インタビュー

自閉スペクトラム症とは?特徴、診断、対応方法について

自閉スペクトラム症とは?特徴、診断、対応方法について
山末 英典 先生

浜松医科大学 医学部精神医学講座 教授

山末 英典 先生

目次
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自閉スペクトラム症は、自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などを含む疾患概念で、発達障害のひとつです。中心症状である、社会的コミュニケーションの障がいや、柔軟な対応が難しいという特徴などから、社会生活や集団生活にうまく適応できず、不眠や抑うつといったさまざまな併発症状が現れる方も多いといわれています。

今回は、自閉スペクトラム症の特徴や、診断がつくまでの流れ、障がいへの対応方法について、浜松医科大学精神医学講座教授の山末英典先生にお話を伺いました。

自閉スペクトラム症は、発達障害のひとつです。発達障害の中でももっとも頻度が高く、発症率は約100人に1人いるといわれています。また、女性よりも男性のほうが約4倍多いです。

自閉スペクトラム症の本質的な症状、つまり中心症状は、2~3歳頃から明らかになります。そして、中心症状自体は一生続くものだと考えられています。

自閉スペクトラム症の中心症状は、主に次の2つです。

社会的コミュニケーションの障がい

通常、人と関わるときには、表情、視線、ジェスチャー、声色、言葉などを使って交流します。自閉スペクトラム症の方は、表情や視線などをうまく使ったり、情報として受け取ったりすることが困難です。そのため、うまくコミュニケーションをとることができず、本人の社会生活や集団生活に深刻な影響が及んでいます。

反復的で常同的

自閉スペクトラム症の方は、同じような行動パターンを繰り返す傾向があります。身の回りで何か変化が起こったとき、柔軟に対応できず混乱してしまうことがあります。

また、関心を持つ事柄が偏りやすく、自分が関心を持っていることは繰り返し実行しても、ほかの人や物には関心を持ちにくいという方が多いです。

社会的コミュニケーションの障害や、反復的で常同的という中心症状があることにより、自閉スペクトラム症の方は、さまざまな状況に対してうまく適応することが困難です。そのために、不眠、不安、抑うつといった、さまざまな症状が出てくることがあります。

たとえば、就職して会社勤めをするようになると、それまでとは異なる環境に身を置くことになります。新しい環境にうまく適応できず、うつ状態になり、精神科にかかってうつ病と診断される方もいらっしゃいます。その場合、治療を受け、休職して自宅で自分らしく過ごしていると、多くの方はうつ状態が回復してきます。しかし、職場に戻ると、適応の問題で再びさまざまな症状が出てきます。

自閉スペクトラム症の方の約半数が、知的障害をもっています。てんかんを合併することも多いです。また、うつ病、不安症、解離性障害や転換性障害*などを発症しやすいといわれています。

解離性障害や転換性障害とは、心理的な原因により、意識や記憶、運動機能や知覚の一部分を切り離すという症状を示し、困難な状況で起こることが多いです。自閉スペクトラム症の方は、困難なことが起こったとき、周囲の人に相談したり助けを求めたりすることが苦手な傾向があります。自分の状況について言葉でまとめることが難しいため、うまく喋れなくて固まってしまったり、自分の感情に鈍感で、つらいと言えず体に症状が出てきてしまったりすることがあります。

解離性障害、転換性障害…心理的な原因により、意識や記憶、運動機能や知覚に影響が及ぶこと。

自閉スペクトラム症の「スペクトラム」ってなに?

人と関わることが苦手、ひとりで好きなことをして過ごすほうが性に合っているといった性質は、自閉スペクトラム症ではない方にも多くみられます。その性質が極端で、本人の社会生活に影響が出ている、もしくは周囲の人が困っている場合、障がいの範囲に入ります。正常から重症の範囲まで、境界が曖昧で連続性があるということから、スペクトラムと呼ばれています。

アスペルガー症候群と自閉症は、ほとんど同じ障がいです。

自閉症の中心症状は主に2つ挙げられるとお話ししましたが、元々は、社会性の障がい・コミュニケーションの障がい・反復常同性という3つの特徴がみられる障がいは自閉症、社会性の障がいと反復常同性という2つの特徴がみられる障がいはアスペルガー症候群という診断基準でした。

しかし、アスペルガー症候群と診断されている方のほとんどはコミュニケーションの障がいもみられるため、実際には典型的なアスペルガー症候群の方はとても少ないと考えられています。そして、社会性とコミュニケーションを明確に区別するのは難しいということから、現在の医学の動向としては、アスペルガー症候群と自閉症は区別することなく、自閉スペクトラム症の中に含めて考えることになっています。

