

胃がんの腹腔鏡手術の特徴

軽度から中等度の胃がんに対して有効である

腹腔鏡手術は、腹部に小さい穴を数か所開けて、その穴からカメラや鉗子(かんし)という器具を入れて病巣部を切除する手術です。ガイドライン上は早期の胃がんに対して推奨されています。最近では腹腔鏡手術の経験が豊富な施設を中心に進行がんに対しても腹腔鏡手術が行われるようになってきています。当院でも進行がんに対して進行度を詳細に検討したうえで、積極的に腹腔鏡手術を行っています。ただし周辺臓器への浸潤*のみられるがんやリンパ節の転移が非常に多いがん、また病巣から大量に出血を来していたり病巣に穴が空いていたりして緊急に対応が必要ながんなどに対しては、開腹手術を行います。

当センターは、隣接する検診センターから紹介される患者さんが多く、手術症例において早期がんの方の割合が多いです。

浸潤…ほかの臓器に浸み込むようにがんが広がること。

傷跡が小さく、術後の痛みが少ない

腹腔鏡手術は、開腹手術と比べて傷跡が小さいことが特徴です。そのため、傷ついた組織同士がくっついてしまう癒着(ゆちゃく)が生じにくく、術後の後遺症のひとつである腸閉塞*の発生率が低いといわれています。また、お腹の中の様子をモニターに映し、拡大して見ることができるため、精密な手術ができ、出血量が軽減されます。

腸閉塞…食べ物や胃液などの肛門側への移動が障害される状態。

膵液瘻(すいえきろう)という合併症を術後に起こす可能性が開腹手術より高い

胃がんの手術では、がんが転移している可能性のある部分を取り除くため、がんの周辺にあるリンパ節を切除する「リンパ節郭清(かくせい)」を行います。腹腔鏡手術では、すい臓を押さえ込んでリンパ節を取り除く手技が確立していますが、この方法ではすい液の漏れが生じる膵液瘻(すいえきろう)という合併症が起きる可能性が開腹手術より高いとされてきました。この課題を克服するために考案された治療法が、ロボット手術です。

胃がんのロボット手術の特徴

ロボット手術

自由に曲げられる鉗子によって、安定した手術が可能

ロボット手術は、手術支援ロボットを用いる腹腔鏡手術です。主に早期から中等度の胃がんに対して行います。ロボット手術では、医師が操作ブースに座り、自由に曲げられる鉗子を操作して手術します。鉗子の手振れを補正する機能がついているため、安定した手術が可能です。

術後の合併症が減少

手術支援ロボットは、自由に動かせる多関節器具を備えているため、リンパ節郭清を行う際、すい臓に触れないように細かく操作しながらリンパ節を取り除くことができます。鉗子(かんし)という細い棒のような器具を入れて行う腹腔鏡手術では、手術できる場所は鉗子が到達できる範囲に限られ、すい臓を押さえ込まなければリンパ節に到達できないことが課題でした。これを克服したことが、多関節器具を備えているロボット手術の大きなメリットといえます。

ロボット手術による胃がんの治療は、日本では2018年4月に保険適用されました。保険適用される背景となった研究では、腹腔鏡手術よりもロボット手術のほうが術後の合併症が少なく、なかでも膵液漏(すいえきろう)の発生率が低いというデータが報告されています。

腹腔鏡手術と比べて安定した縫合が可能

ロボット手術

ロボット手術の利点として、人の目が届きにくい箇所でも今までより正確に縫合でき、腹腔鏡手術よりも安定した縫合が可能であるということが挙げられます。

当センターではかねてより、体腔内で腹腔鏡下に鉗子を直接手で操って確実に縫合するように努めてきました。腹腔鏡を用いて胃を切除したあと、腹腔鏡下に鉗子を直接手で操って縫合する方法は、高度な技術を要するため、実施している医療機関は限られています。しかし、自動縫合器を用いるよりも、胃を余分に切除してしまうリスクを避けることができます。特に幽門保存胃切除術、胃分節切除術、噴門側胃切除術後の食道残胃吻合(ふんごう)*等の手術方式では、手で縫ったほうが胃の機能低下が起こりにくく、仕上がりもよいと考えています。当センターでは、ロボットによって安定して縫合できる点に着目し、これらの術式で積極的にロボット手術を活用しています。

食道残胃吻合…胃切除術後の残胃と食道をつなぎ合わせる術式。

新たな治療法として期待される

ロボット手術の欠点としては、医師が直接触れて確かめながら作業できないことによる、触覚の欠如が挙げられます。また、ロボット手術は始まったばかりで成熟していない治療法であることから、臨床の現場における評価が定まっておらず、新たな問題点が今後明らかになってくる可能性はあります。

しかし、触覚の欠如については、ある程度はモニターを通して視覚で補うことができます。2018年4月に保険適用されて以来、広く一般に普及し、ロボット手術は腹腔鏡手術の次世代の治療法として期待されています。当センターでは、患者さんとよく相談したうえで、ロボット手術を適応するメリットがあると判断できる場合には、積極的に適応しています。

腹腔鏡手術とロボット手術でできる傷跡について

手術の傷跡

腹腔鏡手術とロボット手術では、どちらも5~12mm程度の小さな穴を複数箇所に開け、傷跡ができるだけ目立たないようにします。

どちらの手術でも、みぞおちから脇腹にかけて小さな穴を開けます。また、切除した胃を取り出すために、おへその近くの穴を縦に3cm程度に広げます。当センターの手術では、おへその形をうまく使って傷を隠す「臍部(さいぶ)ジグザグ切開」という方法をとり、胃を取り出す傷跡をZ字に切っています。この方法では、傷跡がおへその中に収まって目立ちにくくなります。臓器や器官をつくり直す再建術において、いったん外に腸を取り出さなければならない場合などには、臍部の傷を大きく拡げる必要があります。その場合には、創をさらにジグザグに延長し、傷跡が目立たないようにしています。

入院期間・手術費用について

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入院期間は開腹手術と比べて短い

術後に大きな問題なく経過した場合、腹腔鏡手術およびロボット手術は、お腹を切開して行う開腹手術に比べて、入院期間がやや短いという利点があります。腹腔鏡手術とロボット手術では差はありません。腹腔鏡またはロボット手術での幽門側胃切除術の場合、経過が順調な方で術後の入院期間は10日~2週間程度となります。

手術費用は高額療養費の対象となる

胃がんの腹腔鏡手術とロボット手術は、どちらも健康保険が適用され、手術の費用に差はありません(平成30年診療報酬点数より)。3割負担または1割負担でも自己負担額は高額となるため、月々の規定額(所得によって異なります)を超過した部分に関して高額療養費制度に基づき払い戻しが受けられます。

胃がんの治療を受ける患者さんへ─まずは治療の選択肢を確認

これから治療を受ける方は、ご自身が信頼できると感じた病院でよく相談し、どのような治療の選択肢があるのか聞いたうえで治療を進めていくことが大切です。

また、治療の内容を聞いただけで受診する病院を決めることは難しいかもしれません。その場合は、主治医や看護師、受付の職員などと話したり、院内を見てみたりしてください。「この病院なら命を預けられる」と思うことができたら、その病院で治療を受けるとよいでしょう。