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人工膝関節置換術のスケジュール――入院から退院後の生活まで

人工膝関節置換術のスケジュール――入院から退院後の生活まで
桂川 陽三 先生

国立国際医療研究センター病院  整形外科 診療科長

桂川 陽三 先生

目次
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変形性膝関節症の手術のひとつ「人工膝関節置換術」は、膝の関節を人工関節と置き換える手術です。手術のあとしばらくは、立ち仕事や電車通勤などは控え、人工関節が安定するまで定期的に通院することが大切です。国立国際医療研究センター病院は、人工膝関節置換術を受けた患者さんの術後のケアにも力を注ぎ、人工関節を入れた患者さんの交流会を開催しています。

今回は、人工膝関節置換術の入院から退院後の生活まで、国立国際医療研究センター病院の整形外科診療科長・人工関節センター長である桂川陽三先生に伺いました。

 

歩行リハビリをするおばあさん

人工膝関節置換術を安全に行うためには、手術の前に行う「術前検査」が重要です。胸のレントゲン(X線)検査、心電図、呼吸機能を調べる肺活量検査、血液検査、尿検査などを実施します。患者さんに手術に耐えられる体力があるかどうかを調べるためです。全身麻酔によるリスクとして、心臓の機能の低下や血流が悪くなることなど、合併症が起こる危険性のある患者さんもいらっしゃいますが、そういった方は手術の前に検査をすることによって、手術中に具合が悪くなるということはほとんどありません。

通常、手術そのものにかかる時間は、約1時間半です。全身麻酔をかける時間と覚ます時間を含めると、手術室に入っている時間はおよそ3時間前後となります。

両方の膝に変形性膝関節症がみられる場合は、両膝とも同日に手術することもあります(両側同時手術)。両膝とも手術する場合、手術そのものにかかる時間は約3時間、麻酔の時間を含めて約4時間となります。

手術後は、痛み止めの薬剤を使用して、手術直後の痛みを取り除きます。手術した日の晩であっても、痛くて眠れないというほどではありませんし、しっかりと食事をとれている患者さんが多いです。

リハビリテーションは手術の翌日から始めます。まずは体を起こし、立てる方は歩く練習を始めます。膝を曲げたり伸ばしたりするリハビリテーションは痛いものですが、患者さんには頑張って取り組んでいただいています。

人工膝関節置換術を片膝だけに行う場合、入院期間はリハビリも含めて約2~3週間です。両膝に行う場合は、約3~4週間です。ただし、体力があって元気な患者さんであれば、2週間程度でご自宅に戻られる方もいらっしゃいますし、高齢の患者さんであれば、4週間かけて十分にリハビリを行ってから退院する方もいらっしゃいます。入院期間には個人差があります。

人工膝関節置換術が終わったあとは、定期的な通院が必要です。当院では基本的に、手術を終わった後から計算して、6週間後、3か月後、半年後、1年後に外来診療に来ていただいています。これで治療は完結になりますが、そのあとも続けて通うことができる患者さんには、半年に1度、通院していただいています。その際は、レントゲン撮影をして膝に変化がないか、異常がないかということをチェックします。

ほとんどの患者さんは、術後は何事もなく過ごすことができますが、記事4『変形性膝関節症の手術のひとつ、人工膝関節置換術とは?』でもお話ししたように、人工関節の緩みなどが生じる可能性があります。本人に自覚症状がなくても、レントゲン検査の結果から異常が認められた場合、さらに詳しい検査を行うことがあります。

また、細菌感染により、膝が腫れたり痛みが出てきたりすることがあります。この場合、定期的なチェック以外にも、飛び込みで受診していただいて治療することになります。

 

杖を持つ老婆

人工膝関節置換術のあとは、人工関節が安定していても、周囲の筋肉が一時的に弱くなります。筋肉が回復してくるまでは、少しずつ体を慣らしていくことが大切です。

職場復帰については、仕事内容がデスクワークで、なおかつ電車に乗らなくてもよい場合は、退院直後から復帰して差し支えありません。しかし、立ち仕事や力仕事、電車通勤が必要な方は、手術をしてから3か月程度は職場復帰を控えたほうがよいでしょう。

人工膝関節置換術の直後は、階段の上り下りや、人ごみがリスクになります。しばらく杖を使うことをおすすめしていますが、バリアフリーではない駅も多く、混んでいる電車内では周囲の方に配慮してもらうことも難しいため、電車通勤はできるだけ避けたほうがよいと考えています。どうしても出勤しなければならない場合は、車での移動や送り迎えを検討してください。

術後のスポーツについては、ゴルフなどのきつくないものであれば、手術後3か月頃から少しずつ始めてもよいでしょう。もっとも気をつけなければいけないのは転倒です。たとえばゴルフなら、芝生の上で転んでも大きな怪我をすることは少ないと考えられますが、硬い地面で転んでしまうと骨折の可能性があるため、転倒には十分に注意してください。

人工膝関節置換術のあと、細菌感染が起こることがありますが、その場合は人工関節を抜いて治療しなければならない場合もあり非常に厄介です。高齢の女性の場合、尿路感染症膀胱炎)を発症しやすく、人工関節の細菌感染の原因となる場合があります。そのほか、風邪をこじらせて発熱したり、虫歯ができたりしたら、放置せずに病院へかかって早く治療するようにしてください。

 

桜並木と老夫婦

私が理事長を務める「三土会」は、2003年に発足して以来、人工関節手術を受けた患者さんや、人工関節に興味がある患者さんの集会として定期的に開催してきました。集会では、人工関節のことや、健康一般のことについての講演を行っています。また、毎回約50~60名の患者さんが参加しているため、入会したばかりの方でも、ほかの会員にすぐに話を聞いたり相談したりできます。

三土会の集会は、原則として奇数の月の第三土曜日の午後に開催しています。すでに手術を受けた患者さんだけでなく、これから手術を受ける方や、どうしようか迷っている方も大歓迎です。ぜひご参加をお待ちしています。

私は、首の腫瘍ができたとき、生まれて初めて全身麻酔をかける手術を受けました。整形外科医ですから、それがどんな腫瘍で、どのような手術が必要で、治る確率はどの程度かということは分かっていましたが、手術の前は心配でたまりませんでした。専門家でも心配なのですから、一般の方々の心配は非常に大きなものだろうと思いました。

三土会という集会は、元々は手術のアフターケアとして始めたのですが、これから手術を考えているという患者さんも話を聞きにいらっしゃいます。その方々に対して、たとえば医師が「この手術をしたら、このような経過になります」とお話ししても、なかなか実感がわかないだろうと思います。しかし、すでに手術を受けたことのある患者さんから「そんなことは全く心配いらなかったよ」などと励まされると、安心するものです。私自身も、首の手術の際にそれを経験しました。

医師や看護師の説明を聞くことももちろん大切ですが、患者さんにとっては経験者に話を聞くことが一番重要であると考えており、交流会の醍醐味を実感しています。

 

桂川先生

人工膝関節置換術は、手術自体はそこまで大掛かりなものではありませんが、体内に入れた人工関節と一生付き合っていくことになる治療法です。そのため、人工関節を入れたあとも気軽に話せる医師のもとで手術を受けるとよいでしょう。病院に行ける間はなるべく通院するようにして、医師と定期的にコミュニケーションをとっていただくことをおすすめします。

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  • 国立国際医療研究センター病院  整形外科 診療科長

    桂川 陽三 先生

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