ADHD発達障害のひとつで、不注意や多動を特徴とする障がいです。自閉症とは別の障がいですが、自閉症に併発することがあります。また、ADHDの症状が強い方は、自閉症の症状もみられるという、相関があることが分かってきています。なかには、自閉症の症状はなく、周囲の人への配慮などが問題なくできるという方もいらっしゃいます。

学生時代はとくに問題が起こらなかったという方でも、働き始めてから自閉スペクトラム症の症状に気づくことがあります。また、仕事を始めてしばらくは問題がなくても、役職がつくと生活に影響が出てくる方もいます。

たとえば、勤め始めて間もない頃は、与えられた仕事をしっかりとこなせばよい職種の場合、仕事に支障が出ないことがあります。しかし、昇進して役職がつくと、部下に仕事を任せたり割り振ったりという、対人交渉が必要な場面が増えてきます。そこで、生活に影響が出てきて、自閉スペクトラム症に気づくことがあります。

自閉スペクトラム症の診断において重要なのは、子どもの頃から他者と関わることが苦手なのか、ほかの病気の影響で苦手になったのかということです。たとえば、統合失調症という精神疾患も、自閉スペクトラム症と同じく、社会生活が困難になることがある病気です。しかし、幼い頃からではなく成長してから症状がみられるようになったという方の場合、発達障害ではなく、統合失調症を含め、ほかの精神疾患による可能性を考えます。

成人の方で、自閉スペクトラム症と似たような症状があって困っているという場合、まずは子どもの頃の経過を確認することが重要です。

これまで、「自分は周りと何かが違う」「周りができることでも自分はできない」などと感じていた方が、テレビやインターネットで自閉スペクトラム症のことを知り、自分もその特徴に当てはまると思って病院にかかる、ということが増えているように思います。

病院で診断がつくと、自分の特徴を客観的に認識することができ、困ったときはどのように対処すればよいのか分かるようになって、楽になった、うまくいきやすくなったという方は多くいらっしゃいます。

子どもの頃に診断がついた方の場合、医療機関や施設で相談したうえで、本人に向いている職業についたり、障害者手帳を取得して障害者就労をしたりと、自分の居場所ができている方もたくさんいらっしゃいます。自閉スペクトラム症はなるべく早く診断を受けて対策を取ることが重要です。

自閉スペクトラム症の治療では、不安や抑うつなどの併発症状が出たとき、それに対しての治療を行うことが一般的です。そのほか、心理教育といって、本人や周囲の近しい方にどのような特徴があるのか理解してもらうことも欠かせません。

診断がついたあとで重要になるのは、就労支援などの社会資源の活用です。医療機関以外にも、自閉スペクトラム症の方が活用すべき施設として、発達障害者支援センター、就労支援センター、就労移行事業所などが挙げられます。

基本的には、年齢を重ねるとともに問題が減っていく方が多いです。自分の特徴を客観的に把握できると、本人に適した仕事に就きやすくなります。たとえば、きちんと作業が分担されていて、自分のペースで取り組んだり、同じ作業を繰り返したりするような仕事は得意です。反対に、チームワークや共同作業を求められる仕事は苦手というように、向き不向きがはっきりしています。自分に向いていないことは諦めて、得意なことに取り組むことも大切です。

周囲もそれを理解して、本人の得意なことはなるべく頼み、苦手なことは頼まないという流れができてくると、本人もうまく対応していけるようになり、周囲の方の負担もかえって減っていきます。

自閉スペクトラム症の方の中には、精神的に安定していて、専門職や研究職などで自分の得意なことを仕事にできている場合、中心症状が強くても問題なく過ごせている方もいます。

身近に自閉スペクトラム症の方がいる場合、その方の特徴を理解しておくことは重要です。たとえば、自閉スペクトラム症の方は、相手に失礼にあたることでも悪気なく口に出してしまうことがあります。もし、身近な方から失礼なことを言われたら、腹が立ったり、見下されていると感じたりするかと思います。しかし、自閉スペクトラム症の方は悪気なく口にしていることが多く、相手を怒らせても気づかないということもあります。自閉スペクトラム症の方は裏表がないと理解しておくだけでも、よりよいコミュニケーションにつながると思います。

自閉スペクトラム症の方は、仕事のなかで何か苦手なことを求められると、うまく適応できなくなる可能性があります。小学生の頃までは、ひとりで好きなことをして遊んでいてもよく、時間ごとにやるべきことが決まっているため、マイペースに過ごすことができたと思います。しかし、高校生や大学生になると、集まって自由に話し合ったり、自由に選択したりする機会が増え、社会生活が難しくなってくる方は多いです。一方、自分のペースで物事を進めていられるときは、あまり問題になりにくいことが特徴です。職場などでは、本人が苦手なことを求めないように、周りの方が配慮することも大切です。

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