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脳動脈瘤の治療はするべき? 治療の判断基準、治療方法について

脳動脈瘤の治療はするべき? 治療の判断基準、治療方法について
坂本 真幸 先生

医療法人社団 親和会 西島病院 院長

坂本 真幸 先生

目次
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記事1『くも膜下出血を引き起こす「脳動脈瘤」とは? 原因、症状、予防について』では、脳動脈瘤とは脳の血管の一部分が風船状に膨らんだ状態であること、破裂した場合はくも膜下出血を引き起こすこと、そして脳動脈瘤の破裂を防ぐための予防方法は治療をすることなどをご説明しました。

では、脳動脈瘤の破裂を防ぐための治療方法とは、どのようなものなのでしょうか。今回は、脳動脈瘤の治療について、医療法人社団 親和会 西島病院の院長である、坂本真幸先生にお伺いしました。

記事1『くも膜下出血を引き起こす「脳動脈瘤」とは? 原因、症状、予防について』でお伝えした通り、基本的に脳動脈瘤が自然治癒することはありません。そして、脳動脈瘤の破裂率は年間平均0.95%です。この破裂率を高いと感じるか低いと感じるかは一人ひとり違うと思います。そのため、脳動脈瘤の治療をするかどうかの判断は患者さんにお任せしています。

ブレブ状の脳動脈瘤
ブレブ状の脳動脈瘤

脳動脈瘤の大きさが平均値を上回る5mm以上である場合や、風船状である脳動脈瘤からさらに風船状に膨らみ、雪だるまのようになるブレブ状態になっている場合は、破裂率が高いため当院では治療を提案しています。これらに当てはまらない場合であっても、「破裂したらどうしよう」と不安を感じ、人一倍ストレスを抱えてしまいそうな方には治療を提案しています。

治療することのメリットは、脳動脈瘤が破裂して「くも膜下出血を引き起こすかもしれない」という不安が解消され、今まで通りの生活が送れるようになることです。

脳動脈瘤の2つの治療方法
脳動脈瘤の2つの治療方法

脳動脈瘤の治療には、開頭手術によって治療を行うクリッピング術と、太ももの付け根にある鼠径部(そけいぶ)の大動脈からカテーテルを挿入して治療を行うコイル塞栓術の、2つの治療方法があります。2019年4月時点では、薬物治療で動脈瘤の破裂率が下がる、消滅するといった効果は証明されておらず、薬物治療は行われていません。

クリッピング術に使用するクリップ
クリッピング術に使用するクリップ

クリッピング術とは、頭の一部分を開いて、ネックとよばれる脳動脈瘤の付け根の部分をチタン製のクリップで挟む方法です。ネックを挟むことで動脈瘤内に血液が入らないようにし、破裂を防ぎます。

クリッピング術のメリット

クリッピング術のメリットは、コイル塞栓術と比較すると根治性が高いことです。脳動脈瘤のネック部分をクリップで挟み、血液の流入口を閉鎖することで、脳動脈瘤内に血液が入らなくなるため、根治性が高いとされています。

クリッピング術のデメリット

クリッピング術のデメリットは、開頭手術であるため頭部に手術による傷ができることです。こめかみの部分を切開するため、あごを動かす側頭筋の一部を切開する必要があります。そのため人によっては、口を開けたときに突っ張って開きにくい感覚が、術後数週間続くことがあります。

治療後の生活

当院の場合は、手術による傷が癒合する術後1週間後に抜糸を行い、抜糸が終わると退院していただいています。術後2週間後には、手術による傷の様子を診るために外来にきていただいています。退院後の日常生活には、特に制限を設けていません。

ブレブ状の脳動脈瘤

 

コイル塞栓術は、カテーテルを使用して、脳動脈瘤の中にプラチナ製のコイルを埋める方法です。動脈瘤内部をコイルで埋めることで血液が入り込まないようにし、破裂を防ぎます。

コイル塞栓術のメリット

コイル塞栓術のメリットは、太さ3mm程度のカテーテルを挿入して治療するため、手術による傷ができないことです。カテーテルは太ももの付け根にある、鼠径部()の大腿動脈から挿入することが多いです。

コイル塞栓術のデメリット

コイル塞栓術のデメリットは、クリッピング術よりも再治療率が高いことです。コイルが徐々に縮小して、動脈瘤内に血液が再び入り込み、再び脳動脈瘤が膨大することがあるため、再治療が必要になることがあります。

治療後の生活

当院の場合、入院日数は基本的に3日です。手術の翌日にカテーテルを挿入した部分の皮膚の下に血腫(けっしゅ)*がないかを確認し、血腫がなければ退院していただいています。退院後の日常生活には、特に制限は設けていません。

*血腫……組織内に血液が溜まり、こぶのように腫れあがったもの

クリッピング術に用いられるクリップはチタン製、コイル塞栓術に用いられるコイルはプラチナ製です。よく患者さんから「金属アレルギーですが大丈夫ですか」とご質問をいただきますが、どちらも人体との親和性が高い金属であるため、金属アレルギーをお持ちの方でも問題ありません。

