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心不全の治療と仕事は両立できる?−実際の例をもとにポイントを解説

心不全の治療と仕事は両立できる?−実際の例をもとにポイントを解説
松村 敏幸 先生

熊本労災病院 循環器内科 部長

松村 敏幸 先生

椛谷 豊 さん

独立行政法人労働者健康安全機構 熊本労災病院

椛谷 豊 さん

目次
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病気を抱えても「治療と仕事を両立したい」と希望される方がいる一方で、病気や治療に対する知識/理解の不足や、職場におけるサポート体制不足により、離職に至るケースは少なくありません。そのようななか、治療と仕事の両立をサポートする「両立支援」の重要性は高まっています。

記事1」では、熊本労災病院における両立支援の取り組みについてお話を伺いました。本記事では、心不全の治療と仕事の両立におけるポイントや課題について、循環器内科部長の松村敏幸先生、両立支援コーディネーターの椛谷豊さんに加え、実際に心不全の治療と仕事を両立し、ドクターズクラーク(医師事務作業補助者)として活躍されていらっしゃる、スタッフの山下美佳さんにお話を伺います。

心不全とは?

心臓のポンプ機能が障害され、さまざまな症状をきたす状態

心不全とは、心臓のポンプ機能が障害されることで血液の循環がうまくいかず、息苦しさ、呼吸困難、足のむくみ、疲れやすさなど、さまざまな症状をきたす状態を指します。

日本では高齢化の進展と共に心不全が増加しており、2030年には、心不全患者さんの数(罹患数)は、130万人にのぼると推測されています。このような状況は、感染症の急激な広がりになぞらえて「心不全パンデミック」と呼ばれています。

罹患数・・・対象とする人口集団から、一定の期間に、新たに心不全と診断された数

心不全の治療と仕事は両立できる?−課題とこれからの展望

松村先生

ご本人が両立支援について知ることと、周りのサポートは必要不可欠

心不全の患者さんの多くは高齢です。すでに定年退職されている患者さんの場合には、「治療と仕事の両立」という視点では、大きな問題にならないケースもあるでしょう。

しかしながら、心不全の患者さんのなかには、若い方、仕事を続けたいと考えている方が一定数以上いらっしゃいます。そのような方々が治療と仕事を両立しながら生活を続けていくためには、ご本人が両立支援に関して知識を得ること、あるいは、周りのサポートが必要不可欠です。

記事1」でお話ししたように、全国で両立支援コーディネーターの養成研修を実施するなど、両立支援に関する普及活動を進めていますが、まだまだ「病気になったら、仕事を辞めなければいけない」と考えてしまう方は多いように思います。

しかし、実際には両立支援の仕組みがあり、さまざまなシステムを活用することで、仕事を続けたり、自分の能力を活かして新しい仕事に就いたりすることができます。実際に、当院で心臓病の治療を行い、現在では医師事務作業補助者として働いている山下美佳さんという方がいます。

山下さんが熊本労災病院で就労するに至った経緯

2011年の春、山下さんはお姉さんと共に、熊本大学病院から転院され、当院にやってきました。当時、収縮期血圧は60ほどしかなく、劇症型心筋炎(心筋に炎症が起き、急激に悪化したもの)による心不全、多臓器不全など、いくつもの診断名がついていました。

そのような重症の心筋炎患者であった山下さんですが、心不全を悪化させないこと、血圧を下げすぎないことを目標に当院で外来診療を続け、半年ほどかけて内服薬の量を減らしていきました。

そして、なんとか心不全を悪化させずに治療が進んでいきました。血圧が上がったことで脱毛や生理不順などは緩和し、徐々に活気が出てきました。なによりも嬉しかったのは、本人の行動範囲が広がり、「友達と買い物に行った」「お姉ちゃんと旅行した」と嬉しそうに報告してくれたときです。

山下さんは社会活動にも積極的になり、「ここで外来のお手伝いをしてくれないか」という提案をすぐに受け入れてくれました。毎日、数時間だけ外来業務をサポートしてくれるようになり、さらに、医療事務作業補助技能認定試験に挑戦し、見事に合格したのです。

このような経緯があり、山下さんは循環器内科に採用され、今でも一生懸命に働いてくれています。

どのように治療と仕事を両立されているのか?

山下さん
熊本労災病院で実際に治療と仕事を両立されている山下美佳さん

2013年頃から、熊本労災病院の循環器内科で、医療事務を担当しています。

慢性心不全の状態ではありますので、月に1回、松村先生の診察を受けています。また、植込み型除細動器(ICD)の電池がおよそ7年で切れるため、手術によって植込み型除細動器を入れ替える必要があります。植込み型除細動器とは、常に心拍数を感知し、あらかじめ設定された基準を上回ると、心臓を人工的に刺激する治療(ペーシング、電気ショック)が自動的に作動する装置です。

こちらで働く前には、希望する仕事があっても、心臓病のことを伝えた時点で「やっぱり、すみません」と断られてしまうことが何回もありました。また、1つ前の病院では、今と同じ医療事務の仕事をしていましたが、離れた病棟に荷物を運んだり、1日に何度も階段を往復したりするのがとても大変でした。

現在は、体力的な厳しさが少ない環境で働くことができ、職場の方々の理解もあるので、とてもありがたいです。治療と仕事を両立するうえで大切なことは、まず、無理をしないことでしょうか。もし具合が悪くなったら、すぐに周りの方にお伝えしています。必要に応じて早退させていただくこともあります。

今、病気や体のことを理解してくださる皆さんに囲まれて働くことができ、とても恵まれていると感じます。「何かあったら松村先生たちに診てもらえる」という思いもあり、安心して仕事ができる環境にとても感謝しています。

心不全の治療と仕事を両立するために−松村敏幸先生の思い

松村先生
循環器内科部長の松村敏幸先生

周囲の方々が病態を理解し、本人の気持ちを想像して行動することが大切

心不全は、見た目に分かりやすい病気ではありません。しかし、山下さんの今日の血圧は収縮期血圧75mmHg、拡張期血圧50mmHgで、成人の正常血圧(120/80mmHg)のおよそ半分しかないのです。ご本人は「どうりでめまいがしたのですね」と明るく過ごしていますが、健康な人に比べて、体力的につらい場面は多いはずです。

心不全をお持ちの方が治療と仕事を両立するには、一緒に働く方々が心不全の病態を理解し、見た目には分からなくても本人の気持ちや状態を想像することが大切だと思います。そのように親切な気持ちを持って行動することが、「治療と仕事の両立」を実現させる一歩になるでしょう。

心不全の患者さんには両立支援のシステムを活用してほしい

山下さん、松村先生、椛谷さん

心不全という病気は、ほぼ完治することがありません。しかし、ご本人の努力と主治医の力量、周囲のサポートがあれば、現状を維持しながら心臓を長持ちさせることはできるのです。心不全の患者さんには、両立支援のシステムを大いに活用し、希望を持ってやりがいのある仕事を続けてほしいと思います。

仕事は人生の重要なパーツ。よりよい人生を送るために皆で環境をつくる

まずはご本人の健康が大切で、その次に家族や友人との生活があり、生活を維持するために、仕事は重要なパーツのひとつではないでしょうか。

たかが仕事、されど仕事。もちろん仕事だけが人生ではないけれど、仕事が充実していれば、少しだけ人生が面白くなるかもしれない。ですから、どのような病気の方でも、よりよい人生を送るために、両立支援のシステムを活用していただきたいです。また、周囲の方々は、病気というひとつのハンディキャップを持った方が治療と仕事を両立しやすい環境を、共につくっていただきたいと考えています。