疾患啓発(スポンサード)

発達障害の診断が確定するまで─診療の流れについて

発達障害の診断が確定するまで─診療の流れについて
星総合病院 精神科 部長 本間 博彰 先生

星総合病院 精神科 部長

本間 博彰 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

発達障害のある子どもが思春期や青年期になると、精神的不調や問題を生じることがあります。これを二次障害といい、その傾向は自閉症スペクトラム障害の子どもに多くみられます。集団生活でトラブルが起きたことをきっかけに、受診をすすめられる子どもも増えていますが、病院では、普段の生活の様子や検査の結果を踏まえて慎重に診断を行います。

今回は、発達障害の子どもが抱える課題、検査方法や診療の流れについて、星総合病院精神科部長の本間博彰先生にお話を伺いました。

発達障害の二次障害とは?

社会生活がうまくいかないことで起こる適応の問題

子どもの精神科を訪れる親御さんの多くは「子どもが発達障害かもしれない」と思って受診されるのではないでしょうか。また、学校や幼稚園の先生などから「発達障害かどうか、病院で診てもらってください」とすすめられて受診する方もいらっしゃいます。

このとき、コミュニケーションが苦手といった発達障害の特性についてではなく、学校で集団生活がうまくいかない、ほかの子どもとトラブルが起きている、学校に行きたがらないといった問題が生じたことをきっかけに、病院を訪れる方が多いです。

このような適応の問題を二次障害といい、病院では二次障害をしっかりと診ていきます。

二次障害は自閉症スペクトラム障害に多くみられる

発達障害がある子どもたちの中でも、自閉症スペクトラム障害の子どもは、思春期・青年期になると精神的不調や問題などの二次障害を生じることが多いとされています。その内容には、次のようなものがあります。

<疑似適応>

コミュニケーションが苦手という特性を持つ自閉症スペクトラム障害の子どもは、集団生活を送るうえで、表面的に周囲の人の言動をまねしようとする傾向があります。これを疑似適応といい、上辺だけのコミュニケーションを取るようになってしまうことが多いです。

<妄想着想の増加、視線恐怖、関係被害妄想>

物事がうまくいかないことが続くと、被害的な意識を持つようになります。「ほかの子から嫌われているのではないか」「いじわるされるかもしれない」などと考えることがあります。人とのつながりに敏感になって、他者の視線が気になるという子どももいます。

<不登校、ひきこもり>

学校ではいつも緊張してうまくいかないと感じ、社会活動を回避しようとして、不登校や引きこもりの状態になる子どももいます。社会活動の回避については、幼い子どもの場合は、集団にうまく入れないためにその周りをぐるぐる歩き回ることがあります。

成長するにしたがって課題は増えていく

学校生活は生きていくための練習の場です。集団の中のルールに従うことは、子どもの発達にとって大事な課題のひとつです。しかし、成長するなかでくぐっていかなければいけない関門はいくつもあり、発達障害の子ども、とくに幼児の場合は、それを突破していくことがほかの子どもと比べて難しいと考えられます。

たとえば、小学1年生になると、授業の40分間は座っていることが求められます。子どもたちは、そのためにたくさんのエネルギーを使い、我慢しなければなりません。しかし、発達障害の子どもの場合は、不安になって席を立ち、うろうろ歩き出してしまうことがあります。

小学5年生頃になると、子どもたちのやり取りは洗練されて、新たな関門が出てきます。たとえば、女の子は仲がよい者同士でグループをつくり、微妙なコミュニケーションを取りますが、発達障害の子どもはそのグループに入れないことが多いです。ほかの子どもが、発達障害の子どもの行動を疑問に思い、理解しようとしていろいろなちょっかいを出してきますが、それを被害的に受け止めてその場から逃れようとして、不登校につながることもあります。

発達障害の検査方法

発達障害に含まれるかどうかを確認し、場合により検査を実施

記事1『子どもの発達障害とは?その特徴について』でもお話ししたように、発達障害とは、発達に問題のある障がいの総称です。脳に何らかの機能的な問題があって、コミュニケーションや、行動のコントロールなどがうまくできない状態にある場合、発達障害という大枠の中に入るものとして考えることになります。本人と話したり、生活の様子を聞いたりすることで、発達障害があるかどうかを診ていきます。

そして、知的能力の検査や行動面の検査を行って、ADHDや自閉症スペクトラム障害といった細かな診断につなげていきます。検査には、知的処理能力の把握のために行う「WISC(ウィスク)」や、行動像の概要把握のために行う「CBCL」「TRF」などがあります。