また、MRI検査では金属が一緒に映ると画像が乱れてしまいますが、プラチナ製やチタン製の金属であれば問題なく適正な検査ができます。

金属探知機に反応することもありません。術後もこれまで通りの日常生活を送ることができます。

ドームとネックの比
ドームとネックの比

脳動脈瘤の形状によっては、コイル塞栓術が適切ではないためクリッピング術を選択する場合があります。それは、脳動脈瘤がもっとも膨らんでいる場所の直径を2だとして、脳動脈瘤の根元であるネック幅が1以上の比率の場合です。この場合は、コイルを詰めても脳動脈瘤内で安定せず、コイルが血管の中へ逸脱してしまう可能性があります。ただし、ドームとネックの比が2:1以上の脳動脈瘤でも、ネックをステント*でカバーをすることで、逸脱を防ぐことが可能なこともあります。

*ステント……血管を内側から広げるために使用する器具

脳動脈瘤と開頭部に距離がある脳底動脈先端部・脳底動脈本幹部に発生した場合や、脳動脈瘤の近傍に視神経・視神経を栄養する眼動脈が走行する内頚動脈傍前床突起部がある場合は、コイル塞栓術を選択することが多いです。また、後頭部の椎骨動脈や椎骨動脈の分岐部に脳動脈瘤が発生した場合、クリッピング術だと後頭部に付着している首を動かす筋肉の一部を切開することになります。これらの筋肉を切開すると、術後に首を動かしたとき、痛みや突っ張った感覚がしばらく続きます。そのため、通常のこめかみの部分を開頭する症例と比べると、コイル塞栓術を選択することが多いです。

端的に表現すると根治性が高いのがクリッピング術で、患者さんの体に負担がかからないのがコイル塞栓術です。根治性のメリットがなければ、クリッピング術を選択する理由はありませんので、患者さんの体にかかる負担をできるだけ少なくすることが今後ますます重要になると思っています。

2009年5月~2011年5月の間、西島病院が行っていた従来の手術方法

標準的に行われている脳動脈瘤の手術では、耳介(耳の上の部分)の前方からおでこの真ん中までの、前側頭部の毛髪を帯状に剃り、剃った部分を弧状に皮膚を切開します。こうすることで再び毛髪が生えてくると、傷が毛髪中に隠れて手術痕が分からなくなります。皮膚をはがしてひっくり返すと、こめかみの裏側の頭蓋骨が露出されますので、直下の頭蓋骨を長短径約8~10cmの長楕円形に開頭することになります。

当院でも2009年5月~2011年5月の2年間は標準的な方法で行っていましたが、脳動脈瘤の処理のためには前頭葉と側頭葉の間隙(シルビウス裂)を開放するための必要十分なワーキングスペースがあればよいので、常々前頭葉が無駄に露出されると考えていました。

薄青の長楕円形は小さな開頭とのサイズ比較
薄青の長楕円形は小さな開頭とのサイズ比較

2011年5月以降、西島病院が行っている手術方法

2011年5月以降は、毛髪をほとんど剃らず、こめかみの部分に限局した小さな皮膚切開・開頭による手術を行うようになり、患者さんの負担が減りました(上図右 親指との比較)。手術時の操作自由度を犠牲にしないサイズの限界は、2.5×3cmだと思っています。2.5×3cm以下だと、手術器具が自由に動かせなくなるためです。操作自由度と低侵襲を両立させた開頭範囲は概ね3×4cmになります。これに見合う皮膚切開は5~6cmになることが多いです。これは大体500円玉と50セント硬貨の間ほどの大きさです。

西島病院が行っていた従来の手術方法と、2011年5月以降の手術方法との比較

当院が2009年5月~2011年5月にかけて行った54例の標準的な手術方法と、2011年5月以降の手術方法の121例の、皮膚切開の長さと開頭面積を比較しました(開頭面積Sは開頭部を長楕円形として短径(2a)長径(2b)とした場合S=3.14abとする)。

その結果、2009年5月~2011年5月にかけて行った標準的な手術方法では、皮切20〜25 cm、短径7〜8 cm、長径8〜10 cm、面積45〜55 cm2でした。

2011年5月以降の手術方法では、皮切4〜6 cm、短径2.5〜3.5 cm、長径3.0〜4.0 cm、面積5.9〜11 cm2でした。

脳動脈瘤の発生部位によっては、開頭範囲が大きくなる場合もあります。

脳動脈瘤に限らず、医療情報がネットに氾濫(はんらん)している現代で正しい情報を選ぶのは難しいことだと思います。ですから本記事では、信憑性があるデータに基づき、確実な情報をお伝えできるように努めました。脳動脈瘤の治療を検討している方が、治療を受けることを前向きに検討する材料になれば幸いです。

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