知的能力の検査WISCについて

WISCは、5~16歳の子どもを対象として行う知的能力の検査です。人間の知能は、大きくは「言語性IQ」と「動作性IQ」という2つに分けられ、WISCでは複数の検査によってその数値を測定します。

言語性IQとは、言語の使い方に現れる知的能力です。WISCの検査では、一般的な知識に関する質問に言葉で答えたり、算数の問題に暗算で答えたりする言語性検査を行います。動作性IQは、何かを作ったり作業したりすることに使われる知的能力です。パズルをつくったり、迷路問題を解いたりする動作性検査を行います。

発達障害の子どもたちは、言語性IQと動作性IQの数値に開きがあることが多く、それがでこぼこのある発達という形で現れます。

WISCの検査結果「ワーキングメモリ指標」について

WISCには、言語性IQと動作性IQ以外にも、さまざまな下位項目があります。重視されることが多いのは「ワーキングメモリ指標」です。ワーキングメモリとは、新しい情報を短期記憶として保持、処理する能力です。

たとえば、宿泊施設に滞在している間は部屋の番号を覚えていなければならないように、作業するために必要な課題をこなすときに使われる知的能力をワーキングメモリといいます。さまざまな課題をこなすためには、ワーキングメモリを活用し、必要な知識や記憶を適切に呼び出さなければいけません。しかし、発達障害の子どもの中には、ワーキングメモリの数値が低い子どももいます。

学校の授業を例に挙げると、子どもたちは、先生の話を聞く・黒板を見る・ノートを取るという、少なくとも3つの作業を同時にこなす必要があります。ワーキングメモリの数値が低い子どもで、聴覚の認知が弱く視覚の認知が優位な場合、黒板は見ることができても、同時に先生の話を聞いたりノートを取ったりすることは難しいでしょう。

このように、発達障害の子どもは、自分の持っている能力をバランスよく振り分けてまとめることが難しいことがあります。診療においては、得意なことと苦手なことを見極めて本人に伝えることが大切になります。

CBCL、TRFなどのチェックリストを使用することも

星総合病院の精神科では、診断の補助手段としてチェックリストを使用することがあります。子どもの日常生活を見て気づいたことをチェックするもので、「CBCL」は親が、「TRF」は学校の先生が記入するものです。CBCLもTRFも、アメリカの心理学者アッケンバックが開発した世界標準のチェックリストです。

チェックリストの結果をコンピューターでグラフ化すると、子どもの行動の中でも、どのような領域に問題があるのかを確認することができます。子どもにさまざまな問題行動がみられる場合、より正確な診断を行うことにつながります。

発達障害の診断が確定するまで

正しく診断するためには2~3か月を要する

心の問題や障がいは、1回診察しただけで診断できるものではありません。何度も子どもと関わっていかなければ診断が困難なことも多く、診断が確定するまでには、初回の診察から2~3か月を要します。

通院の頻度については、最初のうちは、1~2週間に1回ほど通っていただくとよいでしょう。しかし、子どもの発達障害を診断できる医師や医療機関は限られていることから、予約を取りにくく、通院の回数が少なくなってしまう場合もあります。

そのため、星総合病院の精神科では、子どもの問題行動や、子どもが生活している学校や幼稚園での様子をお聞きするようにしています。それがどのように変化していくのか確認することで、適切な診断につなげ、さらに検査やチェックリストの記入もあわせて行っていきます。

心や発達に問題を抱える子どもの診療の流れ

次の表は、発達障害の子どもの診療の流れを示したものです。初診から終診に向けた時間の経過と、医師、臨床心理士、医療ソーシャルワーカーがそれぞれどのように関わるのかについてまとめています。

心や発達に問題を抱える子どもの診療の流れ

がんなどの診療では、入院中の予定をスケジュール表にまとめた「クリニカルパス」と呼ばれる治療の行程表があります。精神科にはクリニカルパスが少ないため、発達障害がある子どものためのクリニカルパスを作りたいと思い、このような表を作成している最中です(2019年3月時点)。

子どもの診療に関しては、多くの技術が存在するものの、確立されていないことが課題です。また、医師だけでなく、臨床心理士やケースワーカーも子どもとコミュニケーションを取り、医師と協力して診療にあたることができれば、病院は地域のニーズにもっと応えていけるだろうと考えています。クリニカルパスが完成したら、多くの方に参考にしていただければと思っています。